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Ⅵ
美しき伯爵、ドン引きする
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当時は”LGBT”とか当然なくて。オカマは笑われる対象だし、エイズはホモの病気だとか言われてた時代で。
髪とか服が女みたいだった俺への差別はひどいもんだった。
自分が好きで、そういう格好をしていたならまだ我慢もできたけど。
俺はそうじゃなかった。
で、これからは絶対、女装もコスプレも売り子もしないって親に言ったら。
もういらないって言われて。
施設に預けられた。
つまり、捨てられたんだ。
いい加減、同人誌も売れなくなって、生活もカツカツだったしな。
両親そろって頭悪くて、家計が苦しくなっても儲かってた時の生活レベルを落とそうとしなかったし。
生活保護の申請や、離婚して児童手当をもらうとかの知識もなかった。
*****
それから俺は、施設のお世話になりながら新聞配達したりバイトしたりで専門学校の授業料を稼いで。
専門学校で資格を取って。
18歳になって施設を出て就職して、会社の寮に入り。
死ぬまではずっと、その会社のシステムエンジニアとして働いてた。
仕事は大変だったけど。
人間、何か夢中になれる趣味が一つでもあれば、生きていけるもんだ。
そんな環境で育ったら普通、漫画や同人誌、コミケなんか見るのも関わるのも嫌いになりそうなもんだけど。
バッドエンドで終わった漫画を妄想でハッピーエンドに補填する二次同人誌や、荒唐無稽ともいえるファンタジー世界は。
現実にうんざりしていた俺に救いを与えたんだ。
春コミとか、他にもイベントはあったが。
俺は、年に二度の大祭だけを楽しみに生きていた。……などと言うと、お綺麗な感じだが。
正直言って、当時、商業誌じゃお出しできない特殊性癖の博覧会はそこしかなかったしな!
*****
ロロ……当時はヘンリーだった彼は、俺のことを調べて。
その素性を知り、ひどく心を痛めたようだ。
『わたしは、……わたしが貴方を幸せにしたい、と思いました』
懸命に生きていたのに。
自分の過失で瀕死になるような傷を負わせてしまったこと。
職場の人間にも話してなかった過去を、勝手に調べて知ってしまったことも。
それで。
自分の手で、俺のことを幸せにしたいと思ったようだ。
自分の過失で怪我をさせたからって、そんなに気負わなくてもいいのに。
『いえ、貴方を幸せにしたいと願ったのは、同情や責任感だけではありません。わたしには、下心があったのです』
俺の表情を見て、内心を悟ったのか、ヘンリーは苦笑した。
『……下心?』
持ってた同人誌とかからガチオタとみて、オタクカルチャーについての取材をしようと思ったとか? それくらいなら、もし意識があれば、協力したと思うけど。
『貴方は41という年齢にはとても思えないほど愛らしく。顔も身体も、わたしの理想そのものだった。……わたしは、意識のない貴方を見て、心を奪われたのです』
うっとりと、遠くを見るような目で言った。
『……はあ!?』
一瞬、耳を疑った。
自分の聞いた言葉の内容が、一切理解できなかった。
今のは幻聴かな?
まさか、そっちの下心だなんて。ありえなさすぎでしょ!?
*****
『ええと。……今、何て?』
『貴方はわたしより5つ年上には見えないほど可愛くて、顔も身体もわたしの理想そのもの。意識がなくとも、わたしが貴方に恋をしたのは無理からぬことだと』
もう一度言ってくれたが。
OK、俺の耳がどうかしていた訳じゃなかったようだ。
はっきりわかった。どうかしているのは、こいつの頭だった。
前世ネーム、ヘンリー・ドイル36歳。前世でも年下か……。
身体を拭くのを看護師に任せないで、自分でやったとかドヤ顔で言われましても。
やだこの人こわっ。
ある意味、生まれ変わっても全然変わってない! 揺るぎなさすぎる!
髪とか服が女みたいだった俺への差別はひどいもんだった。
自分が好きで、そういう格好をしていたならまだ我慢もできたけど。
俺はそうじゃなかった。
で、これからは絶対、女装もコスプレも売り子もしないって親に言ったら。
もういらないって言われて。
施設に預けられた。
つまり、捨てられたんだ。
いい加減、同人誌も売れなくなって、生活もカツカツだったしな。
両親そろって頭悪くて、家計が苦しくなっても儲かってた時の生活レベルを落とそうとしなかったし。
生活保護の申請や、離婚して児童手当をもらうとかの知識もなかった。
*****
それから俺は、施設のお世話になりながら新聞配達したりバイトしたりで専門学校の授業料を稼いで。
専門学校で資格を取って。
18歳になって施設を出て就職して、会社の寮に入り。
死ぬまではずっと、その会社のシステムエンジニアとして働いてた。
仕事は大変だったけど。
人間、何か夢中になれる趣味が一つでもあれば、生きていけるもんだ。
そんな環境で育ったら普通、漫画や同人誌、コミケなんか見るのも関わるのも嫌いになりそうなもんだけど。
バッドエンドで終わった漫画を妄想でハッピーエンドに補填する二次同人誌や、荒唐無稽ともいえるファンタジー世界は。
現実にうんざりしていた俺に救いを与えたんだ。
春コミとか、他にもイベントはあったが。
俺は、年に二度の大祭だけを楽しみに生きていた。……などと言うと、お綺麗な感じだが。
正直言って、当時、商業誌じゃお出しできない特殊性癖の博覧会はそこしかなかったしな!
*****
ロロ……当時はヘンリーだった彼は、俺のことを調べて。
その素性を知り、ひどく心を痛めたようだ。
『わたしは、……わたしが貴方を幸せにしたい、と思いました』
懸命に生きていたのに。
自分の過失で瀕死になるような傷を負わせてしまったこと。
職場の人間にも話してなかった過去を、勝手に調べて知ってしまったことも。
それで。
自分の手で、俺のことを幸せにしたいと思ったようだ。
自分の過失で怪我をさせたからって、そんなに気負わなくてもいいのに。
『いえ、貴方を幸せにしたいと願ったのは、同情や責任感だけではありません。わたしには、下心があったのです』
俺の表情を見て、内心を悟ったのか、ヘンリーは苦笑した。
『……下心?』
持ってた同人誌とかからガチオタとみて、オタクカルチャーについての取材をしようと思ったとか? それくらいなら、もし意識があれば、協力したと思うけど。
『貴方は41という年齢にはとても思えないほど愛らしく。顔も身体も、わたしの理想そのものだった。……わたしは、意識のない貴方を見て、心を奪われたのです』
うっとりと、遠くを見るような目で言った。
『……はあ!?』
一瞬、耳を疑った。
自分の聞いた言葉の内容が、一切理解できなかった。
今のは幻聴かな?
まさか、そっちの下心だなんて。ありえなさすぎでしょ!?
*****
『ええと。……今、何て?』
『貴方はわたしより5つ年上には見えないほど可愛くて、顔も身体もわたしの理想そのもの。意識がなくとも、わたしが貴方に恋をしたのは無理からぬことだと』
もう一度言ってくれたが。
OK、俺の耳がどうかしていた訳じゃなかったようだ。
はっきりわかった。どうかしているのは、こいつの頭だった。
前世ネーム、ヘンリー・ドイル36歳。前世でも年下か……。
身体を拭くのを看護師に任せないで、自分でやったとかドヤ顔で言われましても。
やだこの人こわっ。
ある意味、生まれ変わっても全然変わってない! 揺るぎなさすぎる!
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