27 / 83
Ⅴ
美しき伯爵、告白する
しおりを挟む
「私は、この身体はともかく、精神的には男として育って来た。性認識もそうだ」
ここまでは理解しているな? と念を押して。
「想像してみろ。自分は幼少の頃から国王になることを目指していたとして。例えば……そうだな。ヴェルソー侯から、自分が国王になるので、王配になって欲しいと言われたらどうする?」
「断るに決まってる」
即答だった。
「ああ。私も断る」
「……?」
何で? って顔をしてる。たぶん、お前と同じ理由だぞ?
*****
勝手に例に挙げて、その上で断るとかアレクサンドルには申し訳ないが。
国王になるために、男に身体を差し出すとかあり得ない。多少イケメンでも無理。
枕営業じゃん。倫理的にねえわ。
「もしヴェルソー侯が本気で国王を目指せば、こちらはやや不利になるだろう。だが、私は自分の身を犠牲にしてまで、王座が欲しいとは思っていない」
よく考えたら、別に国王にならなくても、オタク文化を広めるのは可能なんだよな。
世にも美しい伯爵サマが広めたって、宣伝効果はそう変わりないだろう。
「な……っ!?」
俺が王座を得るために、仕方なく自分に身を任せたものとばかり思ってたロロは、呆然としている。
思い返してみれば。
他人の体温を気持ち悪く感じて、素肌が触れることを嫌っていたのは前世からだった。
夏の満員電車で腕が触れ合おうものなら鳥肌ものだった。
それを回避するために、二時間早起きして早い電車に乗ることも厭わなかったくらいだ。会社は幸い、徒歩圏内に社員寮があって助かったっけ。
馴染みのあるアンドレですら、素肌に触られるのだけは駄目だった。
子供だった時は、抱き上げられるのも服の着替えを手伝われるのも仕方ないと諦めてたけど。
触れるのは服の上からだったんで、何とか我慢できた。
10歳くらいからは、肌着を脱ぎ着するのは自分でやるようになったし。
風呂も一人で入るようになった。
世話好きなアンドレが、そのことに対しては文句も言わず、素直に引き下がったのは。俺の身体が半分、女でもあったせいだったんだろう。
*****
15歳の時、自分の身体のことを知って。
男から触られるのを、これまで以上に忌避するようになったのは、俺の身体が半分女になっていたせいで。本能的なものなのかも、と納得したものの。
パーティーで、義理としてダンスの相手をさせられて。
女の子と腕を組んだ時も、嫌悪感を覚えた。
俺の腕に、わざと胸のふくらみを押し付けられたんだ。
普通の男ならラッキーと思うところなんだろうが。
剥き出しの欲望を感じて、ぞわっと来た。
それも、俺が半分女になって同族嫌悪みたいなものかな、と思ってた。
でも、違った。
他人から触られるのが苦手というか。接触恐怖症になってたんだ。
そんな俺が。
どんな理由があろうと、好きでもない相手と肌を合わせるなんて、無理だったんだ。
でも。
唯一、ロロだけは大丈夫だった。
運動で汗をかいた状態で抱き着いてこられても。口では気持ち悪いとか言いながら、そうは感じてなかった。
小さい頃から知ってる、弟みたいなもんだから大丈夫なのかと思った。
下手に前世を思い出したせいで、ややこしく考えすぎてた。
人嫌いで偏屈な、変わった男だったから。同じ男相手にそんな感情を抱いてしまったことを、素直に認めたくなかったのかもしれない。
男だ女だなんて分類は、関係なかったんだ。
ただ、単純に。
いつの間にか、ロロのことが好きになっていた。
それだけの話だ。
*****
ロロの想いに応えるべく。
ちゃんと、自分の気持ちを伝えなくちゃいけない。
少し膨らんでしまった胸に手を当てて。
「この身体に触れていいのは世界でただ一人。お前だけだ」
これが今の俺に言える、精一杯の告白だ。
冗談でアイラブユーとかは言えるけど。本気で「愛してる」、なんて言えるわけがない。
だって俺、心は日本男児ですし。
ここまでは理解しているな? と念を押して。
「想像してみろ。自分は幼少の頃から国王になることを目指していたとして。例えば……そうだな。ヴェルソー侯から、自分が国王になるので、王配になって欲しいと言われたらどうする?」
「断るに決まってる」
即答だった。
「ああ。私も断る」
「……?」
何で? って顔をしてる。たぶん、お前と同じ理由だぞ?
*****
勝手に例に挙げて、その上で断るとかアレクサンドルには申し訳ないが。
国王になるために、男に身体を差し出すとかあり得ない。多少イケメンでも無理。
枕営業じゃん。倫理的にねえわ。
「もしヴェルソー侯が本気で国王を目指せば、こちらはやや不利になるだろう。だが、私は自分の身を犠牲にしてまで、王座が欲しいとは思っていない」
よく考えたら、別に国王にならなくても、オタク文化を広めるのは可能なんだよな。
世にも美しい伯爵サマが広めたって、宣伝効果はそう変わりないだろう。
「な……っ!?」
俺が王座を得るために、仕方なく自分に身を任せたものとばかり思ってたロロは、呆然としている。
思い返してみれば。
他人の体温を気持ち悪く感じて、素肌が触れることを嫌っていたのは前世からだった。
夏の満員電車で腕が触れ合おうものなら鳥肌ものだった。
それを回避するために、二時間早起きして早い電車に乗ることも厭わなかったくらいだ。会社は幸い、徒歩圏内に社員寮があって助かったっけ。
馴染みのあるアンドレですら、素肌に触られるのだけは駄目だった。
子供だった時は、抱き上げられるのも服の着替えを手伝われるのも仕方ないと諦めてたけど。
触れるのは服の上からだったんで、何とか我慢できた。
10歳くらいからは、肌着を脱ぎ着するのは自分でやるようになったし。
風呂も一人で入るようになった。
世話好きなアンドレが、そのことに対しては文句も言わず、素直に引き下がったのは。俺の身体が半分、女でもあったせいだったんだろう。
*****
15歳の時、自分の身体のことを知って。
男から触られるのを、これまで以上に忌避するようになったのは、俺の身体が半分女になっていたせいで。本能的なものなのかも、と納得したものの。
パーティーで、義理としてダンスの相手をさせられて。
女の子と腕を組んだ時も、嫌悪感を覚えた。
俺の腕に、わざと胸のふくらみを押し付けられたんだ。
普通の男ならラッキーと思うところなんだろうが。
剥き出しの欲望を感じて、ぞわっと来た。
それも、俺が半分女になって同族嫌悪みたいなものかな、と思ってた。
でも、違った。
他人から触られるのが苦手というか。接触恐怖症になってたんだ。
そんな俺が。
どんな理由があろうと、好きでもない相手と肌を合わせるなんて、無理だったんだ。
でも。
唯一、ロロだけは大丈夫だった。
運動で汗をかいた状態で抱き着いてこられても。口では気持ち悪いとか言いながら、そうは感じてなかった。
小さい頃から知ってる、弟みたいなもんだから大丈夫なのかと思った。
下手に前世を思い出したせいで、ややこしく考えすぎてた。
人嫌いで偏屈な、変わった男だったから。同じ男相手にそんな感情を抱いてしまったことを、素直に認めたくなかったのかもしれない。
男だ女だなんて分類は、関係なかったんだ。
ただ、単純に。
いつの間にか、ロロのことが好きになっていた。
それだけの話だ。
*****
ロロの想いに応えるべく。
ちゃんと、自分の気持ちを伝えなくちゃいけない。
少し膨らんでしまった胸に手を当てて。
「この身体に触れていいのは世界でただ一人。お前だけだ」
これが今の俺に言える、精一杯の告白だ。
冗談でアイラブユーとかは言えるけど。本気で「愛してる」、なんて言えるわけがない。
だって俺、心は日本男児ですし。
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。


拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる