上 下
66 / 67
おまけ/ロレンツォの手記

カポの宝物

しおりを挟む
サルヴァトーレは18歳になり、大学を卒業し、シチリアへ戻った。
そして正式にヴァレンティーノの首領となった。

私をアンダーボスに指名し、それに反対する者もいたが。
無駄に囀る者達よりも一番信用できる、と言い、反対派を黙らせた。

私が普段あまり話さないのは、単に訛りが酷いせいだ。
それも知っているはずなのだが。


サルヴァトーレ……首領は、私と”血の掟”の誓いを交わし。
改めて私はヴァレンティーノ一家に永遠の忠誠を誓ったのだった。


*****


首領のご機嫌が斜めである。


相変わらずの無表情で、感情は読めないのだが。
私はその理由を知っている。

首領の”愛しの君カーロ”に、好きな女性ができてしまったようで。

それは”愛しの君”の母が再婚し、義理の血族となった家庭の関係者であった。
故に、抹殺するのを躊躇われる状況だ。

その相手がナタレクリスマスに、結婚前提で付き合っている男とホテルに行ったのも、首領の不機嫌を加速させていた。


”可愛い奏太に好かれているのに。他に男と付き合うとは見る目がなさすぎる!”
とご立腹だ。

恋敵が減ったのだ。
通常、それは喜ぶべきことではないのだろうか?

天才の考えることは理解できない。


私は、馴染みの業者に男娼を寄越すよう連絡した。

年末である。
時候からして見つからないかもしれないが、どうにか頼むと。

せめて、少しはすっきりした気分で新年を迎えたいものだ。


夕方になり、業者から連絡が入った。
上物だが、少々難有だ、それでもかまわないか、と。

それでいいから、早く連れて来い、と応え。


しばらくして、彼らはやって来た。


*****


パレルモの業者、トーニオは。
目隠しをし、バスローブを着た少年を連れて来た。

黒い髪、華奢な肢体。
やけに幼く見えたが。その少年は、今までの中で一番、注文に近い容姿をしていた。


「おい、まさか未成年じゃないだろうな?」
ですよ。パスポートを確認しましたし。ただ、なので、くれぐれも扱いは丁寧にお願いしたいんですが」

こんな時期に無理を言ったせいで、時間が無かったのだろう。
今はこの男娼しかいないという。


トーニオは商品を連れ帰るため、待合室で仮眠するようだ。
毎度のことである。

警備上、出入りの手続きが面倒なので待っているのだ。
それに、処理には一時間も掛からない。


首領にも、相手は初物らしいので傷つけないよう丁寧に、と注意した上で、ローションを渡した。

面倒がっていたものの。
珍しく丁寧に扱っているな、と思っていた。


*****


その時。
ハワイのS係から連絡が入ったので、寝室から離れた。

S係というのは、首領の”愛しの君”を監視・警護する係のことである。
無論、首領の私財である。


家族と共に、毎年恒例となっているハワイに行っているはずが。
の姿だけが見当たらないという。

一家はヴァレンティーノのショップが入っているホテルに宿泊しているので、そこの従業員に頼み、今年は末っ子ちゃん来ないんですか? と聞き出してもらった。

曰く。
イタリア語の勉強をするため、こちらに来ている、とのこと。


イタリアだと?
……まさか。

嫌な予感がし、寝室の様子を伺うと。
今まで見たこともないほど興奮し、少年を、貪るように抱いている首領の姿があった。

、と呼んでいる。

間違いない。本人だ。
何故、普通の少年である彼が、男娼として派遣されたのか。


「……やってくれたな、トーニオ」
私は、トーニオが仮眠している待合室のドアの鍵を閉めた。

これで、外には逃げられない。


*****


普段は長くとも小一時間もあればいたのだが。


首領は少年が気を失うまで、何度も犯し続けた。
気絶した彼に驚いた首領に呼ばれたので、見てみたが。

誘拐時に負ったらしい首の火傷以外、怪我もしていない。

単に疲労で寝ているようだと言うと。
ほっと息を吐いて。

その寝顔を、愛おしそうに見ている。


この少年を手に入れるために、身を守るために、警備をつけて。
今まで苦労してきたというのに。

よりによって、男娼と間違えて抱いてしまうとは。
その心中はいかばかりか。


「風呂の用意、それと売人を確保しております」
「ああ、よくやった」

首領はまるで宝物を扱うように、少年を抱き上げ、浴室まで連れて行った。


目を覚ました彼は。
トーニオに酷いことはしないよう、訴えたようだ。

自分を攫い、男娼としてマフィアにあてがわれ、犯されたというのに。

その相手が自分の幼馴染みだったので、それほどショックではなかったのだろうか?
それとも、いわゆる使。頭が弱いのだろうか。


*****


だが、トーニオは命拾いをしたな。
運がいい。

このヴァレンティーノの支配する土地で一般人である観光客を拉致し、脅して男娼に仕立て上げ、首領にあてがうなど。
本来ならば、アランキャロッサ畑に埋められ養分にされてもおかしくない罪である。


仮眠から目覚めたトーニオは、待合室に閉じ込められてパニックを起こしていた。
勘のいい男だ。

観光客に手を出したことがこちらにバレたと気付いたのだろう。


「掟破りをしたな? トーニオ」

トーニオは、自分が連れて来た少年が、よりによって、首領がずっと見守っていた大切な人間で。
彼は首領に会いにこのシチリアへ来ていたのだ、と聞き、真っ青になっていた。

消されるのかと怯えていたが。
首領のカーロので、骨の5、6本で済ませろと言われた、と伝えたら、安堵していた。


元々は無理を承知で条件の厳しい男娼を所望したこちらにも問題はあったのだ。
旅行者だが、注文通りのアジア系少年を見て、焦っていたトーニオに魔が差したことは想像に難くない。

それまでは、業者であった。


「医者は呼んでおいてやる。……掟破りにはプニッツォーネを」
トーニオはおとなしく頭を下げた。

神に祈るように。


*****


本人に取りに戻らせるのは現在不可能なため、トーニオの仕事場にあるという、少年の荷物を回収に向かわせた。

首領がその気になれば、渡航記録やシチリア中の宿泊・予約データなど簡単に得られる。


首領は急ぎ、SOUTA・USAMIの名を見つけ、記録を消去していった。
彼は首領のアキレス腱である。反勢力組織に見つからないよう、証拠はすべて抹消するという。

宿泊するはずのホテルの解約と、送られた荷物の転送を手続きし。
その足取りを消させた。


トーニオの仕事場から回収した荷物を本人に確認してもらい、不備はないとのことで。
幸い、追加の罰はなく、トーニオを病院へ送らせた。

奏太少年は、首領に会いたくて、頑張ってイタリア語を勉強して、シチリアに来たのだと言った。
その愛らしい顔立ちもそうだが、少年と言うよりも、少女のような話し方だった。


首領はあれだけ貪ったというのに。
やり直したい、などと言って、再び彼に迫っていた。

首領があのように甘やかな声で話すのを初めて聞いた。
その上、独占欲が強かったようで。

「決して奏太の肌を見るな」と命じられた。

彼に関しては人一倍、悋気もあるようだ。


だが、カメラを手渡され。
隙を見て、彼の姿を撮るように、とも命じられた。


堂々と、一緒に写真を撮って欲しいと言えばいいものを。
何故、盗撮したがるのだろうか。

天才の考えることは理解できない。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...