長身美形なイタリアマフィアになってた、美少女みたいに小さくて可愛かった幼馴染から売り専と間違われて監禁Ｈされた上に求婚されてしまいました。

宴の終わり

横を見たら、崇は頭を抱えていた。


『そして、ソーニャが18歳になった今日、二人はめでたく結婚式を挙げたわけです。……おめでとう。幸せに』
『おめでとう！　絶対、幸せになってくれよな！』

ミケーレと晃司義兄さんが、祝辞を贈ってくれた。

ありがとう、二人とも。
優しいお義兄ちゃんたち。


『そんな訳で。ようやく迎えた結婚式。これからも、多くの思い出を作っていくことでしょう。Magariマガリ questoクエスト momento モメントfeliceフェリチェ durasse ドゥラッセperペル sempreセンプレ！』
この幸せが、永遠に続きますように、か。

隣の崇を見ると、苦笑してる。
手荒い”お祝い”だったね？


大きな拍手と共に、薄暗いホールが明るくなっていく。

さっきまで、笑ってたと思ったけど。
明るくなったところで見たら、招待客のほとんどは泣いてた。

……泣き笑い！？


マフィアの人まで、ポケットティッシュで涙を拭って洟をかんでる。

イタリア人はハンカチを滅多に持たなくて、厚手のポケットティッシュを何度も使いまわすんだよね。
……というどうでもいい習慣を思い出したり。


ロレンツォも、目元と鼻が赤い。
この結婚を、とても喜んでくれてるのが伝わってくる。

……ありがとう。


＊*＊*＊


『……えー、早く部屋に帰って可愛い花嫁とsbaciucズバチュッchiamentoキアメントしたくてそわそわしているケダモノがいるのにお気づきでしょうか。焦らすのもいい加減にして、そろそろ披露宴を終了させていただこうと思います。はるばる遠くからいらした方も近所の方も等しく祝いに来てくださって、本当にありがとうございました！　二人に、盛大な拍手を！』
大きな拍手が起こって。

披露宴はお開きになった。


ホールのドアの前で、二人で帰るお客さんのお見送りをする。
みんな、結婚できて本当に良かった、末永くお幸せに、って。僕にも誕生日のお祝いも言ってくれたりと。

それぞれ、お祝いの言葉をかけてくれながら、帰っていった。


ホテルや希望する場所まではこっちの車で送るそうだけど。
もう10時近いのに。みんな付き合いが良いんだなあ。

日本支社長も、遅くまでお疲れ様……。


気になってたので、隙を見てズバチュッキアメントって何？　って崇に訊いたら。
何度もキスをする、つまりいちゃいちゃすることだって。

そんな言葉もあるんだ……。


愛理さんは、これからジーナのオススメの居酒屋オステリーアに飲みに行くんだって。
すっかり意気投合してる。

二人から、絶対幸せになってね、って交互にハグされて。


トーニオは二人のお姉ちゃんの後を、荷物持ちさせられながら着いていった。
何だかんだ、美人と一緒なので嬉しそうだ。

結婚前提の恋人がいる人だけどね。


＊*＊*＊


『よう、花婿さん』
ミケーレがニヤニヤしながら崇にぶつかるように寄ってきて。

『今日はお前が締めるな、って言わないんだ？』


やっぱり、会議とかの時のお約束みたいなものだったようだ。
中立的存在っていうか、緊迫しすぎないように合いの手を入れたりする、ムードメーカー役なんだろうな。


『今日はお前が司会なんだ。……責任持って締めてくれて、ありがとう』
崇は苦笑しながらも、ミケーレと握手を交わして。

『まあ、俺が締めないと、ピシっと締まらないしね！　……じゃ、俺はこれから兄・弟・同士で飲んでくるから。ソーニャも大人になったら一緒に飲もうな！』
ミケーレは僕にウインクした。

晃司義兄さんと飲みに行くそうだ。
いいなあ。


実は、ちょっと前からチャットで正体はカミングアウト済みだったけど。
僕を驚かそうと思って黙ってたんだって。

昨日も、ミラノでスライド用の僕の写真を持ってきた晃司義兄さんと会って。今日の打ち合わせとか、色々準備してくれてたみたいだ。

今日も百合おばさんから写真を受け取って、スライド編集したり。
色々大活躍だね。


本当はガータートスとかやろうと思ってたのに、崇に阻止されたとか口を尖らせた。

何かと思えば。
新婦が行うブーケトスの新郎版で花嫁が結婚式で左足に付けていたガーターを花婿が手を使わないで外して、未婚の男性に投げるって？　

『そんなのやだ……。崇、阻止してくれてありがとう』

『当然だ。奏太のそんな姿、見ていいのは私だけだからな』
それはともかく。


「お疲れ様。色々ありがとう！　ミケーレおにいちゃん」

ミケーレはえへー、って笑った。


＊*＊*＊


マリオお義父さんが、しかめっ面をしながらこっちに来た。
帰っていくミケーレの方を見て。

ふん、と鼻息を荒げて。
『やってくれたな、あのバカ息子め。……あ、ミケーレの方だからな？』


ほとんど残ってなかったとはいえ、花嫁が男だと知らなかった一家の人もいたそうで。
男の花嫁なんてとんでもない！　と怒っていたものの。

あの一連のスライドを見て、考えが変わったって言ってたらしい。


だよね。
写真でも、わかったもん。

僕と離れ離れになった崇が、どれだけ傷付いて、心を失っていたか。
どれだけ、僕に愛情を注いでいるか。

あれを見たら、反対できないって。


『前々から、皆には言っていたと思うが。私は奏太を失えば、その場で命を絶つ、と』

比喩でもなんでもなく。
崇は本心で言ってた。だけど。

『本気にする者はいなかった。今までは、な』
マリオお義父さんは肩を竦めて。

『一家の皆のためにも、長生きしてくれよ。Mio私のgenero息子』
肩をぽん、と叩かれた。


僕だって、崇に長生きしてもらいたいから。
健康に気を遣って、一緒に長生きできるよう、頑張るよ。

『sìはい、volentieri喜んで。il suoceroお義父様Mario』


『……そんな堅苦しく言わず、papáパパでも構わないんだぞ。Mio私のfiglio可愛avvenenteい息子よ』
ん？　genero義理の息子がFiglio実の息子になってない？

『名目上のsuocero義父でしかないのを忘れないように』
崇はマリオお義父さんの視界から隠すように、僕を抱き締めた。


お義父さんだよ？
ヤキモチ焼きすぎだよ。


＊*＊*＊


『……やってくれたな？』
崇はロレンツォに文句を言ってるけど。

そんなに怒ってはいないみたいだ。


『いえ、大変珍しい姿でしたから、つい手がシャッターボタンを押してしまいました。なるべく多くの写真を、と望まれておりましたので』
ロレンツォはどこ吹く風という風情で。

慣れてくると、すまし顔をしてるんだなってわかる。
意外とお茶目なとこあるんだな。


崇に、盗撮用のカメラで、できるだけ僕の写真を撮っておくよう頼まれてたんだそうだ。
それじゃ仕方ないね。

スライド用に提供した写真も、ちゃんと厳選してたみたいだし。
お出しできない写真が多すぎる……。


崇がOKしてない写真が数枚……主にロレンツォ提供のやつ、それと卒業式のサプライズ映像は予定では写真だけだった、って番狂わせがあったものの。

花嫁は実は男だってことを、一家の人にも早めに知らせたかったから。
元の姿でのお色直しと思い出写真のスライドを発案したそうだ。


ヴァレンティーノ企業の社内報とか、外部には予定通りに僕の個人情報は出さないけど。

ただ、ヴァレンティーノ一家の人に。
自分がどういう人間かを、知っていて欲しかっただけだって。


では、本館に戻ろうか、と言われて。

『あ。ごめん、崇。ちょっと待ってて！』
ドレスに着替えようと思ってたんだ。