長身美形なイタリアマフィアになってた、美少女みたいに小さくて可愛かった幼馴染から売り専と間違われて監禁Ｈされた上に求婚されてしまいました。

ブライダルエステへ

いやいやいや。
ブライダルエステって、全・身・するものだなんて、聞いてないよ！？


一応、紙の下着は渡されたけど。

服で隠れて見えない場所なら大丈夫だって言われて。
痕、つけられちゃってるんだよね。

見られるの恥ずかしいから、結婚式までは痕をつけるのやめてもらわないと。


東郷さんはボディガードなので部屋のドアや窓、エステの人の行動を逐一チェックできる位置で、いつでも動けるような状態で立ってる。

その立ち姿の隙のなさに、ああ、本当にプロのガードマンだったんだって実感する。

電車に乗ってた時は、どう見ても普通のサラリーマンだったもん。
すごいなあ。


＊*＊*＊


エステの前にするのは、まずはカウンセリングからだそうで。

なにやら機械で肌の調子を見られた。
肌質は最高、肌は充分綺麗なので、ピーリングなどは傷めるだけなのでやめておこう、とか、施術の説明をされて。


マッサージ用のベッドに紙のパンツで横たわって、タオルを掛けられた状態でマッサージされるのだった。

まずはオイルマッサージから。
基礎代謝を上げるとか何とか言ってた。


『お肌綺麗ベッラ・ペッレですねー、肌理きめが細かくて瑞々しくて。私、出番がなさそう』
とか言いながら。

女の人じゃないし。褒め殺ししなくてもいいですよ……。


次は、何とかいう海草とかミネラルが入ってるらしい泥でマッサージされつつ全身パックされる。
身体のあちこちにつけられた痕については触れないのがありがたい。

プロは余計なことを語らないのだ……。


部屋の内装はバリ島っぽい雰囲気だし。気温とかも南国みたいで。いい匂いがして。
耳障りにならない程度のヒーリング音楽が流れてる。

そんな状況でマッサージされてると、心地好くて。
何だか眠くなってくる。


顔も泥パックされてるから話もできないし。


＊*＊*＊


『では、お胸のマッサージに入りますねー』
「！？」

いや、脇や下から揉みあげて、胸に脂肪を寄せるって言われても。
それ、男でも可能なの！？

寄せて上げるマッサージや豊胸マッサージとやらを施されてくすぐったいし。

男なのにそんなマッサージされるのが恥ずかしいしで。
声を殺すのがやっとだった。


うつ伏せになって。
首から背中のマッサージに変わったので、ほっとする。

でも。
わー、赤ちゃんみたいなぷるぷるしたジェラティノーゾお尻、って言いながらお尻を揉むのはやめて欲しいな！

東郷さんに話を振るのもやめてあげて。
困惑してるから。


マッサージが終了して、泥を落として。

炭酸風呂とやらに入った。
微細な泡が、汚れを隅々まで落とすらしい。

これは普通に気持ちいい。これだけなら毎日だって通いたいかも。


爪の手入れとかもして、今日のエステは終了。

朝に出たのに。
もう午後３時になってた。

軽食をつまんだり、水をいっぱい飲んだり。休憩時間も入ってたけど。
だいぶ時間掛かるもんなんだなあ。


「お疲れ様です」
東郷さんが上着を着せ掛けてくれる。

「東郷さんもお疲れ様。退屈だったでしょう？」

「いえいえ、色々勉強になりました」
何か笑いを含んだ言い方で。


何の勉強だろう。
社会勉強？

確かに、男でブライダルエステって、なかなか見る機会ないだろうしね。


＊*＊*＊


『あら、ステラじゃない。Che cosaどうした haiの！？』
車に乗ろうとした時、聞き覚えのある声が。


その名前で呼ぶのは、一人しかいない。

『ジーナ！　Che またpiacere会えて rivedervi嬉しい！』

東郷さんは駆け寄ってくる彼女に警戒したけど。
知り合いと見て、動きを止めた。


ジーナは相変わらず、颯爽とした美人で。

『ああ、ステラ。久しぶり！　元気そうで良かった。あいつに意地悪なことされてない？　大丈夫？』

ヴァレンティーノのボスをあいつ呼ばわりだよ。
そこも相変わらずだ。


『Va bene大丈夫、Grazie del心配してくれて pensieroありがとう。もうすぐ結婚するから、エステに通ってるの』
そこ、とエステの建物を指差す。

『Tanti結婚 auguriおめ agliで sposiとう！　……って言っていいのかわからないけど。おめでとう。幸せにね。私もここでエステ予約してるんだ。こんな再会、偶然というか、もう運命かもね？』

定期的に身体のメンテをするのも仕・事・のうちだからね、って。
セクシーなポーズをとって、ウインクしてみせた。


『そうだ。あの時渡すの忘れてたけど、これ、私の個人的な連絡先。また何か困ったことがあったら、いつでもおいで』
手書きの名刺を渡されて。

またね、私の可愛い妹、って。頬にキスされた。


そこの色男も溜・ま・っ・た・ら・どうぞ、と店の名前が印刷された名刺を東郷さんに渡して。
チャオ、って言って建物に入っていった。

あっさりサッパリしてるなあ、姐さん。


＊*＊*＊


「……ええと、今の方は……？」
色男と言われた東郷さんは、渡された名刺を二度見して、困惑している。

ステラとか、私の妹とか呼ばれてたし。
何の話だよ、って困惑するよね。


そういえば、ボディガードとして、僕のことはどこまで把握してるんだろう。
ヴァレンティーノのボスの婚約者、ってことは知ってるんだよね？

日本で警護してた時は、理由は教えられないけど、とにかく警護しろって言われてたそうだけど。


とりあえず、車の中に入って。

どういう流れで彼女と知り合ったのかを説明することにした。
トーニオのことから説明しないと意味不明になっちゃうので、最初から。

その時、何を思ってそういう行動をしたのかも質問されたので、説明するのに少々時間が掛かってしまった。


「成程。彼女、懐に入った相手はもう身内、というタイプだったんですね。奇跡的なほど運が良かったというか……unbelie信じられvableない……」

スタートから超高層ビルの上で、一ミリずれればゲームオーバーな綱渡りを連続でこなし、神懸り的なバランスで生存ルートを選んでる、って。そこまでとんでもない？

面白い表現するなあ。
アメリカ生まれだからかな？


トーニオは最初から逆らわず従ったこと、自分が攫ったというのに慈悲を望んだことで、死んでもあの子の情報は漏らさない、という覚悟を持ったんだろう。
ジーナは、下手に嘘をつかないで正直に言って、最初から全面的に頼らず、本名を名乗らない思いやりを示したのが正解で、彼女の信頼を得ることが出来たんだろう、と東郷さんは言った。

下手な行動をしていたら、死んでたかもしれないんだ。


確かに、トーニオとジーナがどちらか一人でも悪い人だったら敵対組織とかに売られてたかもだし、危なかったのか。
それと、ヴァレンティーノの人たちにも気に入られていたので、発見も早かったんだろう、とのこと。

屋敷に入った時、周辺にいた人たちの動きで、大事にされているってひと目でわかったって。
人類行動学的に？


「あなたは危険を判別する能力が素晴らしく高いようです。そのまま自分の直感を大切にしてください」
プロの人に褒められちゃった。


「ただし、あまり突飛な行動は控えて。周囲の心臓が危ない」
はーい。


＊*＊*＊


帰り道。
東郷さんが、行動分析のついでに北と南のイタリア人へのイメージを語った。

北イタリアは霧っぽい地域に住んでいて冷たくよそよそしい。
ワーキングホリックなほど仕事が好き。クール、ポレンタ好き、高身長に金髪で青い瞳な人が多いイメージで。

南イタリアは一年中サンシャインな土地に住んでいて嫉妬深くて騒々しい。
一年中夏休みでシェスタしてる。ガラが悪い、ピザが大好き、低身長に黒髪で毛深い人が多いイメージだって。

ひどい偏見だけど。
ミケーレのいるミラノが北で、ここシチリアが南だと考えると納得する部分もあってすごく笑った。


確かにピザ好きだよね。
料理も北と南じゃだいぶ変わるからなあ。