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ヒーロー登場

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『ここはもう、制圧済みだ。……貴様が頭だな?』

床に転がっている男に視線をやって、崇は冷たく言った。
そいつを連れて行け、と部下に命じて。

崇はちらりとこちらに視線をやった。


こ、怖い。
視線で人を殺せるレベルだ。下手したらロレンツォより怖い。

マフィアの首領の、本気の眼力。

あまりの迫力に、ジーナは持ってた銃を下に落として、手を上げていた。
帽子の男の前では、余裕たっぷりだったのに。


僕も、思わずホールドアップしていた。

肋骨骨折してるトーニオまで顔面蒼白で手を上げている。
いや、トーニオは安静にしてて……!


*****


『トーニオを、病院へ運べ。担架だ。手術が必要かもしれん』
崇は部下に指示を出した。

担架が運ばれてくるのを見て。
ジーナがほっとしたような顔をした。

とりあえず、殺されはしない雰囲気である。
良かった。


崇は銃を仕舞って、こっちに歩いてくる。

……気付くかな?
気付かないよね? もはや別人状態だもん。


「……!?」

目の前に、背広のネクタイが迫ってきていて。
気付けば、崇にぎゅっと抱き締められてた。

崇の、上品な香水の匂い。
もう、嗅ぎなれてしまった香りに包まれてる。


『ああ……無事で、良かった……私の、”人生最愛の人”』

崇。
名前を呼ばないのは、敵の隠れ家だからだろうか。

でも、”人生最愛の人”って。


崇の心臓の音が聞こえる。
……すごく、速い。

相当、心配してたんだって伝わってくる。

ひと目で、わかったんだ。
こんな、別人みたいに変装してたのに。

僕だってこと。


『ちょっとあんた、うちのから手を離しな』
厳しい声がして。

ジーナはあの小さい銃を、崇に向けていた。


『……ステラ、だと?』
崇は、誰だそれは、というようないぶかしげな顔をして、ジーナを見た。


『ああ。その子はステラっていう、私の可愛い妹分だ。あんたなんかに渡せないね』

『妹……? どういうことだ?』
崇は僕とジーナを交互に見て、眉根を寄せた。


『兄貴は、あんたのについてはってさ。……あんたが手放せば、その子は安全に、故郷に戻れるんだよ』


*****


ジーナ。
崇からも、逃がしてくれようとしてるんだ。

どうして、そこまで。
……何があったか、話したから?

でも。
ヴァレンティーノに逆らったらまずいって、わかってるはずなのに。


『……よせ、ロレンツォ。彼女はどうやら、私の宝物テゾーロの恩人のようだ』
崇は、背後を見ずに言った。

見れば、扉の前にいるロレンツォが、ジーナに銃口を向けていた。

それを、しぶしぶ下ろしている。
気配無さすぎだ。


『撃ちたければ、撃てばいい。私は、、愛する者を間違えたりはしない。身勝手とそしられようが、この手を絶対に離さないと決めたのだ。たとえ撃たれて死んでも、手離すつもりはない』
崇はそう言って。

ひょい、と僕を抱き上げた。


二度と間違えないって。
男娼と間違って、僕を抱いたことを言ってるのかな。

崇もを、悔やんでるの?

死んでも離さない、なんて。
崇。

……何でそこまで、僕のことを。


*****


『……どうした、撃たないのか?』

扉の前で。
崇がジーナを振り返った。


『どうやら、私は野暮なことしちまったみたいだね?』
ジーナは銃を下げて。

大きく溜め息を吐いた。

『はあ……ステラ。駄目だわこれ。あんた、悪魔ディアーヴォロよりタチの悪い男に愛されちゃったようだね。地球の裏側まで逃げても追ってきそう。これは諦めたほうが得策だよ』

じゃあね、お幸せに。
と、手を振られた。


気丈に振舞ってたけど、相当気力を消費したようで。
腰が抜けてしまったみたいだ。

ヴァレンティーノの部下の手を借りて。
美人の手を握れて役得でしょ、とか言ってる。


『……ありがとう、ジーナ』
身体を張って、組織から護ろうとしてくれて、庇ってくれて。

出逢ったばかりの僕を、危険を冒してまで助けようとしてくれた。


今まで職業に偏見や嫌悪感があったけど。
みんな、それぞれの事情があるだけで、普通の人なんだって知った。

優しくて強くて。
お姉ちゃんみたいだって思った。


*****


崇は無言で階段を上がっていく。


回収急げ、終わったか、とかいう声が聞こえた。
……cadavere死体とか聞こえた気がしたけど。

気のせいだよね。うん。

僕の人生の中で、そんな。
銃撃戦で亡くなった人が出るとか。ないよね。


っていうか。
廊下のあちこちに、生々しい血痕があるんだけど。

掃除中らしい部下の人と目が合った。慌ててモップで床を拭っている。
証拠隠滅……?

黒く穴が空いてるのは、銃の痕かな? ……うわあ、初めて見るなあ。本物の銃痕。


帽子の男が撃たれた時は、黒い服だったし、銃の口径が小さかったからか、血とかは見えなかったから。
あまり銃撃戦っていう感じがしなかったけど。

考えてみれば、すごく危険な状況だったんだな。


あまりに極限状態だと、色々感情が麻痺するのかも。
まだ、現実感がわかないよ。

さっきまで、いつ撃たれて死ぬかわからない状況だったなんて、まだ信じられない。


上から銃声とか、全然聞こえなかったな。
いつ制圧されたんだろ。

サイレンサー付きの銃で撃ち合ってたのかな?


それともあの地下室が、完全防音だったとか?
拷問部屋っぽかったし。

悲鳴が漏れないようにとかだったりして、なんて、どうでもいいことを考えてしまう。

いや、どうでもよくないか。
僕の正体がバレてたら、あそこに連れ込まれて、酷い目にあわされてたんだろうから。


……あの血、どちら側の血だったんだろ。
ヴァレンティーノ側に、怪我人がいなければいいけど。
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