20 / 67
ヒーロー登場
しおりを挟む
『ここはもう、制圧済みだ。……貴様が頭だな?』
床に転がっている男に視線をやって、崇は冷たく言った。
そいつを連れて行け、と部下に命じて。
崇はちらりとこちらに視線をやった。
こ、怖い。
視線で人を殺せるレベルだ。下手したらロレンツォより怖い。
マフィアの首領の、本気の眼力。
あまりの迫力に、ジーナは持ってた銃を下に落として、手を上げていた。
帽子の男の前では、余裕たっぷりだったのに。
僕も、思わずホールドアップしていた。
肋骨骨折してるトーニオまで顔面蒼白で手を上げている。
いや、トーニオは安静にしてて……!
*****
『トーニオを、病院へ運べ。担架だ。手術が必要かもしれん』
崇は部下に指示を出した。
担架が運ばれてくるのを見て。
ジーナがほっとしたような顔をした。
とりあえず、殺されはしない雰囲気である。
良かった。
崇は銃を仕舞って、こっちに歩いてくる。
……気付くかな?
気付かないよね? もはや別人状態だもん。
「……!?」
目の前に、背広のネクタイが迫ってきていて。
気付けば、崇にぎゅっと抱き締められてた。
崇の、上品な香水の匂い。
もう、嗅ぎなれてしまった香りに包まれてる。
『ああ……無事で、良かった……私の、”人生最愛の人”』
崇。
名前を呼ばないのは、敵の隠れ家だからだろうか。
でも、”人生最愛の人”って。
崇の心臓の音が聞こえる。
……すごく、速い。
相当、心配してたんだって伝わってくる。
ひと目で、わかったんだ。
こんな、別人みたいに変装してたのに。
僕だってこと。
『ちょっとあんた、うちのステラから手を離しな』
厳しい声がして。
ジーナはあの小さい銃を、崇に向けていた。
『……ステラ、だと?』
崇は、誰だそれは、というような訝しげな顔をして、ジーナを見た。
『ああ。その子はステラっていう、私の可愛い妹分だ。あんたなんかに渡せないね』
『妹……? どういうことだ?』
崇は僕とジーナを交互に見て、眉根を寄せた。
『兄貴は、あんたのお気に入りについては何も知らないってさ。……あんたが手放せば、その子は安全に、故郷に戻れるんだよ』
*****
ジーナ。
崇からも、逃がしてくれようとしてるんだ。
どうして、そこまで。
……何があったか、話したから?
でも。
ヴァレンティーノに逆らったらまずいって、わかってるはずなのに。
『……よせ、ロレンツォ。彼女はどうやら、私の宝物の恩人のようだ』
崇は、背後を見ずに言った。
見れば、扉の前にいるロレンツォが、ジーナに銃口を向けていた。
それを、しぶしぶ下ろしている。
気配無さすぎだ。
『撃ちたければ、撃てばいい。私は、もう二度と、愛する者を間違えたりはしない。身勝手と謗られようが、この手を絶対に離さないと決めたのだ。たとえ撃たれて死んでも、手離すつもりはない』
崇はそう言って。
ひょい、と僕を抱き上げた。
二度と間違えないって。
男娼と間違って、僕を抱いたことを言ってるのかな。
崇もあれを、悔やんでるの?
死んでも離さない、なんて。
崇。
……何でそこまで、僕のことを。
*****
『……どうした、撃たないのか?』
扉の前で。
崇がジーナを振り返った。
『どうやら、私は野暮なことしちまったみたいだね?』
ジーナは銃を下げて。
大きく溜め息を吐いた。
『はあ……ステラ。駄目だわこれ。あんた、悪魔よりタチの悪い男に愛されちゃったようだね。地球の裏側まで逃げても追ってきそう。これは諦めたほうが得策だよ』
じゃあね、お幸せに。
と、手を振られた。
気丈に振舞ってたけど、相当気力を消費したようで。
腰が抜けてしまったみたいだ。
ヴァレンティーノの部下の手を借りて。
美人の手を握れて役得でしょ、とか言ってる。
『……ありがとう、ジーナ』
身体を張って、組織から護ろうとしてくれて、庇ってくれて。
出逢ったばかりの僕を、危険を冒してまで助けようとしてくれた。
今までそういう職業に偏見や嫌悪感があったけど。
みんな、それぞれの事情があるだけで、普通の人なんだって知った。
優しくて強くて。
お姉ちゃんみたいだって思った。
*****
崇は無言で階段を上がっていく。
回収急げ、終わったか、とかいう声が聞こえた。
……cadavereとか聞こえた気がしたけど。
気のせいだよね。うん。
僕の人生の中で、そんな。
銃撃戦で亡くなった人が出るとか。ないよね。
っていうか。
廊下のあちこちに、生々しい血痕があるんだけど。
掃除中らしい部下の人と目が合った。慌ててモップで床を拭っている。
証拠隠滅……?
黒く穴が空いてるのは、銃の痕かな? ……うわあ、初めて見るなあ。本物の銃痕。
帽子の男が撃たれた時は、黒い服だったし、銃の口径が小さかったからか、血とかは見えなかったから。
あまり銃撃戦っていう感じがしなかったけど。
考えてみれば、すごく危険な状況だったんだな。
あまりに極限状態だと、色々感情が麻痺するのかも。
まだ、現実感がわかないよ。
さっきまで、いつ撃たれて死ぬかわからない状況だったなんて、まだ信じられない。
上から銃声とか、全然聞こえなかったな。
いつ制圧されたんだろ。
サイレンサー付きの銃で撃ち合ってたのかな?
それともあの地下室が、完全防音だったとか?
拷問部屋っぽかったし。
悲鳴が漏れないようにとかだったりして、なんて、どうでもいいことを考えてしまう。
いや、どうでもよくないか。
僕の正体がバレてたら、あそこに連れ込まれて、酷い目にあわされてたんだろうから。
……あの血、どちら側の血だったんだろ。
ヴァレンティーノ側に、怪我人がいなければいいけど。
床に転がっている男に視線をやって、崇は冷たく言った。
そいつを連れて行け、と部下に命じて。
崇はちらりとこちらに視線をやった。
こ、怖い。
視線で人を殺せるレベルだ。下手したらロレンツォより怖い。
マフィアの首領の、本気の眼力。
あまりの迫力に、ジーナは持ってた銃を下に落として、手を上げていた。
帽子の男の前では、余裕たっぷりだったのに。
僕も、思わずホールドアップしていた。
肋骨骨折してるトーニオまで顔面蒼白で手を上げている。
いや、トーニオは安静にしてて……!
*****
『トーニオを、病院へ運べ。担架だ。手術が必要かもしれん』
崇は部下に指示を出した。
担架が運ばれてくるのを見て。
ジーナがほっとしたような顔をした。
とりあえず、殺されはしない雰囲気である。
良かった。
崇は銃を仕舞って、こっちに歩いてくる。
……気付くかな?
気付かないよね? もはや別人状態だもん。
「……!?」
目の前に、背広のネクタイが迫ってきていて。
気付けば、崇にぎゅっと抱き締められてた。
崇の、上品な香水の匂い。
もう、嗅ぎなれてしまった香りに包まれてる。
『ああ……無事で、良かった……私の、”人生最愛の人”』
崇。
名前を呼ばないのは、敵の隠れ家だからだろうか。
でも、”人生最愛の人”って。
崇の心臓の音が聞こえる。
……すごく、速い。
相当、心配してたんだって伝わってくる。
ひと目で、わかったんだ。
こんな、別人みたいに変装してたのに。
僕だってこと。
『ちょっとあんた、うちのステラから手を離しな』
厳しい声がして。
ジーナはあの小さい銃を、崇に向けていた。
『……ステラ、だと?』
崇は、誰だそれは、というような訝しげな顔をして、ジーナを見た。
『ああ。その子はステラっていう、私の可愛い妹分だ。あんたなんかに渡せないね』
『妹……? どういうことだ?』
崇は僕とジーナを交互に見て、眉根を寄せた。
『兄貴は、あんたのお気に入りについては何も知らないってさ。……あんたが手放せば、その子は安全に、故郷に戻れるんだよ』
*****
ジーナ。
崇からも、逃がしてくれようとしてるんだ。
どうして、そこまで。
……何があったか、話したから?
でも。
ヴァレンティーノに逆らったらまずいって、わかってるはずなのに。
『……よせ、ロレンツォ。彼女はどうやら、私の宝物の恩人のようだ』
崇は、背後を見ずに言った。
見れば、扉の前にいるロレンツォが、ジーナに銃口を向けていた。
それを、しぶしぶ下ろしている。
気配無さすぎだ。
『撃ちたければ、撃てばいい。私は、もう二度と、愛する者を間違えたりはしない。身勝手と謗られようが、この手を絶対に離さないと決めたのだ。たとえ撃たれて死んでも、手離すつもりはない』
崇はそう言って。
ひょい、と僕を抱き上げた。
二度と間違えないって。
男娼と間違って、僕を抱いたことを言ってるのかな。
崇もあれを、悔やんでるの?
死んでも離さない、なんて。
崇。
……何でそこまで、僕のことを。
*****
『……どうした、撃たないのか?』
扉の前で。
崇がジーナを振り返った。
『どうやら、私は野暮なことしちまったみたいだね?』
ジーナは銃を下げて。
大きく溜め息を吐いた。
『はあ……ステラ。駄目だわこれ。あんた、悪魔よりタチの悪い男に愛されちゃったようだね。地球の裏側まで逃げても追ってきそう。これは諦めたほうが得策だよ』
じゃあね、お幸せに。
と、手を振られた。
気丈に振舞ってたけど、相当気力を消費したようで。
腰が抜けてしまったみたいだ。
ヴァレンティーノの部下の手を借りて。
美人の手を握れて役得でしょ、とか言ってる。
『……ありがとう、ジーナ』
身体を張って、組織から護ろうとしてくれて、庇ってくれて。
出逢ったばかりの僕を、危険を冒してまで助けようとしてくれた。
今までそういう職業に偏見や嫌悪感があったけど。
みんな、それぞれの事情があるだけで、普通の人なんだって知った。
優しくて強くて。
お姉ちゃんみたいだって思った。
*****
崇は無言で階段を上がっていく。
回収急げ、終わったか、とかいう声が聞こえた。
……cadavereとか聞こえた気がしたけど。
気のせいだよね。うん。
僕の人生の中で、そんな。
銃撃戦で亡くなった人が出るとか。ないよね。
っていうか。
廊下のあちこちに、生々しい血痕があるんだけど。
掃除中らしい部下の人と目が合った。慌ててモップで床を拭っている。
証拠隠滅……?
黒く穴が空いてるのは、銃の痕かな? ……うわあ、初めて見るなあ。本物の銃痕。
帽子の男が撃たれた時は、黒い服だったし、銃の口径が小さかったからか、血とかは見えなかったから。
あまり銃撃戦っていう感じがしなかったけど。
考えてみれば、すごく危険な状況だったんだな。
あまりに極限状態だと、色々感情が麻痺するのかも。
まだ、現実感がわかないよ。
さっきまで、いつ撃たれて死ぬかわからない状況だったなんて、まだ信じられない。
上から銃声とか、全然聞こえなかったな。
いつ制圧されたんだろ。
サイレンサー付きの銃で撃ち合ってたのかな?
それともあの地下室が、完全防音だったとか?
拷問部屋っぽかったし。
悲鳴が漏れないようにとかだったりして、なんて、どうでもいいことを考えてしまう。
いや、どうでもよくないか。
僕の正体がバレてたら、あそこに連れ込まれて、酷い目にあわされてたんだろうから。
……あの血、どちら側の血だったんだろ。
ヴァレンティーノ側に、怪我人がいなければいいけど。
1
お気に入りに追加
890
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる