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まるでアクション映画のような
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『おい、新情報だ。カポのお気に入りがお屋敷から逃げ出したらしい。青いミニアービトに、麦藁帽子の女を捜せ、ってよ』
一人の男が部屋に顔を出して告げた。
ヴァレンティーノの首領が部下たちを引き連れて、大慌てで人探しをしているようなので、無線を盗聴してみたようだ。
『ああ? 女ぁ? 少年って話じゃなかったか?』
『女装して逃げたらしい』
『ハッ。傑作だな。カポ本人が直々に女をお迎えに上がったが、蹴っ飛ばして逃げたらしいぞ』
黒服たちが笑い声を上げた。
蹴ってないし。
ある意味蹴るよりひどいこと、言ったけど。
……崇は、こんな最低なやつらに馬鹿にされていいような男じゃない。
麻薬には手を出さないし。
ちゃんと、まともな商売で働いてるもん。
ブラッドオレンジジュース美味しかったし。チーズも美味しかった。
町の人たちからも、慕われてたし。
お前らより、ずっとずっとず~っと、頭も良いんだからな!
*****
『……そういや青いミニアービトに麦藁帽子の女なら、店の近くで見たような……』
ジーナが言った。
『なに、本当か!?』
『朝方、パレルモ空港への道を教えて欲しいって言われたのが、そんな服装の女だったような……。歩いて行くようだったけど。言われてみれば、女にしては声が低かったかもね』
『パレルモか!』
『急げ!』
何人か、慌てて部屋を出て行った。
……ジーナも、嘘をついた。
トーニオを痛い目に遭わせた原因の、”カポのお気に入り”が僕だってこと。
もう、わかってるだろうに。
『ああ、ジーナ、何てことを……』
何も知らないトーニオは、悲しそうな顔をしている。
『だって私には関係ないもん。……あのさあ。そろそろ店の準備に戻りたいんだけど?』
ブレスレットのような腕時計を見て。
帽子の男に、ジーナが言った。
まったく自然な態度に見える。
すごい心臓だ……。
ジーナも、ある意味裏の世界にいる女性だからかな?
『クックックッ、我々の潜伏地を見て、帰れると思ったのか? めでたい女だな』
帽子の男はジーナに銃口を向けて嫌な笑みを見せた。
どの道、ヴァレンティーノに逆らったんだから、このシチリアでは生きてはいけないだろう、と男は言った。
……やっぱり。
最初から、生きて帰すつもりなんてなかったんだ。
*****
この部屋には帽子の男一人になったけど。
怪我人に女が二人だからか、舐めてるんだろう。
男は仲間を呼ぶ様子がないのが救いだろうか。
でも、戦力的には、似たようなものかも。
……どうしよう。
『ハァ? あんたがどこの組織かってのも知らないどころか、ここがどこだかも知らないんだけど?』
すごい。知らぬ存ぜぬを突き通すつもりだ。
さすがだ姐さん……。
『それに私は今日見た女の話をしただけだよ。カポのお気になんて子は、知らないねえ』
ジーナは腕を組んで、豊満な胸を強調するポーズを取った。
男の本能か、帽子の男の視線が一瞬、自然とそこへ吸い込まれるように行ったけど。
すぐ我に返ったような顔をした。
……あれ?
いつの間にか、トーニオが小さな銃を持ってる。
もしかして、さっき駆け寄った時に、隙を見てジーナが渡したのかな?
トーニオと目が合って。
隙を作れ、って言ってる?
ええっ、隙、と言われても困る。
いきなりそんな無茶振りされても何もできないよ。
僕もジーナと同じようなポーズを取ってみたりして。
……駄目だ、もうこれが限界っぽい。
これ以上は寄せられない……!
『ステラ……、貧乳が無理するんじゃないよ……』
呆れたようにジーナが言った。
Tette piccole、つまり微妙な乳……。
また使えないイタリア語を覚えてしまった。
憐れなものを見る目で、帽子の男がこっちを見た。
……うう。
当初の目的とは予定が外れたけど。
やるなら、今だ。
*****
『Bravissima、貧乳のお嬢ちゃん!』
パン、パン、と。
乾いた音が、二回して。
帽子の男が銃を取り落とし、床に崩れ落ちた。
貧乳は余計だ。
男だし。
『ステラ。捨て身の戦法、ありがとね』
ジーナは僕にウインクをして。
すぐに床の男の銃を取り上げ、声を上げないよう、帽子を丸めて口に捻じ込んだ。
素早い。
男は床に転がって、悶絶している。
どうやら利き腕と、足の脛を撃たれたようだ。
小さい銃だし、殺傷能力は低いみたいだけど。動きを封じることはできた。
トーニオは小さな銃を、ジーナに投げ寄越して。
ジーナは受け取った銃を太股の内側、ガーターストッキングにつけたホルダーに仕舞った。
ああ、そんなとこに銃を仕込んでたのか。
護身用かな?
ジーナのバッグは取り上げてたけど。身体検査とかしないんだもん。
雑な組織だよね。
女だから抵抗できないとか思ってたのかな?
それにしても。
僕の鞄を探られて、隠しポケットに入れたパスポートが見つかってたらアウトだった。
『さ、逃げようか。兄貴、歩ける?』
ジーナは帽子の男から奪った銃を手に、兄を見た。
『いや、この怪我じゃ、俺は走れない。ジーナ、そのお嬢ちゃんを連れて、お前らだけでも、ここから逃げろ!』
トーニオが言って。
『兄貴、だって、……バカ、置いていけるわけないでしょ! たった二人の兄妹なんだよ!?』
……どうしよう。
何とかトーニオを背負って行こうにも、肋骨を骨折してるんじゃ。
携帯で警察とか救急車を呼ぶ時間はあるかな。
上に、何人いるんだろう。
ドガン、と。
凄い音がして。
突然、ドアが蹴り破られた。
『……全員、Mani in alto!』
そう言って。
銃を手に、部屋に入り込んできたのは。
……崇……?
一人の男が部屋に顔を出して告げた。
ヴァレンティーノの首領が部下たちを引き連れて、大慌てで人探しをしているようなので、無線を盗聴してみたようだ。
『ああ? 女ぁ? 少年って話じゃなかったか?』
『女装して逃げたらしい』
『ハッ。傑作だな。カポ本人が直々に女をお迎えに上がったが、蹴っ飛ばして逃げたらしいぞ』
黒服たちが笑い声を上げた。
蹴ってないし。
ある意味蹴るよりひどいこと、言ったけど。
……崇は、こんな最低なやつらに馬鹿にされていいような男じゃない。
麻薬には手を出さないし。
ちゃんと、まともな商売で働いてるもん。
ブラッドオレンジジュース美味しかったし。チーズも美味しかった。
町の人たちからも、慕われてたし。
お前らより、ずっとずっとず~っと、頭も良いんだからな!
*****
『……そういや青いミニアービトに麦藁帽子の女なら、店の近くで見たような……』
ジーナが言った。
『なに、本当か!?』
『朝方、パレルモ空港への道を教えて欲しいって言われたのが、そんな服装の女だったような……。歩いて行くようだったけど。言われてみれば、女にしては声が低かったかもね』
『パレルモか!』
『急げ!』
何人か、慌てて部屋を出て行った。
……ジーナも、嘘をついた。
トーニオを痛い目に遭わせた原因の、”カポのお気に入り”が僕だってこと。
もう、わかってるだろうに。
『ああ、ジーナ、何てことを……』
何も知らないトーニオは、悲しそうな顔をしている。
『だって私には関係ないもん。……あのさあ。そろそろ店の準備に戻りたいんだけど?』
ブレスレットのような腕時計を見て。
帽子の男に、ジーナが言った。
まったく自然な態度に見える。
すごい心臓だ……。
ジーナも、ある意味裏の世界にいる女性だからかな?
『クックックッ、我々の潜伏地を見て、帰れると思ったのか? めでたい女だな』
帽子の男はジーナに銃口を向けて嫌な笑みを見せた。
どの道、ヴァレンティーノに逆らったんだから、このシチリアでは生きてはいけないだろう、と男は言った。
……やっぱり。
最初から、生きて帰すつもりなんてなかったんだ。
*****
この部屋には帽子の男一人になったけど。
怪我人に女が二人だからか、舐めてるんだろう。
男は仲間を呼ぶ様子がないのが救いだろうか。
でも、戦力的には、似たようなものかも。
……どうしよう。
『ハァ? あんたがどこの組織かってのも知らないどころか、ここがどこだかも知らないんだけど?』
すごい。知らぬ存ぜぬを突き通すつもりだ。
さすがだ姐さん……。
『それに私は今日見た女の話をしただけだよ。カポのお気になんて子は、知らないねえ』
ジーナは腕を組んで、豊満な胸を強調するポーズを取った。
男の本能か、帽子の男の視線が一瞬、自然とそこへ吸い込まれるように行ったけど。
すぐ我に返ったような顔をした。
……あれ?
いつの間にか、トーニオが小さな銃を持ってる。
もしかして、さっき駆け寄った時に、隙を見てジーナが渡したのかな?
トーニオと目が合って。
隙を作れ、って言ってる?
ええっ、隙、と言われても困る。
いきなりそんな無茶振りされても何もできないよ。
僕もジーナと同じようなポーズを取ってみたりして。
……駄目だ、もうこれが限界っぽい。
これ以上は寄せられない……!
『ステラ……、貧乳が無理するんじゃないよ……』
呆れたようにジーナが言った。
Tette piccole、つまり微妙な乳……。
また使えないイタリア語を覚えてしまった。
憐れなものを見る目で、帽子の男がこっちを見た。
……うう。
当初の目的とは予定が外れたけど。
やるなら、今だ。
*****
『Bravissima、貧乳のお嬢ちゃん!』
パン、パン、と。
乾いた音が、二回して。
帽子の男が銃を取り落とし、床に崩れ落ちた。
貧乳は余計だ。
男だし。
『ステラ。捨て身の戦法、ありがとね』
ジーナは僕にウインクをして。
すぐに床の男の銃を取り上げ、声を上げないよう、帽子を丸めて口に捻じ込んだ。
素早い。
男は床に転がって、悶絶している。
どうやら利き腕と、足の脛を撃たれたようだ。
小さい銃だし、殺傷能力は低いみたいだけど。動きを封じることはできた。
トーニオは小さな銃を、ジーナに投げ寄越して。
ジーナは受け取った銃を太股の内側、ガーターストッキングにつけたホルダーに仕舞った。
ああ、そんなとこに銃を仕込んでたのか。
護身用かな?
ジーナのバッグは取り上げてたけど。身体検査とかしないんだもん。
雑な組織だよね。
女だから抵抗できないとか思ってたのかな?
それにしても。
僕の鞄を探られて、隠しポケットに入れたパスポートが見つかってたらアウトだった。
『さ、逃げようか。兄貴、歩ける?』
ジーナは帽子の男から奪った銃を手に、兄を見た。
『いや、この怪我じゃ、俺は走れない。ジーナ、そのお嬢ちゃんを連れて、お前らだけでも、ここから逃げろ!』
トーニオが言って。
『兄貴、だって、……バカ、置いていけるわけないでしょ! たった二人の兄妹なんだよ!?』
……どうしよう。
何とかトーニオを背負って行こうにも、肋骨を骨折してるんじゃ。
携帯で警察とか救急車を呼ぶ時間はあるかな。
上に、何人いるんだろう。
ドガン、と。
凄い音がして。
突然、ドアが蹴り破られた。
『……全員、Mani in alto!』
そう言って。
銃を手に、部屋に入り込んできたのは。
……崇……?
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