長身美形なイタリアマフィアになってた、美少女みたいに小さくて可愛かった幼馴染から売り専と間違われて監禁Ｈされた上に求婚されてしまいました。

逃亡先で

『その姿も愛らしいが。結婚式の予行練習にはまだ早くないか？』
崇は苦笑しながら言った。

予行練習って。女装のこと？


「ごめん……崇とは、結婚できない」

やっぱり、正直に言うべきだろう。
そんな気持ちは無いって。


『それは。家庭教師の、内藤愛理という女に惚れているからか？』


「！？」
何で知って……。

名前まで。
僕に近寄る人間は男女問わず身元を確認させてたって？　そこまで！？


＊*＊*＊


『……やはり、そうだったか』
疑っていたけど、僕の反応を見て、そうと確信したようだ。

うぐ。
引っ掛けだったのか。

いつも玄関先まで見送りに出てるくらいなので、もしかしたら、と思っていたらしい。
監視されてたのか。

『だが、その女には結婚前提で付き合っている恋人がいるぞ。先日のナターレクリスマスには、その男とアルベルゴホテルに泊っていたようだ。諦めたほうがいいだろう』


そんなの。
崇の口から聞かされたくなかった。

自分でちゃんと告白して。
直接はっきり断られて、玉砕したほうが、よっぽど。


「……崇のバカ！　崇なんか、大っ嫌いだ！！　もう顔も見たくない。絶交だからな！」

ジェラートを投げるように突きつけて。
崇の手を振り払って、駆け出した。


……絶交って。
小学生のケンカか！　と自分で突っ込みたくなるくらい、稚拙なセリフしか出なかった。

我ながら恥ずかしい。

外国で、日本語が通じなくて良かった。


……崇、すごくショックを受けた顔をしてた。

でも。
余計なことした崇が全部悪いんだからな！！


＊*＊*＊


「わ、」

物陰に、引き込まれた。

赤い爪。
……女の人？


黒髪で、勝気そうなくっきり眉の美人だ。
青のシャドーが入った緑色の瞳はぱっちりしている。

『静かに。追って来てる』
手を引かれて、建物の中に。

黙っていたら、バタバタと目の前の道路を走る足音がして。

『こっちに向かって走って行ったようだが』
『姿が見えないぞ。早いな！』

また足音が通り過ぎて行って。
しばらくして、彼女は僕の腕を掴んでいた手を離した。


『あんた、とんでもないのに追われてるねえ。あれ、ヴァレンティーノの首領カポだろ？　こんなとこまで直々にお出ましとか。一体何をやらかしたのさ？』
シチリア訛りのないイタリア語で訊かれた。

……ええと。

『求プロポスタ ディ婚 マトリモーニオ、されて。逃げてきました』
思わず正直に言ってしまった。

『嘘でしょ！？　あいつ、Frocioフロッチョって噂だよ。騙されたんじゃないの？』
女の人は、すごく嫌そうな顔をした。

「フローチョ？」

『男が好きな男、ってこと。好みがうるさくて困るって兄貴が言ってた。東洋系の、若い少年が好きなんだってさ。それも、とっかえひっかえ』
スラングだったようだ。


……噂にまでなってんのかよ。
屋敷の近辺じゃなく、わざわざパレルモの業者を使ってたみたいなのに。


＊*＊*＊


『すみません、カターニア空港に行きたいのですが、そちらへ向かうバスを知りませんか？』

『んー、もうシチリアの空港や交通機関は全部押さえられてると思ったほうがいいよ。今のカポはやり手で有名だし』

シチリアの全域、公共交通機関使用不可か……。
まいったな。


それじゃ、道沿いに歩いて行くのもまずいかも。
自動車で追いかけられでもしたら、そこでお終いだ。

夜になって、闇に紛れて行くのも危険かなあ。
どうしたものか。


『イタリアに行きたいなら、知り合いの持ってる船でラッザロまでなら送ってやれるよ。そこなら駅スタッツィオーネもあるし……』
そこからレッジョ空港へ行けばいい、と言ってくれたけど。

『だめ。私をかばうと、あなたが危ない』

これ以上は、迷惑をかけられない、と言うと。
彼女は片眉を上げ、ふふん、と不敵に笑ってみせた。

『なに、かまやしないよ。やつらヴァレンティーノには、少々恨みがあってね。女に逃げられるとか、いい気味だ』

まあ、相手がヴァレンティーノの首領だってわかってて、こうやって隠してくれてる辺り、そうかなとは思ったけど。
……色々なところで恨まれてるなあ。

何かされたのかな？


『パレルモにいる兄貴が、あいつのとこで商・売・してたんだけどさ。観光客に手を出したとかで酷い目に遭わされた上に、入院先から消えたんだ。まだ一人じゃ歩けないカラダなのに。……やつらに消されたのかも……』

ん？
どっかで聞いたような話だな。


「それって、トーニオの話じゃ……」
『え、あんた兄・貴・のこと知ってるの？』

彼女は大きな目を瞬かせた。


＊*＊*＊


彼女の名はジーナといって、トーニオの実の妹さんだった。

その、手を出された観光客が自分で。
拉致された上に売春を強要されて。ヴァレンティーノの屋敷に連れ込まれて。

今日やっと、隙を見て逃げてきたのだと言うと。

申し訳なさそうな顔をして、謝られた。
兄は普段、素人に手を出すとか、絶対そんなことしない人なのに、追い込まれて魔が差したんだろう、と。


『言葉遣いからしていいとこのお嬢さんっぽいと思ったら、観光客だったの。求婚までされるとか、よっぽどあいつの好みだったんだね。運が悪かったとしか言いようが無いよ……』

『”お嬢さん”ではないのですけど……』

言葉遣いが敬語になってしまうのは、愛理さんから習ったイタリア語が標準語だったせいだろうけど。
愛理さんの真似をしたから、喋り方も女の人っぽくなっちゃったのかな？


逃げるために女装しただけで、男だって告白したら。
余計、可哀想に思われたようだ。

忘れるの協力しようか？　何ならお姉さんで卒業しちゃう？　と言われたけど。
日本に好きな女性がいるので、と。それは謹んで遠慮させていただいた。

女より先に男、それもよりによってアレが相手か、と。
更に哀れまれた。


まあ、その”好きな女性”には、結婚を前提にした恋人がいるそうだけどね！
振られるのはわかってたけど。ほんと酷い。

一応、トーニオを攫ったのはヴァレンティーノの敵対組織っぽいことも話したけど。
それは信じられないって。


説明が難しくて、色々端折っちゃったからかなあ？