長身美形なイタリアマフィアになってた、美少女みたいに小さくて可愛かった幼馴染から売り専と間違われて監禁Ｈされた上に求婚されてしまいました。

篠崎笙

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屋敷からの逃亡

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「……僕はここで寝てるから。崇は仕事してきなよ」

『しかし、』
自分のせいで体調を崩したわけだし、看病したい、っていうけど。

「悪いけど。ちょっと、一人で考えたいんだ。……色々あったし」

『そうか。何かあったら、そこにあるベルを鳴らしてくれ。すぐに来る』

昼頃にまた来るから、と心配そうに言って。
寝室を出て行った。

崇は優しいけど。
それは、幼馴染みとしてじゃなく、恋人に対する優しさなんだよな。

……あんなことされたけど。
あんなに真っ直ぐに想いを伝えてくる崇を。

どうしても、嫌いにはなれない。

好きか嫌いかで言えば、好きだ。
でも、それは。

崇とは同じ気持ちじゃない。

いっそ嫌えたらいいのに、とも思う。

このまま、ずるずる身体の関係を続けていったら。
嫌いじゃないだけに、結婚を受け入れてしまうことになりそうだ。

それは、崇に対しても不誠実だし。
何とか避けたい。

＊*＊*＊

イタリア語のテキストでも読んでいようかと、宿泊を予定していたホテルから転送された荷物を探ってたら。

「ん？」

……母さんから借りたトランクに、何故か母さんのワンピースが入ってるんだけど……。
取り出し忘れたのかな？

「あ、そうだ」

僕だってわからないようにすれば。
敵対組織に見つからないで、日本に帰れるかも……。

よし。逃げよう。
このままここにいたら、日本に帰れなくなりそうだ。

チャンスは、崇が僕から目を離している、今しかない。

貴重品をタオルで包んで。
どうにか胸に見せかけることに成功。

麦藁帽子と、荷物に入れておいたサンダルを取り出して、身に着けてみる。
……これで遠目には、女の子に見えるかな？

裏口と繋がっていると思われるドアから、外の様子を伺ってみる。

……ガレージと、崇の寝室が繋がってるんだ。
ガレージとボスの寝室直結って、無用心じゃないかな。

と、よくみれば、内側からしか開けられない仕組みになってるようだ。
外側には、ドアノブが無かった。

かなり分厚い壁だし。
セキュリティはきちんとしてるのか。

『おい、お嬢ちゃん。そんなところで何をしてるんだ？』

背後から声を掛けられて。
思わず飛び上がりそうになった。

『すみません、帽子が風に飛ばされて……』
帽子を目深に被って、震える声で言うと。

『ここがどこだがわかってるのか？　……いいから、他のやつに見つからない内に、早く出て行きな』
車用の出入口を指差されて。

ありがとう、すみません、と言いながら出て行った。

良かった。
僕が男だってわかんなかったようだ。

母さんのワンピース、胸以外はほぼピッタリだっていう悲しさよ。

＊*＊*＊

住宅街に向けて、早足で歩いて行く。
とりあえず、さっさと人の中に紛れ込みたい。

人が歩いてると、安心するな……。

タクシーをつかまえて、空港まで行きたいところだけど。
さすがにそんな予算は無い。

帰りの飛行機は、行きに使ったパレルモじゃなくて、イタリアに近いカターニア空港で取ってあるけど。
ここからカターニア行きのバスはないだろうな……。

仕方ない。
一番近い都市のパレルモからなら、バスとかあるかもしれない。

ここからパレルモまで、ざっと25kmくらいかな？

今から歩いて、おやつの時間あたりには着くだろう距離だけど。
サンダルではきついな。

確か、この辺に観光案内所があった。
そこで聞いてみよう。

せめてバスには乗りたい。

あ、屋台バンカレッラが出てる。
朝市かな？

野菜とか惣菜とか色々な物を売ってる……。

困ったな。
ここの大通りを突っ切れば、近いのに。

携帯で、あらかじめざっとルートは調べておいたけど。
これの情報はなかった。

迂回しないと。

＊*＊*＊

『ブォナンノ！　お嬢さんシニョリーナ、ジェラートはいかが？』
屋台バンカレッラの人に声を掛けられた。

イタリア人はナンパっぽいって本当なのか。
さっきから、屋台の男や道行く男に声を掛けられまくってる気がする。

ブォナンノ、は新年の挨拶だ。
この屋台の群れは、年末年始に出る、特別な屋台だったようだ。

時間があれば、じっくり見て回りたかったけど。

『ごめんなさい、お財布忘れてきちゃった』
手を広げてみせる。

一見、手ぶらに見えるだろう。
お金は胸の中だから、食べたくても出すわけにいかない。

美味しそうだな……。

『では、私が代わりに払おう。……何がいい？』
聞き覚えのある声の主に肩を抱かれて。

見上げると。
サングラスを掛け三つ揃いのスーツを身にまとったイタリア紳士がいた。

……た、崇……！？　どうしてここに。

ひええ。
口元は綺麗に笑みの形をしてるけど。目が笑ってない。

『おや旦那、ブォナンノ！　新年早々こんなとこまで来てcorteggナンiareパですかい？』
ジェラート屋が、笑っている。

ここの人も、崇の顔を知ってるんだ。
屋敷がある街からけっこう離れた場所まで歩いたのに。

思ったより、顔が広いのかな？
手広く商売してるって言ってたし、日本でも893はお祭りの屋台を仕切ってるって聞く。

『いや、私の恋人アマンテだよ。ちょっと目を離すと迷子になるので困る。……ヴァニラでいいかな？』
しっかり肩を掴まれて、引き寄せられる。

『まいど～』

崇は屋台の人に代金を払って、バニラのジェラートを受け取った。
それを、僕に渡してくる。

『食欲は無くとも、これくらいなら食べられるだろう？』

ひええ。
笑顔が怖い……！

＊*＊*＊

『７人だ』
「え？」

『ここに来るまでに、背後から君をつけ狙っていた男の人数だ。全て捕らえたが』

「そんなに！？」
声を掛けてきた男以外にもいたの！？

『その内、ただのコルテッジャーレナンパが５人。念のため、身元を確認してお引取り願ったが』

７人中５人がナンパって。
ほぼナンパでは？

化粧もしてないし、女物のワンピースに帽子をかぶっただけなのに……。
イタリアの男は、餓えてるの？

いや、２人は敵対組織の尾行って。
かなり怖い。

変装したのに。
崇にも、普通に脱走がバレて、尾行されてたなんて……。

監視カメラで、屋敷から出て行くところを見られたのかな？

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