長身美形なイタリアマフィアになってた、美少女みたいに小さくて可愛かった幼馴染から売り専と間違われて監禁Ｈされた上に求婚されてしまいました。

マンマ・ルチアの朝ごはん

「Ciaoチャオ、Uomoウォモ carinoカリーノ」


チュッ、と頬にキスをされた。
崇、起きてたんだ。

……見てたの？　僕が昨夜のことを思い出してじたばた悶絶してるところ。
恥ずかしいなあ！


目が合うと、ふっと微笑んだ。

何だよ、その甘い微笑みは！？
ただでさえ美形なのに、そんな表情してみせるとか、卑怯すぎやしない！？　朝から心臓に悪いよ。


「あ、Buonブォン giornoジョルノ……」
おはようの挨拶をすると。

「恋人同士や家族など、親しい間柄では、おはようの挨拶はCiaoでいいんだよ」
教えてくれた。


そっか。
崇は、幼馴染みで。いわば家族みたいなものだよね。

「そうなの？　じゃあ、……チャオ」

「sì、Ben fattoよくできました」
きらめくような笑顔で、頬にキスされた。


挨拶で頬にキスするのって、こっちじゃ習慣みたいだけど。
何か恥ずかしい。だって日本人だし！

っていうか、オトナのイタリア語講座、まだ続いてたんだ……？


『さて、そろそろ起きないと。マンマ・ルチアが叩き起こしに来るぞ』
崇は起き上がって、シャツを羽織った。

マンマおかあさん？
百合おばさんもこっちに来てたの？

って、ルチアって言ってたな。誰？


＊*＊*＊


食堂からは、良い匂いが漂ってきて。
空腹だったことを思い出す。

そういえば、昨日は夕食抜きで……してたんだ。


『ほら、坊やたちバンビーニ、さっさと食べな！　仕事に遅れるよ！』

強面なマフィアの男たちの尻を叩いて回っている。
髪は黒くて目は緑色。色黒で、エプロンがはちきれそうなほど大柄な女性。

あれがマンマ・ルチアか。
シチリア訛りじゃなくて、ほっとする。話は通じそう。


『おや、この子が噂の、サリーの”可愛い人カリーノ”かい？』
大きな身体を揺すりながら、近付いてくる。

崇、サリーって呼ばれてるんだ。
こっちじゃサルヴァトーレって名前なんだっけ。

馴染まないなあ。
でも、本人が一番そうなのかも。

『ああ、日本での幼馴染みで、私にとって、”人生最愛の人”だ。決していじめないように』

L’amoreラ モーレ dellaデラ mia vitaミア ヴィータ。
人生最愛の人、って昨夜教わったっけ。

……思い出して、顔が真っ赤になっちゃうよ。


「Piacereピアチェーレ、Grazie inグラッツェ イン anticipoアンティチポ」

気を取り直して。
はじめまして、よろしくおねがいします、とマンマ・ルチアに挨拶をした。

『あら、ちゃんと挨拶が出来て、可愛らしい子だねえ』
頭を撫でられた。

子ども扱いだ。
でも、そんなに悪い気はしなかった。


……聞き取りは出来る、しかし話す方は拙いがよろしく頼む、って。
聞こえてるからね？

エッチな単語を知らないだけで、ちゃんと勉強はしてたんだし。

いいもん。
もっと会話、勉強するし。


＊*＊*＊


イタリアの朝ごはんは、カロリーが高そうだった。


えー、朝からお菓子食べるの？　と思ったけど。
皿いっぱいの山盛りクッキーがみるみる内に消えていく。

こっちじゃこれが当たり前の光景みたいだ。
そういえばイタリアの観光ガイドにも、そのようなことが書かれてた気がする。こっちの朝食は甘いとか。


マンマが焼いたクロワッサンコルネット、特にチョコチップのコルネットが絶品で。
ほろ苦いチョコの風味と、中のヘーゼルナッツクリームがもう、たまらない。

カップチーノも甘いけど。すごく美味しい。
さすが本場。


崇が食べてるクリームとシロップたっぷりのパンケーキも美味しそうだ。
でも、さすがに大きなクロワッサンを二つ食べた上にパンケーキまでは入らないな、と羨まし気に見てたら。

「はい、あ～ん」
ひと口切り取ってくれた。

うん、美味しい。「あ～ん」ってされるのは恥ずかしかったけど。
イタリア語じゃそういう言葉はないのかな？

「ありがと」
『 Si figuriどういたしまして』
済ました顔しちゃって。今のやり取りを見てた人、びっくりしてたよ？


みんな、朝からすごい食べるんだなあ。
だから大きくなれたのかな？　僕は今からだと横に伸びそうだ……。


＊*＊*＊


『日本人の坊やの口には合ったかい？』
マンマがおかわりのカップチーノを淹れてくれた。

「Molto モルトbuonoブォーノ……ううん、ottimoオッティモ！」

この感動を伝えるには、モルト・ブォーノとてもおいしいやオッティモすごくおいしいくらいじゃ足らないよ。
オッティモが最上級だけど。

もっと、最高にものすごく美味しい、って表現あったらいいのに！　って感じ。


『おお……なんて可愛い子だろう！』
むぎゅっ、と抱き締められる。

頬にチューされそうになったけど。
崇が真顔でそれを阻止して。相変わらず冗談のわからない子だね、って言われてた。


マンマは、子供の頃の崇に「朝からお菓子なんか食べられるか、気持ち悪い」と言われて悲しかったんだそうだ。
さっきは普通に山盛りのパンケーキ食べてたけど。

『……だから、あの時はすまなかったと言っただろう』
拗ねたような顔をして。

ちょっと可愛いかも、と思ってたら。

肩を引き寄せられて、耳元で。
「……大好きな幼馴染みと離れ離れにされて、しばらく荒れてたんだ」


そういうこと、日本語で甘く囁くの、やめてくれないかな！　無駄にドキドキしちゃうじゃないか。
相手は崇、幼馴染みの男だっていうのに。


『日本語で内緒話かい？』
マンマは片眉を上げて。

『可愛いほうの坊やには、おやつにカンノールを出してあげようかね』
「カンノール？」

その一言に。
あちこちから羨ましい、いいな！との声が上がる。

マフィアの男たちが、本気で悔しがるおやつって……。


『ほら、ご褒美が欲しかったら、しっかりと仕事してきな！』

マンマに尻を叩かれながら追い出される男たちを、崇は苦笑しながら見送っている。
これが今の崇の日常的な風景、なのかな。


ああ、マンマ・ルチアって。
ここのみんなのお母さんみたいな存在なんだな、って思った。


＊*＊*＊


カンノーリ（cannoli）はイタリアのシチリア島のデザートで。
揚げた筒状の皮にリコッタチーズで作ったクリームを詰めたもの、か。

カンノーリは複数形で、一個単位だとカンノーロって呼ぶけど。
カンノール、っていうのはシチリア訛りなんだ。なるほど。


マンマはシチリア生まれだけど、ここ、ヴァレンティーノ・ファミリアーリはアメリカとかイギリスとかイタリア本土とか、色々な所から客人が来るから、方言を直したんだって。

崇も、イタリア語と英語と、フランス語とか、他にも何ヶ国語かを話せるとか。
その上、日本語も覚えてるんだもんな。すごい。


僕なんかよりずっと、頑張ってきたんだろうな。