17 / 20
亜樹:お揃いの指輪
しおりを挟む
「モデル?」
奈津が首を傾げた。
「さあ、仕事部屋へどうぞ! 汚いですけど!」
チカをリビングから仕事部屋に追い込む。
「……本人には言ってないんですか?」
不思議そうに振り返った。
「まだ……」
だって。
そんなの恥ずかしくて言えないよ。
……何でにやにやしてるの。
「だって。みんなしてスパダリ言うからつい出来心でネーム描いたらうっかり通っちゃったもんだから……!」
思わず顔を覆う。
「ああ、あれ。編集部でも話題になってましたよ。空想の弟を登場させて話題作りしてる、とか思われてましたね」
ひどい。
そこまでして話題なんて作りたくないんだけど。
それに、話題作りなら普通、弟じゃなく、嫁にすると思う。
嫁どころか、彼女すらいないけどね!
「第一、僕、あんな料理上手じゃないし……」
チカは笑顔で。
「そんなことないですよ。大学時代にご馳走になったハンバーグとか、一応形になってたし。上達したのかなって」
一応って。
本当に僕の扱いひどくない!?
◆◇◆
後は真面目に打ち合わせをして。
手直ししたネームも、OK貰ったので。
後は作画に入るだけだ。
チカはそろそろ帰ります、と腰を上げた。
「せっかくイタリア帰りの超絶ハイスペックイケメンな弟さんがいるんだし、いっぱいネタになってもらってくださいね!」
嫌な励ましだった。
「……お帰りですか?」
奈津が台所から顔を出した。
料理中だったようだ。
「はい。長々とお邪魔してすみませんでした」
チカが頭を下げている。
「せっかくなんで、夕飯食べて行きませんか? そのつもりで多めに作っちゃったんで……」
「えっ、噂のスパダリメシ……っ!?」
余計なことを言うチカの足を踏む。
「噂?」
「ええ、そりゃもう。SNSでも評判なんですよ。夏野先生の弟さんの料理が凄いって」
足を踏んでもノーダメージだったようだ。
涼しい顔してる。
スリッパ出すんじゃなかった。
「はは、なら是非食べてってください。遠慮なくどうぞ」
奈津は笑顔で手招きした。
◆◇◆
「……作りすぎじゃない?」
「考え事しながら料理作ってたら、うっかり」
テーブルいっぱいに、料理が並んでいた。
何かのパーティーですか、みたいな。
やたら手が込んでそうな料理とか。
イタリア料理に混じって、何故か鳳凰の形したニンジンとか飾ってあるし。
何これ中華?
考え事しながら料理できるってのも凄い。
それにしても。
「うわあ、美味しそう……!」
チカも涎を垂らさんばかりだった。
もちろん、僕もだけど。
「あ、待って。カメラ! まだ食べないでね!」
仕事部屋にカメラを取りに走った。
カメラを手に戻ってきたら。
奈津とチカは無言で微笑みあっていた。
何だろう?
「お待たせ。写真撮らせてね」
全体と、一品一品写真を撮ってから。
席について、手を合わせる。
「それじゃ、いただきます!」
……ああ美味しい。
どの料理も絶品すぎる。
美味しいと、つい、無言で貪ってしまうよ。
って。
「……何で2人して僕を見てるの。食べなよ」
孫を見る老人みたいな顔で見るの、やめて欲しい。
チカは同い年だし、奈津は年下なのに。
「くうっ……、これは確かに、完全無欠のスパダリメシ……! 美味しいです……! 夏野先生!」
チカは変な感動の仕方をしている。
◆◇◆
「編集部には、ちゃんとスパダリな弟さんでしたって説明しておきますね!」
「やめてマジでやめて」
残った料理をお土産に、とタッパーに詰めてもらったチカはご機嫌だった。
これから編集部に戻るそうだ。お疲れ様です。
「それでは先生、奈津さんも、ご馳走様でした」
頭を下げて。
「いいえ。お粗末さまでした」
奈津は微妙な顔をしてる。
チカは笑顔のまま、左手を出して。
僕に、自分の結婚指輪を見せた。
チカは去年、大学時代から付き合っていた彼女と結婚したばかりだった。祝電も送った。
え、何?
いきなりリア充自慢?
「おめでとうございます。お祝いは、改めて贈らせてもらいますね」
何でチカが言うの?
って。
……しまった。
奈津からもらった指輪。
外すの忘れてた。
チカが帰った後。
奈津は額に手をやって。
「悪ィ。バレた……。職場の人なのに……」
がっくりしてる。
2人きりになった時、カマをかけられて。
つい、引っ掛かってしまったという。
ああ、それであの、微妙な感じの笑顔に……。
奈津は申し訳ない、と落ち込んでるけど。
僕もうっかりだった。
指輪、もうすっかり指に馴染みすぎてて。
忘れてた。
忘れるほど、当たり前になっちゃってたんだ。
◆◇◆
「近田さん……チカは言いふらしたりしないと思うけど」
「あいつのこと、そんな信頼してんのか?」
奈津は片眉を上げて。
「そりゃ、僕を漫画家にしてくれた恩人だし。いいやつだよ」
「……何かムカつく」
「何で近所の人や商店街の人には言いふらしておいて、チカは駄目なわけ?」
「近所の人たちは、これからもここに住むんだし。先に言っておいたほうが、後でバレるよりダメージが少ないから早めに言っちまった方がいいんだ。差別するやつはするからな。でも、いい人たちばかりだった。昔なじみってのもあるが」
子供の頃から人前でプロポーズしてたもんね……。
出歩いてるのは奈津だけだし、愛想よくしてるし。
2人でイチャイチャして歩いてるわけじゃないし、迷惑もかけてないので、叩かれにくいのもあるそうだ。
「職場の人は、違うだろ。あの人は、特別変な人だったようだが。出版や報道の連中は、話題になりさえすりゃいい思って、あることないこと噂する。弱みになるようなことは極力見せないほうがいい」
奈津は、モデルとかもしてたんだっけ。
暗部も散々見てきたようだ。
そっか。
あれでも結構、色々考えて行動してたんだな。
「ところで。俺は亜樹の手料理、一度も食ったことないのに、何であいつは食ってんの?」
奈津は盛大に拗ねていた。
聞き耳を立てていて。
それで気もそぞろになって。あんな大量の料理を作ってしまったようだ。
何それ。
奈津、可愛すぎる。
奈津が首を傾げた。
「さあ、仕事部屋へどうぞ! 汚いですけど!」
チカをリビングから仕事部屋に追い込む。
「……本人には言ってないんですか?」
不思議そうに振り返った。
「まだ……」
だって。
そんなの恥ずかしくて言えないよ。
……何でにやにやしてるの。
「だって。みんなしてスパダリ言うからつい出来心でネーム描いたらうっかり通っちゃったもんだから……!」
思わず顔を覆う。
「ああ、あれ。編集部でも話題になってましたよ。空想の弟を登場させて話題作りしてる、とか思われてましたね」
ひどい。
そこまでして話題なんて作りたくないんだけど。
それに、話題作りなら普通、弟じゃなく、嫁にすると思う。
嫁どころか、彼女すらいないけどね!
「第一、僕、あんな料理上手じゃないし……」
チカは笑顔で。
「そんなことないですよ。大学時代にご馳走になったハンバーグとか、一応形になってたし。上達したのかなって」
一応って。
本当に僕の扱いひどくない!?
◆◇◆
後は真面目に打ち合わせをして。
手直ししたネームも、OK貰ったので。
後は作画に入るだけだ。
チカはそろそろ帰ります、と腰を上げた。
「せっかくイタリア帰りの超絶ハイスペックイケメンな弟さんがいるんだし、いっぱいネタになってもらってくださいね!」
嫌な励ましだった。
「……お帰りですか?」
奈津が台所から顔を出した。
料理中だったようだ。
「はい。長々とお邪魔してすみませんでした」
チカが頭を下げている。
「せっかくなんで、夕飯食べて行きませんか? そのつもりで多めに作っちゃったんで……」
「えっ、噂のスパダリメシ……っ!?」
余計なことを言うチカの足を踏む。
「噂?」
「ええ、そりゃもう。SNSでも評判なんですよ。夏野先生の弟さんの料理が凄いって」
足を踏んでもノーダメージだったようだ。
涼しい顔してる。
スリッパ出すんじゃなかった。
「はは、なら是非食べてってください。遠慮なくどうぞ」
奈津は笑顔で手招きした。
◆◇◆
「……作りすぎじゃない?」
「考え事しながら料理作ってたら、うっかり」
テーブルいっぱいに、料理が並んでいた。
何かのパーティーですか、みたいな。
やたら手が込んでそうな料理とか。
イタリア料理に混じって、何故か鳳凰の形したニンジンとか飾ってあるし。
何これ中華?
考え事しながら料理できるってのも凄い。
それにしても。
「うわあ、美味しそう……!」
チカも涎を垂らさんばかりだった。
もちろん、僕もだけど。
「あ、待って。カメラ! まだ食べないでね!」
仕事部屋にカメラを取りに走った。
カメラを手に戻ってきたら。
奈津とチカは無言で微笑みあっていた。
何だろう?
「お待たせ。写真撮らせてね」
全体と、一品一品写真を撮ってから。
席について、手を合わせる。
「それじゃ、いただきます!」
……ああ美味しい。
どの料理も絶品すぎる。
美味しいと、つい、無言で貪ってしまうよ。
って。
「……何で2人して僕を見てるの。食べなよ」
孫を見る老人みたいな顔で見るの、やめて欲しい。
チカは同い年だし、奈津は年下なのに。
「くうっ……、これは確かに、完全無欠のスパダリメシ……! 美味しいです……! 夏野先生!」
チカは変な感動の仕方をしている。
◆◇◆
「編集部には、ちゃんとスパダリな弟さんでしたって説明しておきますね!」
「やめてマジでやめて」
残った料理をお土産に、とタッパーに詰めてもらったチカはご機嫌だった。
これから編集部に戻るそうだ。お疲れ様です。
「それでは先生、奈津さんも、ご馳走様でした」
頭を下げて。
「いいえ。お粗末さまでした」
奈津は微妙な顔をしてる。
チカは笑顔のまま、左手を出して。
僕に、自分の結婚指輪を見せた。
チカは去年、大学時代から付き合っていた彼女と結婚したばかりだった。祝電も送った。
え、何?
いきなりリア充自慢?
「おめでとうございます。お祝いは、改めて贈らせてもらいますね」
何でチカが言うの?
って。
……しまった。
奈津からもらった指輪。
外すの忘れてた。
チカが帰った後。
奈津は額に手をやって。
「悪ィ。バレた……。職場の人なのに……」
がっくりしてる。
2人きりになった時、カマをかけられて。
つい、引っ掛かってしまったという。
ああ、それであの、微妙な感じの笑顔に……。
奈津は申し訳ない、と落ち込んでるけど。
僕もうっかりだった。
指輪、もうすっかり指に馴染みすぎてて。
忘れてた。
忘れるほど、当たり前になっちゃってたんだ。
◆◇◆
「近田さん……チカは言いふらしたりしないと思うけど」
「あいつのこと、そんな信頼してんのか?」
奈津は片眉を上げて。
「そりゃ、僕を漫画家にしてくれた恩人だし。いいやつだよ」
「……何かムカつく」
「何で近所の人や商店街の人には言いふらしておいて、チカは駄目なわけ?」
「近所の人たちは、これからもここに住むんだし。先に言っておいたほうが、後でバレるよりダメージが少ないから早めに言っちまった方がいいんだ。差別するやつはするからな。でも、いい人たちばかりだった。昔なじみってのもあるが」
子供の頃から人前でプロポーズしてたもんね……。
出歩いてるのは奈津だけだし、愛想よくしてるし。
2人でイチャイチャして歩いてるわけじゃないし、迷惑もかけてないので、叩かれにくいのもあるそうだ。
「職場の人は、違うだろ。あの人は、特別変な人だったようだが。出版や報道の連中は、話題になりさえすりゃいい思って、あることないこと噂する。弱みになるようなことは極力見せないほうがいい」
奈津は、モデルとかもしてたんだっけ。
暗部も散々見てきたようだ。
そっか。
あれでも結構、色々考えて行動してたんだな。
「ところで。俺は亜樹の手料理、一度も食ったことないのに、何であいつは食ってんの?」
奈津は盛大に拗ねていた。
聞き耳を立てていて。
それで気もそぞろになって。あんな大量の料理を作ってしまったようだ。
何それ。
奈津、可愛すぎる。
0
お気に入りに追加
464
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子と哀れなおっさん辺境伯 恋も人生も二度目なら
音無野ウサギ
BL
ある日おっさん辺境伯ゲオハルトは美貌の第三王子リヒトにぺろりと食べられてしまいました。
しかも貴族たちに濡れ場を聞かれてしまい……
ところが権力者による性的搾取かと思われた出来事には実はもう少し深いわけが……
だって第三王子には前世の記憶があったから!
といった感じの話です。おっさんがグチョグチョにされていても許してくださる方どうぞ。
濡れ場回にはタイトルに※をいれています
おっさん企画を知ってから自分なりのおっさん受けってどんな形かなって考えていて生まれた話です。
この作品はムーンライトノベルズでも公開しています。
それってつまり、うまれたときから愛してるってこと
多賀 はるみ
BL
俺、一ノ瀬 春人(イチノセ ハルト)と四歳年上の兄の柊人(シュウト)は、比較的仲が良かったと思う。
それがいつの頃からか、兄に避けられるようになった。
おそらく、兄の部屋を覗いてしまった、あの夜の後ぐらいからだと思う……
ねぇ、シュウ兄。あんた、俺のことが好きなんじゃないの……?
ガチ兄弟BL 兄✕弟
お疲れ騎士団長の癒やし係
丸井まー(旧:まー)
BL
騎士団長バルナバスは疲れていた。バルナバスは癒やしを求めて、同級生アウレールが経営しているバーへと向かった。
疲れた騎士団長(40)✕ぽよんぽよんのバー店主(40)
※少し久しぶりの3時間タイムトライアル作品です!
お題は『手触り良さそうな柔らかむちむちマッチョ受けかぽよぽよおじさん受けのお話』です。
楽しいお題をくださったTectorum様に捧げます!楽しいお題をありがとうございました!!
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
枯れ果てた心に安らぎの温もりを
路傍 之石
BL
とあるゲームで星を守るための大量虐殺を受注したらクエスト完了と共に、ゲーム内の自キャラになってて爛れた鬱生活を過ごしてたら主人公君と出逢って惚れちゃう話、たぶん。
本編3話完結
書きたいシーンだけ書く蛇足の章追追加中
・【終了】過去が追いかけてくる
タイジュが天上都市クレイスターを撃墜したことがばれる話
・【考え中】(タイトル未定)
バッドエンドルートif
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる