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亜樹:夜空のような

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20年前の約束。
今でも鮮明に覚えている。


あれは、奈津がイタリアに連れて行かれる日の前日だった。

奈津はいつものように、僕のベッドにもぐりこんで。
遠いところに行くなんて嫌だ、と泣いていた。

体温の高い子供。
泣いているせいか、更に熱く感じた。


「あきちゃん、ケッコンして。そうしたら、ずっといっしょにいられるんでしょ?」


僕とずっと一緒にいたいから、離れたくないから結婚しようというのか。
そんな奈津が可愛いと思ったけど。

当時はまだ日本では法的に、男同士での結婚は無理だった。
法改正後の今でも実の兄弟間での結婚なんて認められないだろう。


男同士で、ましてや兄弟でなんて、結婚はできないんだよ。
何度言っても。

奈津は絶対ケッコンするんだ、と言って。きかなかった。
涙で潤む榛色の瞳に、とうとう根負けして。


「20年経っても。相変わらず僕のことが好きだったら、いいよ」
そう言って。

指きりげんまんしたのだった。


20年もの間。
奈津は、今までそれを、ずっと、本気にして。覚えていて。

約束のときが来たから。
それで、日本に帰ってきたのか……?


僕と、”結婚”するために……?


◆◇◆


奈津は、ベッドに横たわる僕を見下ろして。
舌なめずりをしていた。

それは、まるで獲物を前にした肉食獣のように見えた。

しなやかな肉食獣を思わせる、無駄の無い筋肉に覆われた逞しい身体。
獲物を捕らえるのに適した、長く、力強い腕。


僕に抵抗などできないことは、もうわかっている。
さっき、思い知らされた。

ナカでナマ出ししたいからと言われて。
とんでもない場所を洗われた。

必死で逃げようとしたのに。
動けなかった。


考え直せ、と言っても。
聞いてはくれないだろう。

奈津は20年もの間、気持ちを変えなかったのだから。


イタリアでは、とてもモテていたと聞いた。
この容姿だ。イタリアだけじゃなく、日本でだって確実にモテるだろう。老若男女問わず。

それなのに。
こんな、ぽっちゃりで冴えない、35歳のオッサンを。どうして抱こうとなんて思えるのだろうか。理解できない。


「亜樹……」
奈津は、愛おしそうに僕の名を呼ぶ。


そういえば。
今は呼び捨てになっているけど。

いつからだろう?

奈津が、僕を『おにいちゃん』と呼ばなくなったのは。


気が付いたら、呼び方が『あきちゃん』になっていた。
今は、『亜樹』で。


僕の記憶の中の奈津は。
いつでも僕だけを、ずっと見ていた。


◆◇◆


ラブローションとかかれたボトルから、とろっとした液体を出して。

手であたためてから、僕の胸に、マッサージをするように塗りつけた。
体温であたためられたそれは、変な感触だった。


ベッドには、あらかじめ大きめのタオルが敷かれていた。
汚れても、洗えるようにだろう。

準備万端だ。
服を脱いで、無防備な姿になった状態の僕を襲おうと、計画していたのだ。


「っ、」
胸の先は、風呂でのいたずらで少し腫れていた。

そこをまた、ぐりぐりと弄られる。
ローションでぬるぬるするのが何だか変な感じだ。

女の子じゃあるまいし、そんなところを弄られても気持ち良くなるわけがないのに。


ぬるついた指は、そのまま下に降りて行き、僕の性器を弄り、擦った。

認めたくはないが。
自分でするよりもずっと気持ちよかった。

奈津はローションを足して。
睾丸も愛撫された。

むき出しの弱点であるそこを、やわやわと触れられるのが気持ちいいということを初めて知った。


そして、いやらしく動く指は、お尻に狙いを定めた。
さきほど丹念に洗われてしまったせいか、簡単に侵入を許してしまう。

最初は、人差し指。
慣らす指を増やしていって。

自分のものが入るほどここを慣らしたら。
入れるつもりなのだ。

風呂場で目にした、奈津のあの、凶悪に大きいものを。


あんなの、入る訳ないのに。
きっと裂けてしまう。


◆◇◆


ぐちゅぐちゅと、聞くに堪えない水音をさせて。
そこ・・を拡げられていく。

奈津の性器を受け入れられるように。

男同士で。
いや、実の兄弟なのに。

どうしてこんなことをするのか。
何度訊いても、答えは返ってこない。

聞こえるのは、興奮しきった呼吸だけ。


ずるり、と三本の指が引き抜かれて。
奈津は僕の両脚を抱え上げ、そそり立ったものをあてがおうとした。

実の弟に抱かれるのを。
明るい照明の下、見ているのはつらい。


「……電気、消して……」

断られるかと思ったが。
奈津は素直に頷いて、壁のスイッチに手を伸ばした。


天井に、ぼんやりと星が浮かぶ。
蓄光シールの星空。


20年前の、あの夜のように。
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