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おまけ/その後の僕の下僕

僕の就職問題

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「だって、素のままの永遠を、役所になんて行かせたら。役所のアイドルになってしまうじゃないか……!」


「……は?」
「役所ではまず、永遠の争奪戦になり、どの部署に配置されても役所には毎日永遠目当ての利用者が溢れ返り、その対応に追われ、毎日残業で疲れ果ててしまうに決まっている……!」

凄い妄想だ。
いや、僕にそこまでの魅力はないから。

目を覚まして欲しい。

大学で、アイドルみたいな扱いをされていたのは、あくまでもそういう演技をしていたからで。
そういう演技も、もうやめたし。


*****


「社長、それなら我が社の秘書に置いたとしても、同じことになりますが」
板垣さんはフレームレスの眼鏡の位置を直しつつ、冷静に突っ込んだ。

「くっ……、それもそうだった。一体、どうしたらいいのか……、」
真顔で悩んでいる。


何で僕、こんな変人のこと好きになっちゃったのかなあ。

あれ? ただ祈にアタックされて。
その勢いに流されただけなような気が……。

いや、もう考えるのはよそう。


「じゃ、高校までみたいに地味な格好で職場に通おうか? うちでは、祈の好きな格好してるから。それじゃダメ?」


不思議そうに首を傾げている板垣さんに、小中高のアルバムを持ってきて、見せた。
祈まで、前のめりになって見てる。

そういえば高校までは地味だったって話はしたけど、実際に見せたことはなかったっけ。

本ばかり読んでいて、全く身形みなりに構うことがなかった。
それで、地味で暗いオタメガネって呼ばれてたけど。

大学に入ったらイメチェンしようと髪を染めて、コンタクトにしたんだと説明する。
それで、兄や姉が大喜びしてコーディネートしてくれたこととか。


「で、姉さんのアドバイスに従って、そういうキャラを演じてたらに……」


*****


そう。
忘れもしない、一年の時の大学祭。

うっかり周囲に乗せられて。
まるでアイドルみたいにライブをする羽目になったんだ。

あれ以来、またライブをして欲しいとの誘いから全力で逃げている。
あれは我ながら、人生の汚点だ。

でも、それが。
幸か不幸か、祈が僕を見つけるきっかけになったんだけど。


「ああ、あれは初々しさが堪らなかったな……」

しみじみと、ライブのことを思い出しているようだ。
記憶を反芻するのはやめて欲しい。

「もう記憶から消して……」

「大丈夫、ネットに上がっているデータはほぼ消した」
自信満々に祈が親指を立ててみせた。


いや、大丈夫じゃないよ!?

ハッキング……いやこの場合はクラッキングかな? それは犯罪だからね!?
大丈夫なの!? 法学部だろ!

証拠が残らない犯罪は犯罪じゃない、とか言い出しそうで怖い。


見た目を変えて通うのはどうか、という僕の意見に。
いのりはしばらく悩んだ。死ぬか生きるか、みたいな深刻な表情で。

僕の就職、という内容だというのに。


「……パートタイマーではダメかな?」
祈としては、どうしても就職をさせたくないようだ。

「社長、個人的なワガママで永遠とわ様の人生をコントロールするのはいけませんよ。ただでさえ可愛いお嫁さんをもらって家族団らん、慎ましく暮らしたい、というささやかな夢に横やりを入れてぶち壊したんですから」
半眼で、呆れたように言った。

板垣さん、直球すぎる。


*****


「夢……、か」
祈は眉間に皺を寄せて。

卒業アルバムに書かれた”将来の夢”に指を這わせた。
小中高、ずっと同じ内容だ。


「求婚を受けたことを、後悔しているかい?」
僕の手を握って。

真っ直ぐに見つめてきた。

後悔は、まあ。
してないと言ったらアレだけど。


祈の夢は、実家を頼らずに、自立できる力を手に入れて。
立派になったら僕を迎えに行く、だった。

それを目標にして、見事にやり遂げたんだ。


なのに僕は何にもならずに家にいるっていうのは。……何というか、愛人みたいじゃない?
すでに色々貢がれてるし。何度も抱かれといて、今更何だって話だけど。

エッチだって、一方的じゃなくて。
お互い気持ち良くなるなら、抱かれる立場としても対等な関係だと思う。

でも。
抱かれて、ただ一方的にお世話されてるだけじゃ、対等どころかペットみたいなものだ。


結局、男としてのプライドの問題なんだろう。

こっちから、折れるべきかな?
祈はきっと、不安なんだ。僕がはっきり言わないから。


祈の事を、好きだって。


*****


「……祈がどうしても嫌なら、家にいるよ」
それで、安心するなら。

「永遠……、」
ぎゅっと抱き締められる。


「子供みたいに我儘を言って、悪かった……。もう、君の将来のことに反対はしない。官僚だろうが、総理大臣だろうが全力で応援しよう」

「いや、大臣とかなりたくないし。なりたいのは国家公務員じゃなくて、地方公務員だからね!?」
大きな背中をぽんぽんと叩いて。

「祈のこと、ちゃんと好きだよ?」


祈が、息を呑んだのがわかる。
抱き締められる力が、強くなったのも。


「……君を、無理矢理奪ったという自覚はあるんだ」
祈の背中を撫でる。

「そう無理矢理でもなかったけど?」


あの時。
もし抵抗されてもやめられなかったかもしれない、と言われて。

自分でも、何で抵抗しなかったのか不思議だった。


祈の手は、すごく気持ち良くて。
もっと触って欲しい、としか思わなかった。

頭を撫でられるのも気持ち良いし。
人肌の心地好さを知った。

マッサージされて寝ちゃうとか、相当相手を信頼してないとありえない。
快楽に流されたのかもしれないけど。


今は、この手を放したくないと思っている。
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