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祈
ある意味盛大に惚気る
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「君たちがどう思おうが、僕は伊角君の信奉者であり、その美しさをより輝かせたい。彼の奴隷になるのも厭わないと思っている。決して敵ではないと思うがね?」
見目麗しき女性たちから発せられたとは思えない、ギャアア、と、怪鳥のような悲鳴が上がった。
何故、彼女たちはそんなに興奮しているのだろうか。泣いている者までいるが。
「失礼、尊みあまって、萌えすぎたようです」
御崎女史がコホン、と咳払いをした。
何が燃えたのだろうか。とうとみ?
今のは日本語か?
私は異次元に迷い込んでしまったのだろうか。
*****
「最近伊角君がしてる、あの腕時計の出所は、もしかして……?」
貴方が? という視線を向けられた。
「ああ、好みだというのでプレゼントしたんだが。高価すぎてもらえないと言われてしまってね。永久的に貸し出ししている形だ」
傷つけたら嫌だと触ってもらえもしないので、毎朝着けて、帰りに外している、と言うと。
絹を裂くような悲鳴が聞こえたが。もはや気にしないことにする。
その辺の女に取られるよりは、いい男にかっ攫われる方が百倍マシだなどと言っているが。
本気だろうか?
傷つけたくないので、乱暴にかっ攫ったりするつもりはないが。
「一目惚れ? 彼の顔が好きなの? 身体が目当て?」
ずいぶんはっきりと言うものだ。ヤマトナデシコとやらはどこへ行ったのか。
苦笑しながらも、そうではないと答える。
「実は、残念ながら、あちらは覚えていないようだが。彼とは子供の頃に会っていてね。顔が見えない状態で話をして、惹かれた。だから、顔だけではないといえる。勿論、顔だけでなく、何もかも好ましいと思っているけどね」
もう悲鳴はBGMだと思っておこう。
そう、それが私の初恋だ。
悪いか。
大学に入って、運命の出会いをしたのではなく。ずっと探させていて見つかったので、イギリスから追いかけて入学した。と聞いたら、さすがに引かれるだろう。
そこまでは他人に言うつもりもないが。
「……貴方の望みは?」
真顔で訊かれる。
それを受け。
本心を言おうと思った。
「彼のことは、幸せにしたいと思っている」
何やら悲鳴を上げるだけでなく、失神した者も出たようだが。
御崎女史に気にしないように、と言われたので。
その通りにしよう。
*****
無事に放免されることになった。
やれやれ。
人気者を好きになるのも大変だ。
「じゃあ引き続き、頑張ってくださいね……!」
良い笑顔で、親指を立てられた。
「ああ、ありがとう……?」
よくわからないが。
ファンクラブの面々には認められたようで何よりだ。
邪魔をされるようなら、排除一択だが。
女性相手に荒っぽい真似をする訳にもいかない。
端末を見たら、永遠からメールが入っていた。
構内にあるオープンカフェで待っていてくれているという。
先に電車で帰られることも覚悟していたのに。
これは嬉しい誤算だ。
カフェに行くと、遠目からでも永遠がいることがすぐにわかった。
オーラが違う。
永遠の姿だけ、浮き上がって見えるのだ。
私に気づき、手を振ってくれた。
「呼び出し喰らったんだって? どうだった?」
宮島から聞いたようだ。
「いや、引き続き、番犬頑張れと激励されてしまったよ」
おそらく、そういうことだろうと思う。
「どういうこと?」
「こんな怪しげな風体の男が始終付きまとっているのでファンクラブ会員でない野良ファン寄ってこなくなったので助かる、と喜ばれていた」
もう髪も眼鏡も元に戻してあるが。
顔で落とした訳ではない。
*****
「さすがに君の家に泊まっていることまでは知られてなかったと思う」
そう告げると、ほっとしたようだ。
遊澤は腕の良い運転手だ。
東条の仕事をしていると、色々な輩に尾行される。それを撒くのも、仕事のうちである。
学生の尾行くらい、軽いものだろう。
住所を調べてストーキングするほど行儀の悪いファンもいないようだ。私を除いて。
「それがバレてたら、十数人の女生徒から袋叩きにされていたかもしれないな」
あの様子では、それでも喜ばれたかもしれないが。
「そうか。ご苦労だったなポチ」
「ワン」
出された手に、犬のようにお手をしてみせた。
「君になら犬になって、首輪をつけられて飼われてもいい。我ながらいい番犬になると思うがね」
「……二足歩行の犬はノーサンキューだね」
「君が望むなら、四つん這いで歩くが?」
「ヤダ、怖い!」
想像したのか、嫌そうな顔をしている。
ああ、この髪型だと、ホラーめいて見えるか。
それに、特殊な性癖でもない限り、首輪をつけた成人男性を引っ張るのも嫌だろう。
私も一応、立場のある身なので、
できれば野外でのそういったプレイは避けたい。
「百歩譲って、着ぐるみならいいかな」
着ぐるみでなく、永遠の抱き枕になら是非ともなりたいが。
枕だけで我慢できるだろうか。いや、無理に違いない。
「視界が覆われて、君の麗しい顔が見えないのは困る」
できればフィルターなしでいつまでも見ていたい。
どんな表情も、見逃さず。
見目麗しき女性たちから発せられたとは思えない、ギャアア、と、怪鳥のような悲鳴が上がった。
何故、彼女たちはそんなに興奮しているのだろうか。泣いている者までいるが。
「失礼、尊みあまって、萌えすぎたようです」
御崎女史がコホン、と咳払いをした。
何が燃えたのだろうか。とうとみ?
今のは日本語か?
私は異次元に迷い込んでしまったのだろうか。
*****
「最近伊角君がしてる、あの腕時計の出所は、もしかして……?」
貴方が? という視線を向けられた。
「ああ、好みだというのでプレゼントしたんだが。高価すぎてもらえないと言われてしまってね。永久的に貸し出ししている形だ」
傷つけたら嫌だと触ってもらえもしないので、毎朝着けて、帰りに外している、と言うと。
絹を裂くような悲鳴が聞こえたが。もはや気にしないことにする。
その辺の女に取られるよりは、いい男にかっ攫われる方が百倍マシだなどと言っているが。
本気だろうか?
傷つけたくないので、乱暴にかっ攫ったりするつもりはないが。
「一目惚れ? 彼の顔が好きなの? 身体が目当て?」
ずいぶんはっきりと言うものだ。ヤマトナデシコとやらはどこへ行ったのか。
苦笑しながらも、そうではないと答える。
「実は、残念ながら、あちらは覚えていないようだが。彼とは子供の頃に会っていてね。顔が見えない状態で話をして、惹かれた。だから、顔だけではないといえる。勿論、顔だけでなく、何もかも好ましいと思っているけどね」
もう悲鳴はBGMだと思っておこう。
そう、それが私の初恋だ。
悪いか。
大学に入って、運命の出会いをしたのではなく。ずっと探させていて見つかったので、イギリスから追いかけて入学した。と聞いたら、さすがに引かれるだろう。
そこまでは他人に言うつもりもないが。
「……貴方の望みは?」
真顔で訊かれる。
それを受け。
本心を言おうと思った。
「彼のことは、幸せにしたいと思っている」
何やら悲鳴を上げるだけでなく、失神した者も出たようだが。
御崎女史に気にしないように、と言われたので。
その通りにしよう。
*****
無事に放免されることになった。
やれやれ。
人気者を好きになるのも大変だ。
「じゃあ引き続き、頑張ってくださいね……!」
良い笑顔で、親指を立てられた。
「ああ、ありがとう……?」
よくわからないが。
ファンクラブの面々には認められたようで何よりだ。
邪魔をされるようなら、排除一択だが。
女性相手に荒っぽい真似をする訳にもいかない。
端末を見たら、永遠からメールが入っていた。
構内にあるオープンカフェで待っていてくれているという。
先に電車で帰られることも覚悟していたのに。
これは嬉しい誤算だ。
カフェに行くと、遠目からでも永遠がいることがすぐにわかった。
オーラが違う。
永遠の姿だけ、浮き上がって見えるのだ。
私に気づき、手を振ってくれた。
「呼び出し喰らったんだって? どうだった?」
宮島から聞いたようだ。
「いや、引き続き、番犬頑張れと激励されてしまったよ」
おそらく、そういうことだろうと思う。
「どういうこと?」
「こんな怪しげな風体の男が始終付きまとっているのでファンクラブ会員でない野良ファン寄ってこなくなったので助かる、と喜ばれていた」
もう髪も眼鏡も元に戻してあるが。
顔で落とした訳ではない。
*****
「さすがに君の家に泊まっていることまでは知られてなかったと思う」
そう告げると、ほっとしたようだ。
遊澤は腕の良い運転手だ。
東条の仕事をしていると、色々な輩に尾行される。それを撒くのも、仕事のうちである。
学生の尾行くらい、軽いものだろう。
住所を調べてストーキングするほど行儀の悪いファンもいないようだ。私を除いて。
「それがバレてたら、十数人の女生徒から袋叩きにされていたかもしれないな」
あの様子では、それでも喜ばれたかもしれないが。
「そうか。ご苦労だったなポチ」
「ワン」
出された手に、犬のようにお手をしてみせた。
「君になら犬になって、首輪をつけられて飼われてもいい。我ながらいい番犬になると思うがね」
「……二足歩行の犬はノーサンキューだね」
「君が望むなら、四つん這いで歩くが?」
「ヤダ、怖い!」
想像したのか、嫌そうな顔をしている。
ああ、この髪型だと、ホラーめいて見えるか。
それに、特殊な性癖でもない限り、首輪をつけた成人男性を引っ張るのも嫌だろう。
私も一応、立場のある身なので、
できれば野外でのそういったプレイは避けたい。
「百歩譲って、着ぐるみならいいかな」
着ぐるみでなく、永遠の抱き枕になら是非ともなりたいが。
枕だけで我慢できるだろうか。いや、無理に違いない。
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