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祈
永遠FCからの呼び出し
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「……笑うなよ? これでも、将来地方公務員を目指してるんだ」
永遠は、地方公務員を目指してるという。
大学のレヴェルからして、国家公務員も可能だろうに。
笑う訳が無い。
両親や兄が国家公務員で普段家に居ないので、寂しい思いをしたから。
自分は9時5時で帰って、家族サーヴィスをしてやりたいと考えているようだ。
なんと健気なのだろう。
私なら、永遠に寂しい思いはさせない。
*****
「まいったな。ますます君を好きになって、離れがたくなってしまう。こんなに夢中にさせてどうするつもりなんだ」
わざと大袈裟に天を仰いで言った。
「どうするつもりもないよ。来週にはお別れだし」
つん、とすました顔で。
「……相変わらずつれないなあ」
がっくりしたように、両肩を下げてみせる。
大袈裟だというが。
内心は、大袈裟でも何でもなく、本当にしょぼんとしていた。
別れが惜しいのは、私だけなのかと。
……そうか。
もう、五日目になるのか。
毎日が充実していて楽しいと。
時間の過ぎるのが、こんなにも早く感じるものか。
永遠と二人で凝った料理を作り。
とても楽しかった休みが明けて、月曜日。
昼食前に、板垣から二人分の弁当を受け取った帰りに、女生徒から声を掛けられた。
昼食が終わった後、話があるのでクラブ棟へ来るように、と。
*****
それを見ていたらしい宮島が、やたら楽しげにニヤニヤしながら寄って来た。
「とうとうファンクラブのお呼び出しが来ちゃったな?」
「……粛々と、呼び出しに応じるよ」
私が呼び出されるのが、そんなに楽しいのだろうか。
見ていた限り、永遠に話しかける確率が一番高いのは、この宮島なのだが。
彼は呼び出されないのだろうか?
距離の取り方が絶妙なのかもしれない。
私が止めることを前提で、わざと永遠に触れようとするのは良くないが。
軽い冗談のつもりなのだろう。
「ところで今日の高級弁当はどこの牛肉?」
何故、牛肉前提なのか。
確かに今日の昼食のメインは牛肉だが。
餌付けするつもりはなかったのだが。
一切れやってから、懐かれたのだろうか?
「今日は松阪牛だとか言っていた。前のは但馬だったか。有名なのかな?」
「知らない人はいないレベルの高級牛肉だよう!」
ウシとギュウの使い分けなど、日本語は本当に難しい。
生きているのがウシで、加工された肉などになるとギュウと呼ぶらしい。
イギリスでは、乳牛の種類や産地などは細かく訊かれたりするが。
肉の方で訊かれるのは、せいぜい子牛か成牛か、焼き方くらいだったな。
*****
呼び出された時間に、クラブ棟の、”保存されるべき美しさの管理研究部”とやらの扉をノックする。
「さきほど呼ばれた曽根ですが」
研究部と銘打っているが。
実態は永遠のファンクラブだと調べはついている。
「どうぞ、」
の声に。
「失礼?」
中に入ると。
部室いっぱいに女生徒が並んでいた。
皆、一定以上の容姿レベル、美女揃いである。
これは精神の弱い者であれば、恐怖で震えそうだ。女は怖い。
「これはこれは、美しい面々がお揃いで。それで、僕に何かご用でしょうかね?」
「曽根、祈さん? 髪を上げて、顔を見せてちょうだい」
リーダーらしき、綺麗に化粧をした女性が言う。
「断る……と言ったら?」
少々声に圧を掛けてみたら。数人が怯えたようにびくりと身を竦ませた。
それほど気が強いわけでもないのか?
大の男が、かよわき女性をいじめるものじゃないな。
まあいい。口の封じ方ならいくらでもある。
眼鏡を外し、前髪をあげてみせる。
「冗談だよ。……これでいいかな?」
さて、どういった反応をするだろうかと思っていたら。
「やっぱり……!」
「ほら、だから言ったじゃん、絶対イケメンだって!」
「やば、尊い……!」
「まんまエロゲーの主人公じゃん!」
「リアルBLキタコレ」
「美形と美形の奏でるハーモニー……キテル……」
「フルコンボだドン」
何やら理解できない言語が聞こえてきたが。
彼女らの表情からして、どうやらかなり喜ばれているようだとは、理解できた。
*****
かなり風体の怪しい私が永遠にまとわりつくようになって、牽制しているので。
野良ファン……”保存されるべき美しさの管理研究部”に属していない、ルールを守らないファンが近寄らなくなり。
送り迎えもしているため、悪しき痴漢に狙われる危険もなくなった。
そして、あからさまにべたべたもしない。
その辺は好ましいと思っていたようだ。
しかし、一部で見た目の落差を気にする者が居て。危うく部内紛争になりかけたという。
「実は絶対美形だよ派と美女に傅く野獣だよ派が真っ二つに分かれたので、いっそ呼び出して直接確かめてやろうと思ったの」
ファンクラブの部長である、院生の御崎という女性が言った。
噂の男の顔を見るついでに、ファンクラブの存在をアピールし。
必要以上に永遠に近寄らないように牽制するつもりで呼び出した、と。
「なるほど?」
所々、意味がわからない発言があったが。
とにかく、永遠にまとわりついているのがどういう男なのか、直接見て確認したかっただけのようだ。
大きなお世話だと思わなくはないが。
これまで、彼女らによって永遠の学内での平穏が保たれていたのだと思えば、ありがたい存在かもしれない。
永遠は、地方公務員を目指してるという。
大学のレヴェルからして、国家公務員も可能だろうに。
笑う訳が無い。
両親や兄が国家公務員で普段家に居ないので、寂しい思いをしたから。
自分は9時5時で帰って、家族サーヴィスをしてやりたいと考えているようだ。
なんと健気なのだろう。
私なら、永遠に寂しい思いはさせない。
*****
「まいったな。ますます君を好きになって、離れがたくなってしまう。こんなに夢中にさせてどうするつもりなんだ」
わざと大袈裟に天を仰いで言った。
「どうするつもりもないよ。来週にはお別れだし」
つん、とすました顔で。
「……相変わらずつれないなあ」
がっくりしたように、両肩を下げてみせる。
大袈裟だというが。
内心は、大袈裟でも何でもなく、本当にしょぼんとしていた。
別れが惜しいのは、私だけなのかと。
……そうか。
もう、五日目になるのか。
毎日が充実していて楽しいと。
時間の過ぎるのが、こんなにも早く感じるものか。
永遠と二人で凝った料理を作り。
とても楽しかった休みが明けて、月曜日。
昼食前に、板垣から二人分の弁当を受け取った帰りに、女生徒から声を掛けられた。
昼食が終わった後、話があるのでクラブ棟へ来るように、と。
*****
それを見ていたらしい宮島が、やたら楽しげにニヤニヤしながら寄って来た。
「とうとうファンクラブのお呼び出しが来ちゃったな?」
「……粛々と、呼び出しに応じるよ」
私が呼び出されるのが、そんなに楽しいのだろうか。
見ていた限り、永遠に話しかける確率が一番高いのは、この宮島なのだが。
彼は呼び出されないのだろうか?
距離の取り方が絶妙なのかもしれない。
私が止めることを前提で、わざと永遠に触れようとするのは良くないが。
軽い冗談のつもりなのだろう。
「ところで今日の高級弁当はどこの牛肉?」
何故、牛肉前提なのか。
確かに今日の昼食のメインは牛肉だが。
餌付けするつもりはなかったのだが。
一切れやってから、懐かれたのだろうか?
「今日は松阪牛だとか言っていた。前のは但馬だったか。有名なのかな?」
「知らない人はいないレベルの高級牛肉だよう!」
ウシとギュウの使い分けなど、日本語は本当に難しい。
生きているのがウシで、加工された肉などになるとギュウと呼ぶらしい。
イギリスでは、乳牛の種類や産地などは細かく訊かれたりするが。
肉の方で訊かれるのは、せいぜい子牛か成牛か、焼き方くらいだったな。
*****
呼び出された時間に、クラブ棟の、”保存されるべき美しさの管理研究部”とやらの扉をノックする。
「さきほど呼ばれた曽根ですが」
研究部と銘打っているが。
実態は永遠のファンクラブだと調べはついている。
「どうぞ、」
の声に。
「失礼?」
中に入ると。
部室いっぱいに女生徒が並んでいた。
皆、一定以上の容姿レベル、美女揃いである。
これは精神の弱い者であれば、恐怖で震えそうだ。女は怖い。
「これはこれは、美しい面々がお揃いで。それで、僕に何かご用でしょうかね?」
「曽根、祈さん? 髪を上げて、顔を見せてちょうだい」
リーダーらしき、綺麗に化粧をした女性が言う。
「断る……と言ったら?」
少々声に圧を掛けてみたら。数人が怯えたようにびくりと身を竦ませた。
それほど気が強いわけでもないのか?
大の男が、かよわき女性をいじめるものじゃないな。
まあいい。口の封じ方ならいくらでもある。
眼鏡を外し、前髪をあげてみせる。
「冗談だよ。……これでいいかな?」
さて、どういった反応をするだろうかと思っていたら。
「やっぱり……!」
「ほら、だから言ったじゃん、絶対イケメンだって!」
「やば、尊い……!」
「まんまエロゲーの主人公じゃん!」
「リアルBLキタコレ」
「美形と美形の奏でるハーモニー……キテル……」
「フルコンボだドン」
何やら理解できない言語が聞こえてきたが。
彼女らの表情からして、どうやらかなり喜ばれているようだとは、理解できた。
*****
かなり風体の怪しい私が永遠にまとわりつくようになって、牽制しているので。
野良ファン……”保存されるべき美しさの管理研究部”に属していない、ルールを守らないファンが近寄らなくなり。
送り迎えもしているため、悪しき痴漢に狙われる危険もなくなった。
そして、あからさまにべたべたもしない。
その辺は好ましいと思っていたようだ。
しかし、一部で見た目の落差を気にする者が居て。危うく部内紛争になりかけたという。
「実は絶対美形だよ派と美女に傅く野獣だよ派が真っ二つに分かれたので、いっそ呼び出して直接確かめてやろうと思ったの」
ファンクラブの部長である、院生の御崎という女性が言った。
噂の男の顔を見るついでに、ファンクラブの存在をアピールし。
必要以上に永遠に近寄らないように牽制するつもりで呼び出した、と。
「なるほど?」
所々、意味がわからない発言があったが。
とにかく、永遠にまとわりついているのがどういう男なのか、直接見て確認したかっただけのようだ。
大きなお世話だと思わなくはないが。
これまで、彼女らによって永遠の学内での平穏が保たれていたのだと思えば、ありがたい存在かもしれない。
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