33 / 45
祈
永遠FCからの呼び出し
しおりを挟む
「……笑うなよ? これでも、将来地方公務員を目指してるんだ」
永遠は、地方公務員を目指してるという。
大学のレヴェルからして、国家公務員も可能だろうに。
笑う訳が無い。
両親や兄が国家公務員で普段家に居ないので、寂しい思いをしたから。
自分は9時5時で帰って、家族サーヴィスをしてやりたいと考えているようだ。
なんと健気なのだろう。
私なら、永遠に寂しい思いはさせない。
*****
「まいったな。ますます君を好きになって、離れがたくなってしまう。こんなに夢中にさせてどうするつもりなんだ」
わざと大袈裟に天を仰いで言った。
「どうするつもりもないよ。来週にはお別れだし」
つん、とすました顔で。
「……相変わらずつれないなあ」
がっくりしたように、両肩を下げてみせる。
大袈裟だというが。
内心は、大袈裟でも何でもなく、本当にしょぼんとしていた。
別れが惜しいのは、私だけなのかと。
……そうか。
もう、五日目になるのか。
毎日が充実していて楽しいと。
時間の過ぎるのが、こんなにも早く感じるものか。
永遠と二人で凝った料理を作り。
とても楽しかった休みが明けて、月曜日。
昼食前に、板垣から二人分の弁当を受け取った帰りに、女生徒から声を掛けられた。
昼食が終わった後、話があるのでクラブ棟へ来るように、と。
*****
それを見ていたらしい宮島が、やたら楽しげにニヤニヤしながら寄って来た。
「とうとうファンクラブのお呼び出しが来ちゃったな?」
「……粛々と、呼び出しに応じるよ」
私が呼び出されるのが、そんなに楽しいのだろうか。
見ていた限り、永遠に話しかける確率が一番高いのは、この宮島なのだが。
彼は呼び出されないのだろうか?
距離の取り方が絶妙なのかもしれない。
私が止めることを前提で、わざと永遠に触れようとするのは良くないが。
軽い冗談のつもりなのだろう。
「ところで今日の高級弁当はどこの牛肉?」
何故、牛肉前提なのか。
確かに今日の昼食のメインは牛肉だが。
餌付けするつもりはなかったのだが。
一切れやってから、懐かれたのだろうか?
「今日は松阪牛だとか言っていた。前のは但馬だったか。有名なのかな?」
「知らない人はいないレベルの高級牛肉だよう!」
ウシとギュウの使い分けなど、日本語は本当に難しい。
生きているのがウシで、加工された肉などになるとギュウと呼ぶらしい。
イギリスでは、乳牛の種類や産地などは細かく訊かれたりするが。
肉の方で訊かれるのは、せいぜい子牛か成牛か、焼き方くらいだったな。
*****
呼び出された時間に、クラブ棟の、”保存されるべき美しさの管理研究部”とやらの扉をノックする。
「さきほど呼ばれた曽根ですが」
研究部と銘打っているが。
実態は永遠のファンクラブだと調べはついている。
「どうぞ、」
の声に。
「失礼?」
中に入ると。
部室いっぱいに女生徒が並んでいた。
皆、一定以上の容姿レベル、美女揃いである。
これは精神の弱い者であれば、恐怖で震えそうだ。女は怖い。
「これはこれは、美しい面々がお揃いで。それで、僕に何かご用でしょうかね?」
「曽根、祈さん? 髪を上げて、顔を見せてちょうだい」
リーダーらしき、綺麗に化粧をした女性が言う。
「断る……と言ったら?」
少々声に圧を掛けてみたら。数人が怯えたようにびくりと身を竦ませた。
それほど気が強いわけでもないのか?
大の男が、かよわき女性をいじめるものじゃないな。
まあいい。口の封じ方ならいくらでもある。
眼鏡を外し、前髪をあげてみせる。
「冗談だよ。……これでいいかな?」
さて、どういった反応をするだろうかと思っていたら。
「やっぱり……!」
「ほら、だから言ったじゃん、絶対イケメンだって!」
「やば、尊い……!」
「まんまエロゲーの主人公じゃん!」
「リアルBLキタコレ」
「美形と美形の奏でるハーモニー……キテル……」
「フルコンボだドン」
何やら理解できない言語が聞こえてきたが。
彼女らの表情からして、どうやらかなり喜ばれているようだとは、理解できた。
*****
かなり風体の怪しい私が永遠にまとわりつくようになって、牽制しているので。
野良ファン……”保存されるべき美しさの管理研究部”に属していない、ルールを守らないファンが近寄らなくなり。
送り迎えもしているため、悪しき痴漢に狙われる危険もなくなった。
そして、あからさまにべたべたもしない。
その辺は好ましいと思っていたようだ。
しかし、一部で見た目の落差を気にする者が居て。危うく部内紛争になりかけたという。
「実は絶対美形だよ派と美女に傅く野獣だよ派が真っ二つに分かれたので、いっそ呼び出して直接確かめてやろうと思ったの」
ファンクラブの部長である、院生の御崎という女性が言った。
噂の男の顔を見るついでに、ファンクラブの存在をアピールし。
必要以上に永遠に近寄らないように牽制するつもりで呼び出した、と。
「なるほど?」
所々、意味がわからない発言があったが。
とにかく、永遠にまとわりついているのがどういう男なのか、直接見て確認したかっただけのようだ。
大きなお世話だと思わなくはないが。
これまで、彼女らによって永遠の学内での平穏が保たれていたのだと思えば、ありがたい存在かもしれない。
永遠は、地方公務員を目指してるという。
大学のレヴェルからして、国家公務員も可能だろうに。
笑う訳が無い。
両親や兄が国家公務員で普段家に居ないので、寂しい思いをしたから。
自分は9時5時で帰って、家族サーヴィスをしてやりたいと考えているようだ。
なんと健気なのだろう。
私なら、永遠に寂しい思いはさせない。
*****
「まいったな。ますます君を好きになって、離れがたくなってしまう。こんなに夢中にさせてどうするつもりなんだ」
わざと大袈裟に天を仰いで言った。
「どうするつもりもないよ。来週にはお別れだし」
つん、とすました顔で。
「……相変わらずつれないなあ」
がっくりしたように、両肩を下げてみせる。
大袈裟だというが。
内心は、大袈裟でも何でもなく、本当にしょぼんとしていた。
別れが惜しいのは、私だけなのかと。
……そうか。
もう、五日目になるのか。
毎日が充実していて楽しいと。
時間の過ぎるのが、こんなにも早く感じるものか。
永遠と二人で凝った料理を作り。
とても楽しかった休みが明けて、月曜日。
昼食前に、板垣から二人分の弁当を受け取った帰りに、女生徒から声を掛けられた。
昼食が終わった後、話があるのでクラブ棟へ来るように、と。
*****
それを見ていたらしい宮島が、やたら楽しげにニヤニヤしながら寄って来た。
「とうとうファンクラブのお呼び出しが来ちゃったな?」
「……粛々と、呼び出しに応じるよ」
私が呼び出されるのが、そんなに楽しいのだろうか。
見ていた限り、永遠に話しかける確率が一番高いのは、この宮島なのだが。
彼は呼び出されないのだろうか?
距離の取り方が絶妙なのかもしれない。
私が止めることを前提で、わざと永遠に触れようとするのは良くないが。
軽い冗談のつもりなのだろう。
「ところで今日の高級弁当はどこの牛肉?」
何故、牛肉前提なのか。
確かに今日の昼食のメインは牛肉だが。
餌付けするつもりはなかったのだが。
一切れやってから、懐かれたのだろうか?
「今日は松阪牛だとか言っていた。前のは但馬だったか。有名なのかな?」
「知らない人はいないレベルの高級牛肉だよう!」
ウシとギュウの使い分けなど、日本語は本当に難しい。
生きているのがウシで、加工された肉などになるとギュウと呼ぶらしい。
イギリスでは、乳牛の種類や産地などは細かく訊かれたりするが。
肉の方で訊かれるのは、せいぜい子牛か成牛か、焼き方くらいだったな。
*****
呼び出された時間に、クラブ棟の、”保存されるべき美しさの管理研究部”とやらの扉をノックする。
「さきほど呼ばれた曽根ですが」
研究部と銘打っているが。
実態は永遠のファンクラブだと調べはついている。
「どうぞ、」
の声に。
「失礼?」
中に入ると。
部室いっぱいに女生徒が並んでいた。
皆、一定以上の容姿レベル、美女揃いである。
これは精神の弱い者であれば、恐怖で震えそうだ。女は怖い。
「これはこれは、美しい面々がお揃いで。それで、僕に何かご用でしょうかね?」
「曽根、祈さん? 髪を上げて、顔を見せてちょうだい」
リーダーらしき、綺麗に化粧をした女性が言う。
「断る……と言ったら?」
少々声に圧を掛けてみたら。数人が怯えたようにびくりと身を竦ませた。
それほど気が強いわけでもないのか?
大の男が、かよわき女性をいじめるものじゃないな。
まあいい。口の封じ方ならいくらでもある。
眼鏡を外し、前髪をあげてみせる。
「冗談だよ。……これでいいかな?」
さて、どういった反応をするだろうかと思っていたら。
「やっぱり……!」
「ほら、だから言ったじゃん、絶対イケメンだって!」
「やば、尊い……!」
「まんまエロゲーの主人公じゃん!」
「リアルBLキタコレ」
「美形と美形の奏でるハーモニー……キテル……」
「フルコンボだドン」
何やら理解できない言語が聞こえてきたが。
彼女らの表情からして、どうやらかなり喜ばれているようだとは、理解できた。
*****
かなり風体の怪しい私が永遠にまとわりつくようになって、牽制しているので。
野良ファン……”保存されるべき美しさの管理研究部”に属していない、ルールを守らないファンが近寄らなくなり。
送り迎えもしているため、悪しき痴漢に狙われる危険もなくなった。
そして、あからさまにべたべたもしない。
その辺は好ましいと思っていたようだ。
しかし、一部で見た目の落差を気にする者が居て。危うく部内紛争になりかけたという。
「実は絶対美形だよ派と美女に傅く野獣だよ派が真っ二つに分かれたので、いっそ呼び出して直接確かめてやろうと思ったの」
ファンクラブの部長である、院生の御崎という女性が言った。
噂の男の顔を見るついでに、ファンクラブの存在をアピールし。
必要以上に永遠に近寄らないように牽制するつもりで呼び出した、と。
「なるほど?」
所々、意味がわからない発言があったが。
とにかく、永遠にまとわりついているのがどういう男なのか、直接見て確認したかっただけのようだ。
大きなお世話だと思わなくはないが。
これまで、彼女らによって永遠の学内での平穏が保たれていたのだと思えば、ありがたい存在かもしれない。
10
お気に入りに追加
415
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる