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幸せな日々

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永遠の作る夕食は、どんな高級レストランのディナーよりも美味しかった。

私のために食事の支度をしてくれる永遠は、新妻のようでとても愛らしく。
風呂や食事より真っ先に食べたいくらいだった。


マッサージも。
初めは文句を言いながら、気持ち良さそうに受け入れてくれた。

学校とは違う態度を見せてくれるのが嬉しい。


強がって”オレ”と自称する永遠も、それはそれで可愛いのだが。
拗ねたように”僕”と言う永遠は、とてつもなく可愛い。

襲い掛かってしまいたいくらいだった。
鋼の自制心を褒めたいくらいだ。


*****


翌朝は、前日に秘書から受け取っていた材料で朝食を作った。

クスクス入りのコンソメスープは、イギリスの直伝の特製スープだ。
キツネ色のパンケーキや綺麗に焼けたオムレツを見て、永遠は驚いていた。

パンやベーコンを焼くだけの朝食だと思っていたらしい。
本場で鍛えた英国式ブレックファーストを舐めてもらっちゃ困る。


「……美味しい……」
少々悔しそうに言うのも可愛い。

「しばらく朝食は僕が担当しようか?」

「ん、じゃあお願いしちゃおうかな……」
頷いた。

よし。

相手のテリトリーに入るのは、攻略の基本だ。
こうして、じわじわと。

永遠にとって、手放せない存在になればいい。


合コンで、永遠の信奉者ファンであることを宣言し。
翌日から一緒に登下校をし始めて、三日目になる。

そろそろ見慣れたのか、今のところはファンクラブとやらからの呼び出しも来ないし、文句を言われてたりもしていない。
通りすがりに、観察レポート楽しみにしてる、などと声を掛けられる。

観察日記を書いたとしても、私の胸の中に仕舞っておくつもりだ。
素のままの永遠の魅力を他人に教えたくない。

私だけのものにしたいと思っている。


近所のスーパーで一緒に買い物をした時など。
私がそういった場所に入ったことないと思っていたようで驚いていた。

永遠の通う場所をチェックしないはずがないというのに。
下見に何度か来て、価格帯もわかっている。

買い物かごや荷物は、さり気なく私が持った。

その事に、特に違和感もないようで。
着々と私のエスコートに慣れてきたと思われる。


†‡†‡†


土曜日、四日目。

休日の夕食は、時間の掛かる、手の込んだものを作ってみたいというので、喜んで協力した。
やはり一人の食卓では、今まで手間のかかる料理を作る気力はわかなかったようだ。

私が居ることでそういった意欲が刺激されたのなら光栄だ。


せっかくなので、ローストビーフとかも作ってみようと提案したりもした。
スーパーでは売っていないような材料などは取り寄せて。

ネットでレシピを調べて、未知の料理に挑戦するのも楽しかった。


「美味しい。やっぱり手間をかけてじっくり煮込むと、違うんだなあ」
日曜日には、ルーから作ったビーフシチューに舌鼓を打った。

「君の作る料理は何でも美味しいが、普段よりも手間暇と愛情がこもっているから、今日のは格別に美味しいよ」
「手間暇しかかかってないから。愛情は込めてないし」

「つれないなあ」
わざと大袈裟に肩を竦めてみせると。

永遠は、楽しそうに笑った。


楽しく食事するのは、精神衛生上にも良い。

前よりも肌艶が良くなってきた気がする。
勿論、私も。


こうして一緒に食事をとることで、かなり親近感もわいて、距離が縮まったという実感がある。
同じ鍋を囲んだ仲間、と言うが。

親密に過ごせば、多少なりとも情が移るものだ。

電球を替えるのに手が届かない、という永遠の腰を掴んで持ち上げても、普通に礼を言われたくらいだ。


家を出る前に永遠の手首に腕時計をつけ、家に帰ったら外すのも。
風呂の後のマッサージも。

もはや毎日の恒例行事のようになっている。
これは私の役目である。

誰にも譲る気はない。


*****


買ったものを冷蔵庫などに仕舞っている時。

「これはどこに仕舞えばいいのかな」
「ああ、そこの引き出しだよ。……ありがと」

「何というか、伊角君は今時ちゃんとしたご家庭で育った子だと感心するな」
「そうかな? どこが?」


毎朝毎晩律義に挨拶をしたり、食事の度にいただきます、ごちそうさまと言う。
何かすると、その度にお礼を言う。
大学などに送迎をする遊澤にも、毎回頭を下げたりしていた。

慣れればそれが当たり前になってしまうものだ。
感謝の気持ちを忘れない、というのは得難い美徳である。


「でも、何かしてもらったら相手にお礼言うのって当たり前じゃないか」

「そうでもない。してもらって当然、するのは損だという態度の人間は少なからずいるものだ。それに君は親の目が無くても夜遊びをしない。家事もきちんとこなしている。普通、なかなか出来ないことだ」

「だって朝から講義あるし。睡眠時間減るの嫌だし。行きたくて大学入ったのに、さぼるの勿体ない。家事は適当に手抜きもしてるし、好きでやってるから負担に思わないし……」
恥ずかしそうに弁解する。


永遠は、他人からこうして褒められるのには苦手なのだ。

これは毎日褒め殺しして、慣らすべきか。
もっと称賛したい。
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