眼鏡オタクが脱オタ目指してアイドルキャラを演じていたら忠実な下僕が出来ました?

篠崎笙

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一緒に食事を

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「今日は色々緊張したりして、疲れただろう」
などという適当な理由をつけて。

永遠の肩を揉んでやる。

最初の内は緊張していたようだが。
マッサージを施していくと、次第に全身の力を抜いていった。


「ん……、」
気持ち良さそうに、頬を緩めている。

そんな色っぽい声を上げて、気持ち良さそうな声を上げられると。
いかがわしい妄想をしてしまう。

「曽根って、こんなことまで上手なんだ?」
「曽根じゃなくて、いのりだ」

名前で呼んで欲しいと言っているのに。
まだそこまでは気を許してくれている訳ではないのか。


*****


しばらくして。
すやすやと寝息が聞こえた。

完全に眠ってしまっている。
マッサージが心地好くて、寝てしまうほどリラックスしてくれたのは嬉しいが。

もう少し、一人の男として意識して欲しい、と思うのは欲張り過ぎだろうか?


まあいい。
まずは一緒に居て、危険はないと信用されることだ。

「おやすみ、永遠」
うつ伏せていた身体を仰向けにし、上掛けをかけて。

額にキスをして、部屋を出た。


永遠の兄の部屋に行き。
残っていた仕事を片付けてから就寝する。

久しぶりに、よく眠れた。


いつも通り、午前5時に起床。
イギリスと東京の時差は8時間あり、現在イギリスでは昨日の午後10時頃になる。

支社から送られてきた内容をチェックしておく。

一通り、用事を済ませ。
板垣の持って来た服に着替え、階下に降りると。味噌汁のいい匂いが漂ってくる。

永遠が、朝食の用意をしているようだ。

キッチンを覗いて様子を見てみる。
ずいぶん手際がいいものだと感心する。


「本当に家事が出来るんだな。驚いた」

「ひぎゃあ!?」
突然声を掛けてしまったせいか。

永遠はびっくりした猫のように飛び上がった。


「お、おはよ。一応曽根の分も作ったけど、食う?」
まさか私の分も作っていてくれていたとは。

「おはよう。君の愛情がたっぷり詰まった料理だ。ありがたくいただく」

しかし。
「名字ではなくいのり、と呼んで欲しいと言ったはずだが。起きたら記憶がリセットされるのかな?」


「悪いけど、実はそんなに親しくない相手を下の名前で呼ぶようなフレンドリーな性格じゃないんだ」
困ったような顔をしている。

「ああ、何てことだ。つれないな。昨夜はあんなに身体を触れ合わせた仲だというのに」
大袈裟に天を仰いでみせる。

「いいからとっとと食べよう。ご飯が冷める」

永遠は私のリアクションを完全にスルーすることに決めたようだ。
無反応である。


「ああ。運ぶのを手伝おう」
食卓に運びながら、まるで新婚家庭のようだと言うと、顰め面をしてみせた。

可愛いな。


*****


「いただきます」

永遠がそう言って手を合わせるのを見て、それに倣う。
大学ではいただきます、とは言うが。

手までは合わせないのは、目立つからだろう。
いただきます、と言う学生もあまりいない。年寄り臭い行為と思われるのか。


「誰かと朝ご飯食べるの、かなり久しぶりかも……」
永遠は嬉しそうだった。

子供の頃も、家族とゆっくり朝食を摂ることが少なかったようだ。

私も、日本では一人で食事をするのが当たり前だったが。
イギリスでは、ホストファミリーに囲まれて大勢で食事をしていた。

それで、一人きりの食事が味気ないものだと知った。


成程、永遠は、寂しい思いをしているのだ。
ズルい男だと我ながら思うが。

そこに付け入らせてもらうか。


「明日の朝は僕が作ろうか。洋食になるが」
「え、料理できるの!?」

永遠は、目をまんまるくして驚いている。

運転手を使い、板垣に着替えを持ってこさせたりしているので。
上げ膳据え膳の生活をしているように見えるのだろう。

人を使うことで雇用を生み。
賃金を払い、社会を回すのが上に立つ者の義務なのだが。


*****


「朝食なら得意だ」
頷いてみせる。

飯がまずいことで有名なイギリスだが。
唯一自慢できるのが、イングリッシュブレックファーストである。

とはいえ私は生粋のイギリス人ではないので。
朝食以外も普通に作れるのだが。

欠点の一つも作っておくのが愛嬌というものだ。


「じゃあ、お願いしちゃおうかな?」
上目遣いで言った。可愛い。

「任せなさい」
大仰に胸板を叩いてみせた。


「美味しかったよ。ごちそうさま」

朝食は、どれも本当に美味しかった。
愛しい永遠が作ったから、というだけでなく。

お世辞抜きに料理上手だと思う。


「お粗末様でした」
ごちそうさま、に対し、永遠はごく日本風に返礼したが。

「日本の挨拶は謙虚というか、卑下し過ぎだと思う」

常々思っているのだが。
ご馳走様、に対しお粗末様、という返事はいかがなものか。


「つまらないものですが、って手土産を渡すのとか? 正直言って、つまらないものならいらないよね。でももうそれが様式美っていうか。作法みたいなもんだからなあ」
永遠も疑問には思っているようだ。

「あまりに自己主張が激しすぎると辟易するが、日本人はもっと自分に自信を持つべきだ」


アメリカ人や中国人などと会話していると、うんざりする。
それゆえ日本人の謙虚さが好ましく思えるのだが。

そのせいで一方的に食い物にされてしまわないか、心配だ。
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