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祈
初めてのデート
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次は美容サロンへ連れて行き、髪の色と髪型を少し整えてもらう。
時々、鏡越しに永遠と目が合った。
そんな不安そうな顔をして何度も見なくとも、君を置いていなくなったりしないというのに。
更に美しく仕上がった私の永遠を連れ、ホテルへ向かう。
永遠の美しさで注目を集めてしまうだろうと思い、気を遣わせないように個室を取ったのだが。
ウエイターの視線は、永遠に釘付けだった。永遠は美しい。つい見てしまうのは当然なのだが。
給仕が客を不躾に観察するものではない。
オーナーに従業員の教育について、厳しく言っておかねば。
永遠は洋食のマナーも身に着けているようだ。
ホテルのレストランも、初めてではないのだろう。
家族に連れられてきたのならばいいが。
他の誰かに貢がれていたら、と思うと。
胸がキリキリ痛む。
これが、嫉妬という気持ちなのだろう。
初めてのデートだというのに、嫉妬で気もそぞろになっている。
いっそ、閉じ込めてしまいたいと。
*****
「今日は食事とか色々ありがとう。でも、これってオレを傍で観察するために、一緒にいることに対してのお礼、ってやつなんだよな? だとしたら、少しもお礼になってないから」
食事を終え、永遠を家まで送り届けた時。
心底困ったように言われてしまった。
「……迷惑だったか? しかし、ファッション誌を見ながらああいう服や時計が欲しいと言っていた筈では?」
「他人から貰いたいんじゃなくて、いつか自分で働いて手に入れたいって意味で言ったんだ」
通常は、欲しいものが楽して手に入った方が、嬉しいのでは?
それに。
「他の連中からは飲み物や菓子など当然のように受け取っていたじゃないか」
「それは、ギブアンドテイクってやつだよ。決して高額なものじゃないし。常識の範囲内でしか貰ってない」
皆、冗談で貢ぎ物、などと言っていたが。
それは合コンに顔を出したり、女の子を紹介したりすることに対してのお礼だったのだという。
「たまに学生では少々手の届きにくい服を着ていたが?」
「良く気付いたなあ。あれは、宇宙兄さん……実の兄からの入学祝いなんだ」
ああ、裁判官だとか聞いたな。
顔立ちも整っていて、洒落者だと評判らしい。
ご両親もそうだが、転勤の多い職業だ。たまに会う末っ子が、可愛くて仕方ないのだろう。
私も可愛がりたいというのに。
「たかが観察するくらいで、こんなお礼は分不相応だ。あんな大金を使うなんて勿体なさすぎる」
「いや、僕にとっては相応どころか、まだ足りないくらいだ。君の傍に置いてもらうためには」
永遠は、自分の価値をわかっていないのか。
学校での振る舞いとは全く違う。
「それに、接待して連れまわすんじゃなくて、普段の自然な行動を見てないと、行動観察ってやつにならないんじゃないの?」
普段の自然な振舞いか。
それも見てみたい。
「普段の生活も見てみたいが。君の美貌に相応しい場所で、相応しい恰好をしてもらい、それを愛でたい気持ちもある」
永遠は、磨けば磨いただけ光る、希少な宝石なのだから。
*****
永遠は、しばらく悩んだ様子で。
「……観察で得た情報を、他言したりしない?」
「勿論だ。何なら一筆書こう」
頷いてみせると。
「じゃあもう家の中入っていいから、好きなだけ観察したらいい。どうぞ」
と言って家に招かれ。
リビングに案内されたのだった。
ここには今朝お邪魔したばかりだが。
今は状況が違う。
永遠と、ひとつ屋根の下、二人きりである。
永遠は私が自分に想いを寄せている、いわばストーカーであることを知っているはずなのに。
夜になって、狼を招くとは。
無防備すぎやしないか?
確かにゲイではない、と言った。
私は決して男が好きなわけではない。
私が興味があるのは、この世で唯一、永遠だというだけだ。
*****
「あ、そうだ。これ、外してくれない?」
永遠はこちらに左腕を差し出した。
今朝、私が贈った腕時計だ。
革を傷つけるのが怖くて、自分では外せないのだと言う。
「仰せのままに」
恭しく礼をしてみせて、腕時計を外すと。
彼はやっと重荷から解放された、というように、手を振った。
「これは君の華奢な腕には重かったか。明日は軽めのを用意しよう」
「だからいいってば! これ以上、お金使うの禁止!」
慌てている。
本当に要らないようだ。
そう言われても。
「しかし、もうすでにテーラーに注文した服は君に受け取ってもらわないと困るんだが。僕には着られないし」
「……それは、しょうがないか……。ありがたくいただきます……」
困った顔で。
深々と頭を下げた。
私が勝手に贈るのだから、そんな律義に礼を言わなくともいいのだが。
姉は嫁いで、兄も遠方に転勤。
ご両親も異動、転勤が多く家を留守がちなのは聞いたが。
今朝のように不意に鉢合わせすると気まずいので。年の為、確認しておこう。
「家族の方は、お帰りは遅いのかな? お邪魔するのは想定外だったのでご挨拶の品を用意していなかった」
秘書に連絡し、手土産を取り寄せようとしたのを引き留められる。
「ちょっと待った、居ないから!」
少なくとも、ここ一週間は戻る予定はないらしい。
それは好都合だ。
時々、鏡越しに永遠と目が合った。
そんな不安そうな顔をして何度も見なくとも、君を置いていなくなったりしないというのに。
更に美しく仕上がった私の永遠を連れ、ホテルへ向かう。
永遠の美しさで注目を集めてしまうだろうと思い、気を遣わせないように個室を取ったのだが。
ウエイターの視線は、永遠に釘付けだった。永遠は美しい。つい見てしまうのは当然なのだが。
給仕が客を不躾に観察するものではない。
オーナーに従業員の教育について、厳しく言っておかねば。
永遠は洋食のマナーも身に着けているようだ。
ホテルのレストランも、初めてではないのだろう。
家族に連れられてきたのならばいいが。
他の誰かに貢がれていたら、と思うと。
胸がキリキリ痛む。
これが、嫉妬という気持ちなのだろう。
初めてのデートだというのに、嫉妬で気もそぞろになっている。
いっそ、閉じ込めてしまいたいと。
*****
「今日は食事とか色々ありがとう。でも、これってオレを傍で観察するために、一緒にいることに対してのお礼、ってやつなんだよな? だとしたら、少しもお礼になってないから」
食事を終え、永遠を家まで送り届けた時。
心底困ったように言われてしまった。
「……迷惑だったか? しかし、ファッション誌を見ながらああいう服や時計が欲しいと言っていた筈では?」
「他人から貰いたいんじゃなくて、いつか自分で働いて手に入れたいって意味で言ったんだ」
通常は、欲しいものが楽して手に入った方が、嬉しいのでは?
それに。
「他の連中からは飲み物や菓子など当然のように受け取っていたじゃないか」
「それは、ギブアンドテイクってやつだよ。決して高額なものじゃないし。常識の範囲内でしか貰ってない」
皆、冗談で貢ぎ物、などと言っていたが。
それは合コンに顔を出したり、女の子を紹介したりすることに対してのお礼だったのだという。
「たまに学生では少々手の届きにくい服を着ていたが?」
「良く気付いたなあ。あれは、宇宙兄さん……実の兄からの入学祝いなんだ」
ああ、裁判官だとか聞いたな。
顔立ちも整っていて、洒落者だと評判らしい。
ご両親もそうだが、転勤の多い職業だ。たまに会う末っ子が、可愛くて仕方ないのだろう。
私も可愛がりたいというのに。
「たかが観察するくらいで、こんなお礼は分不相応だ。あんな大金を使うなんて勿体なさすぎる」
「いや、僕にとっては相応どころか、まだ足りないくらいだ。君の傍に置いてもらうためには」
永遠は、自分の価値をわかっていないのか。
学校での振る舞いとは全く違う。
「それに、接待して連れまわすんじゃなくて、普段の自然な行動を見てないと、行動観察ってやつにならないんじゃないの?」
普段の自然な振舞いか。
それも見てみたい。
「普段の生活も見てみたいが。君の美貌に相応しい場所で、相応しい恰好をしてもらい、それを愛でたい気持ちもある」
永遠は、磨けば磨いただけ光る、希少な宝石なのだから。
*****
永遠は、しばらく悩んだ様子で。
「……観察で得た情報を、他言したりしない?」
「勿論だ。何なら一筆書こう」
頷いてみせると。
「じゃあもう家の中入っていいから、好きなだけ観察したらいい。どうぞ」
と言って家に招かれ。
リビングに案内されたのだった。
ここには今朝お邪魔したばかりだが。
今は状況が違う。
永遠と、ひとつ屋根の下、二人きりである。
永遠は私が自分に想いを寄せている、いわばストーカーであることを知っているはずなのに。
夜になって、狼を招くとは。
無防備すぎやしないか?
確かにゲイではない、と言った。
私は決して男が好きなわけではない。
私が興味があるのは、この世で唯一、永遠だというだけだ。
*****
「あ、そうだ。これ、外してくれない?」
永遠はこちらに左腕を差し出した。
今朝、私が贈った腕時計だ。
革を傷つけるのが怖くて、自分では外せないのだと言う。
「仰せのままに」
恭しく礼をしてみせて、腕時計を外すと。
彼はやっと重荷から解放された、というように、手を振った。
「これは君の華奢な腕には重かったか。明日は軽めのを用意しよう」
「だからいいってば! これ以上、お金使うの禁止!」
慌てている。
本当に要らないようだ。
そう言われても。
「しかし、もうすでにテーラーに注文した服は君に受け取ってもらわないと困るんだが。僕には着られないし」
「……それは、しょうがないか……。ありがたくいただきます……」
困った顔で。
深々と頭を下げた。
私が勝手に贈るのだから、そんな律義に礼を言わなくともいいのだが。
姉は嫁いで、兄も遠方に転勤。
ご両親も異動、転勤が多く家を留守がちなのは聞いたが。
今朝のように不意に鉢合わせすると気まずいので。年の為、確認しておこう。
「家族の方は、お帰りは遅いのかな? お邪魔するのは想定外だったのでご挨拶の品を用意していなかった」
秘書に連絡し、手土産を取り寄せようとしたのを引き留められる。
「ちょっと待った、居ないから!」
少なくとも、ここ一週間は戻る予定はないらしい。
それは好都合だ。
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