眼鏡オタクが脱オタ目指してアイドルキャラを演じていたら忠実な下僕が出来ました?

篠崎笙

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可愛いあの子に貢ぎたい

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一年の内は一般教養で、専門教科を習得するのは二年からだという。

教科書を見ても、高校で終わらせていい内容に思えるが。
まあ一度読めばあの程度の内容なら記憶できるので、どうでもいい。

最低限の単位は取り、余った時間はあの子と同じ講義に聴講生として参加することにした。
どの講義を受けるのかは調査済みである。


あの子の隣の、ひとつあけた席に座る。
さすがにすぐ隣だと、いくら前髪などで隠そうが、観察しているのがバレるだろうし、このくらいの距離の方が見やすいのである。

毎朝遅刻もせず、真面目に講義を受けている。
アイドルのように髪型を決め、清潔そうなイメージを受ける格好をしている。着ている服は若者向けのブランドだ。
チープではなく、高額すぎもしない。アルバイトでもしていれば手が届く範囲の。

綺麗な横顔を眺め。
タブレットでも出来る仕事をこなしつつ、大学に通い。大学からまた会社へ行き、仕事をする毎日。


大変ではあったが、あの子の顔を見るだけでその苦労は吹っ飛んだ。


*****


「伊角様、約束の貢ぎ物でございます」
ははー、と芝居がかった仕草で、男が何かを渡していた。

「苦しゅうない。あ、これ食べたかったんだ。ありがとー」
あの子は、当然のようにそれを受け取っている。


時々、学生では手の届きにくいブランドの服を着ているようだが。
あれも誰かからの貢ぎ物だったのだろうか?

女性からもよく昼食などを差し出されているようだ。
毎朝囲まれている。

あたかも大学のアイドルのようである。いや、扱いはアイドルそのものだ。

同学年だけでなく、下級生や上級生、院生やOBやOG、講師や教授からまでも人気があるようだ。
それも、悪い噂は一切出ない。あれだけ派手に女性から囲まれて、注目を集めているというのに、誰からも悪く言われないとは。

出る杭は打たれ、目立つものは叩かれる日本で、だ。
信じられない。


……私も貢ぎたい。

私の買ったものを身につけて。用意したものを食べてもらう。
そうしたら、全身、私のものになったように感じられるだろう。


*****


しばらくして。
あの子が宮島という男から合コンに誘われ、承諾する現場に立ち会った。


後で宮島を追いかけ、その合コンに参加したいと頼んだ。
地味に変装した姿を上から下まで眺め見て、当然ながら渋られたが。

料金を多めに払うことで、やっと承諾した。


隣の席に半ば無理矢理割り込み。
直接話をして。

周囲に軽く見せているのとは違い、内面はきちんとした子なのだと確信し、ますます好きになった。

私なら、君の望みを何だって叶えてやれる。
傍に居て、私を見て欲しい。


そうして私は、あの子……永遠の下僕になる権利を得たのである。


*****


車の中で、永遠に素顔を見られてしまったが。

どうやらこちらの顔は覚えてないようだった。
当時彼は怪我により、熱に侵されていたのだから。それも仕方ないのかもしれない。

しかし、少々気落ちしたのは否めない。


私が何故、顔を隠しているのかは聞かれなかった。
私に興味が無いだけか、気を遣って、あえて聞かないのか。案外、どちらもなのかもしれない。

元々、彼は料金の支払いを免除されていた。なのでわざわざ礼を言わなくてもいいのに、礼を言った。車で送ったことにも。
義理堅い性格なのだろう。


永遠を自宅まで送った帰り。
私は彼の心を絶対に手に入れると決心した。

傍にいることが当たり前な存在になって、必要とされたかった。


来週には自社ビルが完成し、忙しくなる。
それまでに、どうにか好かれないといけない。

彼が欲しがっていたものは、前々から調査させていた。
まずは贈り物で射止めるか。


*****


翌日。
寝起き姿でもお目にかかれないかと、少々早めに迎えに行った。

しかし、応対したのは彼の母親だった。
ご両親とも転勤が多い仕事で、自宅にはあまりいないという報告だったが。

急ぎ身形を整え。
あまりに痴漢被害がひどく、心配なので送迎する約束をしたのだとご挨拶をしたら、是非とも上がって待ってて欲しいと乞われ、お宅にお邪魔することになった。


家族がご在宅と知っていれば、手土産の一つも持って来たのだが。
秘書に連絡し、持ってこさせようかと思っていたら、もう出なくてはいけない時間だそうで。
キッチンに朝食の用意がしてあると伝言して欲しい、と頼まれ、快諾する。

お急ぎならお構いなく、と言ったのだが。
彼女は私にコーヒーを出してくれた時も、私の顔に釘付けになっていた。気に入られたようで幸いである。
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、との故事もある。


「了解しました。それと、ご子息を無事大学まで送り届けることを約束します」

「ありがとう。お願いね」
とリビングから出て行った。


階段を降りる音と、話し声が聞こえた。
丁度起きてきたようだ。

永遠は私が来ていることを母親から聞いたようで、こちらを覗き込んだ。

刹那。
思わずごくり、と唾を呑み込んだ。


彼はなんと、下着一枚という姿だったのだ。


湯上りらしく、ほのかに上気した肌。
淡い色の乳首も、ほっそりとした脚も丸見えである。

まだ目が覚めていないような様子で。
ぼんやりしているのも可愛らしい。


「おはよう。さっそく君の寝起きの姿が見られるとは僥倖だ。しかし、朝には大胆過ぎるな」
内心の動揺を隠しつつ、苦笑してみせると。

「にぎゃぁぁぁ~~~~~!?」

永遠は真っ赤になってリビングを出て行き。
階段を駆け上がる音がした。


男同士だというのに、あんなに恥じらうとは驚いたが。
普段は服装も髪型も完璧に決めた姿しか他人に見せないからだろうか。

これは得をした。
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