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永遠

君は僕の忠実なしもべ

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水曜日の朝。
大学まで普通に送迎されてしまって。

運転手の遊澤さんという人は、以前僕を病院まで乗せてくれた人だと知った。

運んでくれたのは、ボディーガードの一人らしいんだけど。東条を見失ってしまったことで、危うくクビになりそうだったのを説得して首を繋いで。その恩があるとかで、遊澤さんは東条が帰国してからグループを辞めて東条専用の運転手になったそうだ。


着替えを持って来た板垣さんは使用人じゃなく、第一秘書だった。
今日は助手席に乗っていた。

秘書を使い走りにするなと言いたい。職権乱用じゃないのか。


いい加減、さすがに会社に顔を出さないといけないらしく、僕を大学まで送り届けたら、そのまま出社するんだそうだ。
ああ、だからスーツ姿なんだ。

髪も上げていて、立派な社長さんに見える。


*****


「今日は、自分の家に帰るの?」

「残念だが、約束だからね」
肩を竦めて言った。

そっか。
あれからもう、一週間経ったんだしな……。あっという間だったな。


「……母さんが、兄さんの部屋空いてるから、使ってもらえばって言ってた」
「いいの? 君のうちは居心地が良すぎて、定住してしまうよ?」

「ぼ、僕の下僕って言うなら、近くにいて貰わないと、駄目だし、」
気恥ずかしさに、目が泳いでしまう。


「そうだね」
東条は僕の手を取って。手の甲にキスをした。

「どうしよう。この手を放したくない……。永遠、今日は大学休んで家でイチャイチャしないか?」

「……社長……」
板垣さんの心底呆れた声が聞こえた。


「僕は真面目に仕事をする人が好きだな」

「つれないなあ」
大学の裏門に着いたので、手を離した。


昼ご飯に、と、風呂敷包みを渡される。これも、秘書の板垣さんが、料亭から持ってきてくれたものらしい。
ありがとうございます、と頭を下げると。笑いながら、仕事ですから、と言った。

「じゃ、行ってきます。遊澤さんも、いつもありがとうございます」
「ああ。行ってらっしゃい」

「手堅い地方公務員志望だったのを、いのりの嫁に永久就職させるんだから。しっかり働いてしっかり稼ぎなよ? ダーリン」
車を降りがてら、冗談めかして言ってやったら。

「!?」
手を引かれて。掠めるようなキスをされた。


「ハニーの幸せな結婚生活のために、頑張ってくるよ。一生、君の下僕を務めたいからね」
そう言って。華麗なウインクをして。
車は走り去っていった。


……外国育ちの紳士に、付け焼き刃のご主人様キャラで勝てる訳がなかった。


*****


「……見ちゃった」

「ひっ!?」
振り向けば、宮島がニヤニヤして街路樹の後ろから顔を出していた。


「超絶イケメンな社長さんっぽい人から送迎されるとか。やるじゃんイスミン。パトロン?」

「いや、下僕だけど?」

「……ソウナンダ……」
棒読みだった。


「あれ? いつも一緒にいるポチは? 置いてけぼり?」
東条……曽根の姿を探している。

「今日は休みだって」

「休んでるうちにご主人様掻っ攫われるとは。憐れ」
同一人物なんだけどね。


「オレさ、アイドルキャラやめるわ。今後合コンや飲み会にも参加しないからよろしく」

不特定多数の人達からちやほやされるのも、悪い気分じゃなかったけど。
無理をして皆から好かれようとするのは疲れるし。

好かれても。
それは、演技した自分でしかない。

それよりも。
ただ一人からの視線を受けていればそれで充分だと思う。


「えっ!? アイドルやめて、普通の男の子になっちゃうの!?」
「いや、立派なご主人様になる」

「はい、仕えたいです!」
宮島はシュバっと速攻で手を挙げた。

いや、手を挙げられても。


「もう枠は埋まってるから」
「えー、じゃあ友人その一で我慢する」

笑いながら校舎に向かう。


*****


「あ、祈からラインだ」

早く会いたいって?
さっき別れたばかりなのに。


「イノリ?」
「曽根の名前。今日休みだから、早く会いたいってさ」

「ポチは相変わらずだな! っていうか俺もイスミンから名前で呼ばれたい~!」
「それ、下僕の特権だから」


「伊角君おはよ。あれ? 番犬くん、今日はいないの?」
女の子から声を掛けられた。

きょろきょろしてる。
もうすっかり、二人でセットみたいに思われてるようだ。


大学を卒業して。
地味な曽根が、あの東条グループの御曹司で、独立した会社の社長だって知ったら。

皆、どんな反応をするだろう。

騙されたって怒ったり、驚いたり。
手のひらを反して態度を変えたりするかな?


それまでに、自分磨きを頑張って。
東条を下僕にするのに相応しいご主人様にならないとね。




おわり
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