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永遠

ストーカー、人気者の秘密について語る

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「美味しかったよ。ごちそうさま」
「お粗末様でした」

曽根は、朝からご飯を3杯もおかわりする食べっぷりだった。
箸遣いは上品で。魚を綺麗に食べてたのは意外だ。

日本食のマナーも完璧なのかな?


「日本の挨拶は謙虚というか、卑下し過ぎだと思う」
食器を片付けながら、曽根はしみじみと言った。

ごちそうさまに対してお粗末様、という返事に関しての感想のようだ。

「つまらないものですが、って手土産を渡すのとか? 正直言って、つまらないものならいらないよね」
でも、もうそれが様式美っていうか。決まりきった作法みたいなもんだからなあ。

「あまりに自己主張が激しすぎると辟易するが、日本人はもっと自分に自信を持つべきだ」


ん? 僕に言ってるのかな?
ある程度、自分の顔に自信が無ければ、アイドルみたいな演技は出来ないよ?


*****


「日本じゃ出る杭は打たれるっていうか、目立つことをする人が謙虚にしてないで調子に乗ってると、妬まれたり、色々な人からとやかく言われるからね」

「そこだ」
ん? どこ?

「君は賢く、容姿も際立って美しい。大学でも有名で、スカウトや取材の申し込みも絶えないという。なのに、男女問わず人気があり、君のことを悪く言う者が存在しないのは何故だろう?」
真面目な顔をして、悩んでいる。

ああ、それで観察したいって話になったんだっけ?

何で悪く言う人がいないのかって? そんなの、僕にだってわかんないよ。
表立って言わないだけで、陰でこそこそ言われてるんじゃない?


「こうしてほぼ一日共に過ごしても、欠点が目に付くどころか美点ばかりが増えていき、どんどん好きになってしまう」
それは、目が曇り過ぎじゃないかな!?

「正直に言うと、姉さんが指示したキャラクター設定が上手くはまったからだと思うけど……」

高校までは読書が好きで、地味ダサ眼鏡でオタク呼ばわりされてたのを、大学入学を機にイメチェンしたんだと話した。

「本来のは、親譲りのこの顔以外、特別に優れたところはない凡人だ。大学でアイドルみたいにもてはやされてるのは、好かれる人物を演じてるから。それだけだよ」


「はっ、」
え、鼻で笑った!?

「何を馬鹿な。演技だけで皆に好かれるなら、役者にはアンチなど存在しなくなる」

う。
そう言われれば、そうかも……?


「今、君の話を聞いて確信した。君はサーヴィス精神が豊富なんだ。相手の望むように振舞おうと努力し、最大限気を遣っている。奢りなどなく、優しくて愛らしい心根がにじみ出ているから、皆が君を好きになる」

「えええ。そんなことないって。そんないいもんじゃないよ。買い被り過ぎだよ」


そういうところも奥ゆかしい、とか言われたけど。
それ、男に使う言葉じゃなくない?


*****


曽根が言うには。

僕は心優しくサービス精神が豊富で。相手の望むことを演じてあげているため、男女問わずから好かれている、という結論に至ったようだ。
僕的には納得いかないけど。


「じゃ、疑問が解消したなら、もう観察やめる?」

「とんでもない。期間ギリギリまで見させてもらいたい」
可能なら、それ以降もお願いしたい、とか言ってる。

「一週間って期間を区切ったんだから、約束は守らないと」

「つれないね。……振り向かせようにも贈り物も豪華なディナーも効果がないとは。こんな無欲な人は初めてだ」
感心してるみたいだ。


でも。
僕はそんなに聖人じゃない。

物欲だって普通にある。今まで話をしたこがなく、親しくもない相手から高価な贈り物をもらっても、ただ怖いだけだし。
要求と報酬が釣り合ってないのが一番困る。フェアじゃなくなっちゃう。
僕と一緒にいることに、そんな価値なんて無いだろうに。

他の学友は、その辺のラインをちゃんと心得て、相応のお礼をしてくれてるけど。


もしかして、このお坊ちゃまには、まともな金銭感覚を持った友人がいないのかな?
友人がみんなセレブか、全くいないかのどっちかだと思う。

少なくとも、大学にはいないって確信する。わざわざ変装してるわけだし。
大学でも、親しい相手を作るのを避けていたんだろう。


僕がうっかり素顔を見ちゃわなかったら、僕にも隠すつもりだったってことだよな?

もしかして。
ここまで接近して。泊まることにまで発展しちゃったのは、僕のせいだったり?

やっかまれたくないから顔を隠してるだけにしては、徹底し過ぎな気がする。
他に顔を隠したい理由があるとか?

あれだけ大金持ちなら、名前で検索すれば引っかかる可能性もあるけど。
本人が隠してるのを、勝手に調べるのは良くないよな。


実は大物893とか。
アンダーグラウンドな家系の人だったりして。


*****


「一緒に歩いてたら、暗殺者から命を狙われたり、鉄砲玉に撃たれたりしないよね?」

「……何を考えたのかは何となく予想がつくが。そういった、命の危険が訪れる可能性は限りなく低いな」
苦笑されてしまった。

少なくとも、曽根の家業はアンダーグラウンド関係ではないようだ。
ほっとした。


「おや、僕のことに少しは興味を持ってくれたということかな? 知りたければ、何でも教えるが」
何だか嬉しそうに言われて。

「いや、別にいい」


名前と顔、実家がどんでもない金持ちらしいこと以外はほぼ謎な、この男の正体が。
多少、気にならないわけでもないけど。

素っ気なく、興味ないふりをしてしまった。
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