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永遠

ストーカーのバスローブの下

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み、見ちゃった……。

いや、男の裸なんか銭湯行ったり、修学旅行とかでも見たけど。
自分でも、見慣れてるはずなんだけど。

何だかやたらに動揺してしまったのは、周囲にはちょっといないくらい、立派な身体だったからだろう。すごい良い身体してた。
着やせするタイプなんだろうな。インドア派みたいに見えるのに、鍛えてるんだろう。大胸筋も立派で、腹筋割れてて。

も。すごかった。

通常時であの大きさってことは。臨戦時はどれだけ……。
と、己の股間を見下ろして。悲しい気持ちになる。

あの肉体美に比べたら、僕なんか貧弱だし。
長年の引きこもり、もといインドア生活により色は白いし。取柄といったら、顔くらいで。

曽根の奴。
顔も身体も完璧なくせに。


僕の何に憧れてるっていうんだよ!?


*****


曽根がバスローブを羽織って脱衣所から出て来たので。
入れ替わるように脱衣所に飛び込んだ。

「あ、喉乾いたら、冷蔵庫に入ってるお茶とか適当に飲んでていいから!」
「ああ、ありがとう」


脱衣所で。
曽根に買ってもらった……いや、貸し出された服を脱ぐ。

この服、手洗いしたらまずいかな? クリーニングに出すべきか。
でも、ブラウスとかボタンが繊細だし。安いクリーニング店に出したら割れちゃうだろうな。

後で聞いてみるか。

あれ? よく見れば、このカフス。もしかして宝石では……?
…………深く考えるのはやめだ。

次の機会にでも曽根の着替えに忍び込ませて、そっと返品しよう。
そうすればいいだけの話じゃないか。

クリーニングに出すことを考えて、服はきちんと畳んで籠に入れた。
下着は洗濯機に放り込む。


風呂には入浴剤を入れて、ゆったりと湯船に浸かった。
……はあ、生き返る。


あたたまって。
そろそろ身体でも洗おうかと思ったら。

「背中でも流そうか?」
浴室の扉の向こうから曽根の声がして。

咄嗟に湯船に飛び込んだ。
曇りガラスの向こうに、大柄なシルエットが見える。

「け、結構です! 気持ちだけありがたくいただくから!」


ははは、残念だ。
という笑い声が遠ざかっていく気配。

……冗談、だったのかな?


どんな顔で笑ってたのかな、なんて。
ちょっとだけ、気になるけど。

どうせ、冗談で言ってみただけで。
ただ、僕の反応を見てみたかっただけだろう。観察するために。


男同士で普通、家庭の風呂に一緒に入って、背中なんか流さないし。


*****


シーツとか、新しいのを出して。

曽根には兄の部屋で寝てもらうことにした。
僕の隣の部屋だ。

家具は新しく買ったというので、兄のベッドや本棚など、ほぼ残ってる。


おやすみ、と言って部屋の前で別れようとしたら。

「君の部屋を見せてくれないか」
「いいけど。……あんまり面白くないと思うよ」
どうぞ、と部屋のドアを開ける。


「綺麗に片付いているんだな」

曽根は僕の部屋を見回して。
感心したように言った。

「曽根のうちの母親がどうなのかは知らないけど。一般家庭の息子の母親っていうのは、息子の部屋が散らかっていると、掃除に入ってくる生き物なんだ」

母親という生き物は、いくら仕事で忙しかろうと、暇を見ては子供の動向を把握しようとする。デリカシーなど微塵もない。
えっちな雑誌を発見した暁には、これ見よがしに学習机の上に置いたりする示威行為も忘れない、最恐生物だ。
なので、掃除させるような隙を与えないのが一番だ。


「うちの母親は、掃除などしたことないだろうな。多分、僕にそれほど興味もない」
少し皮肉げな顔をした。

羨ましい、と思ってはいけないのだろう。

時々帰ってきては、煩わしいくらいかまわれるけど。
それがなければ寂しく思うだろうし。

家に一人でいる時間の方が多くても、それほど寂しくないのは。家族からちゃんと愛されている自覚があるからだ。
僕は自分が思うより、かなり恵まれた環境にいるんだろう。


「……そんなところにえっちな本はないから」
ちょっと目を離した隙に、曽根はベッドの下を覗き込んでいた。

本棚には参考書の他にはファッション誌とか情報誌とかしかない。合間には、水着姿のグラビアが載った雑誌もあるけど。

「本命は、ハードディスクの中かな?」
「何故わかった!?」

「僕もそうだから」

お前もそうか。
っていうか、みんなそうだよね。


「万が一、流出するのを避けるため、お宝画像には厳重にプロテクトをかけている」

……いや、そこまではしない。
どんな極秘画像だよ。


*****


「今日は色々緊張したりして、疲れただろう」
とか言い出して。
曽根に、ベッドに横になるよう追いやられて。

寝転がった状態で、曽根に肩を揉まれた。

緊張していた筋肉を揉みほぐされて。凝ってる?
そうだね主にお前が原因だね。


……あ、上手いかも。
気持ち良い。

「曽根って、こんなことまで上手なんだ?」
「曽根じゃなくて、祈だ」

下の名前で呼べって? そんな、仲良くないのに。

友達じゃないし。別に、仲良くないのに。
それなのに、家に招いて泊めるってのもおかしな話だけど。

なんか、流れでそういう風になっちゃったんだから、仕方ない。


だって。
合コンで全員の飲み代を奢らせてしまったし。時計や服も買わせてしまった。
貸し出しってていにしてるけど。実際に大金を払ったことには間違いない。


だから、仕方なく。
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