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永遠
ストーカーに貢がれる
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「……?」
気付けば。
何故か曽根によって髪をセットされている状態だった。
食事を終えて。
汚れた食器は、曽根がさっさと食洗機に入れて片づけられた。
……何でこうなった?
「柔らかくて、触り心地が良い猫っ毛だ。固めてしまうのは勿体ないが。毎朝セットするのは大変だっただろう?」
などと言われながら。
自分でやったら小一時間はかかる髪のセットが、10分もかからずに済んでしまった。
どうやらこのイケメン、手先も器用だったらしい。
*****
「そうそう。観察期間を決めておかないと落ち着かないだろう。今日から一週間、でどうだろう」
礼は弾む、と頭を下げられた。
「いいけど……」
実はすごいイケメンで。背も高くて体格も良くて。
うちの大学でも難関といわれる法学部に合格したってことは、かなり頭も良いはずだ。
昨日の行動からいっても。やろうと思えば、気遣いも一流なわけで。
その上、実家はかなりのお金持ちっぽい。
そんな、何もかもに恵まれてるっぽい曽根が。
どうして僕に憧れているとか、僕のことを見習いたい、などというのだろう。
傍で仕えたいとか、訳のわからないことも言ってた。
むしろ曽根こそが皆から憧れるような、恵まれた状態じゃないか?
それに、家では使用人に傅かれてる立場じゃないのかな? 運転手に指示するのも慣れてたっぽいし。
確かに、僕のこの顔は親譲りで綺麗なんだろう。
周囲からも綺麗だともてはやされてるし。
でも。
僕なんて、見かけだけの張りぼてのようなものなのに。
一週間どころか、三日で見限ってもおかしくない。
*****
「ああ、忘れるところだった。今日は、これを着けて欲しい。ちょうどこのコーディネートにぴったりで良かった」
そんな言葉と同時に、腕に違和感を覚えて。
見れば。
腕時計をはめられていた。
この、特徴的な文字盤。
これって。フランクミュ……数百万はする、高級時計じゃないか!
何でそんなものが、僕の腕に?
「は、はっ、外し、」
腕時計を指差す。
滑らかな、革のベルトだ。
もし爪とかで傷がついたら、と思うと。恐ろしくて触れない。
弁償とかできないから!
もしもの時は、兄さんにいい弁護士を紹介してもらうしかない。
「大丈夫。贈り物じゃなくて無期限貸し出しということにすればそちらに贈与税は掛からない」
笑顔で恐ろしいことを言っている。
いやいやいや、少しも大丈夫じゃない。
そういった心配はしてなかった。
っていうか、そっちじゃない!
……知らなかった。
他人から高価な贈り物を貰うと、贈与税が掛かるんだ。申告しないと、脱税になって捕まっちゃうって。
年間百万円以内なら非課税? じゃあ、ホステスとかホストが数百万から何千万のロレックスや宝石や車とかを貢がれてるのって、ちゃんと申告してるのかな……。
贈与じゃなく、預けるって形ならセーフ? そんな法の抜け穴有りなの?
なんか、世の中の闇を見てしまった気がする。
……じゃなくて!
「受け取れるかよ、こんな高価なもの! 昨日初めて話したような相手から!」
たとえ貸し出し扱いだとしても。
怖い。怖すぎる。
こんなの、家に置いておきたくない。
泥棒とか来ちゃったら、どうするんだよ。
その上。
今日は、とか言ってた気がする。
まさか明日は違うの持ってくるつもりじゃないだろうな!?
*****
「気に入らなければ捨てて欲しい。君の腕に着けられないなら、こんなもの、何の価値も無い」
何か決め顔で言ってるけど。
「価値? めちゃくちゃあるに決まってるだろ!? 職人さんに謝れ!」
思わず突っ込んでしまったのを、どのように受け取ったのか。
「そうか。そんなに気に入ってくれたのか。嬉しいな。……ではそろそろ行こうか」
と。
まるで何事もなかったかのように笑顔でエスコートされて。
またしても運転手付きの車で、大学まで送られてしまった。
送迎を断る気力もなかった。
目立たないようにか。
車が停まったのは、正面じゃなく通用口だ。
曽根はオールバックにしていた髪も下ろして。太いフレームの黒縁眼鏡をかけている。
そうだと思ってよく見れば、高い鼻とか、口元とかも端整な顔立ちだってわかるんだけど。
まじまじと見つめない限り、気づかないだろう。
存在感って、消せるんだ。
変装というか。もはや変身の域じゃないかこれ。
今日は何か妙に静かだな、と思ったら。
いつもは駅から正面の門を通って入るから、大勢の女の子たちに囲まれるけど。
今日は数人から声をかけられるくらいだったからだ。
それも、珍しいもの見ちゃった、みたいな嬉しそうな感じで挨拶された。
教室でも、僕が来ていることに驚かれた。
いつものコースを通らなかっただけなのに、そんな反応されたのはちょっと面白かった。
*****
曽根が僕とほぼ同じ講義を受けているのは確定した。
昨日と同じく、一人分間隔をあけた僕の隣に座って。
教授から名前を呼ばれて答えてる。
法学部だから、他にも講義を受けてるんだろうけど。
色々取ってるのかもしれないけど。
一年時は一律基礎授業でも、二年からは学科によって、科目が変わるはずなんだけど。
……選択科目まで同じなのは、ただの偶然だよな?
たまたま被ったのがいくつかあっただけで。
何だか怖くなってきた。
気付けば。
何故か曽根によって髪をセットされている状態だった。
食事を終えて。
汚れた食器は、曽根がさっさと食洗機に入れて片づけられた。
……何でこうなった?
「柔らかくて、触り心地が良い猫っ毛だ。固めてしまうのは勿体ないが。毎朝セットするのは大変だっただろう?」
などと言われながら。
自分でやったら小一時間はかかる髪のセットが、10分もかからずに済んでしまった。
どうやらこのイケメン、手先も器用だったらしい。
*****
「そうそう。観察期間を決めておかないと落ち着かないだろう。今日から一週間、でどうだろう」
礼は弾む、と頭を下げられた。
「いいけど……」
実はすごいイケメンで。背も高くて体格も良くて。
うちの大学でも難関といわれる法学部に合格したってことは、かなり頭も良いはずだ。
昨日の行動からいっても。やろうと思えば、気遣いも一流なわけで。
その上、実家はかなりのお金持ちっぽい。
そんな、何もかもに恵まれてるっぽい曽根が。
どうして僕に憧れているとか、僕のことを見習いたい、などというのだろう。
傍で仕えたいとか、訳のわからないことも言ってた。
むしろ曽根こそが皆から憧れるような、恵まれた状態じゃないか?
それに、家では使用人に傅かれてる立場じゃないのかな? 運転手に指示するのも慣れてたっぽいし。
確かに、僕のこの顔は親譲りで綺麗なんだろう。
周囲からも綺麗だともてはやされてるし。
でも。
僕なんて、見かけだけの張りぼてのようなものなのに。
一週間どころか、三日で見限ってもおかしくない。
*****
「ああ、忘れるところだった。今日は、これを着けて欲しい。ちょうどこのコーディネートにぴったりで良かった」
そんな言葉と同時に、腕に違和感を覚えて。
見れば。
腕時計をはめられていた。
この、特徴的な文字盤。
これって。フランクミュ……数百万はする、高級時計じゃないか!
何でそんなものが、僕の腕に?
「は、はっ、外し、」
腕時計を指差す。
滑らかな、革のベルトだ。
もし爪とかで傷がついたら、と思うと。恐ろしくて触れない。
弁償とかできないから!
もしもの時は、兄さんにいい弁護士を紹介してもらうしかない。
「大丈夫。贈り物じゃなくて無期限貸し出しということにすればそちらに贈与税は掛からない」
笑顔で恐ろしいことを言っている。
いやいやいや、少しも大丈夫じゃない。
そういった心配はしてなかった。
っていうか、そっちじゃない!
……知らなかった。
他人から高価な贈り物を貰うと、贈与税が掛かるんだ。申告しないと、脱税になって捕まっちゃうって。
年間百万円以内なら非課税? じゃあ、ホステスとかホストが数百万から何千万のロレックスや宝石や車とかを貢がれてるのって、ちゃんと申告してるのかな……。
贈与じゃなく、預けるって形ならセーフ? そんな法の抜け穴有りなの?
なんか、世の中の闇を見てしまった気がする。
……じゃなくて!
「受け取れるかよ、こんな高価なもの! 昨日初めて話したような相手から!」
たとえ貸し出し扱いだとしても。
怖い。怖すぎる。
こんなの、家に置いておきたくない。
泥棒とか来ちゃったら、どうするんだよ。
その上。
今日は、とか言ってた気がする。
まさか明日は違うの持ってくるつもりじゃないだろうな!?
*****
「気に入らなければ捨てて欲しい。君の腕に着けられないなら、こんなもの、何の価値も無い」
何か決め顔で言ってるけど。
「価値? めちゃくちゃあるに決まってるだろ!? 職人さんに謝れ!」
思わず突っ込んでしまったのを、どのように受け取ったのか。
「そうか。そんなに気に入ってくれたのか。嬉しいな。……ではそろそろ行こうか」
と。
まるで何事もなかったかのように笑顔でエスコートされて。
またしても運転手付きの車で、大学まで送られてしまった。
送迎を断る気力もなかった。
目立たないようにか。
車が停まったのは、正面じゃなく通用口だ。
曽根はオールバックにしていた髪も下ろして。太いフレームの黒縁眼鏡をかけている。
そうだと思ってよく見れば、高い鼻とか、口元とかも端整な顔立ちだってわかるんだけど。
まじまじと見つめない限り、気づかないだろう。
存在感って、消せるんだ。
変装というか。もはや変身の域じゃないかこれ。
今日は何か妙に静かだな、と思ったら。
いつもは駅から正面の門を通って入るから、大勢の女の子たちに囲まれるけど。
今日は数人から声をかけられるくらいだったからだ。
それも、珍しいもの見ちゃった、みたいな嬉しそうな感じで挨拶された。
教室でも、僕が来ていることに驚かれた。
いつものコースを通らなかっただけなのに、そんな反応されたのはちょっと面白かった。
*****
曽根が僕とほぼ同じ講義を受けているのは確定した。
昨日と同じく、一人分間隔をあけた僕の隣に座って。
教授から名前を呼ばれて答えてる。
法学部だから、他にも講義を受けてるんだろうけど。
色々取ってるのかもしれないけど。
一年時は一律基礎授業でも、二年からは学科によって、科目が変わるはずなんだけど。
……選択科目まで同じなのは、ただの偶然だよな?
たまたま被ったのがいくつかあっただけで。
何だか怖くなってきた。
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