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永遠

ストーカーの素顔は

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駅に向かおうとしたら。

自然にエスコートするみたいに、車道の方に誘導されて。そこに黒い車がすっと寄ってきて、目の前で停まった。
何だか高級車っぽい。

運転しているのは、曽根の家族とかじゃなさそうだ。
料金メーターもないし、タクシーでもない。運転手付きの送迎車が寄越されるって。

もしかして曽根って。
とんでもないお坊ちゃまだったり?

で、これに乗れと? しかも、僕が上座な感じで?
冗談はやめて欲しい。


「いや、オレは電車で帰るから、」
「電車で帰るのは危険だ。酔客も乗車する時間だし、よからぬ輩に目を着けられかねない」

いや、確かに女の子と間違えたのか、痴漢に遭うこともあるけど。

まだ8時で。
深夜でもないし。


何で今日初めて話した人に、家まで送られなくちゃいけないんだ。
しかも、痴漢を心配されるとか。

彼女とかじゃないんだから。


「帰る方向は同じだ。遠慮しないで」
と、乗せられてしまった。

……帰る方向が同じって。

僕の家、知ってるの? いつ調べたの?
個人情報保護法はどうなった!? ストーカー!?

おまわりさん、こいつです!


*****


無言である。

運転手は何も言わないし。
曽根は恐らくじっと僕を見てる。視線を感じるし。


ひいい、助けて。
それか一刻も早く着いて。

しかし、車の速度も遵法精神溢れる安全運転だという絶望。

曽根は眼鏡を外して、レンズを拭っているようだ。
どんな顔かわかるかと思って、ちらりと横目で見てみたら。

相変わらず前髪で、顔は見えなかった。


「……伊角君は優しいな」
「え?」

「普通、こんな風体の男から観察したいなどと言われたら。通報の一つもしたくなるだろう。なのに、無視せずに普通に話してくれた。そんなところにも憧れる」


おいこら。
自分の風体がおかしいって自覚、あったのか。

「だったらせめてその前髪くらいちゃんとしたらいいんじゃ……」
手を伸ばして、前髪を上げてみたら。

その下にあったのは。
予想外に端整な顔立ちだった。

整ってるっていうか。
こいつ、めちゃくちゃイケメンでは?


目が合って。
びっくりしたような顔も。思わず息を呑むくらい美形だ。

固まっていたら。

曽根は苦笑して。
前髪を上げていた僕の手を下ろさせた。


男らしい、大きな手だった。


*****


「見られてしまったから白状するが。……目立ちたくないんだ」
曽根は心底困っている、といった声音で言った。


ああ。そうだろうな。そりゃその顔晒して歩いたら、僕以上に女の子から囲まれるだろうよ。それも、僕と違って。本気の恋人候補の女の子がわらわらと。
って、自分がイケメンだって自覚あるのかよ!

猫背に見せているのも、ダサい服を着てるのも。目立ちたくないから。
背が高くてスタイルがいい事を隠すためだったようだ。

今はきちんと背筋を伸ばしている。
うわー腹立つー。

その背、5cmでいいから寄越せ。


自分は目立ちたくないのに、何で注目を浴びまくってるような僕の行動を参考にしたいんだろうか。
不思議すぎるので、それとなく訊いてみたら。

曽根は、僕と逆で。
高校までは目立ってたけど。その恵まれた容姿が目立つことで、周囲からやっかまれたて色々困ったことになったから顔を隠すようになった、とか。


じゃあ、憧れてるっていうのは。まさか。

今、僕が演じてるような、老若男女問わずから愛されモテ系男子になりたいとでも思ってるとか?
でも、曽根の場合、それをするにはキャラ的に無理があると思う。
僕なんて、アイドルっていうか、むしろ扱いは愛玩動物だもんな。曽根が僕と同じことをやったら……想像するだに痛々しい。


「でも、このオレと一緒に歩いてたら、いやでも目立つことになっちゃうと思うけど。いいの?」
軽口を叩いたら。

「大丈夫、皆、伊角君の美貌に見惚れて釘付けになる。僕など背景のようなものだ。道端の小石を見るような物好きはいないだろう」


……なに真面目な声で、とんでもないこと言ってくれちゃってるのかな。

無駄にいい声だと思ったら、顔まで良かったなんて。
こんなの、詐欺だ。

もしかして、口説いてるんですか?

それか、僕の反応を見て面白がってるのかな?
観察対象だもんな。


全く、厄介なヤツに目をつけられたもんだ。


*****


家の前に着いて。
車を降りる時も、さりげなく曽根にエスコートされてしまった。

女の子じゃないんだから。
頼りがいのありそうな大きな手しやがってこの野郎。


やっぱり、猫背にしていたのを伸ばせば、見上げるほど背が高い。
180以上あるんじゃないかな?

あ、そういえば、居酒屋のお礼言ってない。

元々払う予定はなかったんだけど。
結局僕も曽根に奢られたかたちになってしまったんだった。

なら、ちゃんとお礼を言わないと。


「今日は居酒屋の代金と、わざわざ家まで送ってくれてありがとう。ごちそうさま。……でも、こういうのはもういいから」
「何故?」

「何故って。曽根もオレも、男だろ? 普通は、学生同士が飲み代を全額奢ったり、男が男をエスコートするもんじゃない。そういうのは可愛い女の子にしてやれよ」

顔出してそれやったら、モッテモテだぞ?

……あーはいはい。
目立ちたくないんでしたねごめんなさい!
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