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永遠

合コンの異端者

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合コンの会場である居酒屋で。
何故か曽根は、僕の左隣に座っていたのだ。タブレットは手放してないけど。ライナーの毛布的な、心の平穏を保つためのアイテムなのだろうか。

曽根が来るとは聞いてなかったので、どういうことか幹事である宮崎に訊いたら。

講義の後、飲み代を多目に払うからどうしても参加させて欲しいと頼まれたとか。飲み代の半額払うって。大勢いるのに太っ腹だな。
今日は目当ての子が参加するのかな? 暗そうな感じだったけど。意外と肉食系だったのか……。


僕は壁を背にしたテーブルの真ん中辺りの位置で。
どんどん席が埋まっていく。女の子たちは、僕の正面の席を取るのを争ってた。

乾杯が終わったら順次場所を入れ替わる、ということで決着したようだ。


*****


参加メンバーも集まったようなので。
まずは自己紹介からだ。

「ではトップバッターは、T大が誇る我らがアイドル、イスミンどうぞー」
宮島に促されて、立ち上がる。

「はい、文学部二年、伊角永遠。永遠と書いてトワです。みんな、今日はオレのために集まってくれてありがとー!」
チャラチャラしくウインクしてみせたら。

女の子たちはきゃあきゃあ言って、手を叩いてはしゃいだ。
男メンツもおざなりに手を叩いてる。

いや、何か歌ってーとか言われても。歌って踊れるアイドルじゃないし。第一お店に迷惑が掛かるだろ。
空気壊すから、言わないけどね。


次は、僕の右隣にいる宮島だ。
何度か幹事をつとめてるので、わりと名前が知られているようだ。

たいっちゃん、とか呼ばれてた。
そういえば、宮島太一って名前だっけ。


僕から見て時計回りに、順々に自己紹介していく。

うーん。今回も特に、印象に残った子はいないなあ。似たような髪型に似たようなメイクで元の顔はさっぱりわからない感じ。

と。
一周回って、曽根の番になった。
ほぼ全員から、誰だこいつ、っていう視線が向けられている。

何故か僕まで胃が痛くなりそう。


*****


「……法学部、曽根。今日は前々からファンだった伊角君が来ると聞いたので参加させてもらった」
座ったまま。

ぼそぼそと、呟くように言った。意外にも低くていい声だった。
もっと大きな声で話したらいいのに。……って。

ん?
何か、おかしな言葉が聞こえたような。

曽根のお目当ては。
女の子じゃなくて、このだって?


思わず宮島を見たら。真顔で首を横に振ってる。
曽根の参加動機を知らなかった様子だ。

うわ。
右隣から、曽根がこっちをじっと見ている気配がする。

ビシバシ視線を感じる。こ、こわくて振り向けない……。


系の人?」
「え、マジで?」
「誰だよ呼んだやつ」
「ヤバくね?」
という囁きが聞こえて。

雑談していたメンバーが黙り込んで、静まりかえってしまった。

うわあ、何、この空気。
居たたまれない。


とにかく。
この気まずい雰囲気をどうにかしなくては。


*****


僕は手近にあったグラスを持ち、立ち上がった。

「……ええと。皆、ドリンクは行き渡ったな? とにかくカンパーイ!」
無理矢理明るく乾杯する。

「いえーい! カンパーイ!」
皆と強引に、グラスを合わせていく。ソフトドリンクなのに酔っぱらってんのかよくらいのノリで。


すぐにあちこちで乾杯が交わされて。微妙な雰囲気は一掃されたようだ。
あー良かった。

何とか空気が悪くなる危機を脱却して。

ほっとして、手にした飲み物を飲もうと思ったのを、がしっと掴まれた。
僕の手を掴んだのは、曽根だった。

「な、なに?」
「それは宮島の烏龍ハイ。アルコールだ。君はまだ未成年だろう。伊角君のはこっちだ」

「……ありがと」
差し出されたウーロン茶を受け取る。

……何でわざわざおしぼりでグラスの水滴を拭ってから渡してくるんだろう。

銀座とかの高級クラブのホステスがする、気配りテクニックだって聞いたことがあるけど。
サービス業系のバイトでもしてたのかな?

でも、そんなサービスを僕にされてもな。
しかも、お互い男なのに。


「曽根君、法学部だっけ。だからかな? 固ーい」
曽根の前に座っていた子が、少し馬鹿にするように言った。

「あれ、ミキちゃんのが好きなんじゃなかったっけ?」
「やだもうアツシセクハラー」
「サイテー」
とか言ってるのを。

「未成年に酒を提供すれば、この場に居る全員に責任が及ぶだけではなく、店にも多大なご迷惑がかかる。成人を過ぎたなら、尚更なあなあで済まさず、それなりの節度を持つべきだろう」
責めるような口調で曽根は言った。


曽根の目の前の、ミキちゃんと呼ばれた女の子はドン引きしている。
やり取りを聞いていた人たち全員ドン引きだ。

ううう。

正論は正論なんだけどさ。空気読もうよ。
せめて、言い方をもうちょっとソフトに変えるとかさあ。


*****


「そ、そういえば曽根君だっけ? オレのファンだって言ったけど。残念ながらオレは皆のもので誰か一人の特別にはなれないから。キミの気持ちには応えられないよ?」
気まずくなりかけた場の空気を変えるように、わざと明るく言った。

曽根は慌てたようにこちらを見た。……目は見えないんだけど。

こちらを向き直り、猫背気味だった背を伸ばしたら、普通にしてても見上げるほどの高さだった。本来、かなり背が高いのだと知る。普段は猫背気味だから、それが目立たなかったようだ。もったいない。


「いや、誤解させて怖がらせたようなら謝る。悪かった。僕は決して、ゲイではない。ただ、君に、憧れているだけで……、」
さっき女の子に話した口調とは違い、少し柔らかいような印象を受けた。
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