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おまけ/南の王END

うっかりプロポーズ

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……何で俺、ここにいるんだろう……。


別に、己の存在について悩んでいるわけではない。

神の島で。
まるで、伴侶選びみたいな流れになったというのに。

何でここ、南の国に来てしまったのか、という話である。


「わあい、……かーわいー……」

ふわふわもこもこの、赤い毛玉。長い耳。丸っこいしっぽ。
かわいいし。撫でていると、癒されるけど。


おれの伴侶どののほうがかわいいぞ?」
にやにやしながら、ジュセルが言った。


†††


ハイ、そうでした!

赤兎馬に子供ができたんだって聞いて。
ついうっかり、ジュセルの手を取っちゃったんでしたね!

ああ、まだ東の国でやらなきゃいけないことがいっぱいあったっていうのに。
何やってんの俺……。


俺よりもでかい赤兎馬は、紫色の葉っぱをおいしそうに食んでいる。
てか、メスだったんだね赤兎馬……。女の子なのにごっつい名前つけちゃってごめん。

動物にはオスメスいるし、普通に繁殖するのに。
ヒトは男しかいない上に卵生とか。

ほんとにもう、どうなってんの、この世界!?

解せぬ。


そして俺がこないだ命名した、チーム海援隊の竜馬サカモトは、もう人が乗れるくらいの大きさに育っていた。
まだ一か月も経ってなかったよな? 成長早いよ竜馬。

ピンクでやわらかくてかわいかったのに、濃い赤の、硬いウロコになってしまった。
これはこれでかわいいけど。


†††


「しかし、神が恨みっこなし、と仰ってくれて助かったぞ。……極白大魔王に呪い殺されるかと思った」
ジュセルはふう、と額の汗を拭いながら言った。

「魔王?」
そんなのもいるんだ。さすが魔法の世界。

「……東の国王のことだ」

えー、似合わない。優しいのに……って考えかけて。
俺の手を取ったナーサルを無礼討ちにしようとした時のことを思い出した。あれは驚いたし、怖かったな……。
上下関係には厳しいタイプなのかな?


「アレクって、極白大魔王ってあだ名なの?」

白だと心が清そうなイメージだけど。
暗黒大魔王、みたいな感じかな? この世界では白は悪魔の色だってアモンが言ってたし。

白が忌避される色だって聞いて、東に戻るときにそれとなく観察してみたら。

東の国の、白っぽい地面だと思ってたのは灰色の砂だった。兵士達が着てた薄汚れた白い服だと思ってたのは、元から薄い茶色だったみたいだし。
宮城のタイルも、白とピンクやブルーの方が見栄えが良さそうなのに薄い水色だったのって、白を避けてたせいなんだ。


「東のは世界一の魔法使いであり、禁術も使えるという厄介な敵だからな。この間の戦いでも撤退を余儀なくされた。……俺が前線に出ていれば、数多の兵を失うこともなかったのだが……」
悔しそうに言うけど。

「東の国とはもう、敵同士じゃないじゃん。停戦の条約、サインしたんだし」
「……さて、それはどうだろうな……」
ジュセルは遠い目をした。

「まあヤツを敵に回しても、欲しいものは手に入れたが」
頭をわしわし撫でられた。


ジュセルの、熱くて大きな手。
この手は、いつでも優しくて、心地好かった。


†††


「む、そろそろ中へ入るぞ。灼火しゃっかの時間だ」
ジュセルは、時計を確認して言った。

日没とか夜はなくても、一日という概念はあるようで。
水晶時計で時を刻むらしい。

一日のうち何時間かおきに、気温が急上昇するという、”灼火”の時間が来る。

慣れたジュセルたちなら平気らしいけど、俺には無理。熱中症まっしぐらだ。
熱中症どころか、熱気で喉が焼けて、火傷してしまうくらいの暑さ、いや、熱さになるという。

わりと涼しくなる時間もあって。
いつもジュセルやヨハンが俺を外に誘うのは、その時間だった。それでも肌が焼けないようにって上着を渡されるんだけど。


ひょい、と抱えあげられて。
野性的な男前の顔が、近くなる。

「おかえり。俺のかわいい伴侶どの」
ジュセルは俺に、にやりと笑ってみせた。何そのめっちゃ嬉しそうな顔。

「……だから、伴侶じゃないってば!」

久しぶりのやり取り。
実は、ちょっと嬉しかったりして。


ここは実家じゃないのに、おかえりって言われるのも変じゃないかな、って思ったけど。
どうしてか、そのことについては突っ込もうとしなかった。


†††


階段を登っている途中。


ドスン、と大きな物音がして。
ぐらりと砦が揺れた。

「え、ナニ、地震!?」
思わず、ジュセルにしがみついた。


岩壁に沿ってる管……伝令管、ってものから、モールス信号みたいな音が聞こえた。

「今の、何だって?」
「……新兵の坊やが竜馬の操縦を誤って、激突したそうだ。両名ともに無事」
ジュセルが信号を通訳してくれた。


へえ。
こっちにも、俺みたいなドジっこ属性がいるんだな。

「そうなんだ。あーびっくりした」

「……驚いたのは我のほうだ」
呆れたような声。


「?」

何だろう、と思っていたら。
ジュセルはトントン、と。右側に生えてる自分の角をつついてみせた。

角?
角がどうしたの? おっきくて御立派だけど。


「……あっ!?」

しまった。
俺ってば、うっかりジュセルの角にしがみ付いてしまっていたのだ。

しっかりガッチリ掴まっているので、言い訳しようもない。


この国では、角を掴むのは、ガチで求愛の証だって。
ヨハンが言ってましたね……?
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