黒髪黒目が希少な異世界で神使になって、四人の王様から求愛されました。

篠崎笙

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南の国の王

馬の謎、解明する

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「東のは、商品見本とかないの?」
ヨハンに聞かれて。

そういえば、東の国の果物とかのサンプルを持ってきてなかったことを思い出した。

西の国では、東の国は植物が豊富だって知ってたからか、突っ込まれなかったけど。
これは手痛いミスだった。


「すみません、急だったので、東のサンプルはまだです。東の作物も、まずは保存食を試作してみたいと思います。ドライフルーツとか、加工品を色々」

果物はほかにジュースとか、ジャムにしても良さそう。
野菜は揚げて、チップスにするのもいいかな、という話をした。


「果物かあ、いいねえ。でも、こちらは肉くらいしか出せないと思うけど。いいの? 肉は他の国にもあるっしょ?」

軍師のヨハンは、軍師っぽくないというか、かなりフレンドリーな人だった。
というかここの国民は、みんな国王のジュセルに対してもへりくだりすぎてないというか、同じ鍋を囲む”仲間”って感じがする。


「ここに来る途中で竜馬の群れとか見ましたけど、ここのが元気で立派な固体が多いし、動物を育てるのに向いてると思います」

ヨハンは頷いた。
「そうだね。ウサギとかも大きく育ちすぎて、兎馬とばになっちゃうくらいだし」

あ、ウサギもいるんだ。
って。

「トバ……?」


何だそれ。
飛んだり跳ねたりするから? 


†††


ヨハンにちょいちょい、と呼ばれて。窓に寄った。


「ほら、あの、おっきいやつだよ」
見下ろすと。

下は、ウサギ牧場のようだ。
小さなウサギたちの中に、やたらでかい、真っ赤なウサギがいた。

その大きさはともかく。姿かたちは同じ、普通のウサギに見えた。
っていうかここ、ウサギも赤いのか……。火属性かな?


「おお、まさに赤兎馬せきとば……」

赤兎馬は三国志に登場する名馬である。
たしか、血のような汗を流す汗血かんけつ馬だからとか、赤い毛色を持ち、兎のように素早い馬だとかが名前のいわれだったっけ?

「お、カッコイイね。あいつの名前、それにしちゃおっか?」


命名してしまった。
やったね。

今まさに、赤兎馬誕生の瞬間である。
とか言って。


ウサギもそうだけど。
ここでは、人が乗れるくらいに大きく育った動物はみんな”馬”と呼ばれるようだ。

でもって、犬でもウサギでも何でも、黒い神の使いになればみんな神馬と呼ばれるようになる、とも教わった。


神馬(どう見てもポメラニアン)の謎が、やっと解決したのであった。


†††


この国は、人が住むのには適さないほど厳しい暑さだけど。
この砦は周りを大きな湖で囲まれてるので、なんとかこの砦には人が住むことが可能なんだそうだ。

比較的暑さの厳しくない国境付近には、いくつか村があるらしい。


上の階に風が入るのも、湖による気流のおかげだという。
湖の水温は、約40度。ぬるめの温泉くらいかな?

魚の棲めない温度なので、この湖には魚がいないけど。
豊富な水草と、水草を食べる、水棲の動物はいる。

常に大量の水が湧いているので、蒸発して湖が干上がることはないそうだ。


ここに家具が少ないのは、普通の木製家具だと、突然発火する危険があるからだそうだ。
こ、こわい。

貴重な、耐熱の木というのをみせてもらったけど。
ほんの小さなカケラだけでも、すごく重い木だった。水にも沈むくらいだとか。

密度が高いから、空気や水を含んでなくて燃えにくいのかな?


こっちには炭は存在しないようだった。
いや、あっても、黒い塗料としてしか利用しなかった、かな?

日本……異世界には、木をかまどに入れて焼いて作った”炭”というものがあって。
七輪でお肉を炭火焼にすると美味しいとか、暖を取るのに使ってたとか。他にも水をろ過したり、空気を綺麗にしたり、臭い取りに使ったり、お米を美味しく炊くのにも使うんだよ、と言ったら。

みんな面白がって、今度色々な木で試してみるって。
普通の木なら、その辺に放っておけばすぐに炭化するみたいだ。


何それこわい。


†††


南の国の歴史とかを聞いたり、何を商品にするかの相談をしたりで数日経過。


暑い国でも、慣れれば何とか快適に過ごせるようになった。
砦の中でなら、だけど。

みんなが俺に気を遣ってくれてるおかげもあるかも。


南の国の国民は、荒々しくて好戦的な人種だっていうけど。
みんな明るくて優しいし、話しやすかった。

やっぱり国同士の交流がないと、誤解も広まっていくんだろうな。
これからは頑張って誤解を解いていかなきゃ。


砦の兵士とか、ジュセルやヨハン以外の人たちとも仲良くしゃべれるようになって。
すっかり馴染んだ頃。

「竜馬の仔が生まれたけど、見たい?」
「見たい!」

ヨハンに誘われて。
竜馬の繁殖地へ行くことになった。


†††


「……何で親方が抱えてるんです?」
不満そうなヨハンの声。

ジュセルは王様とか陛下じゃなくて、みんなから親方と呼ばれてる。
国民との距離が近いんだ。

確かに普段は着流しみたいな恰好で、親方っぽいけど。

ジュセルはふん、と鼻を鳴らした。
「特使だからな、特別だ」


俺はまたしてもジュセルの腕の中、運ばれてるのだった。
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