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北の国の王
青少年の主張
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北の国にとってのメリット、か。
最初に予想していたのとは、全然、状況が違っていた。
すでに国とではなく、村や町と個別に取引をしてた、とか。
北の国の国民は全員、この王都に住んでいて。特に衣住食には困ってなかった。
貧しいと思われているせいか、戦を仕掛けられることもなくて。
飢えているというのは、恐らく罪を犯してこの城から追放された罪人だろう、ということだった。
リュシエルとしては。このままの状態でも、全く問題ないんだ。
むしろ実は裕福であることを黙っていた方が、貧しいと思われて、目をつけられずに済むかもしれない。
そんな北の国に対して、どんなアプローチをするべきか。
考えなくちゃいけない。
俺が、自分一人で。
今。
平和条約を結ぶ条件として。
国家間で足りないものを輸入輸出によって補い合うって計画は、俺が言い出したことだ。
発言には、責任を取らなくちゃいけない。
いくら俺がそのままで愛されるっていう、小さくて黒い神使でも。
その場しのぎの口先だけの返答じゃこの人は誤魔化されてくれないし、納得しないだろう。
考えろ。最適解を。
†††
「貴国のメリットは、対個人ではフォローできない安定した食料の供給と、」
「と?」
リュシエルは、首を傾げた。
優雅に微笑んではいるけど。目は笑っていない。
怖い人だ。
だって、他の国との争いを避けて、たくさんの国民を飢えさせず、国を維持している凄い人なんだ。
一筋縄ではいかないだろう。
「……平和です」
「へいわ、」
わ、の口のままで。ぽかんと口を開けている。
呆れられたんだろうな。
そりゃそうか。
ああ。
美人はどんな顔をしても美人だなあ。
「俺のいた世界でも、争いが全くなかったとは言いません。俺の国も、80年以上前に戦争して、負けて。今でもその後遺症で苦しんでる人がいる。争いは何も生まないっていうけど、兵器を売って儲けてたり、それで景気が上がったりしてる国もある。そのために争わせようとしてるんだ。それだけじゃない。同じ国の人同士でも、つまらない理由で殺しあったり……」
ニュースでは毎日のように人が殺されて。
何でそんな簡単に、人の命を奪えるんだろう、と思った。
仕事が無くて、お腹が空いてるから盗むわけでもなく。いたずらで万引きしたり。
ただ刺してみたかったって理由で人を殺したり。
世の中は、不条理な事でいっぱいだと思った。
まだ17歳で。
選挙権もない、バイトすらしたことがない。親に扶養されてる身分で。
俺なんか、何にもできないと思ってた。
ただの、無力な子供。
でも、ここでなら。この世界でなら。
この世界では、俺は神様の使いで。小さくて黒くて。
それだけで、愛される存在だっていうなら。
自分の使える限りの力を使って、叶えたいと思う。
平和ボケした、頭の中お花畑な、無茶な提案だとしても。
†††
「この協定によって、国同士の争いがなくなればいいと思います」
それが俺の正直な気持ちだ。
みんなが豊かになれば、争いは起こらないわけじゃないだろうけど。
少なくとも、今の状態よりは良くなるはずだと思う。
人が死んだらなるという、小さな星の砂粒が、海からあふれてしまうほど。
たくさんの人が死んでる今より。
アレクにネフェルたん、ジュセル。
それに、それぞれの国の人達と話をして、笑顔を見て、思ったんだ。
こんな優しい人たちが争い合わなくても、仲良く出来る方法があるはずだって。
心から戦争を望んでいる人なんて。
それで利益を得られる、ほんの一握りの人間だけだと思う。
みんな、俺の提案を聞いて、叶えばいいなって言ってくれた。
みんな、平和に暮らせたらいいって思ってる。
だから、どうか。
「青い」
リュシエルはきっぱりと言った。
うぐ。
一刀両断だ。
こっちにも、青二才、とかいう表現があったのかな? 俺に理解出来るよう、そう変換されてるだけ?
「若いよねえ。聞いてるこっちが恥ずかしくなっちゃうような青年の主張、ありがとう」
リュシエルはにっこり笑った。
うう。
17年しか生きてない小僧のいうことを、快諾してくれた今までの王達が、懐深かったんだ。
ほんとに、優しい人達だった。
「でも、正直言って、青いのは嫌いじゃないんだ。よろしい、停戦に、物流の提案、乗らせてもらおう。……北の国の王、黄のリュシエルの名において」
リュシエルは、天使のように美しい微笑みを浮かべた。
やったあ!
中身も天使ですか!?
†††
やたら緊張した会議が終わって。
「それでは、本日はこちらでごゆるりとお過ごしください」
アモンに、客室に案内された。
「ご入浴のお手伝いから伽のご用命まで、何なりとこのアモンにお申し付けください」
と、頭を下げられたんだけど。
今、トギとか聞こえたような気がする。とぎ。砥ぎ?
まさか、お伽の国の伽?
夜伽?
といったら。
アレですか! 夜のサービスのこと!? えええっ!?
「そんなこと! させられません!」
あわあわと両手を振った。
「やはり神使様のお相手がアモンではご不満ですか……」
アモンはしょんぼりしてしまった。
この悪魔のような見た目がいけないのでしょうか……、とか言ってる。
真っ白の髪も肌も綺麗だと思うけど。
「いや、そういうことじゃなくて!」
最初に予想していたのとは、全然、状況が違っていた。
すでに国とではなく、村や町と個別に取引をしてた、とか。
北の国の国民は全員、この王都に住んでいて。特に衣住食には困ってなかった。
貧しいと思われているせいか、戦を仕掛けられることもなくて。
飢えているというのは、恐らく罪を犯してこの城から追放された罪人だろう、ということだった。
リュシエルとしては。このままの状態でも、全く問題ないんだ。
むしろ実は裕福であることを黙っていた方が、貧しいと思われて、目をつけられずに済むかもしれない。
そんな北の国に対して、どんなアプローチをするべきか。
考えなくちゃいけない。
俺が、自分一人で。
今。
平和条約を結ぶ条件として。
国家間で足りないものを輸入輸出によって補い合うって計画は、俺が言い出したことだ。
発言には、責任を取らなくちゃいけない。
いくら俺がそのままで愛されるっていう、小さくて黒い神使でも。
その場しのぎの口先だけの返答じゃこの人は誤魔化されてくれないし、納得しないだろう。
考えろ。最適解を。
†††
「貴国のメリットは、対個人ではフォローできない安定した食料の供給と、」
「と?」
リュシエルは、首を傾げた。
優雅に微笑んではいるけど。目は笑っていない。
怖い人だ。
だって、他の国との争いを避けて、たくさんの国民を飢えさせず、国を維持している凄い人なんだ。
一筋縄ではいかないだろう。
「……平和です」
「へいわ、」
わ、の口のままで。ぽかんと口を開けている。
呆れられたんだろうな。
そりゃそうか。
ああ。
美人はどんな顔をしても美人だなあ。
「俺のいた世界でも、争いが全くなかったとは言いません。俺の国も、80年以上前に戦争して、負けて。今でもその後遺症で苦しんでる人がいる。争いは何も生まないっていうけど、兵器を売って儲けてたり、それで景気が上がったりしてる国もある。そのために争わせようとしてるんだ。それだけじゃない。同じ国の人同士でも、つまらない理由で殺しあったり……」
ニュースでは毎日のように人が殺されて。
何でそんな簡単に、人の命を奪えるんだろう、と思った。
仕事が無くて、お腹が空いてるから盗むわけでもなく。いたずらで万引きしたり。
ただ刺してみたかったって理由で人を殺したり。
世の中は、不条理な事でいっぱいだと思った。
まだ17歳で。
選挙権もない、バイトすらしたことがない。親に扶養されてる身分で。
俺なんか、何にもできないと思ってた。
ただの、無力な子供。
でも、ここでなら。この世界でなら。
この世界では、俺は神様の使いで。小さくて黒くて。
それだけで、愛される存在だっていうなら。
自分の使える限りの力を使って、叶えたいと思う。
平和ボケした、頭の中お花畑な、無茶な提案だとしても。
†††
「この協定によって、国同士の争いがなくなればいいと思います」
それが俺の正直な気持ちだ。
みんなが豊かになれば、争いは起こらないわけじゃないだろうけど。
少なくとも、今の状態よりは良くなるはずだと思う。
人が死んだらなるという、小さな星の砂粒が、海からあふれてしまうほど。
たくさんの人が死んでる今より。
アレクにネフェルたん、ジュセル。
それに、それぞれの国の人達と話をして、笑顔を見て、思ったんだ。
こんな優しい人たちが争い合わなくても、仲良く出来る方法があるはずだって。
心から戦争を望んでいる人なんて。
それで利益を得られる、ほんの一握りの人間だけだと思う。
みんな、俺の提案を聞いて、叶えばいいなって言ってくれた。
みんな、平和に暮らせたらいいって思ってる。
だから、どうか。
「青い」
リュシエルはきっぱりと言った。
うぐ。
一刀両断だ。
こっちにも、青二才、とかいう表現があったのかな? 俺に理解出来るよう、そう変換されてるだけ?
「若いよねえ。聞いてるこっちが恥ずかしくなっちゃうような青年の主張、ありがとう」
リュシエルはにっこり笑った。
うう。
17年しか生きてない小僧のいうことを、快諾してくれた今までの王達が、懐深かったんだ。
ほんとに、優しい人達だった。
「でも、正直言って、青いのは嫌いじゃないんだ。よろしい、停戦に、物流の提案、乗らせてもらおう。……北の国の王、黄のリュシエルの名において」
リュシエルは、天使のように美しい微笑みを浮かべた。
やったあ!
中身も天使ですか!?
†††
やたら緊張した会議が終わって。
「それでは、本日はこちらでごゆるりとお過ごしください」
アモンに、客室に案内された。
「ご入浴のお手伝いから伽のご用命まで、何なりとこのアモンにお申し付けください」
と、頭を下げられたんだけど。
今、トギとか聞こえたような気がする。とぎ。砥ぎ?
まさか、お伽の国の伽?
夜伽?
といったら。
アレですか! 夜のサービスのこと!? えええっ!?
「そんなこと! させられません!」
あわあわと両手を振った。
「やはり神使様のお相手がアモンではご不満ですか……」
アモンはしょんぼりしてしまった。
この悪魔のような見た目がいけないのでしょうか……、とか言ってる。
真っ白の髪も肌も綺麗だと思うけど。
「いや、そういうことじゃなくて!」
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