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北の国の王
真に麗しい人
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いつの間にか、リュシエルの美貌が至近距離まで近付いていた。
リュシエルの、世にも麗しい顔がアップになって。
ひええ、美人のアップは緊張するなあ。
アレクの時も緊張したけど。リュシエルの場合、綺麗なお姉さんにも見えるから、そういう意味でもドキドキしてしまう。
「ってことはそれ、本物なんだね。みんなマーキングしちゃったみたいだから、僕もするね。こっちの言葉も覚えて欲しいし」
つん、と額をつつかれる。
マーキングって……、もしかして。
この、額の宝石のこと?
っていうか。
リュシエルも今、”言解の魔法”をかけたのかな?
「こんな小さくて可愛い顔して。曲者ぞろいの三王を手玉に取るなんてなかなかやるじゃないか。っていうか、よく南の王に壊されなかったね。あの体格だろ? さぞやあっちも……」
うわあ、やっぱり!
「誤解! 誤解ですー!!」
†††
今までの流れを、必死に説明した。
この世界に来て神使として何をすべきか考えて、戦争を止めようと思ったこと。
食べるのに困ってるなら、その地方の特産品を輸出、輸入することでどうにかしようとこうして国を周ってること。
ついでじゃないけど。
預かった東、西、南の国からの親書もまとめて渡した。
「……そういった流れで。これは、特使として全ての国を周るために必要でして、言葉を覚える時間がなかったのでやむなく……、」
必死の弁解に。
リュシエルは嬉しそうに手を叩いた。
「ってことは、まだ、誰も手をつけてないんだ。やったあ」
やったもなにもない。
何もやらない。手玉にも取ってないです。
いくらこの世界には女の人が存在しないからって。まだそんな世界観に染まってないし!
……いや、まだじゃなくて! これからずっと、そんなことになる予定は一向にございません!
美貌の王は、鮮やかにウインクをしてみせた。
「で。小さくて黒い可愛い神使さん? きみのお名前は何というのでしょう?」
あ。いけない。
またしても、名乗るの忘れてた。
失態である。
「……たいへん失礼しました。俺は中条麗人といいます」
「……麗しい、人……?」
リュシエルは、くっ、と柳眉にシワを寄せた。
ううっ、やっぱり。
スルーしてくれなかった……!
生暖かい目で見ながら俺の頭を撫でるの、やめてくださいませんでしょうか?
泣けてくる。
ネフェルたんとジュセルはスルーしてくれたのにー!
†††
「僕の方が麗しいと思わない?」
優雅な仕草で胸に手を当てて、少し背を反らせてリュシエルは言った。
正真正銘、本物の麗人に、至極当然のことを言われて。
ぐうの音もでない、というのはこういうことだろう。
「全くその通りでございます……」
「だよね!」
リュシエルは邪気の無い、輝く笑顔で。
「きみは素直でよろしい。気に入った。……じゃあ、さっきの話、詳しく聞かせてもらおうか」
ダンスを誘われるように手を取られた。
何をするにも動きがエレガントというか。
綺麗で優雅だ……。
心の傷をざっくりと抉られたものの。
良かった。乗り気になってくれたようだ。
そう。
傷ついた分だけ、人は強くなれるんだ。
ちょっといいこと言った感。
「じゃあ、会議室へ移動するよ」
と、横抱きにされた。
これって俗に言う、お姫様抱っこ? ……はともかく。
王様自ら、わざわざ会議室まで運んでくれるの?
何でだろう。
……俺、階段から落ちて骨折した話もしたんだっけ?
†††
「へ!?」
ばさっ、と翼の音が聞こえて。床が遠ざかる。
宙に浮いて……いや、飛んでいる。
リュシエルの背中の翼が動いている。
これ、装飾の羽飾りじゃなくて。
本物の翼だったの!?
この翼のサイズで人を抱えて飛べるとか、どうなってんの!?
鳥人間コンテストで得た知識だけど。
人間が鳥みたいに空を飛ぶには、翼の長さは身長の倍近く必要で。骨も軽くてスカスカじゃなきゃいけないし、人間の体格じゃ飛ぶには重すぎるし、めちゃくちゃ背中の筋力がなければ不可能だって話だった。
リュシエルはスマートで贅肉とかなさそうだけど、そんなムッキムキには見えない。
物理的法則まる無視じゃん! すげえな異世界ファンタジー! リアル鳥人間とかいるんだ!
思わず感動してしまう。
みんな、一度は空を飛んでみたいって思うよな。
いいなあ。自分の力で飛ぶのって、どんな感じなんだろ。
っていうか、人を抱えたまま飛ぶのって、更に大変じゃないのかな?
見た感じ、華奢そうに見えたけど。なんかひょいって抱えられたし。実は、羽を動かすためにすごい筋肉がついてて、脱いだらムッキムキだったりして。アスリート的な。
「あ、あの。俺、重くないですか?」
「ふふ、羽根のように軽いよ?」
リュシエルは、にっこりと俺に笑ってみせた。
ああ、麗しい。
その上、いい匂いがする。香水かな?
俺を抱き上げている腕はしっかりしていて安定感があるので、意外と力持ちなのかもしれない。
それに俺、小さいし。軽いのかもな!
……もう涙も出ません。
†††
リュシエルにお姫様抱っこされたまま、会議室にしてはあまりにきらびやかな部屋に案内された。
内装は中世ヨーロッパ風、だろうか。
それにしては黒が多めで暗くなっちゃうけど。それはこの世界では黒が尊いからしょうがない。
天井には、やはりシャンデリアがきらめいている。眩しい。
リュシエルの、世にも麗しい顔がアップになって。
ひええ、美人のアップは緊張するなあ。
アレクの時も緊張したけど。リュシエルの場合、綺麗なお姉さんにも見えるから、そういう意味でもドキドキしてしまう。
「ってことはそれ、本物なんだね。みんなマーキングしちゃったみたいだから、僕もするね。こっちの言葉も覚えて欲しいし」
つん、と額をつつかれる。
マーキングって……、もしかして。
この、額の宝石のこと?
っていうか。
リュシエルも今、”言解の魔法”をかけたのかな?
「こんな小さくて可愛い顔して。曲者ぞろいの三王を手玉に取るなんてなかなかやるじゃないか。っていうか、よく南の王に壊されなかったね。あの体格だろ? さぞやあっちも……」
うわあ、やっぱり!
「誤解! 誤解ですー!!」
†††
今までの流れを、必死に説明した。
この世界に来て神使として何をすべきか考えて、戦争を止めようと思ったこと。
食べるのに困ってるなら、その地方の特産品を輸出、輸入することでどうにかしようとこうして国を周ってること。
ついでじゃないけど。
預かった東、西、南の国からの親書もまとめて渡した。
「……そういった流れで。これは、特使として全ての国を周るために必要でして、言葉を覚える時間がなかったのでやむなく……、」
必死の弁解に。
リュシエルは嬉しそうに手を叩いた。
「ってことは、まだ、誰も手をつけてないんだ。やったあ」
やったもなにもない。
何もやらない。手玉にも取ってないです。
いくらこの世界には女の人が存在しないからって。まだそんな世界観に染まってないし!
……いや、まだじゃなくて! これからずっと、そんなことになる予定は一向にございません!
美貌の王は、鮮やかにウインクをしてみせた。
「で。小さくて黒い可愛い神使さん? きみのお名前は何というのでしょう?」
あ。いけない。
またしても、名乗るの忘れてた。
失態である。
「……たいへん失礼しました。俺は中条麗人といいます」
「……麗しい、人……?」
リュシエルは、くっ、と柳眉にシワを寄せた。
ううっ、やっぱり。
スルーしてくれなかった……!
生暖かい目で見ながら俺の頭を撫でるの、やめてくださいませんでしょうか?
泣けてくる。
ネフェルたんとジュセルはスルーしてくれたのにー!
†††
「僕の方が麗しいと思わない?」
優雅な仕草で胸に手を当てて、少し背を反らせてリュシエルは言った。
正真正銘、本物の麗人に、至極当然のことを言われて。
ぐうの音もでない、というのはこういうことだろう。
「全くその通りでございます……」
「だよね!」
リュシエルは邪気の無い、輝く笑顔で。
「きみは素直でよろしい。気に入った。……じゃあ、さっきの話、詳しく聞かせてもらおうか」
ダンスを誘われるように手を取られた。
何をするにも動きがエレガントというか。
綺麗で優雅だ……。
心の傷をざっくりと抉られたものの。
良かった。乗り気になってくれたようだ。
そう。
傷ついた分だけ、人は強くなれるんだ。
ちょっといいこと言った感。
「じゃあ、会議室へ移動するよ」
と、横抱きにされた。
これって俗に言う、お姫様抱っこ? ……はともかく。
王様自ら、わざわざ会議室まで運んでくれるの?
何でだろう。
……俺、階段から落ちて骨折した話もしたんだっけ?
†††
「へ!?」
ばさっ、と翼の音が聞こえて。床が遠ざかる。
宙に浮いて……いや、飛んでいる。
リュシエルの背中の翼が動いている。
これ、装飾の羽飾りじゃなくて。
本物の翼だったの!?
この翼のサイズで人を抱えて飛べるとか、どうなってんの!?
鳥人間コンテストで得た知識だけど。
人間が鳥みたいに空を飛ぶには、翼の長さは身長の倍近く必要で。骨も軽くてスカスカじゃなきゃいけないし、人間の体格じゃ飛ぶには重すぎるし、めちゃくちゃ背中の筋力がなければ不可能だって話だった。
リュシエルはスマートで贅肉とかなさそうだけど、そんなムッキムキには見えない。
物理的法則まる無視じゃん! すげえな異世界ファンタジー! リアル鳥人間とかいるんだ!
思わず感動してしまう。
みんな、一度は空を飛んでみたいって思うよな。
いいなあ。自分の力で飛ぶのって、どんな感じなんだろ。
っていうか、人を抱えたまま飛ぶのって、更に大変じゃないのかな?
見た感じ、華奢そうに見えたけど。なんかひょいって抱えられたし。実は、羽を動かすためにすごい筋肉がついてて、脱いだらムッキムキだったりして。アスリート的な。
「あ、あの。俺、重くないですか?」
「ふふ、羽根のように軽いよ?」
リュシエルは、にっこりと俺に笑ってみせた。
ああ、麗しい。
その上、いい匂いがする。香水かな?
俺を抱き上げている腕はしっかりしていて安定感があるので、意外と力持ちなのかもしれない。
それに俺、小さいし。軽いのかもな!
……もう涙も出ません。
†††
リュシエルにお姫様抱っこされたまま、会議室にしてはあまりにきらびやかな部屋に案内された。
内装は中世ヨーロッパ風、だろうか。
それにしては黒が多めで暗くなっちゃうけど。それはこの世界では黒が尊いからしょうがない。
天井には、やはりシャンデリアがきらめいている。眩しい。
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