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北の国の王

極寒の地

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灼熱地獄を抜けると、そこは極寒地獄でした。
みたいな感じだ。

いやマジで。


南の国から中央の湖を超えて。
北に近づいた辺りで、周囲は薄いもやのようなもので覆われていた。

見上げると。
この国の空は一面、茶色がかった赤い雲だか靄みたいなものに包まれてるみたいだ。

なんか縁起の悪そうな空の色だな。


いつものパステルピンクの空から太陽光的なものが当たらないと、寒くなるのかな?
冷えるのは、気分的な問題じゃないかもしれない。


†††


うう、寒っ!

黒ポメが張ってるらしい遮断バリアみたいなのを貫通してくるほどの寒さだ。凍ったバナナで釘が打てるかも。
ジュセルから上着を貰ってなかったら、寒さで凍えてただろうな。

ありがとうジュセル。
ろくでもないエロオヤジだけど。


ああ、今はジュセルのあの熱い肌が。熱い腕が恋しいよ……。

いや、エロい意味じゃなくて。
もちろん熱源として。


話に聞いていたとおり、延々と、氷の世界が広がってる。

水は緑色なのに。何故か雪や氷は薄紅色……というか、可愛らしいピンク色だった。
溶けると色が変わるのかな?

ピンクの雪、かき氷にしたら美味しそうかも……とか考えるだけで、震えが来る。
寒いときに寒い想像しちゃ駄目だな。余計寒くなる。


貧しさで、東や西の国に攻めて来るという、北の国の人たち。
確かにこんな環境じゃ動物も植物も育たないだろう。

氷しかない、極寒の地。


これは。
実際に来て、思い知ったけど。

交渉、ほんとに難しいんじゃないか?


†††


走っていたクロポメが足を止めた。


見ると、目の前には真っピンクの……城……?
これ、北の国のお城なんだよね?

西洋の城みたいな建物なんだけど。
なんだろう。この、全体的に漂ってくる、何とも言えない、いかがわしさは……。


だって。
どぎついピンク色したお城だよ!?

郊外にあるラブホみたい、とか言ったらダメかな。ダメだよな……。

はい、すみません!
小学生の時、お城だと思って親に入りたいってワガママ言ってごめんなさい!


『異世界より神使が召喚された。王を呼び、歓待せよ』
クロポメの渋い声が響き渡る。

いやいや、歓待は無理じゃないかな……?
と思いつつ待っていたら。


ギギ……と扉が開いて。
誰も出てこないので、クロポメも一緒に扉の内側へ入った。

寒いから、出てこないのだろうか。
っていうか、人がいるのかもわからない。


†††


中に入ったら、自動的に扉が閉まったんだけど。
灯りがついてないせいで、暗くて中がよく見えない。

ちょっと。
ここ、人の気配がないんですけど……!?

まさか、お化け屋敷とかじゃないよな?
廃墟だったりして。ひええ。


……あれ?

ここ、暖かくない?
というか、暑いくらいで。


カーン、と鐘の音がした。


アレだ。
残念でした、ってとき鳴るアレみたいな。


突然、パッと辺りが明るくなった。
眩しくて目が慣れない。

カツン、と音が聞こえた方を見れば。

金色の長い髪をなびかせた男が、中央にあった大きな階段を降りてきていた。
天井には、眩いばかりに輝く……。

シャ、シャンデリア!?


大階段を颯爽と降りて来る男の衣装は、宝塚みたいにゴージャスだった。
母ちゃんが大好きで観劇にも行ってるから知ってる。女性ばかりの劇団だ。

黒いスーツには、キラキラした飾りがいっぱいついていて。
薄い黄色の、大きな羽根を背負っている。

ん? 黒い服?
ってことは。

この人が、北の国の王様!?


†††


シトリンだっけ? 宝石みたいな黄色い目。
額にも同じ色の宝石。

肌の色は、黄土色って聞いたけど。
日焼けしたときの俺の肌の色と、そう変わりない感じだった。


たとえとかじゃなく、実際にキラキラと輝いてる美貌が俺を見て、微笑んだ。
まさにエンジェルスマイルだ。

男臭いジュセルとは対極にある、女性的な美しさだ。
この人が、黄のリュシエルだろう。

あ、言解の魔法……どう説明するかな。
と悩んでたら。


「ようこそ、北の国へ。僕はメンチュヘテプ・トト・アンク・リュシエル。黄のリュシエルだよ」
美しい微笑を浮かべて、リュシエルが言った。

あれ? 言葉が通じる……?

「ようこそ、北の国へ。僕はメンチュヘテプ・トト・アンク・リュシエル。黄のリュシエルだよ」

えっ?
何で同じことを?

「ようこそ、北の国へ。僕はメンチュヘテプ・トト・アンク・リュシエル。黄のリュシエルだよ」

えええ!?


「……な、何で、同じ言葉を三回も言ったの……?」


†††


「全部同じ言葉に聞こえたんだ? へえ、面白いな。僕は今、順に東、西、南の言葉で話したんだよ。ちなみに今は、南の言葉で話してるんだけど」
リュシエルは、驚いたように目を瞬かせた。

「すごい! 他の国の言葉を全部話せるんだ!?」

俺の言葉に。
リュシエルは柳眉をひそめた。

「いや、王は、他の国の言葉を全部話せるはずだよ……?」


そうだったの!?
……あ、そういえば、親書に書いてた文字、ちゃんとそれぞれ他国の言葉だったっけ。
西の国の文字はネフェルたんに”言解の魔法”をかけられるまで読めなかったし。南もそう。

……あれ?
魔法をかけなくても言葉がわかってたんなら、何でネフェルたんやジュセルは、わざわざ俺にあの魔法をかけたんだ?


いや、ジュセルの時はうっかり俺がねだっちゃったんだけどね!
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