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南の国の王

額の石の意味は

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見上げたら首が痛くなりそうなほど大きい南の王は、クロポメから降りた俺を見下ろして、にやりと笑った。
……うわあ、すごい男前だなあ。


南の王が口を開く前に、自分の額を指差した。
青と緑の石。

「”言解の魔法”、お願いします!」

南の王は、目を見開いて俺を見ている。
俺というか、額を。


「မင်းရဲရင့်တယ်။、」


え、何?


「うわっ、」
ひょい、と抱き上げられて。

すっぽりと、南の王の腕の中に納まってしまった。
大きいな!

間近で見ると、やはり迫力ある美形、というか男前だ。

くっきりした眉毛。高い鼻。
厚めの唇は、やや片方が上がってる。

苦笑した様子で、額をつつかれる。


今ので魔法がかかったようだ。
やっぱり、ここでもチューじゃなかった。

アレクってばもー。


†††


「自分から”言解の魔法ワーズ”をおねだりするとは、大胆な求婚者だな?」
声も迫力がある、低くて渋い声だ。

……って。
「求婚はしてないよ! あ、魔法ありがとう。言葉わかります。俺は中条麗人です。あの、東と西の国から、親書を預かってます!」


「……おれはカウラー・ケティ・アーク・イル・ジュセル。……赤のジュセルだ」
ジュセルは困惑顔だった。

「あのな。”言解の魔法”ってえのは元々、王族が他の国から伴侶を貰うときに使う魔法なんだぞ? これは、その印だ。気軽にかけていいものではないのだがな。黒いし、かわいいから構わんが。しかし、こんなたくさん伴侶がいるとは。こんな小さい身体で……大丈夫なのか?」

な。
何ですとー!?


「それ、初耳なんですけど!?」


†††


……そっか。

”言解の魔法”って。
伴侶のしるし、だったのか……。

そんな特別な魔法だとは知らなかったよ……。


思い返してみれば、この世界の人の中で、額に宝石がついてるのは王様だけだった。

王様と同じ色の宝石が、おそろいで額につけられる、ってことは。
それだけ特別な相手だってことなんだよな。

ああ……そりゃそうですよね……。

すごく納得しちゃった……。


純情BOYのネフェルたんは、よくわかってなかったことに賭けよう。
天然っぽいし。

うう。
何の経験もないのにビッチ扱いとか! 悲しすぎる。

おのれアレク! 何で教えといてくれないかな!

一発くらい叩いても、赦されると思う。
もちろん狙うのは顔じゃない。ボディだ、ボディ。

だって、あれほどの美形の顔をぶつなんて、もはや神への冒涜に等しいもん。


「……しかし、四国を周らねばならぬ特使なら、仕方ないのか。言葉を学ぶ時間も惜しいのだろうしな」
ジュセルは納得したように頷いている。


どうやら今回だけはイレギュラーで。
緊急性があったから仕方なかった、ってことで納得してくれたようだ。

北の国の王様も、それで納得してくれるといいな……。
いっそこの額、隠したいよ。


†††


「っていうか。あの、何で俺、担がれてるんです?」


気付けば俺は、ジュセルの左腕に腰かけたような状態で。
岩の塔にしか見えない砦の階段を上がっていた。

通路はわりと広くて、大きなジュセルの角とかもひっかからない程度に天井が高かった。
階段も、らせん状でゆるやかなものだった。

これくらいなら、俺の体力でも上がれそうだけど。


ジュセルはふ、と男臭い笑みを浮かべた。
「かように小さくか弱い神使殿に、足元の危険な通路なぞ歩かせられるわけがなかろう?」

見れば、岩肌がむきだしな通路だった。

確かに、転んだら怪我しそう。
そういえば俺は、うっかり階段から転げ落ちて骨折するドジっこ属性だった。


「そうなんだ。……ありがとう、ジュセル。優しいんだね?」

お礼を言ったら。
ジュセルの赤い顔が更に赤くなったのがわかった。

照れたんだ?
厳つい大男なのに、かわいいところもあるんだな。

ピコーン、俺のジュセルへの好感度が上がった! とか言って。


歩いてる途中で、暑いから上着を脱いでもいいかと聞いてみたら。

過ごしやすい、涼しい服を用意してくれるという。
もちろん、黒い布で。

助かる。
それなら、ありがたく着させてもらおう。


早くこれ脱ぎたい。


†††


南の国の王様の応接間はシンプルだった。

風が通るように、窓が大きく開いている。
窓っていうか穴? 岩場をくり抜いて作ったような部屋だし。

この世界にはガラスはないみたいで、今まで見た建物には雨戸っぽいのしかなかった。
ここは雨戸すらなさそうだけど。この国は雨も降らないのかな? 雲ができてもすぐ蒸発しちゃうとか?

外から、ぬるいけど風が入ってきてる。

上の階は風が入るせいか、比較的過ごしやすそうだ。
暑いには暑いんだけど。


家具のようなものはほぼ見当たらない。
黒と赤系の糸で織られた絨毯に、クッションみたいのが置いてあるので、そこに座った。

「これを着るといい」
「ありがと、」
黒い服を手渡された。

ジュセルの子供の頃の服だって? 一言余計だよもう。


「ところで、神使どのは一人で着替えが出来るのか? 我が手伝ってもいいが」
何でそんなやらしい笑みを浮かべるのかな。

一人で着替えられないほど子供じゃない。
複雑な構造の服だとわかんない可能性もあるけど。


「だ、大丈夫!」
たぶん。
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