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東の国の王
夢じゃなかった
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色は置いといて。
俺みたいなのは通常、異世界からきた稀人、と呼ばれる存在らしい。
この世界には、ごく稀に、異世界の物とか人間が流れて来ることがあるそうだ。
一部分でも黒い色を身体に持つ者が現れることは、その中でも更に少ないレアケースだという。
じゃあ、髪も目も服も黒かった俺ってば。
スーパーレアどころか、レジェンドレアクラスになるのか?
そんな理由で特別扱いされても、あんまり嬉しくない……。
†††
そして。
どうやら俺が最初にいたのは、”死の砂漠”と呼ばれている場所だったようだ。
この世界の人間は、死ぬと青い星型の砂になり、砂は海に流して弔うのが決まりなんだとか。
流した砂は、徐々に擦り減っていくので、千年ほど経てば自然に消えて無くなる、という。
嫌な予感、的中である。
ひええ。
巻貝の死骸どころか。俺ってば、人の遺骨? の上を歩いちゃってたよ!
死んだ時点で魂は天に上って生まれ変わるから、別に砂を踏んでも問題ないっていうけど。
あんまり気分の良いもんじゃないよな。
この世界は、四方を”大いなる壁”に囲まれた四つの王国と、大きな湖に囲まれた中央の土地に、天まで届くという神の棲む塔があって。
昔は四方を海に囲まれていたけど。今は大部分が死の砂漠に侵食されて、二つの海が青い砂に沈んでしまった、という話だ。
魔法の世界だというのに。世知辛いもんだ……。
「世知辛すぎる……。渋い設定の夢だなあ」
思わずため息が出てしまう。
あんまりリアルな感覚なんで、うっかり夢だってことを忘れそうになってしまったけど。
……これ、夢なんだよな?
夢なんだから、もっとほわほわした、ゆる~い世界でいいのに。
我ながら、妄想の才能でもあったのかもしれない。
俺の脳内とは思えない、トンデモファンタジーだ。
最近、そんな内容のラノベとか読んだっけ?
†††
「夢……?」
アレクは、目をぱちぱちと瞬かせた。
長い睫毛が瞬きするたびに、金粉が飛んできそう。
俺の妄想、どうなのよ。
美女じゃなくて、アラブの王子様……王様だけど、とんでもないイケメンに親切にされて、ドキドキしたい願望でもあったのだろうか?
己のセクシャリティについて考え直すべきか。
「夢だと思われたのですか? ここは、現実にある世界です。先ほど神馬も告げていたでしょう? あなたは異世界より召喚されてきた神使である、と」
夢のような美形の王様は、困ったような顔で言った。
……はい?
「神馬?」
って、ナニ?
「あなたをここまで導いた黒い馬のことですよ。あれが神馬です」
俺をここまで連れて来た……。
黒い……馬?
「えっ!? あれ、犬じゃないの!?」
窓から、おすわりした黒ポメが見える。かわいい。
自分の話題をされてることに気付いたのか、耳をぴるぴる動かした。めっちゃかわいい。
どう見ても、犬だよな?
それもポメラニアンだ。その大きさはともかく。
「いいえ、あれは馬です」
アレクは真顔で言った。
No, there is a horse。中学校の教科書の英文みたいである。
日常会話でそんな不自然なやり取り絶対しねえよ、とか思ってたけど。まさか実際にしてしまうなんて。
先生ごめんなさい。
あるんだね。「これはペンです」みたいなシュールな会話。
†††
「……はあ、馬なんですか……」
「ええ、馬です」
ヘー、ソーナンダー。
とりあえず納得しておこう。
まあいいか。
深く考えないことにしよう。
何しろ魔法があるような、ファンタジーな世界なのだから。
そりゃ、多少常識も違うだろう。
そもそも空がパステルピンクで太陽もないし。
死んだ人が青い星の砂になるようなとんでもない世界なのだから。
犬が馬で、言葉を話したとしても仕方ないのだ。それでいいのだ。
……って。
ちょっと待った。
「神馬って、しゃべれるの!?」
「ええ。我々も、神馬に呼ばれてあなたをお迎えにあがったのですよ」
アレクは頷いた。
あの遠吠えは、”異世界より神使が召喚された。王を呼び歓待せよ”と言っていたらしい。
渋い。言葉遣いが渋すぎる。
見た目はかわいいポメラニアンなのに。
「……で、誰が、ナニに召喚された、ナニの使いだって?」
できれば聞かなかったことにしたいんですけど!
「神が、ここではない異世界よりあなたを召喚なされたのは、紛れもない真実です。……その使命は、のちにわかるでしょう」
推しの強い美形は、にっこり笑った。
†††
これが夢じゃなく、異世界だというのは信じがたい話だけど。
ほっぺをつねっても目が覚めないし。痛いし。
夢じゃないようだ。
王様が協力的なのはありがたいよな。
旅の資金とか、初期装備とか、色々都合してくれそうだし。
アレクなら、どうのつるぎと100Gとかケチらないで、ドーンと100万Gくらい弾んでくれそうなイメージだ。
服装が石油王っぽいからかな?
RPGみたいに、コツコツとレベル上げとかフラグを立てていかないとシナリオが先に進まないのかもしれない。
黒ポメの時は、変なレベルアップ音みたいなのが聞こえたし。
もういっそ、ゲームみたいなもんだと考えてしまおう。
ゲームオーバーしたら、元の世界に帰れたりするのかな?
失敗したらリセット……できるといいなあ!
俺みたいなのは通常、異世界からきた稀人、と呼ばれる存在らしい。
この世界には、ごく稀に、異世界の物とか人間が流れて来ることがあるそうだ。
一部分でも黒い色を身体に持つ者が現れることは、その中でも更に少ないレアケースだという。
じゃあ、髪も目も服も黒かった俺ってば。
スーパーレアどころか、レジェンドレアクラスになるのか?
そんな理由で特別扱いされても、あんまり嬉しくない……。
†††
そして。
どうやら俺が最初にいたのは、”死の砂漠”と呼ばれている場所だったようだ。
この世界の人間は、死ぬと青い星型の砂になり、砂は海に流して弔うのが決まりなんだとか。
流した砂は、徐々に擦り減っていくので、千年ほど経てば自然に消えて無くなる、という。
嫌な予感、的中である。
ひええ。
巻貝の死骸どころか。俺ってば、人の遺骨? の上を歩いちゃってたよ!
死んだ時点で魂は天に上って生まれ変わるから、別に砂を踏んでも問題ないっていうけど。
あんまり気分の良いもんじゃないよな。
この世界は、四方を”大いなる壁”に囲まれた四つの王国と、大きな湖に囲まれた中央の土地に、天まで届くという神の棲む塔があって。
昔は四方を海に囲まれていたけど。今は大部分が死の砂漠に侵食されて、二つの海が青い砂に沈んでしまった、という話だ。
魔法の世界だというのに。世知辛いもんだ……。
「世知辛すぎる……。渋い設定の夢だなあ」
思わずため息が出てしまう。
あんまりリアルな感覚なんで、うっかり夢だってことを忘れそうになってしまったけど。
……これ、夢なんだよな?
夢なんだから、もっとほわほわした、ゆる~い世界でいいのに。
我ながら、妄想の才能でもあったのかもしれない。
俺の脳内とは思えない、トンデモファンタジーだ。
最近、そんな内容のラノベとか読んだっけ?
†††
「夢……?」
アレクは、目をぱちぱちと瞬かせた。
長い睫毛が瞬きするたびに、金粉が飛んできそう。
俺の妄想、どうなのよ。
美女じゃなくて、アラブの王子様……王様だけど、とんでもないイケメンに親切にされて、ドキドキしたい願望でもあったのだろうか?
己のセクシャリティについて考え直すべきか。
「夢だと思われたのですか? ここは、現実にある世界です。先ほど神馬も告げていたでしょう? あなたは異世界より召喚されてきた神使である、と」
夢のような美形の王様は、困ったような顔で言った。
……はい?
「神馬?」
って、ナニ?
「あなたをここまで導いた黒い馬のことですよ。あれが神馬です」
俺をここまで連れて来た……。
黒い……馬?
「えっ!? あれ、犬じゃないの!?」
窓から、おすわりした黒ポメが見える。かわいい。
自分の話題をされてることに気付いたのか、耳をぴるぴる動かした。めっちゃかわいい。
どう見ても、犬だよな?
それもポメラニアンだ。その大きさはともかく。
「いいえ、あれは馬です」
アレクは真顔で言った。
No, there is a horse。中学校の教科書の英文みたいである。
日常会話でそんな不自然なやり取り絶対しねえよ、とか思ってたけど。まさか実際にしてしまうなんて。
先生ごめんなさい。
あるんだね。「これはペンです」みたいなシュールな会話。
†††
「……はあ、馬なんですか……」
「ええ、馬です」
ヘー、ソーナンダー。
とりあえず納得しておこう。
まあいいか。
深く考えないことにしよう。
何しろ魔法があるような、ファンタジーな世界なのだから。
そりゃ、多少常識も違うだろう。
そもそも空がパステルピンクで太陽もないし。
死んだ人が青い星の砂になるようなとんでもない世界なのだから。
犬が馬で、言葉を話したとしても仕方ないのだ。それでいいのだ。
……って。
ちょっと待った。
「神馬って、しゃべれるの!?」
「ええ。我々も、神馬に呼ばれてあなたをお迎えにあがったのですよ」
アレクは頷いた。
あの遠吠えは、”異世界より神使が召喚された。王を呼び歓待せよ”と言っていたらしい。
渋い。言葉遣いが渋すぎる。
見た目はかわいいポメラニアンなのに。
「……で、誰が、ナニに召喚された、ナニの使いだって?」
できれば聞かなかったことにしたいんですけど!
「神が、ここではない異世界よりあなたを召喚なされたのは、紛れもない真実です。……その使命は、のちにわかるでしょう」
推しの強い美形は、にっこり笑った。
†††
これが夢じゃなく、異世界だというのは信じがたい話だけど。
ほっぺをつねっても目が覚めないし。痛いし。
夢じゃないようだ。
王様が協力的なのはありがたいよな。
旅の資金とか、初期装備とか、色々都合してくれそうだし。
アレクなら、どうのつるぎと100Gとかケチらないで、ドーンと100万Gくらい弾んでくれそうなイメージだ。
服装が石油王っぽいからかな?
RPGみたいに、コツコツとレベル上げとかフラグを立てていかないとシナリオが先に進まないのかもしれない。
黒ポメの時は、変なレベルアップ音みたいなのが聞こえたし。
もういっそ、ゲームみたいなもんだと考えてしまおう。
ゲームオーバーしたら、元の世界に帰れたりするのかな?
失敗したらリセット……できるといいなあ!
応援ありがとうございます!
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