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ツガイは異世界の王子
逃走する子猫と待ち受ける獅子
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「……む?」
胸に入れていた端末が作動している。
ナナミが一定距離を離れれば、報せるように設定したのだが。
試着室を見ると、ナナミはいなかった。
……逃げたのか?
何故だ。
先ほどまで、ああも楽しそうであったのに。
†††
……いや、そうではない。
この店に来てからは、不機嫌そうであった。
私と店員が勧めたのは、どれも女物の服であったことに気付いた。
着せていた服も、女物だ。
それに気付いて、己が女扱いされたと思い、怒ったのだろうか。
そうだ。
ナナミは、私に手酷く犯されても。痛みで気を失おうと。何をされようが、最後まで屈服しなかったのだ。
王族の如く、誇り高い男である。
女扱いされたのを、屈辱と受け取ったのだろう。
しかし。何も言わずに逃げることはないだろうに。
何故だ。何故、逃げた。
ナナミは、金物店に入ったようだ。
しかし、枷には私の印が刻まれている。
ここの者なら、それを見れば、まず手は出すまい。
断られたのだろう。
すぐに店を出て、市場の外へと向かっているようだ。
他の国へ、行こうとしているのか。
駄目だ。
逃がさない。
……居た。
ナナミの後ろ姿。
†††
「……どこへ行く?」
ナナミの腰を捕らえ。
引き寄せた。
「ドレスが嫌だったのなら、そう言え。逃げるな」
「俺は、女じゃない」
ああ。
やはり、そうであった。私はナナミの誇りを傷つけてしまったのだ。
「わかった。服も、ちゃんとしたのを用意させる」
手を握り、訴える。
「だから。逃げるな」
何故、黙って逃げたのだ。
嫌なら嫌だと言えば良いものを。言っても無駄だと思ったか?
私は話すら聞く耳も持たない、狭量な男だと?
……確かに、私はナナミを力づくで犯し、穢したが。
いくら悔いても、時間は戻せない。
私は己の愚行を心から謝罪した。ナナミはもう、赦してくれたのではなかったのか?
それは、私の思い違いであったか。
「女だとは思っていない。ただ、似合うと思ったから、」
「似合っても、着たくない」
ナナミは、とても怒っている。
こちらを向いてくれない。
「…………そうか」
このような場合、どうすれば良いのだろうか?
このような事態は初めてで。対処に困る。
†††
「面白いものを連れているな、ナミル」
「!?」
アサドか。
嫌なやつに目をつけられた。
急いで、ナナミを上着の中に隠した。
攫われてはかなわん。
「アサドか。何用だ?」
「何、ペトラの王が、美人を連れ歩いているときいてな。紹介してはくれないのか?」
「断る」
アサドは美しいものが好きで、後宮には何百人もの愛妾を囲っているという。
ナナミは美しい。
目をつけられては困る。だからこそ、顔を隠す服装を選んだというのに。
アサドは、何かに気付いたように上方を見た。
何だ?
つられて上を見たら。
「わ、」
隙をつかれ、ナナミを引っ張り出されてしまった。
アサドはナナミのニカーブを外し、興味深そうにナナミの顔を眺めている。
見られてしまった。
「アサド! 無礼な真似をするな、」
ナナミは、私の。
「こんな美しい人を、鎖で繋ぐ方が無礼ではないか?」
アサドはナナミの手首の枷と首の飾りを一瞥し、言った。
ひと目でわかったようだ。
それが、鎖で繋ぎ、拘束するためのものだと。
†††
「美しい方。助けが必要なら、この私でよろしければ、手をお貸ししますが?」
アサドはナナミの手を取り、微笑んだ。
優しそうに見えるが。その男は危険だ。
……それとも。
私の元にいるより、そちらを選ぶのか?
アサドは太陽のように美しい男だ。
敵とみなした者には容赦ないが、好みの相手には優しいとも聞く。
少なくとも、私のように鎖で繋いで、乱暴な真似などしないだろう。
「いえ、緊縛プレイ中ですので、お構いなく!」
ナナミは不快そうな顔をしてアサドから手を引き抜くと、私の後ろに慌てて隠れた。
緊縛プレイとは? どのような遊びだ?
「は、……ははは、面白い方だ。ナミルに飽きたら我が国へどうぞ。いつでも歓迎しますよ」
アサドは優雅に礼をしてみせ。
たてがみのような髪をなびかせ、呵呵と笑いながら去っていった。
「何だよあれ?」
「ペトラの隣国であるゲヘトの王、アサドだ。獅子に成る。あれは、おそろしい男だ」
ナナミは、私の服を掴んでしがみついている。
まるで毛を逆立てた猫のようだ。
そんなにあれが嫌だったか。惨い真似をした私よりも。
「あれに頼れば、私から逃げられたものを」
思わず苦笑してしまう。
ナナミは、今それに気付いたような顔をしたが。
しがみついていた手は、離さなかった。
†††
ナナミの好みで服を選び、何着か注文した。
布があれば自分で作る、というので。
あまり買ってやれなかった分、布を多く仕入れようと思った。
竜騎に乗り、城へ戻った。
城の傍にある工場を不思議そうに見ているので、あれは我が国の発明品で、莫大な富を産むものだと説明した。
すごいな、と他人事のように言うが。
王の所有物は、ツガイのものでもあるのだが。
竜騎から降りるのを、そのまま抱き上げて。
自室まで連れて行った。
寝台に下ろし、口付けをする。
「ん、……や、」
ナナミはびくりと肩を震わせた。
あれほど酷い事をしたのだ。
やはりまだ、私がおそろしいか?
胸に入れていた端末が作動している。
ナナミが一定距離を離れれば、報せるように設定したのだが。
試着室を見ると、ナナミはいなかった。
……逃げたのか?
何故だ。
先ほどまで、ああも楽しそうであったのに。
†††
……いや、そうではない。
この店に来てからは、不機嫌そうであった。
私と店員が勧めたのは、どれも女物の服であったことに気付いた。
着せていた服も、女物だ。
それに気付いて、己が女扱いされたと思い、怒ったのだろうか。
そうだ。
ナナミは、私に手酷く犯されても。痛みで気を失おうと。何をされようが、最後まで屈服しなかったのだ。
王族の如く、誇り高い男である。
女扱いされたのを、屈辱と受け取ったのだろう。
しかし。何も言わずに逃げることはないだろうに。
何故だ。何故、逃げた。
ナナミは、金物店に入ったようだ。
しかし、枷には私の印が刻まれている。
ここの者なら、それを見れば、まず手は出すまい。
断られたのだろう。
すぐに店を出て、市場の外へと向かっているようだ。
他の国へ、行こうとしているのか。
駄目だ。
逃がさない。
……居た。
ナナミの後ろ姿。
†††
「……どこへ行く?」
ナナミの腰を捕らえ。
引き寄せた。
「ドレスが嫌だったのなら、そう言え。逃げるな」
「俺は、女じゃない」
ああ。
やはり、そうであった。私はナナミの誇りを傷つけてしまったのだ。
「わかった。服も、ちゃんとしたのを用意させる」
手を握り、訴える。
「だから。逃げるな」
何故、黙って逃げたのだ。
嫌なら嫌だと言えば良いものを。言っても無駄だと思ったか?
私は話すら聞く耳も持たない、狭量な男だと?
……確かに、私はナナミを力づくで犯し、穢したが。
いくら悔いても、時間は戻せない。
私は己の愚行を心から謝罪した。ナナミはもう、赦してくれたのではなかったのか?
それは、私の思い違いであったか。
「女だとは思っていない。ただ、似合うと思ったから、」
「似合っても、着たくない」
ナナミは、とても怒っている。
こちらを向いてくれない。
「…………そうか」
このような場合、どうすれば良いのだろうか?
このような事態は初めてで。対処に困る。
†††
「面白いものを連れているな、ナミル」
「!?」
アサドか。
嫌なやつに目をつけられた。
急いで、ナナミを上着の中に隠した。
攫われてはかなわん。
「アサドか。何用だ?」
「何、ペトラの王が、美人を連れ歩いているときいてな。紹介してはくれないのか?」
「断る」
アサドは美しいものが好きで、後宮には何百人もの愛妾を囲っているという。
ナナミは美しい。
目をつけられては困る。だからこそ、顔を隠す服装を選んだというのに。
アサドは、何かに気付いたように上方を見た。
何だ?
つられて上を見たら。
「わ、」
隙をつかれ、ナナミを引っ張り出されてしまった。
アサドはナナミのニカーブを外し、興味深そうにナナミの顔を眺めている。
見られてしまった。
「アサド! 無礼な真似をするな、」
ナナミは、私の。
「こんな美しい人を、鎖で繋ぐ方が無礼ではないか?」
アサドはナナミの手首の枷と首の飾りを一瞥し、言った。
ひと目でわかったようだ。
それが、鎖で繋ぎ、拘束するためのものだと。
†††
「美しい方。助けが必要なら、この私でよろしければ、手をお貸ししますが?」
アサドはナナミの手を取り、微笑んだ。
優しそうに見えるが。その男は危険だ。
……それとも。
私の元にいるより、そちらを選ぶのか?
アサドは太陽のように美しい男だ。
敵とみなした者には容赦ないが、好みの相手には優しいとも聞く。
少なくとも、私のように鎖で繋いで、乱暴な真似などしないだろう。
「いえ、緊縛プレイ中ですので、お構いなく!」
ナナミは不快そうな顔をしてアサドから手を引き抜くと、私の後ろに慌てて隠れた。
緊縛プレイとは? どのような遊びだ?
「は、……ははは、面白い方だ。ナミルに飽きたら我が国へどうぞ。いつでも歓迎しますよ」
アサドは優雅に礼をしてみせ。
たてがみのような髪をなびかせ、呵呵と笑いながら去っていった。
「何だよあれ?」
「ペトラの隣国であるゲヘトの王、アサドだ。獅子に成る。あれは、おそろしい男だ」
ナナミは、私の服を掴んでしがみついている。
まるで毛を逆立てた猫のようだ。
そんなにあれが嫌だったか。惨い真似をした私よりも。
「あれに頼れば、私から逃げられたものを」
思わず苦笑してしまう。
ナナミは、今それに気付いたような顔をしたが。
しがみついていた手は、離さなかった。
†††
ナナミの好みで服を選び、何着か注文した。
布があれば自分で作る、というので。
あまり買ってやれなかった分、布を多く仕入れようと思った。
竜騎に乗り、城へ戻った。
城の傍にある工場を不思議そうに見ているので、あれは我が国の発明品で、莫大な富を産むものだと説明した。
すごいな、と他人事のように言うが。
王の所有物は、ツガイのものでもあるのだが。
竜騎から降りるのを、そのまま抱き上げて。
自室まで連れて行った。
寝台に下ろし、口付けをする。
「ん、……や、」
ナナミはびくりと肩を震わせた。
あれほど酷い事をしたのだ。
やはりまだ、私がおそろしいか?
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