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ツガイは異世界の王子
天上の市場
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「明日、市場を見に行くか?」
ナナミにこの世界を、案内してやろうと思った。
一人で歩かせるのはさらわれる恐れもあり危ないが、私が一緒ならば危険はないだろう。
この世界を知らないナナミに教えるなら、まず、市場を見るのが良いだろう。
どのようなものがどのような価格で流通しているかを見るのが、国を知る上で一番手っ取り早い手段である。
「市場?」
「欲しいものがあれば、何でも買ってやろう」
どのようなものが好みかも、知りたい。
物欲というものは、人となりを見るのにも適している。
「何があるんだろ……」
「色々だ」
ナナミは首を傾げて。
「ん、楽しみにしとく……おやすみ」
ナナミは私の腕の中で、すやすやと眠った。
安心しきった顔で。
虎の姿をした私の傍で、このように安心した顔を見せるとは。
人の姿でも、愛しいツガイを抱いて寝たいが。
それはまだ、早いだろう。
ひどく傷つけ、怯えさせてしまったのだから。
時間を戻せるなら、戻したいが。
それは不可能だ。
時間をかけて誠意を見せ、赦してもらうしかないだろう。
おやすみ。
私の可愛いナナミ。
†††
翌日。
ナナミを連れて、竜騎を繰り、市場へと向かった。
「なにこれ……」
ナナミはぽかんと口を開けて市場を見ていた。
「市場だ」
こんな大きな市場ははじめて見た、という。
無論、小さな市もあちこちで存在するのだが。
この市場は国と国の境にあり、最大の規模である。故に、何でも揃うとの評判だ。
しかし、美術品などは贋作もあり、目利きでないと損をする。
騙されるような見る目のない者が悪い、という場所である。
逆に、掘り出し物も多々存在する。
人によっては、財宝の山でもあるといえよう。
物の価値のわからぬうちは来てはならぬ、と。子供のうちは出入りを禁じられており、その日を待ちわびていたものだ。
……む、竜騎が28マーゴか。安いな。
しかし、年寄りのようだ。あれでは2年もつかどうかだな。
それでも元は取れるか? 肉も美味いしな。
マクランの苗木が1アルゴ、実は一つ30マーゴ?
ああ、今日は安売りの日だったか。
しかし今日はナナミのために来たのだ。
自分の買い物は控えよう。
ナナミは、こちらの物価を自分なりに計算しているようだ。
ふむ、商人のような暗算が出来るとは、賢いのだな。
見直した。
「紙と鉛筆って、いくらくらい?」
「紙はこのくらいのものが100枚で1ニア、鉛筆は2本で1ニアだ」
ナナミは紙が安いと驚いていた。
紙は、ここでは比較的安価である。木材など、材料が豊富にあるからだ。
あちらの世界では紙はかなり貴重品だったらしく、そのせいで過去、市場での取引で損をしたと聞いた。ゆえに、物を見る目を養わぬうちは出入りを禁止されていたのだ。
「紙と鉛筆が欲しいんだけど」
ああ。
絵を描くのだったか。
「わかった。あるだけ買おう」
そんなに沢山はいらない、と言われた。
慎ましいものだ。
財はあるのだ。店ごと買い取っても良いものを。
†††
画具店へ連れて行ったら、ナナミは目を輝かせた。
楽しそうな、嬉しそうな顔を見たかったので私も嬉しい。
顔料や染料を、興味深そうに見ている。
「そういえば、絵の学校へ通っていたらしいな。一通り買い揃えるか?」
どのような絵を描くのか、見てみたい。
「あ、俺は油絵とかじゃなくて、デザイン科のテキスタイル……えーと、洋服の模様とか考えるほうの学科だったんだ。実家が布屋で」
ナナミは私の服をつまみ、笑った。
「たとえば、こういう黒い布でも、織りを複雑にしてゴージャスにするとか。光が当たると模様が浮き出たりするとカッコイイだろ?」
「ほう」
面白い。
織りだけで、そのような加工が可能なのか。
ナナミは学校に通い、衣服の専門家を目指し学んでいたのか。
ならば、必要なものは総て揃えてやらねば。
「では、画材と、糸を一通り、あとは布の見本を買うとするか」
画具店では紙と鉛筆、色のついた鉛筆と顔料や染料を全色買い上げた。
生地店で様々な色や種類の糸、布を買った。
生糸と綿布、麻布は多めに。
ボタンも、宝石や貝で出来たものなど、一通り揃えてやる。
飛び交う金貨に。
ナナミはそんなにお金を遣わなくても、と青くなっていた。
商売を始めるのなら、このくらいの経費であれば安いものだが。
趣味だけでも良い。
もう、あちらへは戻れない身体にしたのだ。
私に出来る範囲であれば、望みは何でも叶えてやりたい。
ツガイには、快適に暮らしてほしいものである。
注文したものは、後で城に送り届けるよう申し付けた。
店主も大量注文にほくほく顔であった。
†††
次は、ナナミに普段着る服を買ってやろうと、衣服店へ連れて行った。
「これなどどうだろう?」
美しい身体の線がわかるような服を示したが。
ナナミは眉を寄せた。趣味に合わなかったか。
似合うだろうに、残念だ。
「こちらもよくお似合いかと」
店員は、大胆な切れ込みの入ったドレスを示した。
それを着たナナミを想像してみる。
……素晴らしいな。
「それもナナミには似合いそうだ」
むしろ何を着ても似合うに違いない。
一番は裸体のままだが。
「ご試着されますか?」
店員に訊かれ。
ナナミは頷いて、試着室へ入った。
着てくれるのか?
しかし、あの服を着た姿を他の者には見せたくない。
閨で着てくれれば嬉しいのだが。
ナナミにこの世界を、案内してやろうと思った。
一人で歩かせるのはさらわれる恐れもあり危ないが、私が一緒ならば危険はないだろう。
この世界を知らないナナミに教えるなら、まず、市場を見るのが良いだろう。
どのようなものがどのような価格で流通しているかを見るのが、国を知る上で一番手っ取り早い手段である。
「市場?」
「欲しいものがあれば、何でも買ってやろう」
どのようなものが好みかも、知りたい。
物欲というものは、人となりを見るのにも適している。
「何があるんだろ……」
「色々だ」
ナナミは首を傾げて。
「ん、楽しみにしとく……おやすみ」
ナナミは私の腕の中で、すやすやと眠った。
安心しきった顔で。
虎の姿をした私の傍で、このように安心した顔を見せるとは。
人の姿でも、愛しいツガイを抱いて寝たいが。
それはまだ、早いだろう。
ひどく傷つけ、怯えさせてしまったのだから。
時間を戻せるなら、戻したいが。
それは不可能だ。
時間をかけて誠意を見せ、赦してもらうしかないだろう。
おやすみ。
私の可愛いナナミ。
†††
翌日。
ナナミを連れて、竜騎を繰り、市場へと向かった。
「なにこれ……」
ナナミはぽかんと口を開けて市場を見ていた。
「市場だ」
こんな大きな市場ははじめて見た、という。
無論、小さな市もあちこちで存在するのだが。
この市場は国と国の境にあり、最大の規模である。故に、何でも揃うとの評判だ。
しかし、美術品などは贋作もあり、目利きでないと損をする。
騙されるような見る目のない者が悪い、という場所である。
逆に、掘り出し物も多々存在する。
人によっては、財宝の山でもあるといえよう。
物の価値のわからぬうちは来てはならぬ、と。子供のうちは出入りを禁じられており、その日を待ちわびていたものだ。
……む、竜騎が28マーゴか。安いな。
しかし、年寄りのようだ。あれでは2年もつかどうかだな。
それでも元は取れるか? 肉も美味いしな。
マクランの苗木が1アルゴ、実は一つ30マーゴ?
ああ、今日は安売りの日だったか。
しかし今日はナナミのために来たのだ。
自分の買い物は控えよう。
ナナミは、こちらの物価を自分なりに計算しているようだ。
ふむ、商人のような暗算が出来るとは、賢いのだな。
見直した。
「紙と鉛筆って、いくらくらい?」
「紙はこのくらいのものが100枚で1ニア、鉛筆は2本で1ニアだ」
ナナミは紙が安いと驚いていた。
紙は、ここでは比較的安価である。木材など、材料が豊富にあるからだ。
あちらの世界では紙はかなり貴重品だったらしく、そのせいで過去、市場での取引で損をしたと聞いた。ゆえに、物を見る目を養わぬうちは出入りを禁止されていたのだ。
「紙と鉛筆が欲しいんだけど」
ああ。
絵を描くのだったか。
「わかった。あるだけ買おう」
そんなに沢山はいらない、と言われた。
慎ましいものだ。
財はあるのだ。店ごと買い取っても良いものを。
†††
画具店へ連れて行ったら、ナナミは目を輝かせた。
楽しそうな、嬉しそうな顔を見たかったので私も嬉しい。
顔料や染料を、興味深そうに見ている。
「そういえば、絵の学校へ通っていたらしいな。一通り買い揃えるか?」
どのような絵を描くのか、見てみたい。
「あ、俺は油絵とかじゃなくて、デザイン科のテキスタイル……えーと、洋服の模様とか考えるほうの学科だったんだ。実家が布屋で」
ナナミは私の服をつまみ、笑った。
「たとえば、こういう黒い布でも、織りを複雑にしてゴージャスにするとか。光が当たると模様が浮き出たりするとカッコイイだろ?」
「ほう」
面白い。
織りだけで、そのような加工が可能なのか。
ナナミは学校に通い、衣服の専門家を目指し学んでいたのか。
ならば、必要なものは総て揃えてやらねば。
「では、画材と、糸を一通り、あとは布の見本を買うとするか」
画具店では紙と鉛筆、色のついた鉛筆と顔料や染料を全色買い上げた。
生地店で様々な色や種類の糸、布を買った。
生糸と綿布、麻布は多めに。
ボタンも、宝石や貝で出来たものなど、一通り揃えてやる。
飛び交う金貨に。
ナナミはそんなにお金を遣わなくても、と青くなっていた。
商売を始めるのなら、このくらいの経費であれば安いものだが。
趣味だけでも良い。
もう、あちらへは戻れない身体にしたのだ。
私に出来る範囲であれば、望みは何でも叶えてやりたい。
ツガイには、快適に暮らしてほしいものである。
注文したものは、後で城に送り届けるよう申し付けた。
店主も大量注文にほくほく顔であった。
†††
次は、ナナミに普段着る服を買ってやろうと、衣服店へ連れて行った。
「これなどどうだろう?」
美しい身体の線がわかるような服を示したが。
ナナミは眉を寄せた。趣味に合わなかったか。
似合うだろうに、残念だ。
「こちらもよくお似合いかと」
店員は、大胆な切れ込みの入ったドレスを示した。
それを着たナナミを想像してみる。
……素晴らしいな。
「それもナナミには似合いそうだ」
むしろ何を着ても似合うに違いない。
一番は裸体のままだが。
「ご試着されますか?」
店員に訊かれ。
ナナミは頷いて、試着室へ入った。
着てくれるのか?
しかし、あの服を着た姿を他の者には見せたくない。
閨で着てくれれば嬉しいのだが。
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