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王様はホワイトタイガー
プライドと脱走
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『では、画材と、糸を一通り。あとは布の見本を買うとするか』
「え?」
いや、確かに欲しいものだけど。
紙と鉛筆だけで充分……。
ナミル王は止める暇もなく、何なの? 布関係の商売でも始めるつもりなの? くらいの勢いで、大量の注文をしていた。
王様のお買い物は派手だった。
竜騎が何匹か……いや、何頭か? 買えそうな単位の金が飛んでいくのを、目の前で見てしまった……。
あと、驚いたのが、マクランの実の値段だ。
苗木が1アルゴで、実は一個30マーゴで売ってた。約三千万!?
竜騎より高いじゃないか。
あの実、そんなにするもんだったの!? その効果を考えたら、高いのも納得な気もするけど。
そんな高価なものを、見も知らない異世界人に食べさせたのか。
ギャンブラーすぎる。
考えてみたら、あの時。
最初にいた、あの拷問部屋みたいなところで。ちらちらこっちを見ながら何か話し合ってたの、俺にこの実を食べさせてみるかどうかで家臣ともめてたんだろうな……。
俺なら反対する。
そういえば、俺がここに来る前に着ていた服とか、どうしたんだろう。気が付いたら別の服を着せられてたけど。
竜巻にもまれて脱げちゃったのかな?
†††
『ペトラ王だ』
『え、本物か?』
他のお客さんたちがこっちを見て、ざわざわしてる。
ペトラの若き王、ナミル。
そう噂をしているのが聞こえる。有名なのかな?
服で隠れて、耳もしっぽも見えてないのに。
頭の布を押さえてる金の紐は、王族しかつけられないのは、こっちでも同じだとか?
やっぱり王様だからなのか、すごい注目を浴びている。
お忍びで、護衛のひとりもつけずに市場に来てるのって不用心じゃないのか? と今さらになって思った。
護衛がいらないほど強いのか? 完全に、虎の姿になれるんだし。
『隣の女性は、どこの姫だ?』
って。
俺は女性じゃないし、姫でもないっての。
……やっぱこれ、女物の服なのか?
だよな。
認めたくなかったけど。
これ、アバヤじゃないか!
顔が隠れてるからいいか。
いやよくない。
ナミル王の格好、カンドゥーラにビシュトを羽織って、頭にはクーフィーヤ、金のイカールのあたりでそうじゃないかな、ってわかってたけど!
異世界だから服とかは向こうと違うのかも、と期待した俺が馬鹿だった。
昔から、名字だけじゃなく、名前のことでも散々からかわれた。
女の子みたいな名前だし、顔も男っぽくないからって。
小中高は教育委員会にこれはいじめと同じだと圧力掛けて。大学の文化祭でもどうにか逃げきったのに。
とうとう、女装させられてしまった……。
『こちらも、よくお似合いかと』
と言いながら店員が出したのは、露出が多そうなドレスだった。完全に女物だ。
『それもナナミには似合いそうだ』
頷いてんじゃねえよ。
そんなの、絶対に着ないからな?
こいつ、やることやっといて、俺が男だってわかってるのに。
女の格好させたいとか、何なんだよ。
俺のこと、女みたいに思ってるのか?
抱かれる方だし。
なんか腹が立ってきた。
†††
『ご試着されますか?』
頷いて、試着室に入ったふりをして。
服は試着室に置き、店からこっそり出て。
ナミル王から、逃げた。
人ごみの中だ。
すぐには見つからないだろう。
この手枷や首輪を売れば、いくらかの路銀にはなるだろうか?
服も売り払うか。高級品っぽいし、高く売れそう。
……とにかく、こんなもの。
今すぐ外してしまいたい。不愉快だ。
金物を扱ってる店に飛び込んで。
「これ、外せますか?」
首輪を見せたら。
店主はみるからに真っ青になった。
『ご冗談を!』
早く帰ってくれ、と追い出されてしまった。
首輪をつけた女? なんて、見るからに怪しいか。
……仕方ない。
とにかく、早い内にここから逃げ出さないと。
見つかってしまう前に。
とりあえず、他の国に行ってみるか?
卵とか野菜を売ってたのは、隣の国の人みたいだった。
食べ物が豊富な国なら、そう荒れてもいないだろうし、大丈夫だろう。
よし。
『……どこへ行く?』
腰に、手を回された。
この声は。
『ドレスが嫌だったのなら、そう言え。黙って逃げるな』
そう言って。
後ろから、抱き締められた。
†††
……何だよ。
嫌だったの、気付いてたのか。
「俺は、女じゃない」
『わかった。服も、ちゃんとしたのを用意させる。だから』
逃げるな、と。
しっかりと、手を掴まれた。
逃走して数分で、捕まってしまった……。
嘘だろ。
首輪に、GPSみたいの仕込んであるって?
そんなの聞いてないし……。
そこまで科学が発達してたのかよ。砂の国の科学力、舐めすぎてた……。
ナミル王の横顔を見るまでもなく。
空気でわかる。
怒ってる。
すごい怒ってる。
黙って逃げたのが悪い?
いや、俺は悪くない。絶対、謝らないからな。
俺だって、怒ってるんだからな。
勝手に人のこと捕まえて。手や足を拘束されて、閉じ込められて。
血を見るくらい、めちゃくちゃに犯されたんだから。
そんな扱いをされたら。
普通、逃げるのが当たり前だと思う。
『女のようだと思ったわけではない。ただ、似合うと思ったから、』
「似合ってても、女物の服は着たくない」
『…………そうか』
そんな、悲しそうな声出しても。
俺は絶対、女物の服なんか着ないからな?
「え?」
いや、確かに欲しいものだけど。
紙と鉛筆だけで充分……。
ナミル王は止める暇もなく、何なの? 布関係の商売でも始めるつもりなの? くらいの勢いで、大量の注文をしていた。
王様のお買い物は派手だった。
竜騎が何匹か……いや、何頭か? 買えそうな単位の金が飛んでいくのを、目の前で見てしまった……。
あと、驚いたのが、マクランの実の値段だ。
苗木が1アルゴで、実は一個30マーゴで売ってた。約三千万!?
竜騎より高いじゃないか。
あの実、そんなにするもんだったの!? その効果を考えたら、高いのも納得な気もするけど。
そんな高価なものを、見も知らない異世界人に食べさせたのか。
ギャンブラーすぎる。
考えてみたら、あの時。
最初にいた、あの拷問部屋みたいなところで。ちらちらこっちを見ながら何か話し合ってたの、俺にこの実を食べさせてみるかどうかで家臣ともめてたんだろうな……。
俺なら反対する。
そういえば、俺がここに来る前に着ていた服とか、どうしたんだろう。気が付いたら別の服を着せられてたけど。
竜巻にもまれて脱げちゃったのかな?
†††
『ペトラ王だ』
『え、本物か?』
他のお客さんたちがこっちを見て、ざわざわしてる。
ペトラの若き王、ナミル。
そう噂をしているのが聞こえる。有名なのかな?
服で隠れて、耳もしっぽも見えてないのに。
頭の布を押さえてる金の紐は、王族しかつけられないのは、こっちでも同じだとか?
やっぱり王様だからなのか、すごい注目を浴びている。
お忍びで、護衛のひとりもつけずに市場に来てるのって不用心じゃないのか? と今さらになって思った。
護衛がいらないほど強いのか? 完全に、虎の姿になれるんだし。
『隣の女性は、どこの姫だ?』
って。
俺は女性じゃないし、姫でもないっての。
……やっぱこれ、女物の服なのか?
だよな。
認めたくなかったけど。
これ、アバヤじゃないか!
顔が隠れてるからいいか。
いやよくない。
ナミル王の格好、カンドゥーラにビシュトを羽織って、頭にはクーフィーヤ、金のイカールのあたりでそうじゃないかな、ってわかってたけど!
異世界だから服とかは向こうと違うのかも、と期待した俺が馬鹿だった。
昔から、名字だけじゃなく、名前のことでも散々からかわれた。
女の子みたいな名前だし、顔も男っぽくないからって。
小中高は教育委員会にこれはいじめと同じだと圧力掛けて。大学の文化祭でもどうにか逃げきったのに。
とうとう、女装させられてしまった……。
『こちらも、よくお似合いかと』
と言いながら店員が出したのは、露出が多そうなドレスだった。完全に女物だ。
『それもナナミには似合いそうだ』
頷いてんじゃねえよ。
そんなの、絶対に着ないからな?
こいつ、やることやっといて、俺が男だってわかってるのに。
女の格好させたいとか、何なんだよ。
俺のこと、女みたいに思ってるのか?
抱かれる方だし。
なんか腹が立ってきた。
†††
『ご試着されますか?』
頷いて、試着室に入ったふりをして。
服は試着室に置き、店からこっそり出て。
ナミル王から、逃げた。
人ごみの中だ。
すぐには見つからないだろう。
この手枷や首輪を売れば、いくらかの路銀にはなるだろうか?
服も売り払うか。高級品っぽいし、高く売れそう。
……とにかく、こんなもの。
今すぐ外してしまいたい。不愉快だ。
金物を扱ってる店に飛び込んで。
「これ、外せますか?」
首輪を見せたら。
店主はみるからに真っ青になった。
『ご冗談を!』
早く帰ってくれ、と追い出されてしまった。
首輪をつけた女? なんて、見るからに怪しいか。
……仕方ない。
とにかく、早い内にここから逃げ出さないと。
見つかってしまう前に。
とりあえず、他の国に行ってみるか?
卵とか野菜を売ってたのは、隣の国の人みたいだった。
食べ物が豊富な国なら、そう荒れてもいないだろうし、大丈夫だろう。
よし。
『……どこへ行く?』
腰に、手を回された。
この声は。
『ドレスが嫌だったのなら、そう言え。黙って逃げるな』
そう言って。
後ろから、抱き締められた。
†††
……何だよ。
嫌だったの、気付いてたのか。
「俺は、女じゃない」
『わかった。服も、ちゃんとしたのを用意させる。だから』
逃げるな、と。
しっかりと、手を掴まれた。
逃走して数分で、捕まってしまった……。
嘘だろ。
首輪に、GPSみたいの仕込んであるって?
そんなの聞いてないし……。
そこまで科学が発達してたのかよ。砂の国の科学力、舐めすぎてた……。
ナミル王の横顔を見るまでもなく。
空気でわかる。
怒ってる。
すごい怒ってる。
黙って逃げたのが悪い?
いや、俺は悪くない。絶対、謝らないからな。
俺だって、怒ってるんだからな。
勝手に人のこと捕まえて。手や足を拘束されて、閉じ込められて。
血を見るくらい、めちゃくちゃに犯されたんだから。
そんな扱いをされたら。
普通、逃げるのが当たり前だと思う。
『女のようだと思ったわけではない。ただ、似合うと思ったから、』
「似合ってても、女物の服は着たくない」
『…………そうか』
そんな、悲しそうな声出しても。
俺は絶対、女物の服なんか着ないからな?
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