7 / 38
王様はホワイトタイガー
ふわふわもふもふに絆される
しおりを挟む
『ナナミ!!』
力強い腕に、引き起こされて。
水を吐かされた。
「げほっ、」
鼻が痛い。涙出てきた。
『ナナミ、大丈夫かナナミ。……死んでしまうかと……』
ぎゅっと抱き締められて。
ナミル王の肩が震えているのがわかった。
え?
嘘だろ。泣いてるのか?
……うわ、イケメンが台無しなレベルで泣いてる……。
どうしようこれ。
べったりくっつかれて、剥がれないし。
めちゃくちゃ泣いてるし。
「ナミル王……?」
ナミル王は、涙をぼろぼろ流しながら、驚いたように俺を見て。
『初めて、私の名を呼んでくれたな』
にっこりと全開の笑顔を浮かべた。
もしかして。
思ったよりもこの人、若いんじゃないか? と思った。
†††
訊けばナミル王は、17歳だった。
生まれて初めての”発情”で、我を忘れてしまい、すまなかった。
と謝られた。
嘘だろ。年下だったのか……。
こんなでかいのに?
名前を呼んだだけで、嬉しい嬉しいとゴロゴロしてくる大きな男を見てたら、何か色々どうでもよくなってきた。
獣人というか。半分、動物みたいなもんだし。
子供なら、仕方ないか……とまで思えてきた。
泣いて謝ってきたわけだし。
完全な虎の姿にもなれる、というので、虎になってみてもらったんだけど。
顎の下の毛とか腹の毛とか、思ったよりふわふわして気持ち良かった。
すりすりと懐いてくる虎が、こんなに可愛いとは。
ああ、デッサンしたい。でも今はただひたすら撫でたい。
駄目だ、完全にほだされてる。
だって真っ白に黒い縞模様の入った毛皮がふかふかでモフモフだし。すごい手触りいいし。可愛いんだから仕方ない。
男の胸毛だと思うと嫌だけど虎の胸毛はもふもふしてて可愛い。
目は、人間の時と同じアイスブルーか。
喉の毛、やわらかくてふわふわだ。……虎の喉も、ゴロゴロ鳴るんだな。
手、おっきいな。肉球もでっかい。ああ、爪は猫みたいに仕舞えないんだ。
お育ちがいいからか、獣臭くない。
いい匂いがする。
†††
『ナナミは、この姿の私の方が好きなのか?』
虎が首を傾げた。
どうやってしゃべってんだろ。
声は聞こえてるけど、口を見ても、言葉を話してるような動きじゃないから、超能力みたいなものかな?
「好きというか。可愛いのは間違いなくこっちだな」
『可愛いとは……』
ああ、しょぼんとしてる虎。
可愛い……。
思わずぎゅっと抱き締めてしまう。
3メートル以上の大きさの虎とか、普通は襲われる心配とかあって恐いんだろうけど。
元は人だとわかってれば大丈夫というか。
……いや俺、その元の人に朝方までめちゃくちゃ酷い真似されてたんだけど。もうどうでもいい。かわいいモフモフは何にも勝る正義なのだ。
『ああ、そうだ。ナナミ。いくらでも謝罪する。食事はちゃんと摂って欲しい。ナナミが死んだら、悲しい』
大きな虎の頭が、俺の胸元をすりすりと寄せてくる。んもー、このおねだり上手!
「わかった、食べる」
尊大な王様の命令は絶対きかなくても、可愛い虎のお願いなら素直に聞いてしまう俺だった。
だって、モフモフしてて、可愛いし。
『よかった。……ラムジ、ナナミに食事を』
『はっ、』
大きな台車を引いた男が入って来て、絨毯の上に直接皿を並べた。
来るのがやたら早いな。
近くでスタンバイでもしてたのか?
配膳係の人たちは、白虎姿になっているナミル王を見て、ぎょっとしていた。
……あの人らも、虎人間なのか……?
ここの人、みんな頭に布被ってひらひらした服着てるから、虎耳やしっぽついててもわからないけど。
『それでは、食事をするか』
ナミル王は、ヒト型に戻ってしまっていた。
物凄くがっかりしたが。
服を身に着けながら、俺に言った。
『食事の仕方は、私の真似をするといい』
ああ、そうか。
確かに、正式な食べ方がよくわからなかった。床に皿を置いて食べるのはインド風なのかな? パキスタン風?
案外、優しいところもあるのかもしれない。
動物にしては。
†††
指、長いな。
それに、器用に動く。
ナミル王は、自分の食事の仕方を参考にするよう、人型になって胡坐をかき、食事をしている。
普段よりはゆっくりしてくれているようだが。
これが、なかなか難しい。
まず、床に座って手掴み、という食事の仕方に驚くけど。そういう地方もあるんだろう。
確か、ベリーダンスを見せる店ではそうだった。食べきれないくらいの量を出されるんだよな……。それはここも同じみたいだ。
残した分は、使用人が食べるそうだ。
点滴の道具とかもあったし、金属が無いわけでもないのに。スプーンとかフォークは使わないのか?
食事の作法は、竜巻によって飛ばされてきた当時の伝統に従ってるとか?
しかし、胡坐で手掴みなのに、優雅に見えるんだからすごいな。
王様だからか?
「ああ、」
俺の場合、ライスのつまみ方が下手なのか、ぽろぽろと零してしまう。
スプーン欲しい。っていうか箸をくれ箸。
郷に入れば郷に従え? 知るかよ。お箸の国の人だもん、俺。
『ほら、』
ナミル王は、辛そうな色をしたライスを綺麗に指先で取って。
口元へ運ばれる。
あ。……美味い。
スパイシーな匂いはするのに、味はそれほどきつくない。
俺の身体を気遣ったのかな?
『美味いか?』
「うん、」
すごいニコニコしてるし。
嬉しそうだな、王様。
†††
何だか、毒気が抜かれる。
昨日はあんなにトゲトゲしてたのが嘘みたいだ。
発情期とやらで、苛立ってたのか?
昨日もこんな感じだったら、俺もあんなに反抗しなかった……と思うけど。
ニッコニコな王様を見て、まるで見てはいけないものを見てしまったような顔をしてる給仕の人たち。
ということは。
普段はこうじゃない、ってことか。
今気付いたけど。
俺が着てる服、他の人のと違う気がする。
ナミル王と同じ色だけど、なんか生地が薄いような。
形もなんか、妙に体型に沿ってるような。まさか、女物だったり?
『もっと食べた方がいい。これも、美味いぞ』
勧められるまま、思わず食べてしまう。
本当に美味いし。
力強い腕に、引き起こされて。
水を吐かされた。
「げほっ、」
鼻が痛い。涙出てきた。
『ナナミ、大丈夫かナナミ。……死んでしまうかと……』
ぎゅっと抱き締められて。
ナミル王の肩が震えているのがわかった。
え?
嘘だろ。泣いてるのか?
……うわ、イケメンが台無しなレベルで泣いてる……。
どうしようこれ。
べったりくっつかれて、剥がれないし。
めちゃくちゃ泣いてるし。
「ナミル王……?」
ナミル王は、涙をぼろぼろ流しながら、驚いたように俺を見て。
『初めて、私の名を呼んでくれたな』
にっこりと全開の笑顔を浮かべた。
もしかして。
思ったよりもこの人、若いんじゃないか? と思った。
†††
訊けばナミル王は、17歳だった。
生まれて初めての”発情”で、我を忘れてしまい、すまなかった。
と謝られた。
嘘だろ。年下だったのか……。
こんなでかいのに?
名前を呼んだだけで、嬉しい嬉しいとゴロゴロしてくる大きな男を見てたら、何か色々どうでもよくなってきた。
獣人というか。半分、動物みたいなもんだし。
子供なら、仕方ないか……とまで思えてきた。
泣いて謝ってきたわけだし。
完全な虎の姿にもなれる、というので、虎になってみてもらったんだけど。
顎の下の毛とか腹の毛とか、思ったよりふわふわして気持ち良かった。
すりすりと懐いてくる虎が、こんなに可愛いとは。
ああ、デッサンしたい。でも今はただひたすら撫でたい。
駄目だ、完全にほだされてる。
だって真っ白に黒い縞模様の入った毛皮がふかふかでモフモフだし。すごい手触りいいし。可愛いんだから仕方ない。
男の胸毛だと思うと嫌だけど虎の胸毛はもふもふしてて可愛い。
目は、人間の時と同じアイスブルーか。
喉の毛、やわらかくてふわふわだ。……虎の喉も、ゴロゴロ鳴るんだな。
手、おっきいな。肉球もでっかい。ああ、爪は猫みたいに仕舞えないんだ。
お育ちがいいからか、獣臭くない。
いい匂いがする。
†††
『ナナミは、この姿の私の方が好きなのか?』
虎が首を傾げた。
どうやってしゃべってんだろ。
声は聞こえてるけど、口を見ても、言葉を話してるような動きじゃないから、超能力みたいなものかな?
「好きというか。可愛いのは間違いなくこっちだな」
『可愛いとは……』
ああ、しょぼんとしてる虎。
可愛い……。
思わずぎゅっと抱き締めてしまう。
3メートル以上の大きさの虎とか、普通は襲われる心配とかあって恐いんだろうけど。
元は人だとわかってれば大丈夫というか。
……いや俺、その元の人に朝方までめちゃくちゃ酷い真似されてたんだけど。もうどうでもいい。かわいいモフモフは何にも勝る正義なのだ。
『ああ、そうだ。ナナミ。いくらでも謝罪する。食事はちゃんと摂って欲しい。ナナミが死んだら、悲しい』
大きな虎の頭が、俺の胸元をすりすりと寄せてくる。んもー、このおねだり上手!
「わかった、食べる」
尊大な王様の命令は絶対きかなくても、可愛い虎のお願いなら素直に聞いてしまう俺だった。
だって、モフモフしてて、可愛いし。
『よかった。……ラムジ、ナナミに食事を』
『はっ、』
大きな台車を引いた男が入って来て、絨毯の上に直接皿を並べた。
来るのがやたら早いな。
近くでスタンバイでもしてたのか?
配膳係の人たちは、白虎姿になっているナミル王を見て、ぎょっとしていた。
……あの人らも、虎人間なのか……?
ここの人、みんな頭に布被ってひらひらした服着てるから、虎耳やしっぽついててもわからないけど。
『それでは、食事をするか』
ナミル王は、ヒト型に戻ってしまっていた。
物凄くがっかりしたが。
服を身に着けながら、俺に言った。
『食事の仕方は、私の真似をするといい』
ああ、そうか。
確かに、正式な食べ方がよくわからなかった。床に皿を置いて食べるのはインド風なのかな? パキスタン風?
案外、優しいところもあるのかもしれない。
動物にしては。
†††
指、長いな。
それに、器用に動く。
ナミル王は、自分の食事の仕方を参考にするよう、人型になって胡坐をかき、食事をしている。
普段よりはゆっくりしてくれているようだが。
これが、なかなか難しい。
まず、床に座って手掴み、という食事の仕方に驚くけど。そういう地方もあるんだろう。
確か、ベリーダンスを見せる店ではそうだった。食べきれないくらいの量を出されるんだよな……。それはここも同じみたいだ。
残した分は、使用人が食べるそうだ。
点滴の道具とかもあったし、金属が無いわけでもないのに。スプーンとかフォークは使わないのか?
食事の作法は、竜巻によって飛ばされてきた当時の伝統に従ってるとか?
しかし、胡坐で手掴みなのに、優雅に見えるんだからすごいな。
王様だからか?
「ああ、」
俺の場合、ライスのつまみ方が下手なのか、ぽろぽろと零してしまう。
スプーン欲しい。っていうか箸をくれ箸。
郷に入れば郷に従え? 知るかよ。お箸の国の人だもん、俺。
『ほら、』
ナミル王は、辛そうな色をしたライスを綺麗に指先で取って。
口元へ運ばれる。
あ。……美味い。
スパイシーな匂いはするのに、味はそれほどきつくない。
俺の身体を気遣ったのかな?
『美味いか?』
「うん、」
すごいニコニコしてるし。
嬉しそうだな、王様。
†††
何だか、毒気が抜かれる。
昨日はあんなにトゲトゲしてたのが嘘みたいだ。
発情期とやらで、苛立ってたのか?
昨日もこんな感じだったら、俺もあんなに反抗しなかった……と思うけど。
ニッコニコな王様を見て、まるで見てはいけないものを見てしまったような顔をしてる給仕の人たち。
ということは。
普段はこうじゃない、ってことか。
今気付いたけど。
俺が着てる服、他の人のと違う気がする。
ナミル王と同じ色だけど、なんか生地が薄いような。
形もなんか、妙に体型に沿ってるような。まさか、女物だったり?
『もっと食べた方がいい。これも、美味いぞ』
勧められるまま、思わず食べてしまう。
本当に美味いし。
20
お気に入りに追加
587
あなたにおすすめの小説
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。
みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。
事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。
婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。
いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに?
速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす!
てんやわんやな未来や、いかに!?
明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪
※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる