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王様はホワイトタイガー
ゆずれない想い
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「……あのアホ王は?」
この部屋、他に、人はいないようだが。
『あ、あほだなんて。家臣の方々に聞かれたら殺されちゃいますよ!?』
回復魔法の人は、あわあわと周りを気にしながら、真っ青になった。
どうやらナミル王は相当なカリスマらしく、臣下からは慕われているようだ。
えー。あんな人格クソなのに?
「その方がいいかもな。あの最低最悪のエロ王の言いなりにされるくらいなら、死んだほうがマシだ」
『そんな。陛下は、とても落ち込まれていたのですよ。それで、わたしに急ぎ、治療を命じたのです』
俯いている。
命じられたって?
結局、人任せじゃないか。全然反省してるように思えない。
†††
「あんたが治療したなら。俺があの鬼畜エロ王に何をされたか、わかってるだろ?」
あんなの、拷問だ。
権力が駄目なら、暴力で。
強引にいうことをきかせようなんていうやつ、俺は許せない。
『…………』
回復魔法の人は、しばらく黙り込んで。
『惨いことを、と思いました。……心より、お詫び申し上げます』
手を取られて、額をつけた。
それはこの世界での、謝罪のしるしらしいが。
「あんたがやったわけじゃないし、あんたに謝られても困る」
『いえ、わたしが治してしまうので、少々無茶をしても大丈夫だとお考えになっていた節がありまして……』
「治れば傷付けてもいいって考え方も嫌いだ」
傷付けられたほうは、その痛みを覚えているし。忘れないからな。
『ええ、あ、あの、いいえ、』
おろおろしている。
この人のよさそうな青年を困らせても仕方ないか。この人が悪いわけじゃないし。
「……名前は?」
『あ、すみません。申し遅れました。わたしは王宮医師のサラーム・ムラトというものです』
俺の名前は、昨日聞いたか。
「あ、王子っていうのは名字で、王子七海って名前だから」
『えっ、王子ではなかったのですか!? そんなに凛々しく高潔であられるのに!?』
サラームは飛び上がらんばかりに驚いていた。
凛々しい……高潔……? 俺がか?
単に、死ぬほど意固地なだけだと思う。
気に入らないことは、死んでも妥協したくない。そうやって今まで生きてきた。
これからも、この生き方だけは譲りたくない。
それだけ。
「庶民だよ? 絵を描く学校に通ってる、ただの大学生」
サラームは首を傾げた。
『絵画の学校なんて、それこそ貴族の行くところでは?』
こっちではそうなるのか。
まあ、日本でも似たような見られ方するけど。
俺は実家が服飾関係なので、就職先が決まってるデザイン科のテキスタイル専攻だからまだマシだが。
絵画科や彫刻科なんて、プロになれて、さらに食えるほどになるのは社交性と才能があっても一割いたら上々くらいだし。
何浪もしてやっと受かっても、だらだら留年して就職も出来ず、ドブに金を捨ててるみたいに言われる奴は大勢いる。
妙に頑固で社交性の無い奴も多い、駄目人間の吹き溜まりのような所だ。
もちろん、俺も含めて。
†††
『あの、お好きな食べ物はありますか? 可能なものであれば、作らせますので』
サラームはいそいそと、食事の支度をしようとしているようだ。
お腹は空いてる……ような気はするけど。
「食欲は、ないかな」
『では、お飲み物は? 他に何かご希望は?』
俺の希望?
勿論、それは決まってる。
「……ここから出して欲しい」
『あの、……それは、』
サラームは困ったような顔をした。
やっぱり、俺をここから出す気はないんだ。
俺は。
いくら壊しても、また治して遊べるおもちゃで。
あいつが飽きるまで、しばらく手放す気なんかないんだろう。
「俺は死んでもあんたのいうこときかないし、食事もいらない。って、あのエロボケ王に伝えといて」
ベッドに横になった。
鎖のせいで逃げられないし。
今のおれにできることなんて、ハンガーストライキくらいしかないしな。
†††
……トイレが近いのは、点滴のせいだろう。
でも、点滴の針を引っこ抜こうとすれば、どこで見てるんだか、サラームが飛んできて涙目で止められるし。
あんな悲しそうな顔されたら、まるでこっちが悪いことをしてるみたいな気になっちゃうだろ。
おかしくない? 俺が被害者だぞ?
足枷の鎖、右足にだけついてて。
ギリギリ、風呂とトイレまでは届く長さなのがまた腹立つ。
手に届く範囲に、刃物とか、鎖を外せそうな道具もないし。
腹いせに水、無駄遣いしてやろうか。
……水がここでは貴重なのかどうか知らないけど。
風呂の蛇口をひねったら、お湯が出てきた。
においからして、温泉みたいな感じだが。どっかから引いてるのかな?
まあいいや。
全身浸かりたいとこだけど、点滴の針があるし。
足だけ浸けて、身体を流す。
血の汚れは、だいたい拭われてたようだが。まだ残ってた。
少し、水が濁った。
ここの外、どうなってんだろ。
温泉があるってことは、火山がある。
それで砂漠。
冷静に考えて。
ここから出て、はたして生きていけるのか?
でも、あのアホ王の言いなりになるのだけは、絶対にノーだ。
†††
『ナナミ?』
げ。
ナミル王が来た。
「わっ!?」
驚いて、足を滑らせた。
大きな浴槽に、頭から突っ込んでしまって。
点滴やら鎖やらで、自由に動けない。
鼻から口から、お湯が大量に流れ込んでくる。
やばい、溺死するかも。
……いいか。
もう、それでも。
諦めて、身体の力を抜いた。
この部屋、他に、人はいないようだが。
『あ、あほだなんて。家臣の方々に聞かれたら殺されちゃいますよ!?』
回復魔法の人は、あわあわと周りを気にしながら、真っ青になった。
どうやらナミル王は相当なカリスマらしく、臣下からは慕われているようだ。
えー。あんな人格クソなのに?
「その方がいいかもな。あの最低最悪のエロ王の言いなりにされるくらいなら、死んだほうがマシだ」
『そんな。陛下は、とても落ち込まれていたのですよ。それで、わたしに急ぎ、治療を命じたのです』
俯いている。
命じられたって?
結局、人任せじゃないか。全然反省してるように思えない。
†††
「あんたが治療したなら。俺があの鬼畜エロ王に何をされたか、わかってるだろ?」
あんなの、拷問だ。
権力が駄目なら、暴力で。
強引にいうことをきかせようなんていうやつ、俺は許せない。
『…………』
回復魔法の人は、しばらく黙り込んで。
『惨いことを、と思いました。……心より、お詫び申し上げます』
手を取られて、額をつけた。
それはこの世界での、謝罪のしるしらしいが。
「あんたがやったわけじゃないし、あんたに謝られても困る」
『いえ、わたしが治してしまうので、少々無茶をしても大丈夫だとお考えになっていた節がありまして……』
「治れば傷付けてもいいって考え方も嫌いだ」
傷付けられたほうは、その痛みを覚えているし。忘れないからな。
『ええ、あ、あの、いいえ、』
おろおろしている。
この人のよさそうな青年を困らせても仕方ないか。この人が悪いわけじゃないし。
「……名前は?」
『あ、すみません。申し遅れました。わたしは王宮医師のサラーム・ムラトというものです』
俺の名前は、昨日聞いたか。
「あ、王子っていうのは名字で、王子七海って名前だから」
『えっ、王子ではなかったのですか!? そんなに凛々しく高潔であられるのに!?』
サラームは飛び上がらんばかりに驚いていた。
凛々しい……高潔……? 俺がか?
単に、死ぬほど意固地なだけだと思う。
気に入らないことは、死んでも妥協したくない。そうやって今まで生きてきた。
これからも、この生き方だけは譲りたくない。
それだけ。
「庶民だよ? 絵を描く学校に通ってる、ただの大学生」
サラームは首を傾げた。
『絵画の学校なんて、それこそ貴族の行くところでは?』
こっちではそうなるのか。
まあ、日本でも似たような見られ方するけど。
俺は実家が服飾関係なので、就職先が決まってるデザイン科のテキスタイル専攻だからまだマシだが。
絵画科や彫刻科なんて、プロになれて、さらに食えるほどになるのは社交性と才能があっても一割いたら上々くらいだし。
何浪もしてやっと受かっても、だらだら留年して就職も出来ず、ドブに金を捨ててるみたいに言われる奴は大勢いる。
妙に頑固で社交性の無い奴も多い、駄目人間の吹き溜まりのような所だ。
もちろん、俺も含めて。
†††
『あの、お好きな食べ物はありますか? 可能なものであれば、作らせますので』
サラームはいそいそと、食事の支度をしようとしているようだ。
お腹は空いてる……ような気はするけど。
「食欲は、ないかな」
『では、お飲み物は? 他に何かご希望は?』
俺の希望?
勿論、それは決まってる。
「……ここから出して欲しい」
『あの、……それは、』
サラームは困ったような顔をした。
やっぱり、俺をここから出す気はないんだ。
俺は。
いくら壊しても、また治して遊べるおもちゃで。
あいつが飽きるまで、しばらく手放す気なんかないんだろう。
「俺は死んでもあんたのいうこときかないし、食事もいらない。って、あのエロボケ王に伝えといて」
ベッドに横になった。
鎖のせいで逃げられないし。
今のおれにできることなんて、ハンガーストライキくらいしかないしな。
†††
……トイレが近いのは、点滴のせいだろう。
でも、点滴の針を引っこ抜こうとすれば、どこで見てるんだか、サラームが飛んできて涙目で止められるし。
あんな悲しそうな顔されたら、まるでこっちが悪いことをしてるみたいな気になっちゃうだろ。
おかしくない? 俺が被害者だぞ?
足枷の鎖、右足にだけついてて。
ギリギリ、風呂とトイレまでは届く長さなのがまた腹立つ。
手に届く範囲に、刃物とか、鎖を外せそうな道具もないし。
腹いせに水、無駄遣いしてやろうか。
……水がここでは貴重なのかどうか知らないけど。
風呂の蛇口をひねったら、お湯が出てきた。
においからして、温泉みたいな感じだが。どっかから引いてるのかな?
まあいいや。
全身浸かりたいとこだけど、点滴の針があるし。
足だけ浸けて、身体を流す。
血の汚れは、だいたい拭われてたようだが。まだ残ってた。
少し、水が濁った。
ここの外、どうなってんだろ。
温泉があるってことは、火山がある。
それで砂漠。
冷静に考えて。
ここから出て、はたして生きていけるのか?
でも、あのアホ王の言いなりになるのだけは、絶対にノーだ。
†††
『ナナミ?』
げ。
ナミル王が来た。
「わっ!?」
驚いて、足を滑らせた。
大きな浴槽に、頭から突っ込んでしまって。
点滴やら鎖やらで、自由に動けない。
鼻から口から、お湯が大量に流れ込んでくる。
やばい、溺死するかも。
……いいか。
もう、それでも。
諦めて、身体の力を抜いた。
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