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おまけ

再会と相互理解

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「で。じゃあ本物の魂はどこ? ってなって。アレクシスが穂波兄さんの魂の情報? ってやつを読んで。この世界を突き止めたの。すごいでしょ!」
身振り手振りを交え、笑顔で説明してくれる。

「ふふ、睦月は相変わらずだな」

「何が?」
こてん、と小首を傾げてみせた。


さらさらの黒髪に、黒目がちの大きな目。
薔薇色の頬と唇。

とても18歳には見えない、愛らしく小作りな顔。

睦月はとても可愛い。
可愛いが。

「もう、無理して家族の前でも猫を被らなくていい。私もこの世界に来て、かなりの重圧だったことに気付いたのだから」


*****


有栖川家の本家に生まれ。
縁戚どころかもはや血の繋がりすら怪しい分家も擁する一族を。巨大に膨れ上がった企業を背負う責任。
一挙手一投足、常に人の目が付きまとう。

警備をつけなければ、誘拐や逆恨みでの暴行などの危険にさらされる。

私だけでなく、他の妹弟も、産まれた時点でどの会社を任されるか決められていた。
幼い頃からそのための知識を詰め込まれ。失敗は許されない。人々の模範であるべき態度を取り、常に一番でなければならない。


社長業を父から継いだ頃、年の離れた弟が生まれた。
それが睦月だ。

私の人差し指を握る、小さな指。
愛らしい笑顔に私は癒された。この無邪気な笑顔を守りたいと思った。

せめて、末弟である睦月には一族の重責を感じさせないで欲しいと祖父母と両親を説得した。

他の弟妹も、その分は自分たちが埋めると懇願した。
赤子の頃から愛らしかった睦月に、祖父母も骨抜きになり、例外が許された。


睦月にだけは、選択の自由を与え。
皆で可愛がり、守ってきたつもりだが。睦月も、目に見えぬ抑圧に耐えていたのだ。

いくらセキュリティ上仕方のないことでも。不自由な思いをさせていた。


異世界の竜王に嫁入りした睦月は、とても幸せそうだった。
その晴れやかな顔を見て、気付いたのだ。

今までの態度は、演技だったと。


無理をして。
家族の前では”皆の可愛い睦月ちゃん”を演じてくれていたのだ。

家族の前でも安らげないとは、どれだけのストレスであっただろう。


*****


「そっか。猫被り、バレちゃってたか」
照れている。

やはり自然体でも可愛い。

「演技などしなくても、睦月は愛らしいが?」
「アレクシスは黙ってて」

睦月のやわらかい頬に擦り寄ろうとする伴侶の顔を、無慈悲に押しのけている。
これが世にいうツンデレというやつだろうか。


「私の最愛のツガイ、穂波も愛らしさでは負けないが?」
いつの間にか、リカルドも私の傍に来ていた。

竜王と二人で何やら真剣な様子で話し合っていたが。
話は終わったのだろうか。


「二人とも、そんな無意味なことを張り合ってどうする。睦月が一番かわいいに決まっているだろうが!」
嫁に行っても、私の自慢のかわいい弟である。

「確かに」
「いや、穂波が一番かわいい」
竜王が頷き、リカルドが割って入る。


「……あのさあ、」
半目になってこちらを睨んでいても、睦月はかわいい。


*****


「じゃあ、穂波兄さんは、元の世界に戻る気、ないんだ?」

睦月は竜王の膝の上に乗せられながら、普通に会話を続けている。外野の存在を完全に無視することに決めたようだ。
強くなったな。

私は、竜王に張り合っているのか同じようにリカルドの膝の上に乗せられて、動揺しているというのに。

家族の前でそういうことをされるのはとても恥ずかしいのでやめて欲しいが。
そう言うと悲しそうな顔をするので、やむなく耐えているのだ。


「ああ。ここで骨を埋めるつもりだ。……無責任だと思うか?」

偽物の魂を使い、全てを放り投げて。
有栖川家の重責から逃れようとしているのである。

「そんなことないよ。兄さんが、すごく幸せなのわかったし。確認できて良かった」

本心から祝ってくれているようだ。
優しい子だ。


「それにしても、も兄さんも異世界に召喚されて王様と結婚するとか。どんな数奇な運命だよって思うよね。世界狭すぎ」
それも、二人とも異世界で運命の相手と結ばれることになったのだ。

「私は、はじめ有栖川家は呪われてでもいるのかと思ったが……」

「あはは。ちー兄まで召喚されたら、もう確定だよね」
「万が一あいつが召喚されても、私の偽物がいるから大丈夫だろう……多分」

私の偽物には、頑張って欲しい。
身体は人間なので、有栖川家直系の遺伝子は引き継げるだろう。


義姉あね上らの心配はしないのか……?」
竜王が突っ込みを入れているが。

彼女らに関しては、心配無用である。
その辺の男よりも漢らしいので。


*****


「あ、そうだ。これ、」
睦月が、フリルたっぷりのドレスシャツのポケットから黒い板を取り出し。それを手渡される。

受け取ってよく見ると、スマートフォンのように見えるが。

「これは?」
「アレクシスが魔法で作った、スマホみたいなのだよ。父さんにも渡してあるから、里帰りする時はこれで連絡取り合おうってさ」


里帰り……?
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