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結婚
結婚式当日
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王族の結婚式について、入念に下調べをし、儀式の練習など準備をしていたら。
「根を詰めすぎではないかな? 完璧を目指して体調を崩すより、私に任せきりでいてくれたほうが嬉しいのだけどね」
リカルドが困ったような顔で言った。
エサウも頷いている。
睡眠時間まで削って勉強しているのを知っているからだ。
確かに、この国の儀式のことを熟知しているリカルドに何もかも任せたほうが楽だろう。
それが最良なのかもしれないが。
「一生で一度きりのことだからな。後悔したくないので、出来る限りのことは自分でしたい」
「一度きりと、言ってくれるのか……」
当たり前のことだろうに、リカルドは感涙していた。大袈裟な男である。
「ああ、穂波、愛している」
「……式の一週間前までは禁欲期間だろうが」
抱き締めてキスをしようとしてくるリカルドの胸板を押しのけた。
「それはかなり古い慣習で、今時そんな決まりを守ってる者などいないぞ?」
「唇を尖らせるな。古い慣習ならば、猶更規範となる上の者が守るべきだろう。古くからの決まりを疎かにしてはいけない」
「ふむ、」
リカルドは首を捻り、しばらく悩むような素振りをし。
「……では、長い間禁欲させた分、初夜は遠慮しないからね。覚悟しておきなさい」
ツンと上を向いて拗ねている。
「ああ。望むところだ」
私だって、これでも触れ合いたいのを我慢しているのだが。
「望む? ……え、い、いいのか?」
リカルドは真っ赤になった。かわいい男である。
結婚式の後のことを考えると、少々怖いが。
*****
結婚式当日である。
天気は快晴だ。
曇りもあり、雨や雪も降るという。つい、上空の対流などはどうなっているのか考えてしまいそうになるが。それなりに理屈はあるのだろう。
空を見上げても、普通に元の世界と変わらない空に見えるのがまた不思議だ。
天井があるなんて、一見わからない。
石を上空へ飛ばしたら、跳ね返って落ちて来るらしい。
本当に理解不能だ。
「綺麗な青空だ。天も私たちを祝福してくれているのだろうね」
空を見上げていたら、リカルドが私の肩を引き寄せた。
「でも、そんなに空ばかり見上げていられると妬いてしまうな」
空にまで妬くのか。
「……衣装、似合っているぞ」
リカルドは白い騎士のような服に青いマントを羽織っていて、その胸にはたくさんの褒章がついている。
身分を表すものもあれば、今までの功績を示すものもあるという。
私は淡い青色の、リカルドと色違いの服で。袖などにフリルがついている。
式の最中に、国王の伴侶を示す飾りをつけられる予定だ。
「ありがとう。穂波は今すぐに寝室に連れ去ってしまいたいほど愛らしいね?」
満面の笑みである。
「表情筋がゆるみきっているぞ、色男が台無しだ。しゃんとしたまえ」
ゆるんだ頬を、軽く叩いてやる。
「嬉しいのだから仕方ない。今夜が楽しみでならない」
まだにやにやしている。
全く。
「では、会場で逢おう」
それぞれ、結婚式の前にこなさねばならない儀式があるのだ。
*****
私は中庭にある泉の前で祈りを捧げ。
その間にリカルドは剣を手にし、闘技場で獅子に似た獣を狩るという。
国王は、強くなければならない。それを国民に示すのだそうだ。
野蛮な風習だが。倒した獣の肉は招待客に振舞われるので、ただ無意味に殺されるのでなくて良かった、と思うことにする。
しばらく祈っていると、闘技場の方から歓声が聞こえた。
見事、リカルドが獣を倒したようだ。
エサウや迎えに来た従者を伴い式場へ向かうと。返り血のひとつも浴びていない、純白の衣装を纏っているリカルドが待っていた。
招待客の興奮もまだ冷めていないようだ。国王を讃える声が止まない。
つくづく、雄姿を見られなかったのは残念である。
リカルドが私の胸に、国王の伴侶であることを示す飾りをつけて。
跪き、左手の甲に口づけた。
そして、薬指に指輪を嵌められる。
私も、跪いたままのリカルドの薬指に指輪を嵌めた。
指輪の交換は、伴侶の故郷である異世界の風習なのだと進行役が説明している。
おお、と招待客が感心している声が上がる。
王族や貴族が結婚する際には色々と儀式があるが。
一般国民は、結婚するという届けを役所に出すだけだそうだ。
これ以降、指輪の交換がスタンダードになるかもしれないとのことだ。
*****
「サンチダージェ王国が国王であるリカルド・ウィリアム・デ・アウカンターラ・イ・サンチダージェの名において。我が”運命の番”に永遠の愛を捧ぐ」
「有栖川穂波の名において、我が王に永遠の愛を捧げます」
皆の前で愛を誓って、結婚の儀式は終わりである。
後は、披露宴のようなものだ。
宴は三日三晩続き、最初の夜には国王の狩った獣の肉が供される。
獅子に似た獣の肉は、大変美味なようだ。しかし、捕らえるのも狩るのも困難で。
国王の結婚式は、もう百年以上前のことだということもあり。久しぶりの滅多にないご馳走に、国の重臣たちは大喜びだった。
貴族ですら百年に一度か、未だ食べたことも無い人もいるくらいのご馳走なのか。
どんな味なのか、気になるところだ。
「根を詰めすぎではないかな? 完璧を目指して体調を崩すより、私に任せきりでいてくれたほうが嬉しいのだけどね」
リカルドが困ったような顔で言った。
エサウも頷いている。
睡眠時間まで削って勉強しているのを知っているからだ。
確かに、この国の儀式のことを熟知しているリカルドに何もかも任せたほうが楽だろう。
それが最良なのかもしれないが。
「一生で一度きりのことだからな。後悔したくないので、出来る限りのことは自分でしたい」
「一度きりと、言ってくれるのか……」
当たり前のことだろうに、リカルドは感涙していた。大袈裟な男である。
「ああ、穂波、愛している」
「……式の一週間前までは禁欲期間だろうが」
抱き締めてキスをしようとしてくるリカルドの胸板を押しのけた。
「それはかなり古い慣習で、今時そんな決まりを守ってる者などいないぞ?」
「唇を尖らせるな。古い慣習ならば、猶更規範となる上の者が守るべきだろう。古くからの決まりを疎かにしてはいけない」
「ふむ、」
リカルドは首を捻り、しばらく悩むような素振りをし。
「……では、長い間禁欲させた分、初夜は遠慮しないからね。覚悟しておきなさい」
ツンと上を向いて拗ねている。
「ああ。望むところだ」
私だって、これでも触れ合いたいのを我慢しているのだが。
「望む? ……え、い、いいのか?」
リカルドは真っ赤になった。かわいい男である。
結婚式の後のことを考えると、少々怖いが。
*****
結婚式当日である。
天気は快晴だ。
曇りもあり、雨や雪も降るという。つい、上空の対流などはどうなっているのか考えてしまいそうになるが。それなりに理屈はあるのだろう。
空を見上げても、普通に元の世界と変わらない空に見えるのがまた不思議だ。
天井があるなんて、一見わからない。
石を上空へ飛ばしたら、跳ね返って落ちて来るらしい。
本当に理解不能だ。
「綺麗な青空だ。天も私たちを祝福してくれているのだろうね」
空を見上げていたら、リカルドが私の肩を引き寄せた。
「でも、そんなに空ばかり見上げていられると妬いてしまうな」
空にまで妬くのか。
「……衣装、似合っているぞ」
リカルドは白い騎士のような服に青いマントを羽織っていて、その胸にはたくさんの褒章がついている。
身分を表すものもあれば、今までの功績を示すものもあるという。
私は淡い青色の、リカルドと色違いの服で。袖などにフリルがついている。
式の最中に、国王の伴侶を示す飾りをつけられる予定だ。
「ありがとう。穂波は今すぐに寝室に連れ去ってしまいたいほど愛らしいね?」
満面の笑みである。
「表情筋がゆるみきっているぞ、色男が台無しだ。しゃんとしたまえ」
ゆるんだ頬を、軽く叩いてやる。
「嬉しいのだから仕方ない。今夜が楽しみでならない」
まだにやにやしている。
全く。
「では、会場で逢おう」
それぞれ、結婚式の前にこなさねばならない儀式があるのだ。
*****
私は中庭にある泉の前で祈りを捧げ。
その間にリカルドは剣を手にし、闘技場で獅子に似た獣を狩るという。
国王は、強くなければならない。それを国民に示すのだそうだ。
野蛮な風習だが。倒した獣の肉は招待客に振舞われるので、ただ無意味に殺されるのでなくて良かった、と思うことにする。
しばらく祈っていると、闘技場の方から歓声が聞こえた。
見事、リカルドが獣を倒したようだ。
エサウや迎えに来た従者を伴い式場へ向かうと。返り血のひとつも浴びていない、純白の衣装を纏っているリカルドが待っていた。
招待客の興奮もまだ冷めていないようだ。国王を讃える声が止まない。
つくづく、雄姿を見られなかったのは残念である。
リカルドが私の胸に、国王の伴侶であることを示す飾りをつけて。
跪き、左手の甲に口づけた。
そして、薬指に指輪を嵌められる。
私も、跪いたままのリカルドの薬指に指輪を嵌めた。
指輪の交換は、伴侶の故郷である異世界の風習なのだと進行役が説明している。
おお、と招待客が感心している声が上がる。
王族や貴族が結婚する際には色々と儀式があるが。
一般国民は、結婚するという届けを役所に出すだけだそうだ。
これ以降、指輪の交換がスタンダードになるかもしれないとのことだ。
*****
「サンチダージェ王国が国王であるリカルド・ウィリアム・デ・アウカンターラ・イ・サンチダージェの名において。我が”運命の番”に永遠の愛を捧ぐ」
「有栖川穂波の名において、我が王に永遠の愛を捧げます」
皆の前で愛を誓って、結婚の儀式は終わりである。
後は、披露宴のようなものだ。
宴は三日三晩続き、最初の夜には国王の狩った獣の肉が供される。
獅子に似た獣の肉は、大変美味なようだ。しかし、捕らえるのも狩るのも困難で。
国王の結婚式は、もう百年以上前のことだということもあり。久しぶりの滅多にないご馳走に、国の重臣たちは大喜びだった。
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