大企業グループ次期総代のこの私が異世界の王のツガイとして召喚されるなんてこれは悪い夢に違いない。

篠崎笙

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種明かし

恋というものは

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「……まだ、98歳だ」

「何だ、年上だったのか」
少なくとも、十歳以上年下の小僧に身体を好き勝手されたのではなかったのだ。
それにはホッとした。

私にも、プライドというものがあるのだ。


では、まさか。
実際に40年間、ずっと鏡を眺めていて。

私の魂を召喚するタイミングを待っていたのか?
しっかり観察した上で、偽の魂を作ったのだとしたら。その執念に驚く。


*****


とは? どういう意味だ? この世界で90代は、若い部類なのか?」

リカルドの外見は、どう見ても二十代後半の男にしか見えない。
体力も性欲も旺盛で。

魔法使いというのは、見た目が若い者が多いのだろうか? それとも、若い姿で成長を止めているのだろうか。

「いや、この世界で寿命が長いのは、私のような魔術師か、魔術によって寿命を延ばされた権力者くらいだ。私は穂波の弟の伴侶よりも若いので、言い出しにくかった」
拗ねたような顔をして言った。


ああ、確か睦月の伴侶は2700歳だったか。
そのインパクトに比べ、若すぎもせず年寄りすぎもせず。中途半端な印象を抱かれると思ったらしい。

ネガティブに考え過ぎである。

を人類の基準にするな」
そもそも人間ではない。

奴は身長4メートル近くもある竜人なのだから。
規格外である。


「魔術師としての腕も、向こうが上回るようで、悔しかった」

この世界で一番の大魔導師であるリカルドは、魂しか召喚できなかったが。
睦月の伴侶は異世界を自由に行き来できるので、自分は劣っていると思ったのだという。

「家族の皆に自慢できるツガイでなくてすまない」
俯いて。

見るからにしょんぼりしている。


*****


いや、異世界から魂を召喚し、こちらの世界で新たな肉体を構築できる時点で充分すごい魔法使いだと思うのだが。
少なくとも、私のいた世界ではそんな事のできる魔法使いはいなかったはずだ。

しかし、国王としてのキャリアや、魔法使いとしての技術レベルで他人に負けるのは、プライドが許さないのだろうか?


井の底の蛙大海を知らずというが。
己の限界を知り、未熟を恥じることができるのは立派である。

容貌も、パトリシオや、睦月の伴侶よりも劣ると思い込んでいたようだ。

確かに睦月の伴侶は類稀なほどの美形ではあるが。心を動かされはしなかった。
パトリシオの顔も美しいが。

私はリカルドの男らしく精悍な顔立ちの方が好ましいし、格好良いと思う。


「あの男のことは大嫌いだが。私はリカルドのことを愛しているし、自慢のツガイだと思っているのだがね。それでも不満か?」

「!?」
嬉しそうにこちらを見た。

可愛い男だ。もうじき百歳になるというのに。


「嬉しい。私を選び、愛してくれたことを感謝する。便利な元の世界と違い、何不自由ない暮らしはさせてやれないだろうが。可能な限り努力する。私も貴方を心から愛している、穂波」
ぎゅうぎゅう抱き締められ、頬や額にキスをされた。

「安心しろ。私リカルドのことを幸せにしてやる。何しろ、私は会社の利益を先代の倍以上伸ばしてきた実績を持つ社長だからな。この国だって、発展させてやろうではないか」

ここが不自由な世界であるならば。
自分の暮らしやすい世界に整えてやればいいだけの話である。


*****


「ふふ、頼もしいな?」
口元に、唇を寄せられ。目を閉じようとして。


「……コホン、コホン、」

わざとらしい咳払いに。
音のした方を見ると、サンチダージェ城の侍従長ルーベンが、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

すっかり存在を忘れ去られていたパトリシオ伯爵は、死んだ魚のような目をしており。


「おめでとうございます」
「陛下と運命の番殿に祝福を!」

謁見の間にいた大臣や護衛の兵たちから祝いの言葉と、盛大な拍手を贈られたのだった。


うっかり大臣たちも居並ぶ中、盛大にラブシーンを演じてしまった。
兵士も大勢いるというのに。

リカルドは外野の視線など全く気にしていない様子だが。
私は恥と礼節を重んじる日本男児である。ただただ恥じ入るばかりである。


周囲の目を気にして生きていたこの私が。
あれほど人目があったというのに、一切視界に入っていなかったとは。

恋愛というのは恐ろしいものだ。
感覚をマヒさせる成分でも出ているのだろうか?

キスをすると、愛情ホルモンであるオキトキシンが分泌されるというが。
脳内麻薬も出ているのだろう。


自分が当事者にならないと、わからないこともあるものだ。
世の恋人が浮かれて街中でも人目をはばからずイチャイチャするのもさもありなん。

世界は二人のために。
恋をすると、お互いしか見えなくなるのだと知った。


「寛大すぎるツガイ殿に感謝すべきですね、陛下?」
ルーベン侍従長は皮肉気に肩を竦めた。

「ご結婚の承認を無事いただけたこと、寿ぎ申し上げます。これで少しはが大人しくなっていただけると助かるのですが……」
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