大企業グループ次期総代のこの私が異世界の王のツガイとして召喚されるなんてこれは悪い夢に違いない。

篠崎笙

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種明かし

茶番劇

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王はがっくりとしたように額を押さえ。

「…………はあ、」
大きな溜息を吐いた。


、いい加減、もうこんな茶番劇は終わりにしてもよろしいでしょう? 趣味が悪すぎますよ」
そう言って。

被っていた王冠を外し、投げた。


「こら、国宝を投げるな」
……え?

王冠をキャッチした、傍らの男を見上げると。

だらしのない笑みで。
男前が台無しになっていた。


「見ろ、。これが真実の愛というものだ!」


パトリシオと名乗っていた男は。
私を抱き上げ、その場でくるくると回ったのだった。

嬉しそうに。


*****


今思えば。
おかしな点は、いくつかあったのだ。

最初は、この世界のことを夢だと思い込んでいたのもあるが。
突然異世界に召喚され、身体も変化していたせいで。私もかなり気が動転しており、そこまで頭が回らなかったのだろう。


アンブロージョ城の侍従長ジェスロウも。王城の侍従長ルーベンも。
決してを”パトリシオ”とは呼ばなかった。

不自然に、愛称で感じであった。

ジェスロウの態度が終始ぎこちなかったのも。
国王に対して敬称でなく、愛称で呼ばなければならない緊張ゆえと思えば頷ける。


リカルド・ウィリアム・デ・アウカンターラ・イ・サンチダージェ。
パトリシオではなくリカルドという名であったなら、リッキーという愛称でも違和感はない。

ねやでパトリシオ、と呼んだ時、不機嫌になったのも。
だったのか。

自分で名を偽っておいて、身勝手すぎるぞ。


王座に座っていた男を、役者のようだと感じたのは当然で。
は実際、国王の役を演じていただけだった。可哀想に。胃の辺りを擦っている。

彼こそが、本物のパトリシオ伯爵だったのだ。

アンブロージョ城に、彼の似姿があったのも当然だ。
城主なのだから。


*****


「貴様……最低な嘘で人を欺いておいて、何をへらへらと笑っている……?」
私を持ち上げてにやにやしている男の頬をつねってやる。

「嘘を吐いたのは悪かった。それは謝罪しよう」


最初は、二人が”運命の番”なら、何があろうとも結ばれるはずだから。
もしも自分でなく、偽物の国王を選んだ場合は運命ではなかったと諦め、元の世界に戻してやろうと思っていたという。

思わぬアクシデントで、身体の関係を持ってしまったが。

それでも、リカルドは美しい偽の国王より、自分が選ばれる自信は無かったので。
自分を選んでくれたのが嬉しい、と言って。

「……うわ、」
ぎゅう、と抱き締められた。


「大切な”運命の番”の出迎えを、他人任せになどするものか。……本当は、誰の目にも触れさせたくなかった。この世界で一番最初に、貴方の目に入りたかったのだけれどね」

山賊に襲われたと知り、つい、抱き締めてしまったのは。
リカルドが私のことを本気で心配していて、無事であったことを心から安堵したからだった。

あれは、国王に迎えを頼まれた騎士のすることではなかった。
思わず演技を忘れてしまったのだろう。


「……国王の仕事を放り出しても?」

「ああ。穂波以上に大事なものなんてあるものか。私の最愛」
頬ずりされる。

それは、一国の国王としてどうだろう。
先程パトリシオ伯爵が言っていたセリフの方が国王らしかったぞ?


床に降ろされて。
国王陛下は、私の前に跪いた。


「心から貴方を愛している。穂波、どうか私と結婚してください」


*****


騙されて腹が立ったし。断ってやりたいところだが。
私の身体を好きにした責任は、しっかり取ってもらわねばならない。


「この私を伴侶にするなら、仕事もさせて欲しい」
手を差し出すと。

「もちろんだ。穂波の仕事ぶりならば、ずっと見て来たので良く知っている。頼りにしている」
握手するように、握り返された。


「……?」
「ああ。鏡でずっと見ていた。声までは聴けなかったが。とても頑張っていたのは知っているよ?」


”運命の番”を召喚する前に、相手の人となりを見ようと思い、魔法の鏡で度々私の様子を覗き見ていたのだという。
さすがに24時間全てではないが。

産まれてから、今までのこと。大変な仕事を任されているのも知っていた。

ずっと、召喚するタイミングを狙っていたが。
私が溺愛していた末の弟が結婚したのを機に、迎えることにしたそうだ。


「では、私の本来の姿も知っていたのか?」

だから私が年齢を言っても驚いていなかったのか。
今までの人生を見ていたのだから。

「もちろん。あの姿も好みだったが、若い姿も可愛くて好きだ」
晴れやかな笑顔である。


好みだと?
日本人は若く見えるとはいえ、いささか容色の衰えた41のおっさんだぞ?

本来の姿を知った上で、可愛いなどと言っていたのか?
まだ若造の癖して。


……ん? 若造?


*****


「そういえば、君の年齢は、何歳いくつなんだ?」

迂闊にも、まだ年齢を訊いていなかった。
見た目通りの年齢とは限らないことは、異世界ではよくある話だというのに。


「”君”ではなく、私のことは今まで通りリッキーと呼んで欲しい。リカルドでもかまわない」
本来の名であれば愛称でなくてもいい、などと言って誤魔化そうとしているが。


「いいから、質問に、答えろ」
頬の肉を引っ張ってやる。

硬いので、あまり引っ張れなかったが。


そんなに自分の年齢を言いたくないのか。
リカルドは視線を不自然に逸らし、しぶしぶ白状した。
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