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王城へ
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「破談になった後は、私が何をしようと自由だろう?」
「……そこまで、考えていたのか……」
パトリシオは、呆然としている。
領民のことなど、すっかり忘れていたようだ。
駄目な伯爵様だな。
「当然だ。私は生まれた時から社長になる男だったからな」
私の偽物の魂とやらが、きちんと会談を終えられたのか、気になるところだが。
偉大なる魔術師だとかいう国王に訊けばわかるだろうか?
「わかりました。万全を期し、必ずや王城までお送り致します」
パトリシオは胸に手を当て、礼をした。
「ああ、頼む」
自然と、笑みが浮かんだ。
「……まずは、早く服を寄越せ」
この世界に来てから、しばらく経つはずなのに。
一度もまともに服を着たことがないのは、さすがにどうかと思う。
*****
この世界に来て初めて食卓で食事をした。
身支度を済ませ、城を出ると。
4頭立ての、立派な馬車が用意されていた。
さすが、国王のツガイのために用意された馬車である。装飾もきらびやかで、いかにも頑丈そうだ。
パトリシオにエスコートされ、それに乗り込んだ。
騎士にエスコートされるなど、絵本の中の姫にでもなったような気分だが。
それがまた、まんざらでもないのが困る。
異世界に来てから、我ながら頭がどうかしてしまったとしか思えないようなことばかりだ。
「リ、リッキー様、番様。いってらっしゃいませ」
ジェスロウという名の白髭の侍従長が城門まで見送りに出て来た。
侍従長は、パトリシオの前では始終ガチガチに緊張していた。
この伯爵、滅多に城に帰って来ないのだろうか?
それとも、怖がられているとか?
まあ、切れてプッツンしたらかなり危険な男だとは知った。
笑顔が爽やかな者ほど、裏の顔があるのだろうか。
異世界の移動手段と比べ、馬車はどうかと訊かれたが。
リムジンの方が乗り心地が良いに決まっているだろうが。
だが、馬車の椅子は思っていたほど悪くはなかった。硬すぎず柔らかすぎず、ちょうどいい塩梅だ。
それほど揺れも感じないのは、道路がきちんと整備されているからだろう。
酷使された尻も痛まない。
……わざとらしく、投げ飛ばされて打った腰をさすりながら私を見るな。
それは自業自得だ。
*****
あと3時間ほどで到着するそうだ。
服に皺が寄らないよう、居住まいを正す。
私たちが肉欲に溺れている間に針子に仕立てさせていたという服は、短期間で作られたにしてはかなり上等なものだった。魔法でも使ったのだろうか。
リボンとフリルのついたドレスシャツに、サッシュベルト。膝までの半ズボンにタイツ、革の靴。
まるで小公子のような格好だが。今の私には似合っているだろうか?
リボンを弄っていたら。
「大丈夫、よく御似合いですよ」
微笑みながら言われた。
しかし、日本男児としてはこのような格好が似合っても嬉しくない。
今の私の、美少年のような外見なら、この格好もさぞ似合うのだろう。
だが、中身はいい年をした男である。
膝の出るズボンなど、恥ずかしくて仕方ない。白いタイツもだ。
私の可愛い末弟、睦月ならばとても良く似合いそうだが。
ああ、その姿が見てみたい。写真に撮って、永久保存したい。
スマホもデジカメも持ってこれなかったのが残念だ。もう二度と、あの秘蔵映像が見られないのだろうか。
*****
「……今、私でない、どなたかのことを考えましたか?」
笑顔に圧が。
何という勘の良い男だろう。
弟を思い返していただけだというのに、嫉妬するとは。
この男、俗に言うヤンデレというやつでは?
「いや、私には弟と妹が二人ずついるのだが。末の弟ならこういった格好も似合いそうだと思っただけだ」
「弟妹ですか。私にも、何人かいますよ。全員腹違いですが」
指で数えだした。どうやら十人以上いるようだ。
伯爵家も大変だ。
親族が多いと、行事も色々面倒だ。元華族だの本家だの。身分とか年功序列とか馬鹿馬鹿しい因習は私の代で取っ払ってしまいたいと思っていたのだが。
そういえば。
城にいた時、家族を紹介されなかったが。
この年齢で伯爵を継いでいるなら、両親は墓の下か?
兄弟姉妹は、婿や嫁にでも行ったのだろうか? まあいい。紹介されても困る。
今はまだ、私の身分は”異世界から召喚された国王の番”なのだから。
*****
馬車の窓から外を見ていたら。
景色ではなく自分を見ていろとばかりに手を引かれた。
「国王は、かなりの美男子だと評判ですが。実際にお会いになって、一目惚れしないと約束できますか?」
アンブロージョ城に肖像画があったので、見せてもらったが。
騎士のような服を着た、燃えるような赤い髪に青い瞳の美青年だった。
肖像画なので、何割か男前に描かれている可能性もあるが、あの顔が実物と同じなら、相当もてそうだと思っただけで。特に惹かれはしなかった。
私は国王のどこか優し気な美貌より、パトリシオの男らしい顔の方が好きだと思った。
しかし、それを素直に教えてやるのも少々悔しい。
「さあな。どうだろう? 何しろ、運命のツガイらしいからな? 目と目が合ったら、国王に惚れてしまうかもしれないな」
意味深に、にやりと笑ってみせた。
ははは。
拗ねるな、伯爵様。
「……そこまで、考えていたのか……」
パトリシオは、呆然としている。
領民のことなど、すっかり忘れていたようだ。
駄目な伯爵様だな。
「当然だ。私は生まれた時から社長になる男だったからな」
私の偽物の魂とやらが、きちんと会談を終えられたのか、気になるところだが。
偉大なる魔術師だとかいう国王に訊けばわかるだろうか?
「わかりました。万全を期し、必ずや王城までお送り致します」
パトリシオは胸に手を当て、礼をした。
「ああ、頼む」
自然と、笑みが浮かんだ。
「……まずは、早く服を寄越せ」
この世界に来てから、しばらく経つはずなのに。
一度もまともに服を着たことがないのは、さすがにどうかと思う。
*****
この世界に来て初めて食卓で食事をした。
身支度を済ませ、城を出ると。
4頭立ての、立派な馬車が用意されていた。
さすが、国王のツガイのために用意された馬車である。装飾もきらびやかで、いかにも頑丈そうだ。
パトリシオにエスコートされ、それに乗り込んだ。
騎士にエスコートされるなど、絵本の中の姫にでもなったような気分だが。
それがまた、まんざらでもないのが困る。
異世界に来てから、我ながら頭がどうかしてしまったとしか思えないようなことばかりだ。
「リ、リッキー様、番様。いってらっしゃいませ」
ジェスロウという名の白髭の侍従長が城門まで見送りに出て来た。
侍従長は、パトリシオの前では始終ガチガチに緊張していた。
この伯爵、滅多に城に帰って来ないのだろうか?
それとも、怖がられているとか?
まあ、切れてプッツンしたらかなり危険な男だとは知った。
笑顔が爽やかな者ほど、裏の顔があるのだろうか。
異世界の移動手段と比べ、馬車はどうかと訊かれたが。
リムジンの方が乗り心地が良いに決まっているだろうが。
だが、馬車の椅子は思っていたほど悪くはなかった。硬すぎず柔らかすぎず、ちょうどいい塩梅だ。
それほど揺れも感じないのは、道路がきちんと整備されているからだろう。
酷使された尻も痛まない。
……わざとらしく、投げ飛ばされて打った腰をさすりながら私を見るな。
それは自業自得だ。
*****
あと3時間ほどで到着するそうだ。
服に皺が寄らないよう、居住まいを正す。
私たちが肉欲に溺れている間に針子に仕立てさせていたという服は、短期間で作られたにしてはかなり上等なものだった。魔法でも使ったのだろうか。
リボンとフリルのついたドレスシャツに、サッシュベルト。膝までの半ズボンにタイツ、革の靴。
まるで小公子のような格好だが。今の私には似合っているだろうか?
リボンを弄っていたら。
「大丈夫、よく御似合いですよ」
微笑みながら言われた。
しかし、日本男児としてはこのような格好が似合っても嬉しくない。
今の私の、美少年のような外見なら、この格好もさぞ似合うのだろう。
だが、中身はいい年をした男である。
膝の出るズボンなど、恥ずかしくて仕方ない。白いタイツもだ。
私の可愛い末弟、睦月ならばとても良く似合いそうだが。
ああ、その姿が見てみたい。写真に撮って、永久保存したい。
スマホもデジカメも持ってこれなかったのが残念だ。もう二度と、あの秘蔵映像が見られないのだろうか。
*****
「……今、私でない、どなたかのことを考えましたか?」
笑顔に圧が。
何という勘の良い男だろう。
弟を思い返していただけだというのに、嫉妬するとは。
この男、俗に言うヤンデレというやつでは?
「いや、私には弟と妹が二人ずついるのだが。末の弟ならこういった格好も似合いそうだと思っただけだ」
「弟妹ですか。私にも、何人かいますよ。全員腹違いですが」
指で数えだした。どうやら十人以上いるようだ。
伯爵家も大変だ。
親族が多いと、行事も色々面倒だ。元華族だの本家だの。身分とか年功序列とか馬鹿馬鹿しい因習は私の代で取っ払ってしまいたいと思っていたのだが。
そういえば。
城にいた時、家族を紹介されなかったが。
この年齢で伯爵を継いでいるなら、両親は墓の下か?
兄弟姉妹は、婿や嫁にでも行ったのだろうか? まあいい。紹介されても困る。
今はまだ、私の身分は”異世界から召喚された国王の番”なのだから。
*****
馬車の窓から外を見ていたら。
景色ではなく自分を見ていろとばかりに手を引かれた。
「国王は、かなりの美男子だと評判ですが。実際にお会いになって、一目惚れしないと約束できますか?」
アンブロージョ城に肖像画があったので、見せてもらったが。
騎士のような服を着た、燃えるような赤い髪に青い瞳の美青年だった。
肖像画なので、何割か男前に描かれている可能性もあるが、あの顔が実物と同じなら、相当もてそうだと思っただけで。特に惹かれはしなかった。
私は国王のどこか優し気な美貌より、パトリシオの男らしい顔の方が好きだと思った。
しかし、それを素直に教えてやるのも少々悔しい。
「さあな。どうだろう? 何しろ、運命のツガイらしいからな? 目と目が合ったら、国王に惚れてしまうかもしれないな」
意味深に、にやりと笑ってみせた。
ははは。
拗ねるな、伯爵様。
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