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白馬の騎士
アンブロージョ城へ
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「ところで。先程から穂波様が足蹴にされているソレは何でしょう?」
笑顔で訊かれ。
「……あ、」
すっかり忘れていた。
私の足の下で。
盗賊のような恰好をした男は、完全に気を失っていた。
今の私は体重が軽いから、中身が出ないで済んで良かったな!
まだ息はあるようだ。しぶといな。
*****
「こいつが草むらから出て来て殴りかかってきたので、倒したのだが。かまわないな?」
「はあ……」
正当防衛である。倒しても、問題ないだろう。
証拠の武器は、その辺に落ちていたので拾ってもらう。
「この男、賞金もかかっている山賊なのですが。まさか、素手で倒されたのですか? それとも、すでに魔法を習得されているとか……」
完全に伸びている山賊を縄でぐるぐる巻きにしながら、訊いてきた。
本来の姿なら、武道を嗜んでいるのだろう、と納得されるのだが。姿が変わり、か弱そうな子供に見えるせいか。
しかし、基本、合気道に力は要らない。相手の力を受け流すものだ。
剣道、柔術も然り。力に頼るのは美しくない。
「素手に決まっている。こう見えても私は黒帯だぞ?」
「?」
首を傾げている。
ああ、異世界には柔道も空手も存在しなかったか。
通常、外国人ならば、カラテ、クロオビというだけで大喜びするのだがな。
常識が違うことを念頭に置いて会話しなければならないのか。面倒だ。
武道を嗜んでいるのだと教えたら。
後で是非お手合わせ願いたい、と興奮気味に言われた。
強そうな相手をみると、戦ってみたくなる性質なのか。
戦闘民族か何かか?
どこの世界でも、脳筋という生き物は存在していて、同じことを考えるようだ。
お育ちの良い貴族だろうに。
脳筋とは難儀なものだ。
*****
「……ああ、いけない。忘れるところでした」
思い出したように言って。
パトリシオは、近くで草を食んでいた馬に駆け寄ると、鞍にかけてあった布を持って来た。
「どうぞこれを。羽織るものをお持ちしました」
裸で召喚されることは、想定済みだったようだ。
ショールだろうか? シルクのようにさらさらして、肌触りが良い。
召喚失敗の報せを受け、狂った座標はすぐに特定されたが。
突然裸で異世界に放り出され、さぞ心細い思いをしているだろうと身を案じ。
とりあえず目についた布を引っ掴み、慌てて馬に飛び乗り、大急ぎで迎えに来たのだという。
当の私は夢だと思って、葉っぱの服を着てのんきに散歩してるわ、山賊は倒してるわで。さぞ驚いたことだろう。
まあ、夢だと思っていたからこそ、難なく倒せたのだろうが。
布を羽織らされたと思ったら。
そのまま、ぎゅっと抱き締められてしまった。
「本当に、ご無事で、良かった……」
心底ほっとした、という感情が伝わってくる。
いくら召喚時に妨害があったとはいえ。
王様の大事な結婚相手が山賊に殺されていたら、目も当てられない。
この領を治めている伯爵であるパトリシオの責任問題になりかねないだろう。
……香水だろうか、良い匂いがする。
外国人は体臭がきついので香水などで誤魔化しているそうだが。きつくはない。
しかし、外国人というのは、どうしてこう、スキンシップが激しいのだろう。
日本人が奥ゆかしいだけなのだろうか。
いや、愛する末弟が同じような状況だったら、私も思わず抱き締めてしまうだろう。
何も無くても抱き締めたくなるほど可愛いが。
そう考えればこの抱擁も、特におかしな行動ではないのか?
*****
私が捕えた山賊は、木の幹に縛り付けた状態で固定されている。
後で警備の者が引き取りにくるという。
山賊などが横行しないよう、もっと警備を強化させねば、と呟いて。
パトリシオは、布で巻かれた状態の私をひょいと持ち上げると、馬の鞍に乗せた。
他に、馬はいないようだが。
「待て。もしや、君と相乗りするのか?」
「え、馬にお乗りになれるのですか?」
驚いているようだが。
異世界人だから、何もできないとでも思っていたのか?
それは私を侮り過ぎている。
英国の貴族との会談で、スポーツ観戦だけでなく、乗馬することもある。
東洋人だからと馬鹿にされたり舐められないように、様々な経験と知識は積んでおくべきだ。
「当然だろう。乗馬くらい嗜んでいる」
「そうでしたか。しかし、今はこの一頭だけですので。しばしの間、ご寛恕ください」
そう言われては、大人げなく相乗りは嫌だと我儘を言うのも憚られる。
まずはこの馬でアンブロージョ城に向かい、休憩したのちに馬車に乗り換えるそうだ。
すぐに国王の所へ連れて行かれるのではないのか。
ずいぶんゆっくりしたスケジュールだ。
国王は”運命の番”に逢えるのを、今か今かと待っているのではないのか?
私としては積極的に逢いたいと思わないので、別にかまわないが。
*****
森の中を、しばらく進んで行く。
きちんと枝打ちされて整備しているのか、小道のようなところを走っているので、張り出した枝葉に邪魔されることなく、速歩で駆けている。
さすがに乗り慣れているのだろう。
パトリシオの乗馬の技術は素晴らしいものだった。
しかし。
乗馬技術が優れていようと、剥き出しの太股で鞍を挟むのは、正直言ってきつかった。
それに。
少々、というか。かなり。
困ったことになっていたのだ。
笑顔で訊かれ。
「……あ、」
すっかり忘れていた。
私の足の下で。
盗賊のような恰好をした男は、完全に気を失っていた。
今の私は体重が軽いから、中身が出ないで済んで良かったな!
まだ息はあるようだ。しぶといな。
*****
「こいつが草むらから出て来て殴りかかってきたので、倒したのだが。かまわないな?」
「はあ……」
正当防衛である。倒しても、問題ないだろう。
証拠の武器は、その辺に落ちていたので拾ってもらう。
「この男、賞金もかかっている山賊なのですが。まさか、素手で倒されたのですか? それとも、すでに魔法を習得されているとか……」
完全に伸びている山賊を縄でぐるぐる巻きにしながら、訊いてきた。
本来の姿なら、武道を嗜んでいるのだろう、と納得されるのだが。姿が変わり、か弱そうな子供に見えるせいか。
しかし、基本、合気道に力は要らない。相手の力を受け流すものだ。
剣道、柔術も然り。力に頼るのは美しくない。
「素手に決まっている。こう見えても私は黒帯だぞ?」
「?」
首を傾げている。
ああ、異世界には柔道も空手も存在しなかったか。
通常、外国人ならば、カラテ、クロオビというだけで大喜びするのだがな。
常識が違うことを念頭に置いて会話しなければならないのか。面倒だ。
武道を嗜んでいるのだと教えたら。
後で是非お手合わせ願いたい、と興奮気味に言われた。
強そうな相手をみると、戦ってみたくなる性質なのか。
戦闘民族か何かか?
どこの世界でも、脳筋という生き物は存在していて、同じことを考えるようだ。
お育ちの良い貴族だろうに。
脳筋とは難儀なものだ。
*****
「……ああ、いけない。忘れるところでした」
思い出したように言って。
パトリシオは、近くで草を食んでいた馬に駆け寄ると、鞍にかけてあった布を持って来た。
「どうぞこれを。羽織るものをお持ちしました」
裸で召喚されることは、想定済みだったようだ。
ショールだろうか? シルクのようにさらさらして、肌触りが良い。
召喚失敗の報せを受け、狂った座標はすぐに特定されたが。
突然裸で異世界に放り出され、さぞ心細い思いをしているだろうと身を案じ。
とりあえず目についた布を引っ掴み、慌てて馬に飛び乗り、大急ぎで迎えに来たのだという。
当の私は夢だと思って、葉っぱの服を着てのんきに散歩してるわ、山賊は倒してるわで。さぞ驚いたことだろう。
まあ、夢だと思っていたからこそ、難なく倒せたのだろうが。
布を羽織らされたと思ったら。
そのまま、ぎゅっと抱き締められてしまった。
「本当に、ご無事で、良かった……」
心底ほっとした、という感情が伝わってくる。
いくら召喚時に妨害があったとはいえ。
王様の大事な結婚相手が山賊に殺されていたら、目も当てられない。
この領を治めている伯爵であるパトリシオの責任問題になりかねないだろう。
……香水だろうか、良い匂いがする。
外国人は体臭がきついので香水などで誤魔化しているそうだが。きつくはない。
しかし、外国人というのは、どうしてこう、スキンシップが激しいのだろう。
日本人が奥ゆかしいだけなのだろうか。
いや、愛する末弟が同じような状況だったら、私も思わず抱き締めてしまうだろう。
何も無くても抱き締めたくなるほど可愛いが。
そう考えればこの抱擁も、特におかしな行動ではないのか?
*****
私が捕えた山賊は、木の幹に縛り付けた状態で固定されている。
後で警備の者が引き取りにくるという。
山賊などが横行しないよう、もっと警備を強化させねば、と呟いて。
パトリシオは、布で巻かれた状態の私をひょいと持ち上げると、馬の鞍に乗せた。
他に、馬はいないようだが。
「待て。もしや、君と相乗りするのか?」
「え、馬にお乗りになれるのですか?」
驚いているようだが。
異世界人だから、何もできないとでも思っていたのか?
それは私を侮り過ぎている。
英国の貴族との会談で、スポーツ観戦だけでなく、乗馬することもある。
東洋人だからと馬鹿にされたり舐められないように、様々な経験と知識は積んでおくべきだ。
「当然だろう。乗馬くらい嗜んでいる」
「そうでしたか。しかし、今はこの一頭だけですので。しばしの間、ご寛恕ください」
そう言われては、大人げなく相乗りは嫌だと我儘を言うのも憚られる。
まずはこの馬でアンブロージョ城に向かい、休憩したのちに馬車に乗り換えるそうだ。
すぐに国王の所へ連れて行かれるのではないのか。
ずいぶんゆっくりしたスケジュールだ。
国王は”運命の番”に逢えるのを、今か今かと待っているのではないのか?
私としては積極的に逢いたいと思わないので、別にかまわないが。
*****
森の中を、しばらく進んで行く。
きちんと枝打ちされて整備しているのか、小道のようなところを走っているので、張り出した枝葉に邪魔されることなく、速歩で駆けている。
さすがに乗り慣れているのだろう。
パトリシオの乗馬の技術は素晴らしいものだった。
しかし。
乗馬技術が優れていようと、剥き出しの太股で鞍を挟むのは、正直言ってきつかった。
それに。
少々、というか。かなり。
困ったことになっていたのだ。
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