6 / 25
白馬の騎士
アンブロージョ城へ
しおりを挟む
「ところで。先程から穂波様が足蹴にされているソレは何でしょう?」
笑顔で訊かれ。
「……あ、」
すっかり忘れていた。
私の足の下で。
盗賊のような恰好をした男は、完全に気を失っていた。
今の私は体重が軽いから、中身が出ないで済んで良かったな!
まだ息はあるようだ。しぶといな。
*****
「こいつが草むらから出て来て殴りかかってきたので、倒したのだが。かまわないな?」
「はあ……」
正当防衛である。倒しても、問題ないだろう。
証拠の武器は、その辺に落ちていたので拾ってもらう。
「この男、賞金もかかっている山賊なのですが。まさか、素手で倒されたのですか? それとも、すでに魔法を習得されているとか……」
完全に伸びている山賊を縄でぐるぐる巻きにしながら、訊いてきた。
本来の姿なら、武道を嗜んでいるのだろう、と納得されるのだが。姿が変わり、か弱そうな子供に見えるせいか。
しかし、基本、合気道に力は要らない。相手の力を受け流すものだ。
剣道、柔術も然り。力に頼るのは美しくない。
「素手に決まっている。こう見えても私は黒帯だぞ?」
「?」
首を傾げている。
ああ、異世界には柔道も空手も存在しなかったか。
通常、外国人ならば、カラテ、クロオビというだけで大喜びするのだがな。
常識が違うことを念頭に置いて会話しなければならないのか。面倒だ。
武道を嗜んでいるのだと教えたら。
後で是非お手合わせ願いたい、と興奮気味に言われた。
強そうな相手をみると、戦ってみたくなる性質なのか。
戦闘民族か何かか?
どこの世界でも、脳筋という生き物は存在していて、同じことを考えるようだ。
お育ちの良い貴族だろうに。
脳筋とは難儀なものだ。
*****
「……ああ、いけない。忘れるところでした」
思い出したように言って。
パトリシオは、近くで草を食んでいた馬に駆け寄ると、鞍にかけてあった布を持って来た。
「どうぞこれを。羽織るものをお持ちしました」
裸で召喚されることは、想定済みだったようだ。
ショールだろうか? シルクのようにさらさらして、肌触りが良い。
召喚失敗の報せを受け、狂った座標はすぐに特定されたが。
突然裸で異世界に放り出され、さぞ心細い思いをしているだろうと身を案じ。
とりあえず目についた布を引っ掴み、慌てて馬に飛び乗り、大急ぎで迎えに来たのだという。
当の私は夢だと思って、葉っぱの服を着てのんきに散歩してるわ、山賊は倒してるわで。さぞ驚いたことだろう。
まあ、夢だと思っていたからこそ、難なく倒せたのだろうが。
布を羽織らされたと思ったら。
そのまま、ぎゅっと抱き締められてしまった。
「本当に、ご無事で、良かった……」
心底ほっとした、という感情が伝わってくる。
いくら召喚時に妨害があったとはいえ。
王様の大事な結婚相手が山賊に殺されていたら、目も当てられない。
この領を治めている伯爵であるパトリシオの責任問題になりかねないだろう。
……香水だろうか、良い匂いがする。
外国人は体臭がきついので香水などで誤魔化しているそうだが。きつくはない。
しかし、外国人というのは、どうしてこう、スキンシップが激しいのだろう。
日本人が奥ゆかしいだけなのだろうか。
いや、愛する末弟が同じような状況だったら、私も思わず抱き締めてしまうだろう。
何も無くても抱き締めたくなるほど可愛いが。
そう考えればこの抱擁も、特におかしな行動ではないのか?
*****
私が捕えた山賊は、木の幹に縛り付けた状態で固定されている。
後で警備の者が引き取りにくるという。
山賊などが横行しないよう、もっと警備を強化させねば、と呟いて。
パトリシオは、布で巻かれた状態の私をひょいと持ち上げると、馬の鞍に乗せた。
他に、馬はいないようだが。
「待て。もしや、君と相乗りするのか?」
「え、馬にお乗りになれるのですか?」
驚いているようだが。
異世界人だから、何もできないとでも思っていたのか?
それは私を侮り過ぎている。
英国の貴族との会談で、スポーツ観戦だけでなく、乗馬することもある。
東洋人だからと馬鹿にされたり舐められないように、様々な経験と知識は積んでおくべきだ。
「当然だろう。乗馬くらい嗜んでいる」
「そうでしたか。しかし、今はこの一頭だけですので。しばしの間、ご寛恕ください」
そう言われては、大人げなく相乗りは嫌だと我儘を言うのも憚られる。
まずはこの馬でアンブロージョ城に向かい、休憩したのちに馬車に乗り換えるそうだ。
すぐに国王の所へ連れて行かれるのではないのか。
ずいぶんゆっくりしたスケジュールだ。
国王は”運命の番”に逢えるのを、今か今かと待っているのではないのか?
私としては積極的に逢いたいと思わないので、別にかまわないが。
*****
森の中を、しばらく進んで行く。
きちんと枝打ちされて整備しているのか、小道のようなところを走っているので、張り出した枝葉に邪魔されることなく、速歩で駆けている。
さすがに乗り慣れているのだろう。
パトリシオの乗馬の技術は素晴らしいものだった。
しかし。
乗馬技術が優れていようと、剥き出しの太股で鞍を挟むのは、正直言ってきつかった。
それに。
少々、というか。かなり。
困ったことになっていたのだ。
笑顔で訊かれ。
「……あ、」
すっかり忘れていた。
私の足の下で。
盗賊のような恰好をした男は、完全に気を失っていた。
今の私は体重が軽いから、中身が出ないで済んで良かったな!
まだ息はあるようだ。しぶといな。
*****
「こいつが草むらから出て来て殴りかかってきたので、倒したのだが。かまわないな?」
「はあ……」
正当防衛である。倒しても、問題ないだろう。
証拠の武器は、その辺に落ちていたので拾ってもらう。
「この男、賞金もかかっている山賊なのですが。まさか、素手で倒されたのですか? それとも、すでに魔法を習得されているとか……」
完全に伸びている山賊を縄でぐるぐる巻きにしながら、訊いてきた。
本来の姿なら、武道を嗜んでいるのだろう、と納得されるのだが。姿が変わり、か弱そうな子供に見えるせいか。
しかし、基本、合気道に力は要らない。相手の力を受け流すものだ。
剣道、柔術も然り。力に頼るのは美しくない。
「素手に決まっている。こう見えても私は黒帯だぞ?」
「?」
首を傾げている。
ああ、異世界には柔道も空手も存在しなかったか。
通常、外国人ならば、カラテ、クロオビというだけで大喜びするのだがな。
常識が違うことを念頭に置いて会話しなければならないのか。面倒だ。
武道を嗜んでいるのだと教えたら。
後で是非お手合わせ願いたい、と興奮気味に言われた。
強そうな相手をみると、戦ってみたくなる性質なのか。
戦闘民族か何かか?
どこの世界でも、脳筋という生き物は存在していて、同じことを考えるようだ。
お育ちの良い貴族だろうに。
脳筋とは難儀なものだ。
*****
「……ああ、いけない。忘れるところでした」
思い出したように言って。
パトリシオは、近くで草を食んでいた馬に駆け寄ると、鞍にかけてあった布を持って来た。
「どうぞこれを。羽織るものをお持ちしました」
裸で召喚されることは、想定済みだったようだ。
ショールだろうか? シルクのようにさらさらして、肌触りが良い。
召喚失敗の報せを受け、狂った座標はすぐに特定されたが。
突然裸で異世界に放り出され、さぞ心細い思いをしているだろうと身を案じ。
とりあえず目についた布を引っ掴み、慌てて馬に飛び乗り、大急ぎで迎えに来たのだという。
当の私は夢だと思って、葉っぱの服を着てのんきに散歩してるわ、山賊は倒してるわで。さぞ驚いたことだろう。
まあ、夢だと思っていたからこそ、難なく倒せたのだろうが。
布を羽織らされたと思ったら。
そのまま、ぎゅっと抱き締められてしまった。
「本当に、ご無事で、良かった……」
心底ほっとした、という感情が伝わってくる。
いくら召喚時に妨害があったとはいえ。
王様の大事な結婚相手が山賊に殺されていたら、目も当てられない。
この領を治めている伯爵であるパトリシオの責任問題になりかねないだろう。
……香水だろうか、良い匂いがする。
外国人は体臭がきついので香水などで誤魔化しているそうだが。きつくはない。
しかし、外国人というのは、どうしてこう、スキンシップが激しいのだろう。
日本人が奥ゆかしいだけなのだろうか。
いや、愛する末弟が同じような状況だったら、私も思わず抱き締めてしまうだろう。
何も無くても抱き締めたくなるほど可愛いが。
そう考えればこの抱擁も、特におかしな行動ではないのか?
*****
私が捕えた山賊は、木の幹に縛り付けた状態で固定されている。
後で警備の者が引き取りにくるという。
山賊などが横行しないよう、もっと警備を強化させねば、と呟いて。
パトリシオは、布で巻かれた状態の私をひょいと持ち上げると、馬の鞍に乗せた。
他に、馬はいないようだが。
「待て。もしや、君と相乗りするのか?」
「え、馬にお乗りになれるのですか?」
驚いているようだが。
異世界人だから、何もできないとでも思っていたのか?
それは私を侮り過ぎている。
英国の貴族との会談で、スポーツ観戦だけでなく、乗馬することもある。
東洋人だからと馬鹿にされたり舐められないように、様々な経験と知識は積んでおくべきだ。
「当然だろう。乗馬くらい嗜んでいる」
「そうでしたか。しかし、今はこの一頭だけですので。しばしの間、ご寛恕ください」
そう言われては、大人げなく相乗りは嫌だと我儘を言うのも憚られる。
まずはこの馬でアンブロージョ城に向かい、休憩したのちに馬車に乗り換えるそうだ。
すぐに国王の所へ連れて行かれるのではないのか。
ずいぶんゆっくりしたスケジュールだ。
国王は”運命の番”に逢えるのを、今か今かと待っているのではないのか?
私としては積極的に逢いたいと思わないので、別にかまわないが。
*****
森の中を、しばらく進んで行く。
きちんと枝打ちされて整備しているのか、小道のようなところを走っているので、張り出した枝葉に邪魔されることなく、速歩で駆けている。
さすがに乗り慣れているのだろう。
パトリシオの乗馬の技術は素晴らしいものだった。
しかし。
乗馬技術が優れていようと、剥き出しの太股で鞍を挟むのは、正直言ってきつかった。
それに。
少々、というか。かなり。
困ったことになっていたのだ。
2
お気に入りに追加
425
あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。


乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。


拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。


信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる