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異世界に、俺が主人公のラノベがあった件について。
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『ワルター、ゼンショー殿は剣士になるわけではないんですよ?』
レオナルドが呆れたように肩を竦めた。
『おっと、そうだったか。残念だ』
ワルターは笑っている。
『だいたい、ゴースト以外の脅威からは我々が命を懸けて守るし、危ない真似はさせられないだろ』
テオは真面目に突っ込んでいる。
使い慣れてるのであれば、とりあえずこの木刀を使ってみては、と言われた。
実際、木刀を使っての対ゴーストの特訓は、翌日にすることとなった。
道場から帰る途中。
国王フレデリックから城に呼ばれ、”伝説の僧侶ゼンショーの活躍”とやらが書かれた書物の原本を見せてもらうことになった。
それは元々異世界語で書かれているものだったが、研究者がどうにか解読したものらしい。
異世界の本なので、もしかしたら、俺に読めるものでは? と思ったそうだ。
巷に出回っているのは、こちらの言葉に翻訳され、要約した簡易版の写しの写しだという。
なので、原本の内容とは違っている可能性もあるそうだ。
なるほど。
それなら是非、見せて欲しいものだ。
◆◇◆
宝物のように、厳重に管理された箱から取り出されたそれは。
……ラノベだな。
紛うことなきラノベだ。これは。
古ぼけているが、アニメ風イラストのついた表紙。
数珠を持った作務衣姿のクールな美青年に、肌もあらわな美少女が寄り添っている。
防具の意味がまるでないような水着風アーマーを着用していた。
鈴木が持っていたので見知っていた。このレーベルは、有名な出版社のものだ。
これは。間違いなく、メイドインジャパンのライトノベルである。
そのタイトルは。
”寺生まれなので異世界に召喚されて悪霊退治やらされてます。”?
……長いな。
中を見なくても何となく内容が類推できるので、わかりやすいといえばわかりやすいが。
長ければ良いというものではないだろうに。説明的すぎてもくどい。
作者名は知らない。”とうたく”? 誰だ。中国の武将か。
開いてみると、著者近影に、見覚えのある顔が。
この顔は。
「……卓也……?」
『フレッド、この絵姿、神官殿に似ていませんか?』
『ああ、そういえばクラークに似ているな。世界には、自分に似た人間が七人存在するというが、私は見たことが無い……』
異世界の王様と騎士が、メイドインジャパンのライトノベルを興味深そうに覗き込んでいるという状況。
物凄い違和感だ。
コントでも見ているようである。
『自分ソックリな人間を見たら早死にするらしいですし、見ないほうがよろしいのでは。ドッペルゲンガーとかいう妖怪の仕業らしいですが』
『なんと! ではクラークにはこの書物は見せてはならんな!』
外野うるさい。
◆◇◆
写真では、少し老けた感じに見える。
だが、これは間違いなく卓也だ。
加藤卓也。
か”とうたく”やでとうたく、か。
ひねりも何もない、ストレートなペンネームは卓也らしいが。
……どういうことだ?
パラパラと、内容を確認してみる。
主人公は、寺生まれの次男、T・ゼンショー。
頭脳明晰、文武両道、眉目秀麗な僧侶見習いである。
ある夏休みの夕方、ゼンショーは友人と肝試しをしている途中で事件に巻き込まれ、異世界に召喚されてしまった。
その先で、ゼンショーは伝説の僧侶として覚醒し、無敵、無双、八面六臂の大活躍をする、という内容だった。
……色々と、突っ込みたい部分はあるが。
これ、まんま俺ではないか。
おい、個人情報!
異世界に着いた途端、肌もあらわな美少女剣士と同衾したり、様々な美女に囲まれてモテモテハーレムだったりと。
召喚されてからの展開は全く違うが。
俺がこの世界に召喚されるまでのやり取りは、まるで見てきたようにそっくり同じだった。
不思議に思ったが。
……そういえば、デジタルビデオカメラ。
録画になったまま、あの場所に置き忘れてたのか?
それを見た卓也が、これを書いたのか?
パラパラとメージをめくり。
あとがきを見ると。
あとがきの冒頭には、親友に捧ぐ、と書いてあった。
親友は、本と同じ状況で自分達を庇い、一人で立ち向かって、異世界に消えた。
この本は、その先でこういう活躍をしていればいいな、と思って書いたものだという。
日付は。
……15年先だ。これは、未来に出た本なのか?
しかし、この本は、この国に代々伝わる書物だと言っていた。
どこかで時空が捻じ曲がって、未来から過去へ届いたものなのか?
そして。
これを見る限り。
俺は、15年先まで。
日本に。
元の世界に帰っていない、ということになるのか?
◆◇◆
……とりあえず、わかったことは。
何もかも、卓也のせいだということだ。
ヤツが肝試しにさえ誘わなければ、こんなことには……。
そして。
この本のせいで俺は。
ファーストキスも、それ以上のことも……!
……耐えろ。
男は軽々しく涙を見せてはいけないのだ。
研究者も、訳すなら”この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。”の注意書きまで訳せば良いものを……!
レオナルドが呆れたように肩を竦めた。
『おっと、そうだったか。残念だ』
ワルターは笑っている。
『だいたい、ゴースト以外の脅威からは我々が命を懸けて守るし、危ない真似はさせられないだろ』
テオは真面目に突っ込んでいる。
使い慣れてるのであれば、とりあえずこの木刀を使ってみては、と言われた。
実際、木刀を使っての対ゴーストの特訓は、翌日にすることとなった。
道場から帰る途中。
国王フレデリックから城に呼ばれ、”伝説の僧侶ゼンショーの活躍”とやらが書かれた書物の原本を見せてもらうことになった。
それは元々異世界語で書かれているものだったが、研究者がどうにか解読したものらしい。
異世界の本なので、もしかしたら、俺に読めるものでは? と思ったそうだ。
巷に出回っているのは、こちらの言葉に翻訳され、要約した簡易版の写しの写しだという。
なので、原本の内容とは違っている可能性もあるそうだ。
なるほど。
それなら是非、見せて欲しいものだ。
◆◇◆
宝物のように、厳重に管理された箱から取り出されたそれは。
……ラノベだな。
紛うことなきラノベだ。これは。
古ぼけているが、アニメ風イラストのついた表紙。
数珠を持った作務衣姿のクールな美青年に、肌もあらわな美少女が寄り添っている。
防具の意味がまるでないような水着風アーマーを着用していた。
鈴木が持っていたので見知っていた。このレーベルは、有名な出版社のものだ。
これは。間違いなく、メイドインジャパンのライトノベルである。
そのタイトルは。
”寺生まれなので異世界に召喚されて悪霊退治やらされてます。”?
……長いな。
中を見なくても何となく内容が類推できるので、わかりやすいといえばわかりやすいが。
長ければ良いというものではないだろうに。説明的すぎてもくどい。
作者名は知らない。”とうたく”? 誰だ。中国の武将か。
開いてみると、著者近影に、見覚えのある顔が。
この顔は。
「……卓也……?」
『フレッド、この絵姿、神官殿に似ていませんか?』
『ああ、そういえばクラークに似ているな。世界には、自分に似た人間が七人存在するというが、私は見たことが無い……』
異世界の王様と騎士が、メイドインジャパンのライトノベルを興味深そうに覗き込んでいるという状況。
物凄い違和感だ。
コントでも見ているようである。
『自分ソックリな人間を見たら早死にするらしいですし、見ないほうがよろしいのでは。ドッペルゲンガーとかいう妖怪の仕業らしいですが』
『なんと! ではクラークにはこの書物は見せてはならんな!』
外野うるさい。
◆◇◆
写真では、少し老けた感じに見える。
だが、これは間違いなく卓也だ。
加藤卓也。
か”とうたく”やでとうたく、か。
ひねりも何もない、ストレートなペンネームは卓也らしいが。
……どういうことだ?
パラパラと、内容を確認してみる。
主人公は、寺生まれの次男、T・ゼンショー。
頭脳明晰、文武両道、眉目秀麗な僧侶見習いである。
ある夏休みの夕方、ゼンショーは友人と肝試しをしている途中で事件に巻き込まれ、異世界に召喚されてしまった。
その先で、ゼンショーは伝説の僧侶として覚醒し、無敵、無双、八面六臂の大活躍をする、という内容だった。
……色々と、突っ込みたい部分はあるが。
これ、まんま俺ではないか。
おい、個人情報!
異世界に着いた途端、肌もあらわな美少女剣士と同衾したり、様々な美女に囲まれてモテモテハーレムだったりと。
召喚されてからの展開は全く違うが。
俺がこの世界に召喚されるまでのやり取りは、まるで見てきたようにそっくり同じだった。
不思議に思ったが。
……そういえば、デジタルビデオカメラ。
録画になったまま、あの場所に置き忘れてたのか?
それを見た卓也が、これを書いたのか?
パラパラとメージをめくり。
あとがきを見ると。
あとがきの冒頭には、親友に捧ぐ、と書いてあった。
親友は、本と同じ状況で自分達を庇い、一人で立ち向かって、異世界に消えた。
この本は、その先でこういう活躍をしていればいいな、と思って書いたものだという。
日付は。
……15年先だ。これは、未来に出た本なのか?
しかし、この本は、この国に代々伝わる書物だと言っていた。
どこかで時空が捻じ曲がって、未来から過去へ届いたものなのか?
そして。
これを見る限り。
俺は、15年先まで。
日本に。
元の世界に帰っていない、ということになるのか?
◆◇◆
……とりあえず、わかったことは。
何もかも、卓也のせいだということだ。
ヤツが肝試しにさえ誘わなければ、こんなことには……。
そして。
この本のせいで俺は。
ファーストキスも、それ以上のことも……!
……耐えろ。
男は軽々しく涙を見せてはいけないのだ。
研究者も、訳すなら”この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。”の注意書きまで訳せば良いものを……!
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