異世界で二人の王子に愛されて、俺は女王になる。

篠崎笙

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海瑠の使命

生命

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「あれ? クリシュナ、また身長伸びてね?」
海瑠はクリシュナを見上げた。


『そうか?』

自分ではわからないようだが。
何となく、目線の位置が変わった気がした。

相変わらず立派な体躯であるが。178cmくらいだったのが、180cmを越えたような感じで。
更に差をつけられるのか、と海瑠は少々悔しく思った。
ただでさえ、理想的な体つきだというのに。


自分は、小学校高学年までは背が高いほうだったのに。
中学高校で周りの男子や女子にまで、どんどん追い抜かれていったのだ。

悲しい思い出である。


◆◇◆


クリシュナの引き締まった背中から、腰のラインもしっかりしている。
もうすっかり大人の身体になったように見えるが、まだまだ成長途中のようだ。

「成長期なのかねー」

『!?』
硬い尻をぺち、と叩いて海瑠は一足先に風呂に入った。


海瑠が身体を流していると。
少し遅れて、クリシュナも入ってきた。腰にタオルも巻いていない。堂々としたものだ。

それもそのはず。
ほんとだったら、国王様、だったんだもんな。


二人並んで湯船に浸かる。ここも乳白色の湯だった。

『……私に、内密の話が?』
「え?」

『オーランドにも聞かれたくない話があるから、誘ったのではないのか?』
クリシュナは真顔だった。

「いや、別に。……何となく、おまえと一緒に入りたかったから……」
海瑠が恥ずかしそうに告げると。


クリシュナは、目を瞬かせて。


「んむ、」

次の瞬間には。
海瑠はクリシュナの腕の中、口付けられていた。


◆◇◆


湯の中で。

クリシュナの指が、侵入してくる。
そこを拡げるような動きで。慣らされていく。

「お湯、入っちゃう……」
さすがに風呂にまでは二人の騎士は入ってこないのか、と思ったら。

他人に聞かれたくない内密の話があると思い、立ち入らないよう命じたようだ。


『もう、香油がなくとも、私のものならば受け入れられるだろう?』
低く甘い囁きに耳をくすぐられ。

熱い剛直があてがわれる。


「え、まだ……っ、ん、」
ずぶっ、と強引に押し入られて、海瑠の細い背がしなる。

その衝撃から落ち着くと。
やがて、たおやかな白い手が、ココア色の背に回された。


『きつい……ここ、私のかたちにぴったりだ。ようやく覚えたか?』
「……ばか、」

『そうだ。私は馬鹿になったのだ。……貴方を、気が狂うほど愛している』
こうして、我を忘れて求めてしまうほど、と言って。

愛おしそうに目を細め、唇を寄せるクリシュナに、海瑠の鼓動は跳ね上がった。

誤魔化しようのない気持ち。
海瑠は、自分が王子たちに恋をしていることを自覚した。

本物の乙女じゃあるまいし。
美しい王子に愛されて、こんな気持ちになるなんて。
少し前なら、想像もしなかったことである。


役者を目指し、実家を飛び出したものの。
容姿のせいで、役柄はもっぱら女装か線の細い少年役ばかり。

憧れていたのとは違った虚構の世界に幻滅したりもしたが。色々な役を演じるのは楽しかった。生甲斐だった。

今では異世界で女王という役を演じているものの。
衣装を脱いだ、ありのままの自分を、こんなに愛してくれる。


愛おしい、海瑠の王子たち。


◆◇◆


湯が波打つほど、激しく愛されて。

どくん、と。
腹の奥に、熱いものを感じた。


「あァん!」
海瑠は甘い声で鳴いた。

こんな甘えた声、出すなんて……!
海瑠は恥ずかしくなって、真っ赤になった。


『可愛い』
15も年下の男に、可愛いなどと言われて。何故嬉しいのか。

湯にのぼせたに違いない、と自分を誤魔化そうとしたが。


「あれ……? お腹、熱い……?」

出されたのが全身に広がるのだが。
今回は、が、じんわりと熱いのだ。

嫌な感じではない。むしろ。


クリシュナは、目を瞠った。

『おお、ついに……、』
海瑠は感激したクリシュナに、ぎゅっと抱き締められた。


『よくやった! 私たちの子だ!』
「…………は?」

大喜びしたクリシュナの声に、ようやく二人の騎士たちが駆けつけて来て。
海瑠の懐妊を知ったのだった。


◆◇◆


『ないわー』

気の抜けた声で。
目を眇め、オーランドが言った。


『次は、私の子を産んでくださいね? ね? 約束ですからね?』

仲間はずれにされた挙句に。
先に兄の子を産まれてしまった弟王子は、涙目で擦り寄ってきた。

「わ、悪い、まさか、こんな簡単にできちゃうとは思わなくて……」
懐に入れた卵をあたためながら、海瑠は肩を落として落ち込むオーランドの背を撫でた。


出てきたときにはビー玉くらいだったのが、今は鶏卵ほどの大きさになっている。

卵生なのか、異世界人って……。
精液を腹に出されただけで孕んでしまうのも意味不明である。これが女神のご加護か。
ファンタジーってすごい。

海瑠は考えるのをやめた。


え? と思ったときにはもう卵が産まれていたのだ。
どういう仕組みなのかは全くわからない。ミラクルの一言に尽きる。

確かに痛みは無かった。
あまりに簡単すぎて、びっくりしていた。あれほど恐れていたのが嘘のようである。


『どうします? 視察の中止を通達します?』
『どっち似かなあ』
王子の側近騎士たちは浮かれているが。

『いや、まだ様子をみよう』
『お触れは無事御子が誕生されてからだ』
隊長格二人は慎重派だった。


過去にはあったらしいが。異世界人との子供については、公式な記録が残っていないようで。
卵からちゃんと赤子が生まれてくる保証も無いという。


◆◇◆


海瑠の腕の中で、卵は少しずつ大きくなっている。

この中に、ほんとに子供が入ってるのかなぁ。
自分の腹の中で、生命を作り出したなんて。想像するだにおそろしいが。

少し、わくわくしていた。


クリシュナは冬眠前の熊のように落ち着きなく部屋をうろうろしている。
名前はどうする、とか呟きながら。

オーランドはいじけながらも、赤子を包むためのおくるみを製作していた。
つくづく器用である。

青い布に、丸い、紅い宝石を飾っている。お守り石らしい。

まだ生まれるかもわからないというのに、気が早いとは思うが。
海瑠はオーランドのその気持ちを嬉しく思った。


卵は駝鳥の卵ほどの大きさになり、きらきら光り出した。
卵の殻は、光の粒になって消えるらしい。


『よし。……生まれるぞ……!』
海瑠と二人の王子と、その四人の騎士たちが固唾を呑んで見守る中。


珠のような赤ん坊が生まれたのだった。
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