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ネイディーンの女王
戴冠式
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とうとう、戴冠式の日がやってきた。
何度も練習を繰り返し、王族としての礼儀作法も覚えた海瑠は。
国民への挨拶のため、城のテラスから城下を見下ろした。
地面が見えないくらい、大勢の人が集まっているのが見えた。
当たり前だが、皆、男だ。男しかいない。
凄い光景だった。
思わずその熱気に圧倒され、息を呑む海瑠だったが。
『……手を、』
後ろからクリシュナに、手を振るよう促されて。
海瑠は控えめな、しかし遠くからもそれとわかるような笑顔を作り、小首を傾げ、優雅に手を振ってみせた。
舞台役者である。遠目からの視線も意識できる。
絵姿などではない、初めて見る本物の、美しい女性の姿に国民は大興奮である。
実際は男だが。
城を揺るがすほどの大歓声。
新女王に期待を寄せる声援が贈られた。
◆◇◆
水晶をマイク代わりに、宝石を介し、ここまでは来られないような遠くにいる国民にも声を届ける魔法らしい。
初の全国放送である。
至らないところもあるだろうが頑張ります、的なことを言ったようだが。緊張で覚えていない。
初舞台よりも緊張した。
二人の王子は、海瑠の両脇に立って、式に臨んだ。
さすがに生まれながらの王子。堂々とした立ち姿だった。
結局、戴冠式までにどちらの王子を結婚相手に選ぶかは決められなかった。
二人とも、国民から絶大な人気がある。どちらを選んでも遺恨が残りそうだ、という懸念もあったが。
どちらも嫌いではないので選べない、というのが本音だ。
この兄弟、お互いに足りない部分を補い合っている印象もあり、常に一緒に置いておきたいと考えたのだ。
戴冠式のお披露目パーティーには、各国の王、貴族が集まっていた。
エリノア国王、レティシア国王、ルクレティア国王。
皆、女王の誕生を喜んで、遠方より祝いに駆けつけてくれた。
こうして全国の王が集まるのは、滅多にないことだという。何しろ国のトップである。
パーティーの会場には、騎士や神官も大勢来ていた。
会場にいるのは国王関係者ばかりだというが、ずいぶん大勢来たものだ。護衛だろうか。
『エリノア国王、フレデリックです。新女王の誕生を心から祝います』
エリノア国王は、異世界人を見るのは、これで二人目だと言った。
57歳だというが、まだまだ男盛りといった感じの、貫禄のある王だった。
その異世界人は、30年ほど前にやってきて。
勇者とともにこの世界を救った、高名な僧侶だという。
背は海瑠よりも10cmほど高かったそうだが。やはりこの世界の人と比べると、華奢に見えたらしい。
傍らにいたエリノアの神官の方が自分より小さく華奢に見えるので、不思議に思ったが。人種が違うのだという。
訊けばホビット系だという。やはり、長寿なのだそうだ。少年にしか見えないのに、60歳以上だとか。
ネイディーンの妖怪神官はエルフ系だったらしい。納得した。
そしてルクレティアには、獣人が多くいるという。
まさに異世界ファンタジーである。
◆◇◆
エリノア国王に、昨夜現れた黒いキツネと、キツネと交わした話の内容を教えると。
エリノア国王は鼻を真っ赤にして涙目になりながら、何度もありがとうと海瑠に礼を言った。
神官や、お供についていた壮年の騎士まで泣いていた。
よくわからないが、どうやら良いことをしたようだと海瑠はほっとした。
『絵姿でしか見られなかった女性を、まさか生きているうちにこの目で見られるとは。大変な僥倖です』
気付けば国王たちは全員、目に涙を溜めていた。
この国だけでなく、他の国でも女性が増えればいいのに、と話し合っている。
女ではない。
罪悪感で胸が痛くなってきた海瑠だった。
『私との子供は、女の子かもしれませんね?』
海瑠の肩を抱き、オーランドが笑顔で言った。
『私はどちらでもいい。私の子を産んでくれるなら』
同じく反対側の肩を抱いてきたのはクリシュナだ。
気分は捕らえられた宇宙人である。
『おお、ネイディーンの誇る麗しき王子たちがカイル女王の伴侶なのですね。これは和子の誕生が楽しみだ』
『女の子が生まれたらお報せください。寿ぎに駆けつけますゆえ。あ、いや、男の子でも祝いますぞ!』
『いやあ、その前に結婚式でしょう。王子たちが羨ましいですな! 結婚式は盛大にさせるのでしょうな? 無論、駆けつけますぞ!』
国王たちが、わっと喜びにわいた。
普通に二股アリなのか、異世界は。
海瑠は遠い目をした。
ネイディーンの新女王お披露目パーティーは。
そのような感じで、和やかに終わったのだった。
◆◇◆
前国王は他の国に旅行をすると言って。
お付きの騎士を二人だけを伴い、喜々として旅立っていった。
黒髪に黒い目、褐色の肌の黒い騎士と、プラチナプロンドにスカイブルーの瞳の白い騎士だった。
騎士たちは二人の美しい王子に似た、綺麗な顔をしていた。
彼らは一度こちらを振り返ったので、笑顔で手を振ると。
一礼をして、去って行った。
『母上たちは、相変わらず固いよなあ』
オーランドが一行を見送って言った。
「……母上たち!?」
二人とも、王の子を産んだものの。
騎士としての誇りがあるため、后にはならなかったそうだ。
お披露目はもちろん、結婚式も挙げていないという。
「紹介くらいしろよ! 今初めて聞いたぞソレ!」
つまり、あの騎士たちは、王子たちの母親ということだ。
『ただの騎士の身分で、女王陛下にご挨拶はできないとのことで……』
『うむ、式典の準備をそれは嬉しげに手伝っていた』
「言えよ! んも~~~!」
思わず地団太を踏んでしまう。
『何故、怒る?』
クリシュナが首を傾げた。
「だって。おまえらのお母さんってことは、おれにとってもお母さんみたいなもんだろ!!」
叫んで。
気がついた。自分の発言内容に。
……それは、つまり。
結婚したと認めていると同じで。
『……カイル……』
『…………』
海瑠のほうを、唖然とした顔で見ていた2人だったが。
クリシュナとオーランドの目が合って、頷き合うと。
オーランドが海瑠をお姫様抱っこの形で抱え上げ。
先に走り出したクリシュナがドアを開けた。
……おまえら仲良いな!
何度も練習を繰り返し、王族としての礼儀作法も覚えた海瑠は。
国民への挨拶のため、城のテラスから城下を見下ろした。
地面が見えないくらい、大勢の人が集まっているのが見えた。
当たり前だが、皆、男だ。男しかいない。
凄い光景だった。
思わずその熱気に圧倒され、息を呑む海瑠だったが。
『……手を、』
後ろからクリシュナに、手を振るよう促されて。
海瑠は控えめな、しかし遠くからもそれとわかるような笑顔を作り、小首を傾げ、優雅に手を振ってみせた。
舞台役者である。遠目からの視線も意識できる。
絵姿などではない、初めて見る本物の、美しい女性の姿に国民は大興奮である。
実際は男だが。
城を揺るがすほどの大歓声。
新女王に期待を寄せる声援が贈られた。
◆◇◆
水晶をマイク代わりに、宝石を介し、ここまでは来られないような遠くにいる国民にも声を届ける魔法らしい。
初の全国放送である。
至らないところもあるだろうが頑張ります、的なことを言ったようだが。緊張で覚えていない。
初舞台よりも緊張した。
二人の王子は、海瑠の両脇に立って、式に臨んだ。
さすがに生まれながらの王子。堂々とした立ち姿だった。
結局、戴冠式までにどちらの王子を結婚相手に選ぶかは決められなかった。
二人とも、国民から絶大な人気がある。どちらを選んでも遺恨が残りそうだ、という懸念もあったが。
どちらも嫌いではないので選べない、というのが本音だ。
この兄弟、お互いに足りない部分を補い合っている印象もあり、常に一緒に置いておきたいと考えたのだ。
戴冠式のお披露目パーティーには、各国の王、貴族が集まっていた。
エリノア国王、レティシア国王、ルクレティア国王。
皆、女王の誕生を喜んで、遠方より祝いに駆けつけてくれた。
こうして全国の王が集まるのは、滅多にないことだという。何しろ国のトップである。
パーティーの会場には、騎士や神官も大勢来ていた。
会場にいるのは国王関係者ばかりだというが、ずいぶん大勢来たものだ。護衛だろうか。
『エリノア国王、フレデリックです。新女王の誕生を心から祝います』
エリノア国王は、異世界人を見るのは、これで二人目だと言った。
57歳だというが、まだまだ男盛りといった感じの、貫禄のある王だった。
その異世界人は、30年ほど前にやってきて。
勇者とともにこの世界を救った、高名な僧侶だという。
背は海瑠よりも10cmほど高かったそうだが。やはりこの世界の人と比べると、華奢に見えたらしい。
傍らにいたエリノアの神官の方が自分より小さく華奢に見えるので、不思議に思ったが。人種が違うのだという。
訊けばホビット系だという。やはり、長寿なのだそうだ。少年にしか見えないのに、60歳以上だとか。
ネイディーンの妖怪神官はエルフ系だったらしい。納得した。
そしてルクレティアには、獣人が多くいるという。
まさに異世界ファンタジーである。
◆◇◆
エリノア国王に、昨夜現れた黒いキツネと、キツネと交わした話の内容を教えると。
エリノア国王は鼻を真っ赤にして涙目になりながら、何度もありがとうと海瑠に礼を言った。
神官や、お供についていた壮年の騎士まで泣いていた。
よくわからないが、どうやら良いことをしたようだと海瑠はほっとした。
『絵姿でしか見られなかった女性を、まさか生きているうちにこの目で見られるとは。大変な僥倖です』
気付けば国王たちは全員、目に涙を溜めていた。
この国だけでなく、他の国でも女性が増えればいいのに、と話し合っている。
女ではない。
罪悪感で胸が痛くなってきた海瑠だった。
『私との子供は、女の子かもしれませんね?』
海瑠の肩を抱き、オーランドが笑顔で言った。
『私はどちらでもいい。私の子を産んでくれるなら』
同じく反対側の肩を抱いてきたのはクリシュナだ。
気分は捕らえられた宇宙人である。
『おお、ネイディーンの誇る麗しき王子たちがカイル女王の伴侶なのですね。これは和子の誕生が楽しみだ』
『女の子が生まれたらお報せください。寿ぎに駆けつけますゆえ。あ、いや、男の子でも祝いますぞ!』
『いやあ、その前に結婚式でしょう。王子たちが羨ましいですな! 結婚式は盛大にさせるのでしょうな? 無論、駆けつけますぞ!』
国王たちが、わっと喜びにわいた。
普通に二股アリなのか、異世界は。
海瑠は遠い目をした。
ネイディーンの新女王お披露目パーティーは。
そのような感じで、和やかに終わったのだった。
◆◇◆
前国王は他の国に旅行をすると言って。
お付きの騎士を二人だけを伴い、喜々として旅立っていった。
黒髪に黒い目、褐色の肌の黒い騎士と、プラチナプロンドにスカイブルーの瞳の白い騎士だった。
騎士たちは二人の美しい王子に似た、綺麗な顔をしていた。
彼らは一度こちらを振り返ったので、笑顔で手を振ると。
一礼をして、去って行った。
『母上たちは、相変わらず固いよなあ』
オーランドが一行を見送って言った。
「……母上たち!?」
二人とも、王の子を産んだものの。
騎士としての誇りがあるため、后にはならなかったそうだ。
お披露目はもちろん、結婚式も挙げていないという。
「紹介くらいしろよ! 今初めて聞いたぞソレ!」
つまり、あの騎士たちは、王子たちの母親ということだ。
『ただの騎士の身分で、女王陛下にご挨拶はできないとのことで……』
『うむ、式典の準備をそれは嬉しげに手伝っていた』
「言えよ! んも~~~!」
思わず地団太を踏んでしまう。
『何故、怒る?』
クリシュナが首を傾げた。
「だって。おまえらのお母さんってことは、おれにとってもお母さんみたいなもんだろ!!」
叫んで。
気がついた。自分の発言内容に。
……それは、つまり。
結婚したと認めていると同じで。
『……カイル……』
『…………』
海瑠のほうを、唖然とした顔で見ていた2人だったが。
クリシュナとオーランドの目が合って、頷き合うと。
オーランドが海瑠をお姫様抱っこの形で抱え上げ。
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