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ネイディーンへ

神官との会談

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一日寝たら、起き上がれるようになった。

本来、異世界人にとって、こちらの魔力の高い男の精は、活力になるもので。
決して毒になるものではないという。


王子たちはかなり魔力が高いので、それで回復も早かったのでしょう、と見舞いの花を届けに来たナイジェルは言った。
ただ、キャパを越えるほどの無茶をされただけで。


今日は神官メレディスとの会談だというので、海瑠は淡いブルーのドレスを身に着けて、楚々とした仕草で席についた。

首には同系色のネッカチーフ。青いハイヒール。
胸にはもちろん、ヌーブラとレモンパッドをセットし、コルセット着用。
メイクも施し、完全フル装備である。


◆◇◆


これは城の教育係から指導され、教えてもらった女性用の貴族式の礼を優雅にしてみせた。

海瑠は元々役者であり、勘も良く。
新女王の役を演じるのだと思えば、覚えるのも早かった。


すっかり貴婦人のような立ち居振る舞いを覚えた、海瑠のドレス姿を見たメレディスは。
ほう、と感嘆の息を吐いた。

『わたくしは、この世界にまだ女性がいた時代を知っておりますが。これほどまでに美しいかたを見たことはありませんでした』
大絶賛である。

神官はまだ女性がいた時代を知っている。生き証人であった。
これには海瑠も興味を引かれた。

「この世界には何年前まで、女性が存在していたのでしょうか?」
声を高く作り。なるべく丁寧な言葉遣いを心がける。


『そうですね。1700年ほど前には、人口の半数以上が女性でした。しかし、年々女性が生まれにくくなって。1500年前のある日、この地上から女性が忽然と消えたのです。老人も赤子も全て。……無論、混乱はしました。しかし、しばらくして男同士のツガイから赤子が生まれたことにより、人類滅亡の危機から救われ、現在の繁栄を得たのです。これは女神のご加護かと存じます』

……もしかしたら、女神ので女性がこの世界から消えたわけではないのかもしれない。
そんな気がした。

……ん?
待て。いや待て。

海瑠は頭痛がしてきた。


今、何かとんでもないことを聞いた気がしたのだ。
1700年前とか。

「し、神官様は、おいくつでいらっしゃいますの?」

神官は、二十歳代の青年にしか見えない顔で優美に微笑んだ。
『わたくしですか? 確か、今年で1800歳になるかと思いますが』

本物の妖怪がここにいた。


神官は神に近い存在なので、一万年近く生きる神官もいるという。
異世界すごい。海瑠は思った。

「あの、私が女王で、本当に、良いのでしょうか」
知らず、声が震えてしまう。

『もう”娘”ではなくなってしまったご様子ですが。カイル様以上の逸材は存在しません。断言できます』
きっぱり言った。

娘……つまり処女ではなくなった、という意味か。

海瑠は頬を紅く染め、慌てて手で胸元を隠した。
もしやキスマークでも見えたのか、と思ったのだが。


『ふふ、纏われる”気”が変わられただけです。年甲斐もなく、王子たちが羨ましく思えます』

草食系のような顔をしながら軽くセクハラ発言をかました神官は、これからの神事の予定や年間行事などの説明をして帰っていった。


完璧に女装して、演技しておいてなんだが。
あの神官は、実際に女のいた時代を生きていて。本物の女を見て、知っているというのに。

何で男ってバレないんだよ! と思わず机をぺちぺち叩く海瑠だった。
拳で叩くと痛いので。


◆◇◆


『あれ、メレじい帰っちゃったんですか?』

神官と会談しただけだというのに疲労を感じ、机に顔を突っ伏していたら。オーランドが顔を出した。
何か神官に訊きたいことでもあったのだろうか?

……確かにメレ爺って言った。メレディスでなく。
1800歳では、じじいどころの騒ぎではないと思うが。


「おう、もうとっくに帰ってったぞ。おまえらが羨ましいって言ってた……」
海瑠のいた世界ではセクハラ発言であるが、こちらではそうではないのだろう。

『何がだろ? ……あれ、新しいドレスですね。お似合いですよ』
太陽のようなスマイルを見せた。

眩しい。
さすが太陽の王子と呼ばれるだけある。


海瑠の首には喉仏……あまり目立たないが……を隠すようなネッカチーフが巻かれていたが。

『これより、こっちの方が似合うと思いますが』
オーランドは、流れるような仕草でネッカチーフを外し。

代わりに、小粒の真珠とダイヤをふんだんにあしらった、首全体を覆うようなデザインの首飾りをつけられた。

見るからに高価そうなものだった。日本円で軽く億は行きそうである。

海瑠は顔色を青くした。
「おい、無駄遣いはするなよ?」

贅沢で国庫を傾ける、悪い女王にはなりたくない。
革命を起こされて、断頭台の露と消えるのはごめんである。


『倉庫に保管してあったのを、新たに組み直したのです。それに、このようなものなら、いくらでも作れますよ?』

真珠なんて、海に行けばいくらでも落ちているし。宝石も、その辺の山でザクザク採れるという。
何せ男だらけの世界である。あまり宝石には興味がないため、価格も安いらしい。

しかし金は細工も自由にでき、人気なので、まあまあ高価だという。
これも、男ばかりの世界ならではの文化なのだろうか?


未だに化粧品が存在するのは、この世界にも自分を美しく装いたい、いわゆるオカマちゃんが存在するからだというが。
遭った事は、まだなかった。
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