神様の手違いで幸運値ゼロだったお詫びに異世界で救世主に転生するはずだった俺が砂漠の王様に攫われて寵妃にされてしまいました。

篠崎笙

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海を創る

全世界アナウンス

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もう海を作っちゃって。
全員乗れるような船を作れば、海を渡って移動できると言うと。

心の準備が! とか言ってる人もいたけど。

大多数が賛成だったので。
海を作っちゃうことにした。

いいよね。
民主主義による多数決。

神様だからって、自分の意見をゴリ押ししないようにするつもりだ。


まあ、でもその前に。
他の人たちを驚かせないよう、アナウンスはしておこうか。

いきなり満タンにはしないつもりだけど。逃げ遅れて溺れちゃったら可哀想だし。


†††


”意志ある者、すべてに伝えます。これより海を発生させるので、水が増えてきた場所にいる人は直ちに高台へ移動してください”


この世界にいる総ての人、地に足をつけて歩く生き物たちに伝えた。
砂の中に棲む生き物にも。

移動が済み次第、海を作ろうと思う。


「な、何だ今の!? 頭の中、声が聞こえたぞ!?」
カマルが、きょろきょろ見回してる。

「今から海作るよって、みんなにお報せしといた」

「あんたすげえな! 昨日もすごいの作ったし。神様みたいだ」
全開の笑顔で言うカマルを、アーディルが苦笑いして見てる。

まあ、まだまだなりたてで、ひよっこだけど。
一応、神様だよ。


自分が神様だったってことを、わざわざ誰かに言うつもりはない。
ただでさえ、天使扱いも困ってるのに。

崇められたいわけじゃない。

それに、神様が目の前にいるって知ったら、変わってしまう人のほうが多いと思う。
欲に目がくらんでしまうかも。

一国の王だっていうのに、態度が全く変わらないアーディルが特殊過ぎるだけだろう。


これからも、新米神様として。
みんなが幸せに暮らせるような世界を作るから。長い目で見守って欲しいな。

まあ、最優先はアーディルの幸せだけどね。


†††


……よし。
危なそうな場所にいた人や生き物は、だいたい避難できたみたいだな。

海に沈みそうな位置には、誰もいないようだ。


中継地と繋がってる橋の傍まで行くと。
みんな、ぞろぞろと俺の後ろをついてきた。海ができるとこ、見たいのかな? いいけど。

「じゃあ、海の水を増やすね」

祈るような恰好で、集中した。
いきなり満潮にはしないように、少しずつ。

断崖絶壁の下から嵩を増して。
水面が上がっていく。


そうと意識しなくても。
色々な種類の海の生き物が自然発生しているのがわかった。

……おお、深海魚だ。
見たことないのもいるな。この世界の魚かな?

タカアシガニ、美味しそうだな……。
後で引き上げて、セーレムに調理してもらおっと。

って。
相変わらず、私欲が過ぎる!


クジラやイルカ、サメなどの水棲哺乳類。
俺も名前を知らないような魚が。新たに生まれ変わったばかりの海を泳いでいる。

これからは、海の幸を獲ることを生業なりわいにする人も増えるだろう。

きっと人口も。
もっと、増えるはずだ。


†††


「……こんなもんかな?」

とりあえず、海溝だったと思われる場所はすべて海水で満たされたはず。
あんまり水嵩みずかさを上げると、嵐とか来たら浸水しちゃいそうだし。


スィッタ国の端っこは崖みたいになっていて、砂浜とかはない。
うっかり落ちたら、ほぼ底なしみたいなもんだ。

溺れないよう、気を付けてもらわないと。

ここへ来るためにラシッドたちが作った橋は、ぎりぎり水没しないような位置だった。
向こう側に残ったアシャラ国の人たちが、こちらに手を振ってる。

一人残った兵は、さっきこっち側に来て、アーディルに何か報告してた。


「おお……、」
「これが、”バハル”か……」
アーディルも、広い海原を感動したように見ている。

しょっぱいのを確かめるのに、舐めるくらいならいいけど。
飲んじゃだめだよ……?

「一応、これが満潮の状態だから。干潮になると、もう少し水が引くよ」
「ほう」


「何か泳いでる。……おお、魚群アスマークだ!」
カマルが水面を覗き込んで、喜んでるけど。

「あ、落ちないように気をつけてね? 泳げないと死ぬから」

「ひええ、」
慌てて飛びのいた。


うーん。
落下防止の柵とか必要かも。

マングローブの根っこで、それっぽく作るか。


†††


さて。
アーディルとラシッドとセーレム、ワーヒド国の兵士たち、アシャラ国の11名。
それと、大トカゲとツチノコも。

みんなが乗れるような船を作らないと。

そして。
これから世界中の人が作る、見本になるような帆船はんせんにしよう。


まずは船の骨組みを作って。
船底には重りになるような……土でいいか。植物も生やせるし。旅の間に食べるのに必要だろう。

いくつかの船室と、真水の貯蔵庫。樽も作って。
貨物庫は広めに。

甲板は木製だ。
一番上に、操舵そうだ室兼、船長室を作って。

マストの帆は、人力で動かせるようにしないと。
それから……。


「……マラーク様は、何をなさっておられるので?」
イルハム王が、アーディルに小声で訊いた。

さすがに集中している俺には話しかけられないようだ。
別に大丈夫だよ、と声を掛けた。


 サフォーナト・シャラエア、と言っていたが。……ずいぶんと大きいのだな?」
アーディルは俺の傍に来て。

作りかけの船を、興味津々といった感じで覗き込んだ。
初めて見るものだから、珍しいか。

「ん。後で輸入や輸出に使うことを考えて、商売道具を乗せられるよう、大きめにしたんだ」
「なるほど、慧眼だ」
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