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亀裂
動き出す時間
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アーディルは俺の膝で、嬉しそうに笑っている。
神様の前で、俺の膝に寝っ転がったまま、俺の膝を撫でてたとか。
確かに度胸が据わり過ぎてるよね……。
「世界より。何よりも、私が大事か。……私もそうだ」
俺の膝の上に頭を乗せたまま、嬉しそうな顔で見上げられる。
「そうだよ。だから、ずっと傍にいて?」
アーディルは当然だ、と頷いて。
「死なぬ身か。ならば跡を継がせる子もいらぬな? これからも、ミズキだけを愛せる」
いやいや、死なない身体になったって聞いて、言うことがそれって。
どうなんだろう……。
しかも、そんな嬉しそうに。
死なないっていうか、死ねないんだよ? この世界で何百年、下手すれば何万年も。
ずっと、生きていかないといけないんだよ?
アーディルってば、俺のこと好きすぎない?
俺も、アーディルのことが大好きだ。
この世界より、なによりも。
こんな俺に、この世界の神様なんて立派な役目、向いてないと思うんだけど。
アーディルが傍にいてくれるなら。
頑張れそうな気がするよ。
だから。
ずっと、傍にいて。俺を一人にしないで。
俺がアーディルの死を願うなんてことは、この先、永遠に無いから。
†††
「痛っ!?」
ドサッ、と倒れた音がした。
イルハム王がカマルに飛び蹴りを食らって倒れた音だ。
停まっていた時間が、動き出したんだ。
「バカ! バカ親父の、大バカ! あんたを助けたのは、あの人なんだぞ!!」
華麗に着地したカマルは、泣きながらこちらを指差した。
「……あれ?」
刀ごと肩を吹っ飛ばされたはずのアーディルは無傷な上。
何故か俺の膝に頭を乗せて寝っ転がっていて、ご機嫌だった。
流れた血は、全部回収しちゃったから。大惨事だった痕跡は残ってない。
「え? あれ? 何で?」
カマルはこっちを見て、びっくりしたように目をぱちくりさせている。
そうだよな。
訳が分からないよな。
『うう……、』
苦し気な声に、振り向くと。
ツチノコも、俺を庇おうとして、攻撃を食らってしまったみたいだ。
辺り一面血の海だよ!?
うわあ。
気付かなくてごめん!
「ツチノコ、大丈夫!? 今すぐ治してやるからな!?」
膝に乗っていたアーディルの頭をどかして。
慌てて、ぐったりしているツチノコに駆け寄る。
見れば、酷い有様だ。
お腹がだいぶ抉れてしまっている。
鋼鉄よりも固いツチノコに傷をつけるなんて。とんでもない攻撃だったんだな。
アーディルの剣ごと、肩から二の腕の部分を吹っ飛ばして。
さらに、後ろにいたツチノコの腹を抉ったのか。
アーディルが俺のことを突き飛ばしてなかったら、俺も頭を吹っ飛ばされいたかも。
でも俺、神様だから、死なないらしいけど。
再生するのかな……? それとも、どんな攻撃をも跳ね返すとか? いや、攻撃喰らってみたいとは思わないけど。
†††
さっきやった要領で、ツチノコから出た血を全部身体にに戻して。
痛々しかった傷を、元通りに塞いでやる。
これでよし。
……全くもう。
ツチノコは、血も猛毒なんだからな? こんな大量の血、土に染みたらどうする気だよ!?
ここの土地、十年くらい汚染されるぞ!?
『慈悲深きマラークよ。あたたかき癒しの奇跡、心より感謝する』
大怪我がすっかり癒えたツチノコが、嬉しそうに擦り寄って来る。
いや、おまえも俺のこと、庇ってくれたのに。
おまえのことをすっかり忘れてて、本当にごめんな……?
「今のは……? スルタンのお怪我は……?」
目の前でいきなり自国の王が死にかけたと思ったら。
次の瞬間には、無事な姿で。妃……俺の膝に寝転がっていて。
忠臣であるラシッドは、あからさまに動揺して。あわあわとうろたえまくっている。
「えーと、俺、癒しの力に目覚めたみたい」
と言ったら。
たった今、実際にツチノコの怪我を治したのを目の当たりにしていたのもあってか、信じてくれたようだ。
神様だから、どんなことも自由自在だなんて言えない……。
ラシッドはそれで安心したのか、へにゃへにゃと地面にへたり込んだ。
他の兵士たちもだ。
ラシッドたちが目撃した光景は。
次元の亀裂からスィッタ国のスルタンが出て来て。
無事だったんだ、良かったなと思った。
で。
こっちに降りてきたと思ったら、いきなり魔物め、とか叫んで、ツチノコに殺意を向けた。
その直後、アーディルが刀を構えた。
次の瞬間には、アーディルの刀ごと、その左肩が吹っ飛ばされていた。
いったい、何が起こったのかもわからなかった。
防御魔法とか展開する時間も無かった。
アーディルの肘から下の腕が地面に落ちて、肩から血が噴き出した。
……と、ここまでは認識していたという。
その後のことは、知らないようだ。
†††
次の瞬間には、アーディルは血痕も残さず、全くの無傷な姿で。
何故か俺の膝に頭を乗せた状態で寝転んで、ご機嫌な様子だった、って。
……そりゃ理解不能だよ。
へたり込みもする。
俺がアーディルの腕を繋いだのも、見てないんだ。
その前に、倒れ込むアーディルを俺が受け止めて。アーディルが最期の言葉みたいなのを言っていたのも。
しばらくの間、呆然としてたと思うけど。
その時にはもう、すでに時間が停止していたのか。
もしかして。
アーディルが失血死しないよう、神様がすぐに時間を停止してくれたのかな……?
死んじゃったら、その世界ではもう生き返らせることはできないって言ってたし。
神様の前で、俺の膝に寝っ転がったまま、俺の膝を撫でてたとか。
確かに度胸が据わり過ぎてるよね……。
「世界より。何よりも、私が大事か。……私もそうだ」
俺の膝の上に頭を乗せたまま、嬉しそうな顔で見上げられる。
「そうだよ。だから、ずっと傍にいて?」
アーディルは当然だ、と頷いて。
「死なぬ身か。ならば跡を継がせる子もいらぬな? これからも、ミズキだけを愛せる」
いやいや、死なない身体になったって聞いて、言うことがそれって。
どうなんだろう……。
しかも、そんな嬉しそうに。
死なないっていうか、死ねないんだよ? この世界で何百年、下手すれば何万年も。
ずっと、生きていかないといけないんだよ?
アーディルってば、俺のこと好きすぎない?
俺も、アーディルのことが大好きだ。
この世界より、なによりも。
こんな俺に、この世界の神様なんて立派な役目、向いてないと思うんだけど。
アーディルが傍にいてくれるなら。
頑張れそうな気がするよ。
だから。
ずっと、傍にいて。俺を一人にしないで。
俺がアーディルの死を願うなんてことは、この先、永遠に無いから。
†††
「痛っ!?」
ドサッ、と倒れた音がした。
イルハム王がカマルに飛び蹴りを食らって倒れた音だ。
停まっていた時間が、動き出したんだ。
「バカ! バカ親父の、大バカ! あんたを助けたのは、あの人なんだぞ!!」
華麗に着地したカマルは、泣きながらこちらを指差した。
「……あれ?」
刀ごと肩を吹っ飛ばされたはずのアーディルは無傷な上。
何故か俺の膝に頭を乗せて寝っ転がっていて、ご機嫌だった。
流れた血は、全部回収しちゃったから。大惨事だった痕跡は残ってない。
「え? あれ? 何で?」
カマルはこっちを見て、びっくりしたように目をぱちくりさせている。
そうだよな。
訳が分からないよな。
『うう……、』
苦し気な声に、振り向くと。
ツチノコも、俺を庇おうとして、攻撃を食らってしまったみたいだ。
辺り一面血の海だよ!?
うわあ。
気付かなくてごめん!
「ツチノコ、大丈夫!? 今すぐ治してやるからな!?」
膝に乗っていたアーディルの頭をどかして。
慌てて、ぐったりしているツチノコに駆け寄る。
見れば、酷い有様だ。
お腹がだいぶ抉れてしまっている。
鋼鉄よりも固いツチノコに傷をつけるなんて。とんでもない攻撃だったんだな。
アーディルの剣ごと、肩から二の腕の部分を吹っ飛ばして。
さらに、後ろにいたツチノコの腹を抉ったのか。
アーディルが俺のことを突き飛ばしてなかったら、俺も頭を吹っ飛ばされいたかも。
でも俺、神様だから、死なないらしいけど。
再生するのかな……? それとも、どんな攻撃をも跳ね返すとか? いや、攻撃喰らってみたいとは思わないけど。
†††
さっきやった要領で、ツチノコから出た血を全部身体にに戻して。
痛々しかった傷を、元通りに塞いでやる。
これでよし。
……全くもう。
ツチノコは、血も猛毒なんだからな? こんな大量の血、土に染みたらどうする気だよ!?
ここの土地、十年くらい汚染されるぞ!?
『慈悲深きマラークよ。あたたかき癒しの奇跡、心より感謝する』
大怪我がすっかり癒えたツチノコが、嬉しそうに擦り寄って来る。
いや、おまえも俺のこと、庇ってくれたのに。
おまえのことをすっかり忘れてて、本当にごめんな……?
「今のは……? スルタンのお怪我は……?」
目の前でいきなり自国の王が死にかけたと思ったら。
次の瞬間には、無事な姿で。妃……俺の膝に寝転がっていて。
忠臣であるラシッドは、あからさまに動揺して。あわあわとうろたえまくっている。
「えーと、俺、癒しの力に目覚めたみたい」
と言ったら。
たった今、実際にツチノコの怪我を治したのを目の当たりにしていたのもあってか、信じてくれたようだ。
神様だから、どんなことも自由自在だなんて言えない……。
ラシッドはそれで安心したのか、へにゃへにゃと地面にへたり込んだ。
他の兵士たちもだ。
ラシッドたちが目撃した光景は。
次元の亀裂からスィッタ国のスルタンが出て来て。
無事だったんだ、良かったなと思った。
で。
こっちに降りてきたと思ったら、いきなり魔物め、とか叫んで、ツチノコに殺意を向けた。
その直後、アーディルが刀を構えた。
次の瞬間には、アーディルの刀ごと、その左肩が吹っ飛ばされていた。
いったい、何が起こったのかもわからなかった。
防御魔法とか展開する時間も無かった。
アーディルの肘から下の腕が地面に落ちて、肩から血が噴き出した。
……と、ここまでは認識していたという。
その後のことは、知らないようだ。
†††
次の瞬間には、アーディルは血痕も残さず、全くの無傷な姿で。
何故か俺の膝に頭を乗せた状態で寝転んで、ご機嫌な様子だった、って。
……そりゃ理解不能だよ。
へたり込みもする。
俺がアーディルの腕を繋いだのも、見てないんだ。
その前に、倒れ込むアーディルを俺が受け止めて。アーディルが最期の言葉みたいなのを言っていたのも。
しばらくの間、呆然としてたと思うけど。
その時にはもう、すでに時間が停止していたのか。
もしかして。
アーディルが失血死しないよう、神様がすぐに時間を停止してくれたのかな……?
死んじゃったら、その世界ではもう生き返らせることはできないって言ってたし。
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