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最後の国、スイッタ国
未踏のジャングルを進む
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サイード王とバッシャールの後ろに、カマルがちょこんと座っている。
借りてきた猫みたいだな……。
「亀裂を塞ぐために、ギリギリまで現場に近寄ると思うのですが。もし吸い込まれそうになったら、先日砂止めに使われた木を生やしていただきたいのですが。よろしいでしょうか?」
ラシッドに頼まれて。
「うん、俺にできることなら、何でも言って欲しい」
胸を張って、拳で叩いて見せる。
「そう言っていただけて、大変心強いです」
ジャングルで野営するのは危険だろう、という判断で。そのまま現場まで行くことにしたようだ。
でも。砂漠とは違って、前人未到のジャングルには当然、道なんかないわけで。
先が見えないくらい、植物が生い茂っている。
障害物が多すぎるため、機敏な大トカゲでもさすがに歩きにくそうだった。
大トカゲの巨体が進むのに邪魔そうな枝は、先導であるアーディルが身を乗り出して切って、ぶつかる前に落としているんだけど。当然ながら、砂漠と同じようには進めない。
手が塞がっているアーディルの代わりに、俺がニーリーの手綱を握っている。
でも、ニーリーは言葉は話せないけど、人間の言っていることを理解しているらしいし。
あまり手綱を握ってる意味はなかったりして。
†††
『ええい、この調子では日が暮れるわ! このツチノコが先頭を進む! 愛らしきマラークのため、見事道を切り拓いてみせようぞ』
進みが遅い、と痺れを切らした様子でツチノコが言った。
交代してみたら。
ツチノコは鎌首で邪魔な枝をバシバシ打ち払いながら、腹で障害物を押し潰して、悠々と進んでいった。
そして。
ツチノコが進んだ跡には、大トカゲも余裕で通れる道が出来ていた。
お陰で、進むのがだいぶ楽になった。
表皮が物凄く丈夫だから、可能なんだろう。でも、すごいな。
「ソーバン・カビラは本来、水辺に棲むものだったらしいが……」
アーディルが感心した様子で、枝を打ち払いながら進んでいるツチノコを見ている。
ああ。
そういえば、アマゾンとかで5メートル以上はありそうな大蛇がすいすい泳いでるのをテレビで見たことがあったっけ。
もしあんなのと出くわしたら生きた心地がしないだろうな、と思ったものだ。
それ以上にでかいツチノコもどきと、こうして一緒に旅をするようになるとは。
人生ってわからないものだ。
まあ俺の人生、一度終わってるんだけど。
ツチノコ、生き生きとしてるなあ。
水辺に棲んでいたのを、ハカムの一族によって改造されて。砂漠に適応できるように進化してきたんだろう。
ツチノコはその中でも最高傑作だったようだ。
知能が高く、人語も理解できる。大トカゲとも話してた。
その上、大蛇の吐く息は、天敵である危険な砂クジラを寄せ付けない。
俺のことを気に入ってくれて、ついてきてくれて。助かったな。
砂クジラの件といい、今回といい。
思えばツチノコには随分と助けられたものだ。
「ツチノコ、ありがとう」
嬉しくなって、感謝の気持ちを告げたら。
『愛らしきマラークの喜びこそ、我が生きる糧である!』
ツチノコが大喜びして、スピードアップしちゃった。
後で言えば良かったかな……?
さすがに輿も、少なからず揺れてしまっているようで。
ツチノコに乗ってるサイード王たちがあわあわしていた。ちゃんと掴まってないと振り落とされそう。
俺が乗ってたら、揺れないように気を遣ってくれていたようだけど。
他の人にも、気を遣ってあげて……。
「もちろん、ニーリーにも感謝してるからね? いつもアーディルを安全に運んでくれて、ありがとう」
不本意ながら先頭を譲った様子のニーリーの首を、ぽんぽんと叩いた。
以前、ツチノコが砂クジラを捕らえた時。
人と言葉も交わせるし、移動するのも早く。危険な砂クジラを捕獲して喜ばれていたツチノコと自分を比較して、自分の役割に悩んで。
もう役立たずの自分は食肉になるしかない、とまで思い詰めてたっていうし。
フォローして自信をつけてあげるのも、飼い主の務めだと思う。
トカゲも意外と繊細な生き物なんだって学習した。
ニーリーはキュウ、と嬉しそうな声を上げた。
「こやつめ。私が何を言おうが、普段は鳴きもせぬくせに」
アーディルが拗ねたので、思わず笑ってしまった。
それは、言ってることを通訳してくれる相手がいなかったせいだと思うけどね。
†††
『むうっ!?』
猛スピードでジャングルを切り拓きながら進んでいたツチノコが、突然唸るような声を上げて停止した。
輿に乗ってた三人もつんのめっている。おお、慣性の法則……。
「この先です。亀裂があるのは、」
必死に大トカゲを繰りながら、ようやく追いついてきたラシッドが言った。
この先は、少し拓けた場所のようだ。
密集していた木が、前方には生えてないみたい。
ツチノコ、この先に異常があるのに気付いて止まったんだな。すごい勘だ。
蛇のピット器官ってやつかな?
『危険を察知したのだ』
何やら、前方の斜め上辺りから引っ張られるような感覚がしたんだそうだ。
確かに、引力というか。軽く引っ張られるような感じがする。
もっと先に行ったら、次元の亀裂に引き込まれてしまうかもしれない。
「それでは、この場所から試してみましょうか」
ラシッドが大トカゲから降りた。
「ちょっと待って。試しに、もう少し先に、木を生やしてみるね」
なるべく近い方がいいだろう、と。
5メートルほど先に根の張る木を生やしてみたら。
引き抜かれるほどではないけど。
葉っぱや枝が、物凄い勢いで上に吸い込まれていくのがわかる。
次に、2メートル先くらいに生やしてみた。
今度は多少は引っ張られる力を感じたけど、大丈夫そうだったので。
そこで作業を開始することになった。
借りてきた猫みたいだな……。
「亀裂を塞ぐために、ギリギリまで現場に近寄ると思うのですが。もし吸い込まれそうになったら、先日砂止めに使われた木を生やしていただきたいのですが。よろしいでしょうか?」
ラシッドに頼まれて。
「うん、俺にできることなら、何でも言って欲しい」
胸を張って、拳で叩いて見せる。
「そう言っていただけて、大変心強いです」
ジャングルで野営するのは危険だろう、という判断で。そのまま現場まで行くことにしたようだ。
でも。砂漠とは違って、前人未到のジャングルには当然、道なんかないわけで。
先が見えないくらい、植物が生い茂っている。
障害物が多すぎるため、機敏な大トカゲでもさすがに歩きにくそうだった。
大トカゲの巨体が進むのに邪魔そうな枝は、先導であるアーディルが身を乗り出して切って、ぶつかる前に落としているんだけど。当然ながら、砂漠と同じようには進めない。
手が塞がっているアーディルの代わりに、俺がニーリーの手綱を握っている。
でも、ニーリーは言葉は話せないけど、人間の言っていることを理解しているらしいし。
あまり手綱を握ってる意味はなかったりして。
†††
『ええい、この調子では日が暮れるわ! このツチノコが先頭を進む! 愛らしきマラークのため、見事道を切り拓いてみせようぞ』
進みが遅い、と痺れを切らした様子でツチノコが言った。
交代してみたら。
ツチノコは鎌首で邪魔な枝をバシバシ打ち払いながら、腹で障害物を押し潰して、悠々と進んでいった。
そして。
ツチノコが進んだ跡には、大トカゲも余裕で通れる道が出来ていた。
お陰で、進むのがだいぶ楽になった。
表皮が物凄く丈夫だから、可能なんだろう。でも、すごいな。
「ソーバン・カビラは本来、水辺に棲むものだったらしいが……」
アーディルが感心した様子で、枝を打ち払いながら進んでいるツチノコを見ている。
ああ。
そういえば、アマゾンとかで5メートル以上はありそうな大蛇がすいすい泳いでるのをテレビで見たことがあったっけ。
もしあんなのと出くわしたら生きた心地がしないだろうな、と思ったものだ。
それ以上にでかいツチノコもどきと、こうして一緒に旅をするようになるとは。
人生ってわからないものだ。
まあ俺の人生、一度終わってるんだけど。
ツチノコ、生き生きとしてるなあ。
水辺に棲んでいたのを、ハカムの一族によって改造されて。砂漠に適応できるように進化してきたんだろう。
ツチノコはその中でも最高傑作だったようだ。
知能が高く、人語も理解できる。大トカゲとも話してた。
その上、大蛇の吐く息は、天敵である危険な砂クジラを寄せ付けない。
俺のことを気に入ってくれて、ついてきてくれて。助かったな。
砂クジラの件といい、今回といい。
思えばツチノコには随分と助けられたものだ。
「ツチノコ、ありがとう」
嬉しくなって、感謝の気持ちを告げたら。
『愛らしきマラークの喜びこそ、我が生きる糧である!』
ツチノコが大喜びして、スピードアップしちゃった。
後で言えば良かったかな……?
さすがに輿も、少なからず揺れてしまっているようで。
ツチノコに乗ってるサイード王たちがあわあわしていた。ちゃんと掴まってないと振り落とされそう。
俺が乗ってたら、揺れないように気を遣ってくれていたようだけど。
他の人にも、気を遣ってあげて……。
「もちろん、ニーリーにも感謝してるからね? いつもアーディルを安全に運んでくれて、ありがとう」
不本意ながら先頭を譲った様子のニーリーの首を、ぽんぽんと叩いた。
以前、ツチノコが砂クジラを捕らえた時。
人と言葉も交わせるし、移動するのも早く。危険な砂クジラを捕獲して喜ばれていたツチノコと自分を比較して、自分の役割に悩んで。
もう役立たずの自分は食肉になるしかない、とまで思い詰めてたっていうし。
フォローして自信をつけてあげるのも、飼い主の務めだと思う。
トカゲも意外と繊細な生き物なんだって学習した。
ニーリーはキュウ、と嬉しそうな声を上げた。
「こやつめ。私が何を言おうが、普段は鳴きもせぬくせに」
アーディルが拗ねたので、思わず笑ってしまった。
それは、言ってることを通訳してくれる相手がいなかったせいだと思うけどね。
†††
『むうっ!?』
猛スピードでジャングルを切り拓きながら進んでいたツチノコが、突然唸るような声を上げて停止した。
輿に乗ってた三人もつんのめっている。おお、慣性の法則……。
「この先です。亀裂があるのは、」
必死に大トカゲを繰りながら、ようやく追いついてきたラシッドが言った。
この先は、少し拓けた場所のようだ。
密集していた木が、前方には生えてないみたい。
ツチノコ、この先に異常があるのに気付いて止まったんだな。すごい勘だ。
蛇のピット器官ってやつかな?
『危険を察知したのだ』
何やら、前方の斜め上辺りから引っ張られるような感覚がしたんだそうだ。
確かに、引力というか。軽く引っ張られるような感じがする。
もっと先に行ったら、次元の亀裂に引き込まれてしまうかもしれない。
「それでは、この場所から試してみましょうか」
ラシッドが大トカゲから降りた。
「ちょっと待って。試しに、もう少し先に、木を生やしてみるね」
なるべく近い方がいいだろう、と。
5メートルほど先に根の張る木を生やしてみたら。
引き抜かれるほどではないけど。
葉っぱや枝が、物凄い勢いで上に吸い込まれていくのがわかる。
次に、2メートル先くらいに生やしてみた。
今度は多少は引っ張られる力を感じたけど、大丈夫そうだったので。
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